君が笑った、明日は晴れ(76/89)
2020.06.17.Wed.
<1話、前話>
食堂の席についた時、宮本が河中を見てニヤニヤ笑っているのが見えた。目が合うと河中は顔を赤くして俯いた。そんな動作に俺はむかついた。そんな自分に更にむかついた。
なんだこれ。舌打ちする。なんでこんなに苛々する。河中が誰と寝ようと俺の知ったことじゃない。
宮本の相手はぜったい嫌だと言った。浦野のこともまったく眼中にないと言った。俺以外好きにならないと言った。一途な奴なんだと呆れる半分、そこまで俺のことを好きになれる河中に気後れしていた。
男同士で好きになってどうなる。
女と付き合ったってうまくいかずに別れるんだ。男同士になれば世間体ってものを気にしなきゃならないし、結婚という決着があるわけでもない。それに俺も男だからわかるが、男と付き合ったってどっちかが浮気して別れるに決まってるんだ。
現にゲイの森下さんだって浮気が原因で別れている。
男は浮気する。男同士で付き合ったって結果は見えてる。それなのに河中の奴は何を一途に俺を好きになっているんだ、そう思っていたのに、やっぱり河中も男だったんだな、と裏切られたような気持ちになった。
あいつは宮本と寝た。それもウケになって。さらには気持ちよくよがっていたらしい。
カンサイの話を思い出すとむかついてくる。つまらない独占欲だ。あいつが俺だけのものではなかったという、子供じみた嫉妬だ。
なんとなく河中は自分の所有物のような気がしていたから、そうじゃなかったと気付いて、おもちゃを取り上げられた子供みたいに頭にきてるだけだ。
頭ではわかっていても、宮本とやったんだと想像するとムカつきが収まらない。タチのくせに宮本相手にやられんなよ。たまにはウケでやりたくなって、その相手に宮本を選んだのか?
河中の顔を見ていたらとんでもない事を言い出してしまいそうで俺は一人で食堂を出た。廊下を歩いていたら呼び止められた。
「山口さん、久し振り!」
浦野が、あいかわらずの屈託ない笑顔で俺の腕にしがみついてきた。
「どうして体育着なの?」
「ちょっと汚してな。最近メールもしてこないけど、元気にしてたか」
「うん。俺からメールなくて寂しかった?」
「馬鹿言え。彼女でもできたのか?」
「んふふ」
浦野が顔を赤くして意味深に笑った。なんだ、本当に彼女ができたのか。俺の顔が綻んだ時、
「いまね、河中と付き合ってるの」
と浦野は言った。
え、河中と?
「河中って、あの河中?」
「うん、夏休み前から付き合い出したの。俺のことは本気で好きだからって優しくしてくれる。色々相談に乗ってくれてありがとね、山口さん」
「へぇ、夏休み前から」
ずいぶん前から付き合ってたんだな。河中の奴、そんなことおくびにも出さず、自分のことは棚にあげてよく俺と森下さんとのことでをグチグチ言えたもんだ。感心するね。
「今日もね、一緒に帰ろうって言ってくれたんだ。河中って本当は山口さんのこと好きなんだと思ってたからすっごい嬉しかった」
浦野は本当に嬉しそうだった。きっと河中が宮本と寝たことを知らないんだろう。
河中は俺の想像以上に性悪だったらしい。俺に好きだと付きまとっていながら浦野と付き合って、さらに宮本とも寝てるんだから。俺はあいつのことを何か勘違いしていたのかもしれない。怒りを通り越してがっかりした。
「良かったな」
宮本のことを教えてやるのは可哀相だ。河中を信じて疑わない浦野の頭を撫でた。
「でもあいつの性格が悪いってのはほんとだから、気をつけろよ」
「大丈夫だよ、あいつ、俺には優しいから」
バイバイ、と浦野は手を振って友達のところへ戻って行った。苦い気持ちでそれを見送った。
※ ※ ※
五時間目が終わり、移動教室のため荷物を持って教室を出たら、「先輩!」と声がした。
廊下の先からこちらに向かってくる河中がいた。よく抜け抜けと俺に会いに来れたものだ。瞬間的に頭に血がのぼったが、それも一瞬でさめた。
こいつが俺に好きだと言うのもいい加減な気持ちだとわかったし、浦野を裏切りながら宮本と寝るような奴だ。まともに相手をする価値もない。
「あぁ、お前か。どうした? 俺たち今から移動だから相手してる暇はないぞ」
俺の反応が意外そうに河中が目を見開く。なぜか目が赤い。
「あ、あの、先輩……」
「どうしたんだ? 目が赤いぞ」
指で前髪をすくいあげたら河中は赤面して体を強張らせた。初心なフリをするのも男を惑わすためなのか。つい皮肉ったことを考えてしまう。
「悪いな、時間ないから」
何か言いたそうに口を動かす河中の肩を叩いて歩き出す。少し遅れて戸田が横に並んだ。
「河中となんかあった?」
と聞いてくる。
「なんもねえよ」
「じゃあ何怒ってんの。朝から不機嫌だったのって河中のせいだったのか?」
「次からあいつが来てもお前が相手してやれよ。俺はもうあいつの顔も見たくないから」
「どうしたんだよ? なんでそこまで急に嫌っちゃったわけ? あの子が何したんだよ」
「何もされてねえよ。男に言い寄られるのが嫌になったんだよ」
「あの子、お前のこと本気で好きだって言ってたぞ」
それ、誰にでも言ってんだよ。宮本にも、浦野にも、誰にでも。
「もう、迷惑なんだ、そういうの」
笑うと戸田は眉を寄せた。
「俺、応援してるから頑張れって河中に言っちゃったのに」
とブツブツ言う。応援なんかすんな、馬鹿。
食堂の席についた時、宮本が河中を見てニヤニヤ笑っているのが見えた。目が合うと河中は顔を赤くして俯いた。そんな動作に俺はむかついた。そんな自分に更にむかついた。
なんだこれ。舌打ちする。なんでこんなに苛々する。河中が誰と寝ようと俺の知ったことじゃない。
宮本の相手はぜったい嫌だと言った。浦野のこともまったく眼中にないと言った。俺以外好きにならないと言った。一途な奴なんだと呆れる半分、そこまで俺のことを好きになれる河中に気後れしていた。
男同士で好きになってどうなる。
女と付き合ったってうまくいかずに別れるんだ。男同士になれば世間体ってものを気にしなきゃならないし、結婚という決着があるわけでもない。それに俺も男だからわかるが、男と付き合ったってどっちかが浮気して別れるに決まってるんだ。
現にゲイの森下さんだって浮気が原因で別れている。
男は浮気する。男同士で付き合ったって結果は見えてる。それなのに河中の奴は何を一途に俺を好きになっているんだ、そう思っていたのに、やっぱり河中も男だったんだな、と裏切られたような気持ちになった。
あいつは宮本と寝た。それもウケになって。さらには気持ちよくよがっていたらしい。
カンサイの話を思い出すとむかついてくる。つまらない独占欲だ。あいつが俺だけのものではなかったという、子供じみた嫉妬だ。
なんとなく河中は自分の所有物のような気がしていたから、そうじゃなかったと気付いて、おもちゃを取り上げられた子供みたいに頭にきてるだけだ。
頭ではわかっていても、宮本とやったんだと想像するとムカつきが収まらない。タチのくせに宮本相手にやられんなよ。たまにはウケでやりたくなって、その相手に宮本を選んだのか?
河中の顔を見ていたらとんでもない事を言い出してしまいそうで俺は一人で食堂を出た。廊下を歩いていたら呼び止められた。
「山口さん、久し振り!」
浦野が、あいかわらずの屈託ない笑顔で俺の腕にしがみついてきた。
「どうして体育着なの?」
「ちょっと汚してな。最近メールもしてこないけど、元気にしてたか」
「うん。俺からメールなくて寂しかった?」
「馬鹿言え。彼女でもできたのか?」
「んふふ」
浦野が顔を赤くして意味深に笑った。なんだ、本当に彼女ができたのか。俺の顔が綻んだ時、
「いまね、河中と付き合ってるの」
と浦野は言った。
え、河中と?
「河中って、あの河中?」
「うん、夏休み前から付き合い出したの。俺のことは本気で好きだからって優しくしてくれる。色々相談に乗ってくれてありがとね、山口さん」
「へぇ、夏休み前から」
ずいぶん前から付き合ってたんだな。河中の奴、そんなことおくびにも出さず、自分のことは棚にあげてよく俺と森下さんとのことでをグチグチ言えたもんだ。感心するね。
「今日もね、一緒に帰ろうって言ってくれたんだ。河中って本当は山口さんのこと好きなんだと思ってたからすっごい嬉しかった」
浦野は本当に嬉しそうだった。きっと河中が宮本と寝たことを知らないんだろう。
河中は俺の想像以上に性悪だったらしい。俺に好きだと付きまとっていながら浦野と付き合って、さらに宮本とも寝てるんだから。俺はあいつのことを何か勘違いしていたのかもしれない。怒りを通り越してがっかりした。
「良かったな」
宮本のことを教えてやるのは可哀相だ。河中を信じて疑わない浦野の頭を撫でた。
「でもあいつの性格が悪いってのはほんとだから、気をつけろよ」
「大丈夫だよ、あいつ、俺には優しいから」
バイバイ、と浦野は手を振って友達のところへ戻って行った。苦い気持ちでそれを見送った。
※ ※ ※
五時間目が終わり、移動教室のため荷物を持って教室を出たら、「先輩!」と声がした。
廊下の先からこちらに向かってくる河中がいた。よく抜け抜けと俺に会いに来れたものだ。瞬間的に頭に血がのぼったが、それも一瞬でさめた。
こいつが俺に好きだと言うのもいい加減な気持ちだとわかったし、浦野を裏切りながら宮本と寝るような奴だ。まともに相手をする価値もない。
「あぁ、お前か。どうした? 俺たち今から移動だから相手してる暇はないぞ」
俺の反応が意外そうに河中が目を見開く。なぜか目が赤い。
「あ、あの、先輩……」
「どうしたんだ? 目が赤いぞ」
指で前髪をすくいあげたら河中は赤面して体を強張らせた。初心なフリをするのも男を惑わすためなのか。つい皮肉ったことを考えてしまう。
「悪いな、時間ないから」
何か言いたそうに口を動かす河中の肩を叩いて歩き出す。少し遅れて戸田が横に並んだ。
「河中となんかあった?」
と聞いてくる。
「なんもねえよ」
「じゃあ何怒ってんの。朝から不機嫌だったのって河中のせいだったのか?」
「次からあいつが来てもお前が相手してやれよ。俺はもうあいつの顔も見たくないから」
「どうしたんだよ? なんでそこまで急に嫌っちゃったわけ? あの子が何したんだよ」
「何もされてねえよ。男に言い寄られるのが嫌になったんだよ」
「あの子、お前のこと本気で好きだって言ってたぞ」
それ、誰にでも言ってんだよ。宮本にも、浦野にも、誰にでも。
「もう、迷惑なんだ、そういうの」
笑うと戸田は眉を寄せた。
「俺、応援してるから頑張れって河中に言っちゃったのに」
とブツブツ言う。応援なんかすんな、馬鹿。
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