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君が笑った、明日は晴れ(30/89)

2020.05.02.Sat.
1話前話

 開いた屋上の扉から先輩の姿が見えた。僕と宮本さんを見て驚いた顔をする。

「宮本さん、何してんの」

 口の端をあげて先輩が笑う。

「お前にはもう関係ねえだろ」
「そうだけど、無理矢理ってのはフェアじゃないね。こいつ、さっき悲鳴あげてなかった?」

 先輩、僕のこと少しは心配してくれたのかな。半ばそれを祈る気持ちで見上げる。

「おまえに会いたくないから屋上に行くのを嫌がってたんだよ。俺が何かしたわけじゃねえ」
「俺に会いたくない?」

 先輩がいぶかしんで僕を見る。

「先輩、僕が鬱陶しいから宮本さんに譲ったって、本当なんですか」
「本当だけど」

 首を傾げて先輩は笑う。どうしてそんな顔して笑えるんですか。そんなに僕が嫌いだったんですか。

「俺の言った通りだろ」

宮本さんが追い打ちをかける。

「お前も宮本さんにイロイロ教えてもらえよ」
「!」

  僕は弾かれたように顔をあげ、ニヤニヤ笑う先輩を見た。僕が先輩を犯したから僕も同じ目にあえばいいと思ってるんだ。それも楽しそうに笑いながら! そりゃ僕のしたことは許される行為じゃないけれど、だからって宮本さんにのしつけてまで僕を引き渡さなくたっていいじゃないか。

 あんまり怒りすぎて僕は一線を越えてしまった。開き直った、というべきか。

 悪魔の笑みを浮かべる先輩を静かに睨みながら、僕はポケットから携帯電話を取り出した。宮本さんが先輩のほうを見ている間に操作し、呼び出した画像を先輩に見せた。

 先輩がそれを見て、顔色をかえた。

「それ……っ!」

 宮本さんが振り返る前に携帯を後ろに隠した。静かにポケットにしまう。形勢逆転ですね、先輩。今度は僕が悪魔の笑みを浮かべる番だった。

「先輩、もう一度宮本さんに言ったこと、今ここで聞かせてくださいよ」

 歯を食いしばって先輩が僕を睨み付ける。

 さっき見せたのは、縛られて勃起した先輩の写真。この前携帯で撮った画像だ。

 僕はそれを一枚残したままでいた。こっそり僕のオカズ用に。それが今こんな形で役に立つなんて思わなかった。

「なんだよ、急に。二人ともどうしたんだ?」

 僕と先輩の態度がおかしいことに気付いた宮本さんは、わけがわからず間に立って首を左右に振った。

「河中、てめえ」

 食いしばった歯の間から呪詛のように僕の名前が紡がれる。もう怖くない。開き直った人間は恐怖を感じないんですよ、先輩。

「先輩の詰めが甘いせいですよ。きちんと確認しなきゃ」

 携帯の画像を消しておけ、としか先輩は言わなかった。ハイ、と返事をした僕の言葉を信じた。僕だってこんなふうに利用するつもりはなかったけれど、先輩がそういう態度でくるなら僕だって自衛しなきゃ本当に宮本さんに犯されてしまう。僕はタチだし、第一宮本さんはぜんぜんタイプじゃない。相手にしたって勃たないよ。

「先輩、僕を宮本さんに譲ったりなんかしませんよね?」
「何言ってる、河中。こいつはお前が鬱陶しくて仕方ないって俺に言ったんだぞ」
「宮本さんは黙ってて下さい。ねえ、先輩、宮本さんから僕を取り返してください。俺には河中が必要だって、宮本さんにはっきり言って下さい」
「はは、何言ってんだよ、河中……」

 一人事態が飲みこめていない宮本さんが力なく笑う。いきなり強気な発言をする僕の頭がおかしくなったと思っているのかもしれない。

 僕と先輩は宮本さんを無視してしばらく睨みあった。どちらが先に目を逸らすかはわかっていた。だから僕は余裕で先輩の視線を受けることが出来た。

「……くそっ」

 案の定、先輩が先に目を逸らした。

「てめえの勝ちだ、河中。お前がそこまでする奴だとは思わなかったよ」
「僕もです。自分で自分が信じられません」
「なんの話だよ?」

 きょとんと宮本さんが僕と先輩の顔を交互に見る。

「宮本さん、悪い、さっきのナシ」
「はぁ?」
「これはあんたにやれない。こいつはもうしばらく俺が預かる」

 完全に物扱いの言い方だけれど、先輩が口にするとなんだかゾクッとする。僕ってMの気もあるのかな。

「今頃何言ってんだよ。こいつが鬱陶しいから引き受けてくれってお前が言ったんだろうが」
「ちょっと事情がかわってね。俺もこいつに用事が出来たんすよ。それが済んだら煮るなり焼くなり犯すなり切り刻んで海に捨てるなり、あんたの好きにすりゃいい」

 後半、先輩の願望じゃありませんでしたか? このあと僕、殺されるかもしれない。

「なんだよ、用事って。お前らなんか様子おかしいぞ」
「悪いね、宮本さん。河中、来い」

 先輩が僕の腕を掴んで階段を下りて行く。指先が腕に食い込んで痛い。怒ってる。先輩、めちゃくちゃ怒ってる。

 思わず助けを求めるように、振りかえって宮本さんを見てしまった。



自惚れミイラとり 1

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