FC2ブログ

君が笑った、明日は晴れ(28/89)

2020.04.30.Thu.
1話前話

 俺の許しをもらった途端、河中はまた前のように教室にやってくるようになった。俺はあまりベタベタされるのは好きじゃなくて、最近河中に食傷気味だった。

 河中から離れて一息つきたくて屋上へやって来たのに、河中以上に暑苦しくて鬱陶しい先客がいて思わず舌打ちした。

 引き返そうとしたが、扉の軋んだ音に宮本が振りかえって俺に気付いた。宮本も俺を見た途端、顔を歪めて舌打ちする。

「何しに来たんだ、てめえ」
「ちょっと息抜きに。お邪魔みたいなんで帰ります」

 宮本が一年の男に迫っているところだった。フェンスに押し付けられた一年が縋るような視線を寄越してきたが、俺にはどうしようもない。

「おい、待てよ」

 宮本に呼び止められた。やれやれ。天を仰いで溜息をつく。今日はついてないのかもしれない。

「なんすか」
「河中は一緒か」
「いや、俺一人」

 こいつ、まだ河中に未練があるのか。

「お前と河中、どうなってんだよ」
「どうって、どうもないすよ」
「あいつ、お前にべったりじゃねえか」
「はは、鬱陶しくて仕方ないんすよ。あいつ、引き受けてくれませんか」
「いいのか?」

 宮本が真剣な表情で聞いてきた。そうとうあいつに惚れこんでるんだな。まったく、顔がかわいいからってそこまでマジになれるかね。

「どうぞどうぞ」
「本気で言ってんだな」

 疑り深い奴だな。さっさと持ってけよ。

「のしでもつけたほうがいいすか」

 それでもまだ言葉の真意をはかるようにじっと睨み付けてくる。俺は肩をすくめて少し笑った。

「わかった。じゃあ、河中は俺がもらう。いいな」
「どうぞお好きに。今だったら俺の教室にいるんじゃないかな」

 宮本の口に笑みが浮かんだ。一年の肩を掴んでいた手をはなし屋上から出て行く。前を通り過ぎる時にきっちり俺を睨んでいった。まったくいちいち疲れる。

 俺は日陰に座って煙草を口に咥えた。火をつけ煙を吐き出す。昼飯のあとだからか欠伸も一緒に出た。

 宮本のやつ、本当に河中のところへ行ったのかな。宮本に迫られて困る河中を想像したらにやけてきた。毎日あいつにつきまとわれてたまった俺のストレスを思い知れ。

「あの、ありがとうございました」

 さっき宮本に迫られ困っていた一年がやってきて頭をさげる。 タイプは河中と違って爽やかで男らしい感じだが、まだ幼さの抜けない童顔。あいつ、ほんとに将来犯罪者になるんじゃねえのか。

「俺は何もしてないから」
「いえ、俺、本当に困ってたんで助かりました」

 ハキハキした口調で言って、一年は俺の隣に腰をおろした。

「河中って、1年2組の河中のことですか?」
「さぁ、俺の知ってる河中が何組なのか知らないから」
「女の子みたいな顔した……」
「はは、じゃ、その河中だ」

 あいつ、有名なんだな。まあ、あの顔じゃ無理もないか。

「大丈夫かな、河中の奴。あの人しつこいから」
「お前もずいぶんしつこくされたのか」
「あ、まぁ。……山口さんですよね」
「そうだけど、俺のこと知ってんの」
「はい、宮本さんを負かした人だって。あの人にしつこくされたら山口さんを頼ればいいって」
「誰だ、そんな迷惑なこと言ったのは」
「あ、いえ、噂です」

 とんでもない噂だな。ほんとに誰か俺のとこに来たらどうすんだよ、面倒臭い。

「それただのデマだから、信じるなよ」
「でも俺、助けてもらいました」

 キラキラする目で俺を見る。なんか苦手なタイプだなぁ。

「君、河中の知り合い?」
「あ、俺、浦野です。べつに河中とは知り合いでもなんでもないんです。ただあの外見だから皆かわいいって噂してて、どんなのか一度教室まで見に行ったことがあります」

 暇だなぁ、こいつも。

「ほんとにあいつ、女の子みたいでびっくりしちゃって。山口さん、河中を助けに行かなくていいんですか」
「なんで俺が」
「だって、二人は付き合ってるんでしょう?」
「は? 誰がそんなこと言った?」
「噂です……」

 溜息が出た。とんでもない噂が出回っているらしい。煙草を消して立ち上がった。

「浦野、俺に関する噂は全部デタラメだ。信じるな。今度俺の噂を話す奴がいたらそいつにもそう言っとけ」
「あ、はい」

 ここに長居しても休める気がしない。仕方なく屋上をあとにした。




関連記事
スポンサーサイト
[PR]

コメント

管理者にだけ表示を許可する