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君が笑った、明日は晴れ(64/89)

2020.06.05.Fri.
1話前話

 先輩をカラオケボックスのトイレでほとんどむりやり抱いた。次の日の朝、どんな顔して会えばいいんだろうと心配していたが、朝駅で見た先輩は普段とまったくかわらなくてホッとした。怒っている様子もない。

 学校までの道のり、いつも通り僕が一方的に話しかけ、先輩が短い返事をする。今日も同じ一日が始まった。

 学校について先輩と別れた。この瞬間はいつも寂しい思いをする。せめて同じ学年なら良かったのに。

 教室にいると浦野がやってきた。

「次の日曜なんだけど、どっか遊びに行かない?」

 僕の机に両手をついて童顔を近づけて来る。

「日曜か、ごめん、塾があるから」
「最近なんだか冷たくない?」

 浦野は唇を尖らせた。そんなふうに拗ねられても困る。僕は浦野を好きじゃない。恋人面しないで欲しい。そういうふうに仕向けたのは僕だけど、そろそろ浦野の相手も疲れてきた。

「そんなことないよ。夏休みの間は夏バテしてたって言っただろ?」
「……山口さんと会ってたの?」

 浦野が疑わしそうな目で見てきた。僕はなんの気構えもなく答えた。

「会ってない」
「本当に?」
「会ってないよ。ずっと家にいた」

 これは本当だ。先輩に会ったのはたった一度。ほんの一瞬。

「まだ僕と先輩のこと疑ってるの」
「そういうんじゃないけど」

 と浦野は口ごもった。

「もう授業始まるよ、そろそろ教室戻ったほうがいいんじゃない」
「うん……、今日、うち来る?」
「ごめん、塾だから」

 浦野は肩を落として教室を出て行った。あいつは本当に中/学生のまま、もしかしたら小/学生のまま成長が止まっているんじゃないだろうか。 呆れてしまうほど幼稚な反応をする。そんな浦野と付き合うのはなかなか疲れる。

 僕は思いを巡らせ、気は進まなかったが、昼休みに三年生の階に向かった。

※ ※ ※

 僕の顔を見た宮本さんは、見本にできるくらい目を見開いて驚いた顔をした。

 普段誰彼構わず声をかけるくせに、いざ教室に迎えに来られるとうろたえるなんて、案外気が小さいのかもしれない。

「どうした、珍しい」
「ちょっと相談があってきました」
「山口のことか?」

 宮本さんは思い切り顔を歪めた。吹き出しそうになるのをこらえつつ、僕は首を振った。

「浦野のことです」
「浦野……、あぁ、1年の」
「はい、少しお時間いいですか」
「いいよ、二人きりになれるとこ、行こうか」

 舌なめずりしそうな顔で、宮本さんはニッと笑った。僕も多少のことは覚悟してやって来たつもりだ。黙って頷いた。

 連れて行かれたのは図書室の横にある学習室。宮本さんはテーブルの上にふんぞり返るように座り「で?」と僕の顔を見た。

「浦野に付きまとわれて困ってるんです」
「へぇ。で、俺にどうしろっていうんだ」

 僕は自分でも最低な人間だと思う。今から僕は浦野を宮本さんに売ろうとしている。

「助けて欲しいんです、宮本さんに。頼れるのは宮本さんしかいない」
「山口にでも相談しろよ。あいつはいつも俺の邪魔しやがる。お前らの白馬の王子様なんだろ」
「先輩はそんなんじゃありませんよ」

 少なくとも僕にとってはそうだった。先輩が自分からすすんで助けたのは浦野だけ。僕なんて一度宮本さんに身売りされかけたんだ。

「今日の放課後、裏の体育倉庫で待っててくれませんか」
「そんな場所に呼び出してどうする気だ」
「浦野を振るのは簡単なんです。でも僕がそんなことをするとあいつはまた先輩を頼ります。 それは避けたいんです。だから宮本さん、あいつと付き合ってやってくれませんか」
「はあ? なんの冗談だよ。浦野は俺を避けてんだぞ」
「あいつはガキなんです。優しくしてくれたら誰だっていいんです」
「ひどい言いようだな」

 呆れたように宮本さんが笑う。

「どうすればあいつを好きにできるか、今日の放課後、お教えします。来てもらえますか」

 しばらく僕を睨むように見ていたが「わかった」と机から降りた。

「体育倉庫だな、いくよ」
「待ってます」

 踵を返し、学習室を出た。廊下を歩きながら僕は深く息を吐き出した。

 後悔しない、遠慮もしない。先輩を手に入れるためならなんだってする。そう決めたんだ。



みんなかわよ
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