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君が笑った、明日は晴れ(74/89)

2020.06.15.Mon.
1話前話

 久し振りにウケのセックスをした僕は、翌日の今日、熱を出した。頭がぼうっとするくらいの微熱。体もダルイから学校を休みたいところだったが、浦野と宮本さんをくっつけるために休むわけにはいかず、登校した。

 朝、先輩の顔を見たら涙が出そうになった。好きでもない人に抱かれるのは辛いものだ。改めて、先輩を犯した自分を恥じた。こんな僕が先輩の隣にいていいのだろうか。

 廊下で先輩と別れ、その足で浦野の教室に向かった。友達と話をしている浦野が僕を見つけ、笑顔で駆け寄って来る。

「おはよ、河中」
「おはよう。今日、僕と一緒に帰らない?」
「えっ、俺と?」

 浦野は目を見開いた。

「おまえ、いつも山口さんと帰ってるじゃん。俺が一緒に帰ろうって言ってもいつも断るくせに」
「今日は浦野と帰りたい」
「どうして?」

 僕を疑うように見てくる。ガキのくせに、僕を好きなら素直に喜べよ。

「今日は体調が悪いんだ。浦野といると落ち着くから」
「体調悪いのか? 大丈夫?」
「大丈夫。僕と帰ってくれる?」
「もちろんいいよ。俺もそっちのが嬉しいし」
「じゃあ、放課後、迎えに来るね」

 うん、と嬉しそうに頷く浦野に背を向け教室を出た。罪悪感で少し、胸が痛んだ。

※ ※ ※

 いつも通り、昼休みに教室へ迎えにいくと、先輩はなぜか体育着に着替えていた。どうしたのかと理由を尋ねても「別に」と短い返事。

 戸田さんに聞いても「授業サボって帰って来た時には着替えてた」と理由は知らないみたいだった。

 先輩、また授業サボッたんだ。一人でさぼったのかな。誰かと一緒だったのかな。体育着に着替えるなんて何があったんだろう。

 あまりしつこく聞くと先輩を怒らせるので深く追求するのはやめた。すっごく気になるけど。

 食堂で食事をしている時、離れた席に宮本さんの姿が見えた。僕と目が合うと意味深にニヤリと笑ってくる。思わず目を逸らした。

「なに顔赤くしてんだ、おまえ」

 先輩が指摘する。

「あ、いえ。今日、ちょっと熱があって……」

 少しは心配してくれるかなと期待したけど、先輩は冷たい表情で「張り切りすぎたんじゃねえの」と言う。

 ……どういう意味だろう?

「そういえば、昨日、どうして来なかったの?」

 戸田さんが口を開いた。

「昨日は、あの、先生に相談があって、残ってたんです」
「なんだ、そうだったんだ。昨日会えなかったから寂しかったんだよ」

 そう言う戸田さんの横で先輩が舌打ちした。不機嫌そうな顔でそっぽを向いている。どうしたんだろう? 僕、何か怒らせるようなことしたかな。

 不安になって今日の自分の行動を思い返してみたが何も思い当たることはない。

「重夫、いつまで怒ってんの?」

 戸田さんが先輩に声をかける。いつまで、ってそんなに前から怒ってるの?

「怒ってねえよ」
「いやいや、怒ってるだろ。それで怒ってないなんて通じると思ってるのか」

 さすが戸田さん。僕ならぜったい言えないことを言う。先輩は戸田さんに向きなおり、

「俺、怒ってるか?」

 と口角を持ち上げてみせた。怖い、目が笑ってない。

「怒ってねえだろ。怒る理由がねえもん。何に怒れって言うんだよ」
「何をそう必死になってんのか知らないけど、俺から見たらおまえ、すごく機嫌悪いよ」

 戸田さんは先輩の気迫に負けることなく平然と言った。僕は戸田さんを少し見なおした。この人、ただのお調子ものじゃなかったんだ。

 表情を消した先輩は黙って戸田さんを睨む。戸田さんは臆さず、いつものとぼけた顔でその視線を受け止めている。しばらくして戸田さんが吹き出した。

「そんなに見つめてくるなよ、気持ち悪いなぁ。もしかして、俺のことが好きだって気付いて悩んでるわけ?」
「お前を好きになるくらいなら宮本に掘られるほうがマシだ」
「えー、俺だってお前に突っ込みたくねえよ」

 顔を歪める戸田さんを見て先輩が苦笑した。さっきの不機嫌さも消えていた。やっぱりなんだかんだ言ってこの二人は仲がいい。

 僕なら先輩が怒っていたらそれだけで萎縮して声もかけられない。気にしないでズバズバ言える戸田さんが羨ましい。少し嫉妬してしまう。

「お前といたらバカが移る。俺、先に戻ってるから」

 食べ終わった食器を持って先輩が立ち上がった。

「帰れ帰れ、俺は河ちゃんと楽しい時間を過ごすから」

 戸田さんが僕の手を握ったので、僕は先輩を追いかけることが出来なかった。はなしてほしいんですけど。

 先輩が食堂から出て行くのを見届けてから、戸田さんは僕に向きなおった。

「自分のせいで重夫が怒ってるかもって心配してるなら違うから安心しなよ。河中のせいじゃないよ」

 思いがけず戸田さんから優しい言葉をもらった。普段の言動で気付きにくいけど実はいい人なのだ。

「あいつ、カンサイと屋上行ってから妙に機嫌悪いんだ。帰ってきたら体育着に着替えてるし、理由聞いても言わないし。何膨れてんのか知らないけどほっときゃいいんだよ、気にするな」
「相田さんと屋上にいたんですか?」
「うん、朝、カンサイに呼ばれて二人で行ったよ。話があるとかって」

 あの人、また先輩に近づいたのか! 先輩ってば流されてあの人と関係持っちゃったんじゃないだろうな。可能性として充分考えられる。

「僕、ちょっと……行ってきます」

 ふらりと立ち上がった僕を見て戸田さんが苦笑する。

「そんなに重夫が好きなんだ? 俺、ただの憧れみたいな気持ちで重夫に付きまとってるんだと思ってたけど、本気なんだね?」
「先輩は迷惑がってるけど、僕にはあの人しかいないから」

 躊躇いもせず僕が答えると、戸田さんは顔を赤くした。

「重夫は迷惑がってなんかないよ。あいつ、気に入った奴にはわざと冷たくするところがあるから。だから河中のことは実は相当気に入ってるんじゃないかな」

 本当にそうだろうか。気持ちと行動が矛盾してるなんておかしくない? 僕なら好きな人には徹底的に優しくする。冷たい態度なんてぜったい取らない。戸田さんは僕を慰めるために言っているのかもしれない。

「ありがとうございます、戸田さん」
「俺は河中を応援してるから。ガンバッテ」

 戸田さんに頭をさげて食堂を出た




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