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君が笑った、明日は晴れ(57/89)

2020.05.29.Fri.
1話前話

 男を痴/漢する男もいるのか。

 胸糞の悪い話だ。痴/漢てやつは立派な犯罪だ。そりゃ中には冤罪もあるだろうが、明確な意思を持って触る奴は許すことが出来ない。

 律子も電車通学で、何度か痴/漢にあったことがあるという。その時も俺は頭にきた。同じ男として卑劣なことをする痴/漢野郎が許せなかった。

  河中が痴/漢にあったと聞いても同じように許せない気持ちになったのは、こいつが泣きべそかいていたからだろう。

 いつも通りしれっと話していたら心配もしなかったが、目に涙をためてそのことを俺に打ち明けた河中は、男だろうが女だろうが関係なくただの「被害者」だった。それも年端もいかない小/学生の頃からそんな目にあってきたと言うのだ。だから俺もムッとなり、つい河中を慰めるように頭を撫でていた。

 その直後河中に抱きつかれた時はまた別の意味でムッとなったが。

 次の電車がくるまであと5分ほどある。ホームにもまた人が集まってきた。河中の涙はもう止まっていてホッとする。俺はどうも人の涙には弱いらしい。

「なんか面倒臭くなってきたなぁ」

 これから学校に行くのが。今日はどうせ始業式。行っても行かなくても問題ない。

「俺、このままサボるわ。じゃな」

 河中に向かって手をあげ、階段に向かって歩き出した。

「えっ、サボるって……、先輩! 本気ですか!」

 河中が驚いた声をあげ、俺のあとをついてくる。

「お前は学校行けよ」
「でも、先輩は?」
「俺は……そだな、カラオケでも行ってもう一眠りする」
「だったら僕も行きます!」
「お前はついてくんな」
「嫌です、行きます」

 ズンズンと河中が俺の前を歩いて行く。何を張りきっているんだか。

 駅前のカラオケボックスに河中と2人で入った。ドリンクを注文し、俺はソファの上で横になった。その途端欠伸が出た。

「先輩、何か歌います?」
「寝る」

 自分の腕を枕にして横向きになって目を閉じた。

 物音に薄目を開けると河中が自分の鞄から参考書を取り出し、テーブルに広げるのが見えた。こんなとこ来て勉強するなら学校行けばいいのに。

 河中はウーロン茶を一口飲んでテーブルに置くと、筆箱からシャーペンを取り出し、それを口にあてた。目線はテーブルの参考書を睨んでいる。考え込む時の癖なんだろうか。

 口からシャーペンをはなし、何か書き出した。伏せられた目許に長い睫毛の影が落ちている。夏休みは家にいることが多かったのか、肌の白さは休み前とまったくかわっていない。

  散髪も行ってないのか、前より髪が伸びている気がする。現に今も邪魔そうに前髪をかきあげた。

 河中と目が合った。

「何ですか?」
「勉強すんなら帰れば」
「……ですよね。実はまったく集中できないんです。ここは勉強するには向かないや」

 と、シャーペンをテーブルに放り投げた。

「河中、こっち来い」

 俺の頭の上のスペースを手で叩いた。ハイ、と返事をして河中が立ち上がる。俺も上体を起こして場所をあけてやった。きょとんとした顔で河中がソファの端に座る。

「どうしたんですか」
「枕かわり」

 河中の膝の上に頭を乗せてまた寝転がった。女の子のようにやわらかくはないが、丁度いい高さだ。

「えっ、先輩?」

 河中が赤い顔をしてうろたえていたが、それを無視して俺は目を閉じた。横顔に痛いほど河中の視線を感じたが、しばらくしたらそれも気にならなくなった。

  ふわりと、優しく甘い匂いが鼻をかすめる。河中の匂い。何の匂いなんだろう? 洗濯洗剤か? 柔軟剤? 家の匂い? 河中の母親の顔が頭に浮かんだ。少女のような母親にぴったりの匂いだ。

 河中の手がおずおずと俺の頭に触れた。ためらいがちに髪の毛を撫でつけている。細い指先が俺の耳に当たった。もう片方の手が俺の肩の上に置かれ、骨格や筋肉を確かめるように指先が微妙に動いた。

 自分の都合しか考えず膝枕なんてさせたが、これってこいつを変に勘違いさせたりしないかな? そもそも男が男に膝枕してもらうってどうよ? 今更気付く。

 夏休みの間、森下さんと会えば部屋で酒を飲むかセックスするかの生活をしていたから、この程度のスキンシップが普通か異常かの区別も曖昧になっている。かなり夏休みボケしてるな。やばいぞ。

 肩を触っていた河中の手が腕へと下がり、前にまわした俺の手の平に重なった。指の間に指を入れて握り締めてくる。背中に河中の体重がのしかかる。耳にキスされた。

「何してんだ、河中」
「起きてたんですか」

 横目で睨むと河中がくすっと笑った。

「夏休みに会えなくて寂しかったんですよ。これくらい許してくれてもいいじゃないですか」
「これくらいで済むのか、お前」
「それ以上のことしてもいいんですか」
「馬鹿者。ここをどこだと思ってんだ」
「個室のカラオケボックス」

 顔を覗きこまれ、唇にキスされた。当然のように舌が入り込んでくる。繋いでいた手が外れ、ズボンの上から性器を握られた。やべ、反応しちまう。

「個室に2人きり。目の前には無防備に寝そべる先輩。こんな生殺しの状況で勉強なんて出来ませんよ」

 布越しにそれを擦って刺激してくる。すでに半勃ち。焦る俺より余裕のない河中の表情。どうしておまえがそんなに切羽詰った顔してんだ。



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