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君が笑った、明日は晴れ(50/89)

2020.05.22.Fri.
1話前話

「こいつ、1年の河中」
「よろしくね、あたし太田麻衣っていうの。高2」

 先輩に紹介された太田さんはうそう言って僕に笑いかけてきた。日焼けして小麦色の肌をおしげもなくさらす露出の高い服装。服、とは言えないな。水着のビキニにショートパンツ、下はサンダルという格好だ。金髪に近い色まで脱色した髪を後ろで無造作にまとめ、取りこぼした遊び毛を手でいじりながら僕をじっと見てくる。

 顔は整って可愛いけど、僕の苦手なタイプ。

 先輩はきっと僕の反応を見て楽しむつもりだ。現に今もニヤニヤ笑っている。

 宮本さんとの一件があるから僕も免疫ができて驚かないけど、暇つぶしで人を弄ぶ先輩の癖、なおして欲しいと本気で思う。

「太田さんがお前のこと気に入ったんだって」
「ちょっとー、山口君、あたしそんなこと言ってないよ」
「へぇ、じゃ、なんで俺に紹介してなんて言ったの。気に入ったからでしょ」
「そうだけどぉ」

 太田さんが先輩の腕を掴んで左右に振った。ちょっと、僕の目の前でいちゃつかないでくれませんか。いい加減、腹立つんで。

「河中、お前はどうなんだ、太田さんみたいなタイプ」

 先輩に聞かれ、僕は『ぜんぜんタイプじゃない』と言いたいのを我慢して、

「可愛いと思いますよ」

 と答えた。

「だって。良かったね、太田さん」
「なんか照れる」

 太田さんは先輩の腕にしがみついて肩に顔を埋めた。ちょっと、恋人同士みたいに先輩にくっつくな!

「太田さん、先輩みたいなタイプはどうなんですか?」

 僕の言葉に太田さんは顔をあげ、先輩を見た。

「かっこいいし、優しいけど、ちょっと男らしすぎるっていうかぁ。あたし、かわいい系の子が好きなのよね」
「プッ」

 先輩、フラれた。僕が吹き出したのを見て先輩が睨んで来る。僕だって反撃しますからね。

「でも、こないだあたしの友達が来たんだけど、その子が山口君のことかっこいいって言ってたよ」
「ほんと? 今度紹介してよ」
「いいよ」
「先輩、彼女いるでしょ!」
「えっ、彼女いないって言ってなかったっけ?」

 聞いていた話と違ったらしく、大田さんが意外そうに聞き返した。余計なことを言った僕を先輩は鋭く睨む。僕は目を逸らし、ウーロン茶を飲んだ。

「彼女とは最近うまくいってなくて」

 苦しい言いわけをして先輩は太田さんの肩を叩いた。

「じゃ、俺仕事戻るから」

 と、去っていく。まったくもう。女のことばっかり考えてないで、ちゃんと仕事してください。

 太田さんは先輩を見送ったあと僕の前に座り、顔を近づけてきた。

「今日、遊びに行かない?」
「すみません、今日は人と待ち合わせてるんです」
「彼女?」
「いえ、あ、まぁ、似たようなもんです」

 嘘はついてない、はず。

「そっかぁ。彼女いるのかぁ。あたし、こういう外見だけど二股とか遊びの付き合いとかはNGなんだぁ。残念」

 思っていたより、いい子かもしれない。そう見なおした次の瞬間、

「山口君ってほんとに彼女とうまくいってないのかな? 実は初日に見た時からけっこう気に入ってるんだよね。別れたらあたしにもチャンスあるかなぁ?」

 なんて言い出した。前言撤回。先輩より僕がタイプだと言ったばかりじゃないか。

「彼女とは順調みたいですよ。なんか、結婚の約束してるとかしてないとか」

 言いながら自分で傷ついた僕は正真正銘のバカだ。

 結婚。日本の法律では僕は先輩とは結婚できない。先輩はいつか僕以外の誰かと結婚してしまうんだろうか。白のタキシードを着て、隣の誰かに向かって優しく微笑みかけたりする日が来るんだろうか。

 想像したら泣きそうになった。

 注文したウーロン茶を飲みながら先輩の働きぶりを眺めて過ごした。仕事と割り切っているのか、お客さん相手には愛想がいい。僕の時とは大違い。

 同い年くらいの女の子たちへの愛想は特にいい。楽しそうに喋っている先輩を見ているだけで辛くなってくる。もし僕が女として生まれていれば、先輩はあんなふうに優しい言葉使いと、軽い冗談を交えながら僕に笑いかけてくれたのだろうか。

 好きだと告白した時だって、「男は無理」なんていきなりフラれることもなく、少しは可能性を考えてくれた?

 どうして僕、男に生まれちゃったんだろう。

 だんだん気持ちが落ち込んでいく。ウーロン茶で体が冷えたせいかもしれない。あんまり長居も悪いし、そろそろ出た方がよさそうだ。

 最後に先輩に挨拶したかったけど、先輩は大田さんと談笑中で席を立った僕に気付いてもいない。がっかりしながら海の家を出た。

 どこを見ても男女のペアばかりが目に付く。自分が世界で一人きりになったような気がしてくる。自分がゲイだって自覚した日から覚悟していたつもりだったけど、好きな人が自分以外の誰かと幸せになるのを見るのは想像以上にツラそうだ。

 僕は誰もいない岩場の日陰に座り、落ち込んだ気持ちのまま時間を過ごした。

 ※ ※ ※

 17時過ぎ。僕はまた海の家に向かった。太田さんには見つかりたくないな。そう思いながら歩いていた僕の足が途中で止まった。

 海の家の前で、先輩が知らない女の人と腕を組んで話をしていた。髪の長い綺麗な人。先輩はポケットに手を入れたまま、その人と親しげに話をして笑っている。昨日今日知り合ったんじゃない雰囲気。

 直感で先輩の彼女なんだとわかった。 初めて見た。少し、意外だった。太田さんのように派手なタイプの人だと勝手に想像していたが、実際は黒髪で肌も白く、意外にも女のいやらしさがまったくない人だった。

  この人とは遊びで付き合ってるんじゃない、別格なんだ。そう知るに充分な特別な雰囲気。純白のウェディングドレスがとても良く似合いそうだ。

 今日は最悪の日だったみたいだ。来るんじゃなかった。僕は身を翻し、一人で帰った。




morning lover

アルーンの続編ー!
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