君が笑った、明日は晴れ(49/89)
2020.05.21.Thu.
<1話、前話>
追試は夏休みの初日。終業式を終えた翌日にまた学校へ行き、俺と戸田は追試をうけた。
河中に勉強をみてもらった甲斐あって、俺は一発合格。戸田は憐れにも追追試だった。
「じゃ、俺先にバイトしてるから」
情けなく縋ってくる戸田を放って俺は今日から海の家でバイトだった。
電車を一回乗り換えて20分の海。暑い日差しに海がキラキラ照り輝いている。夏休みだ! 海だ! 戸田には悪いが、俺は目一杯楽しむつもりだ。
人のよさそうな店長とその奥さん、 あとはバイトが5人。なかなかきれいな海の家だった。高校生は俺を入れて3人。あとは大学生だ。大学生の2人は海開きからすでにバイトを始めていて、仕事のことはこの2人から教わってくれと店長に言われた。
「よろしく、俺は森下」
黒髪でおとなしそうな雰囲気の人が俺に向かって自己紹介した。俺も「山口です」と会釈した。年齢は俺と4歳違いの21歳。たった4歳しか違わないのに、やけに大人びて見える。
森下さんに仕事内容を教わりながら、接客と簡単なオーダーをこなして初日は終わった。今日は残念ながら女っ気ゼロ。
二日目。接客にも慣れ、ドリンクオーダーや備品の貸し出し程度なら一人で出来るようになった。
「疲れてない?」
森下さんが声をかけてきた。
「大丈夫っすよ」
「物覚えがいいね」
「そうかな」
「うん、安心して任せられる」
「森下さん、彼女いるんですか」
「いないけど、どうして?」
「海の家でバイトするとモテるって聞いたから」
「はは、それが目当てでバイトしにきたのか?」
「森下さんもでしょ?」
「俺は海が好きだから」
「またまた」
「ほんとだってば」
森下さんは静かに微笑み、目の前の海を眩しそうに見つめた。
「実家が湘南でね、小さい頃からずっと海を見て育ったから、家を出て部屋を探した時も、海の見える場所っていうのが第一条件だったんだ」
「へぇ」
「こう見えて、休日には清掃のボランティア活動もしてるんだよ、俺」
こう見えて、というか、見たまんま、というか。確かにこの人、真面目そうで、オンナ目的でバイトしているようには見えないな。俺とはあきらかに違う人種。
客が一人入ってきて俺は接客についた。
「ビール」
注文を聞いてふと気付く。この客、昨日も来ていたな。20歳前後の男で、短髪。俺を見ず、チラチラと店を窺うように見ていたから覚えていた。今日も、何か探すように目を動かしている。
男の前にビールを置いてから、俺は森下さんのところへ行き、「変な客がいる」と耳打ちした。
「変な客?」
洗い物をしていた森下さんは顔をあげ、俺の視線の先を辿り、顔色をかえた。
「あいつ……」
「知り合い?」
「うん。あいつは俺と同じ大学の奴なんだ。大丈夫、何かする奴じゃないから」
手をぬぐった森下さんは、その客のところへ行って何か言い、険しい顔つきで戻ってきた。
知り合いにしては、険悪な雰囲気だ。
男は店にいる間ずっと森下さんのことを睨むように見ていたがしばらくして出ていった。
※ ※ ※
一週間が経ち俺もだいぶ仕事に慣れた。休憩には海に入って泳ぐ余裕もできた。「海の家で働いている人ですよね」と女の子2人組みに声をかけられたが、タイプじゃないから適当に話をしてお別れした。ちょっともったいなかったかな。
今日は河中がやってきた。白い肌が日に反射してさらに白く浮き上がり、浜辺に不自然なほどだった。
「何しに来やがった」
テーブルについた河中の前に座って言った。
「先輩の働き振りを見に。また焼けましたね、先輩」
「お前は海に似合わねえな。一人で来たのか」
「はい。終わるまで待っててもいいですか。一緒に帰りましょうよ」
「終わんの17時過ぎだぞ」
「待ってます」
あと2時間はある。まぁ、海で泳いでいればあっという間にすぎる時間ではある。
「好きにしろ」
「はい。じゃ、とりあえずウーロン茶下さい」
河中のオーダーを聞いて戻ると、バイトの女子高生、太田に「あの子、知り合い?」と声をかけられた。ビキニに下はショートパンツという格好で、スタイルも良くて顔も可愛い。バイトの中でこの子が一番俺のお気に入りだったのだが、よりによって河中に興味を持つなんて。
「高校の後輩」
「女の子……じゃ、ないよね?」
「あんなツラしてるけどね」
「かわいくない? ちょっと紹介して欲しいんだけど」
「いいよ。じゃ、今から行こうか」
ウーロン茶を持って、俺は太田と河中のところへ向かった。俺の後ろを歩く太田を見て、河中が問うような目を俺に向ける。河中って女とはどう接するんだろう。これはみものかもしれない。
ニヤつく俺を見て、河中の顔が険しくなっていった。
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追試は夏休みの初日。終業式を終えた翌日にまた学校へ行き、俺と戸田は追試をうけた。
河中に勉強をみてもらった甲斐あって、俺は一発合格。戸田は憐れにも追追試だった。
「じゃ、俺先にバイトしてるから」
情けなく縋ってくる戸田を放って俺は今日から海の家でバイトだった。
電車を一回乗り換えて20分の海。暑い日差しに海がキラキラ照り輝いている。夏休みだ! 海だ! 戸田には悪いが、俺は目一杯楽しむつもりだ。
人のよさそうな店長とその奥さん、 あとはバイトが5人。なかなかきれいな海の家だった。高校生は俺を入れて3人。あとは大学生だ。大学生の2人は海開きからすでにバイトを始めていて、仕事のことはこの2人から教わってくれと店長に言われた。
「よろしく、俺は森下」
黒髪でおとなしそうな雰囲気の人が俺に向かって自己紹介した。俺も「山口です」と会釈した。年齢は俺と4歳違いの21歳。たった4歳しか違わないのに、やけに大人びて見える。
森下さんに仕事内容を教わりながら、接客と簡単なオーダーをこなして初日は終わった。今日は残念ながら女っ気ゼロ。
二日目。接客にも慣れ、ドリンクオーダーや備品の貸し出し程度なら一人で出来るようになった。
「疲れてない?」
森下さんが声をかけてきた。
「大丈夫っすよ」
「物覚えがいいね」
「そうかな」
「うん、安心して任せられる」
「森下さん、彼女いるんですか」
「いないけど、どうして?」
「海の家でバイトするとモテるって聞いたから」
「はは、それが目当てでバイトしにきたのか?」
「森下さんもでしょ?」
「俺は海が好きだから」
「またまた」
「ほんとだってば」
森下さんは静かに微笑み、目の前の海を眩しそうに見つめた。
「実家が湘南でね、小さい頃からずっと海を見て育ったから、家を出て部屋を探した時も、海の見える場所っていうのが第一条件だったんだ」
「へぇ」
「こう見えて、休日には清掃のボランティア活動もしてるんだよ、俺」
こう見えて、というか、見たまんま、というか。確かにこの人、真面目そうで、オンナ目的でバイトしているようには見えないな。俺とはあきらかに違う人種。
客が一人入ってきて俺は接客についた。
「ビール」
注文を聞いてふと気付く。この客、昨日も来ていたな。20歳前後の男で、短髪。俺を見ず、チラチラと店を窺うように見ていたから覚えていた。今日も、何か探すように目を動かしている。
男の前にビールを置いてから、俺は森下さんのところへ行き、「変な客がいる」と耳打ちした。
「変な客?」
洗い物をしていた森下さんは顔をあげ、俺の視線の先を辿り、顔色をかえた。
「あいつ……」
「知り合い?」
「うん。あいつは俺と同じ大学の奴なんだ。大丈夫、何かする奴じゃないから」
手をぬぐった森下さんは、その客のところへ行って何か言い、険しい顔つきで戻ってきた。
知り合いにしては、険悪な雰囲気だ。
男は店にいる間ずっと森下さんのことを睨むように見ていたがしばらくして出ていった。
※ ※ ※
一週間が経ち俺もだいぶ仕事に慣れた。休憩には海に入って泳ぐ余裕もできた。「海の家で働いている人ですよね」と女の子2人組みに声をかけられたが、タイプじゃないから適当に話をしてお別れした。ちょっともったいなかったかな。
今日は河中がやってきた。白い肌が日に反射してさらに白く浮き上がり、浜辺に不自然なほどだった。
「何しに来やがった」
テーブルについた河中の前に座って言った。
「先輩の働き振りを見に。また焼けましたね、先輩」
「お前は海に似合わねえな。一人で来たのか」
「はい。終わるまで待っててもいいですか。一緒に帰りましょうよ」
「終わんの17時過ぎだぞ」
「待ってます」
あと2時間はある。まぁ、海で泳いでいればあっという間にすぎる時間ではある。
「好きにしろ」
「はい。じゃ、とりあえずウーロン茶下さい」
河中のオーダーを聞いて戻ると、バイトの女子高生、太田に「あの子、知り合い?」と声をかけられた。ビキニに下はショートパンツという格好で、スタイルも良くて顔も可愛い。バイトの中でこの子が一番俺のお気に入りだったのだが、よりによって河中に興味を持つなんて。
「高校の後輩」
「女の子……じゃ、ないよね?」
「あんなツラしてるけどね」
「かわいくない? ちょっと紹介して欲しいんだけど」
「いいよ。じゃ、今から行こうか」
ウーロン茶を持って、俺は太田と河中のところへ向かった。俺の後ろを歩く太田を見て、河中が問うような目を俺に向ける。河中って女とはどう接するんだろう。これはみものかもしれない。
ニヤつく俺を見て、河中の顔が険しくなっていった。
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