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君が笑った、明日は晴れ(75/89)

2020.06.16.Tue.
1話前話

 先輩は教室には戻っていなかった。僕にはそっちの方が都合が良かった。友達と話をしているカンサイを見つけ、声をかけた。

「少しお時間いいですか」

 カンサイは僕から話しかけられたことに驚いた様子だったが、すぐに険しい表情を作った。

「あぁ、いいで」

 教室を出て誰もいない廊下の踊り場で向き合う。

「なんや、話て。山口から聞いて来たんか?」

 なんのことだ? この人、やっぱり先輩と屋上で何かあったんだ。

「今朝、先輩と屋上に行ったそうですね」
「あぁ、行ったがどうした」

 挑発的な態度でカンサイが言い返してくる。

「そこで先輩に何をしたんですか。制服を着替えるようなことってなんですか」
「はぁ、そのことか。気になるんか」
「気になります、答えてください」
「あいつと寝た。それがお前に何の関係がある?」

 目の前が真っ暗になった。やっぱりこの人と寝たんだ……。

「僕の先輩に手を出さないでください」
「いつ山口がおまえのもんになったんや。お前こそ山口に近づくな。純情そうな顔して、宮本さんにやられてよがっとったお前が山口まで手に入れたいなんて虫が良すぎる」

 今なんて?! どうして宮本さんとのこと知ってるんだ?!

「なに驚いた顔しとんねん。昨日の放課後、お前が体育倉庫で宮本さんとヤッとったんは知ってるんやで。偶然そばにおってな、全部聞かせてもらったわ。ずいぶんよがってはしたない事言うとったやないか。聞いててこっちが恥ずかしかったわ」

「そ……、それ」
「山口も知っとるで。俺が話したからな」

 サーッと血の気が引いていった。先輩に知られてた。一番知られたくない人に!

 宮本さんと目が合って赤い顔をする僕に「張りきりすぎたんじゃねえの」と言ったのは、このことだったんだ。

「あいつに懐く可愛い1年を演じとったんやな、お前は。すっかり騙されたわ。もうお前には宮本さんがおるやろ。山口にやられたいて思うんはお門違いや、他当たりや。なんやったら俺が相手したってもいいで」
「だっ、誰があんたなんか……!」
「俺の話聞いて山口も呆れとったで。誰とでも寝る尻軽なんかって、顔も見たくないって言ってたわ。だからもうつきまとうな」

 カンサイが僕の肩をドンと押した。ショックで体の力が抜けていた僕はよろけて尻餅をついた。体を動かせない。何も考えることができない。僕をウケだと勘違いしているカンサイの言葉を訂正する気力もなかった。

 呆然とする僕を見下ろしていたカンサイが「わかったな」と念を押し、教室に戻って行った。

 先輩に知られた、その事実で頭は真っ白だった。

 これは罰だ。宮本さんを利用して、僕に好意を寄せる浦野を傷つけようとする僕に罰が当たったんだ。

 ※ ※ ※

 五時間目はさぼった。階段の中ほどに腰掛け、膝をかかえて泣いて過ごした。30分経つと涙も止まり、僕は泣きはらした目でぼうっと自分の足の先を見つめた。

 先輩は怒っていた。僕が宮本さんと寝たから。

 寝たから……?

 はっとなる。先輩がどうして怒るんだ。僕にまったく興味がないなら怒ったりしないはず。先輩の性格なら、そのことで僕をからかって来るだろう。それをせずに不機嫌に押し黙っていた。それってもしかして、嫉妬してくれたってことなんだろうか。

 その可能性に僕は飛びついた。

 単純に、タチだと言い張っていた僕がウケのセックスをしていたことに怒っているのかもしれなかった。

 単純に、昨日の帰り、僕がいなかった理由を「先生に相談があったから」と嘘を言ったことに怒っているのかもしれなかった。

 単純に、僕のこととはまったく無関係なことで怒っているのかもしれなかった。

 それでも僕は絶望的な気持ちの中で見つけた小さな可能性にすがりついた。それが今の僕の希望の全てだった。

 五時間目が終わった休憩時間。よろよろ立ち上がって先輩の教室へ向かった。中から数人の生徒が出てくる。その中に先輩と戸田さんがいた。教科書を持っているので移動教室のようだ。

「先輩!」

 僕の声に気付いて先輩がこちらを向く。一瞬の間のあと、先輩がフッと笑った。

「あぁ、お前か。どうした? 俺たち今から移動だから相手してる暇はないぞ」

 なぜか普通に会話をしてくれる。それどころか妙に優しい。どうして? どうして僕に笑いかけてくるんだろう。

「あ、あの、先輩……」
「どうしたんだ? 目が赤いぞ」

 と、先輩の人差し指が僕の前髪をすくいあげた。思いがけない先輩の行動に硬直する。

 どうしてそんなことを?! 先輩のキャラじゃない! 先輩はこんなこと僕にしない。こんなふうに笑いかけてこない。こんなふうに、まるで浦野に向けていた優しい態度で僕に接してきたことなんてない!

「あの、先輩」
「悪いな、時間ないから」

 動揺する僕の肩をポンと叩き、先輩は背を向け歩き出した。

「あいつ、どうしちゃったの」

 僕の横で戸田さんが首を傾げていた。

「重夫に何したの? あいつ、君にブチ切れしてるみたいだけど」
「えっ!?」

 あれってブチ切れしてるの?!

「さっき言ったろ。あいつは気に入った奴にはわざと冷たくして反応を楽しむドSだけど、どうでもいい奴には優しいから」

 あれって本当のこと言ってたんだ……。てことは今までの僕はまだ先輩に気にいられていて、今の僕はまったく先輩に気に入られていない「どうでもいい奴」ってことになるのか?

「食堂にいた時より怒ってるじゃん。あそこまでへそ曲げたら、機嫌なおすの大変だよ~」

 苦笑いしながら戸田さんも僕の肩を叩き、去って行った。

 僕の希望はますます膨らんだのだが、なぜ先輩がさらに不機嫌になっているのかはわからず、謎が増えてしまった。なんだか嫌な感じ。妙な胸騒ぎがする。





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