君が笑った、明日は晴れ(27/89)
2020.04.29.Wed.
<1話、前話>
最近重夫の河中への態度が軟化したように思う。
とにかく重夫は自分に付きまとう河中を鬱陶しがってまともに顔を見もしなかった。 俺は河中が不憫で仕方なくて、もっと優しくしてやるように何度も重夫に言った。それがようやく効果をあらわしはじめたのかもしれない。
うん、いいことだ。
今日も河中は重夫に会いに教室までやってきて、つい先日返ってきた中間考査の結果を見て言葉をなくしている。
「先輩……欠点がたくさんありますね」
「うるせえな」
俺も人のことは言えない点数ばかりなので、ここはおとなしく二人のやり取りを見守ることにしよう。
「いつもこんな点数なんですか」
「ほっとけよ」
額に手を当て河中は溜息をついた。アンニュイな表情の河中も可愛いな。
「こんなんじゃ期末が終わっても夏休みは補習行かなくちゃいけませんよ」
「毎度のことだ。恒例行事だよ」
それは俺も同じだ。
「いばることじゃありませんよ。夏休み、僕と出かける約束でしょ」
「そんな約束したか?」
え、それは俺も聞き捨てならないぞ。二人でどこに行くつもりだ? 俺も仲間に入れてくれよ。
「約束したじゃないですか。休みに入ったらどっか行きたいですねって言ったら、そうだなって答えたじゃないですか」
え、それって約束したっていうのか? 俺と重夫はあっけに取られて河中を見た。
「馬鹿じゃねえの」
面倒くさそうに吐き捨て、重夫は席を立った。
「どこ行くんですか」
「屋上。ついてくんな」
前に出た河中の足が、重夫の最後の一言でぴたっと止まる。まったく重夫の奴、こんなに可愛い河中の何がそんなに不満なんだ。かわいそうに河中は俯いて落ち込んでいるじゃないか。ここは俺の出番だな。
「河中君?」
「あっ、戸田さん!」
あれ、今気付いたみたいなリアクション。さっきからずっと一緒にいたよ、俺。
「あいつ、河中が可愛いから照れ隠ししてんだよ。だから気にしなくていいからね」
「僕を慰めてくれてるんですか。優しいですね、戸田さんて」
ニッコリ笑う河中に思わず見とれた。ほんっとに可愛いなぁ。どうしてこんなに可愛いんだろう。男子校にいるから余計にそう見えるのかな。いや、こいつは共学だろうとダントツ可愛いな。だって外を歩いている時にすれ違う女と比べても河中のほうが断然可愛いもんな。
「あれでも河中に優しくなったほうだよ。あいつなりに進歩してるから長い目で見てやってよ」
「僕に、優しい……?」
「ああ、だって前はまともに顔も見なかったのに、最近は普通に会話できてるほうだろ」
「そう……ですか?」
「あいつってへんに難しい性格してるから河中を持て余してんだよ。だから素直に優しくできないんだ」
「へぇ。戸田さんて先輩の事よく知ってるんですね」
ん。 いま河中の目がキラッと鋭く光ったように見えたが気のせいか? 気のせいだな。だって河中ニコニコ笑ってるし。
「まぁ、一年の時からのツレだからな。あいつってあんな性格だろ、おまけに喧嘩っ早いから皆に誤解されることも多くてさぁ。俺しかダチって呼べる奴いないわけよ」
君の大好きな重夫の唯一のダチよ。だからもうちょっと俺に興味持ってよ、河中ちゃん。
「自慢ですか、それ。僕へのあてつけですか。喧嘩売ってんですか。宣戦布告ですか」
「違う違う。俺はもっと君と仲良くなりたいなぁって」
「充分仲いいじゃないですか」
河中の天使スマイルが炸裂した。
その時運悪く俺の後ろを通り過ぎた奴がモロにそれを見てしまい撃沈した。かわいそうに。重夫のそばにいて見慣れている俺だって河中のこの笑顔は心臓に悪いというのに、防御もせずに気を抜いた状態で見たらひとたまりもない。
「君、山口とどこまでいったの」
コラコラ、声をかけるんじゃない。河中の犠牲者は野球部の西田だった。
「どこって何の話ですか?」
河中もこんな奴無視していいから。
「その、やっぱりあいつと、山口と付き合ってんの」
「僕の片思いなんです」
頬を真っ赤にして河中が恥ずかしそうに俯く。か、かわいい……!!
「本当にあいつに惚れてんの」
西だ以外の奴が集まってきた。こいつら、普段は遠慮して話しかけてこなかったけど、重夫がいない今、西田を突破口にしてなんとか河中の気を引きたいんだな。下心が見え見えだぞ。あぁ、やだやだ、男子校って。
河中のまわりに人垣が出来ていた。その中心にいる河中は少し戸惑った顔でみんなの質問に答えている。
「え、携帯の番号ですか」
河中、答えなくていいからそれ!!
「次の休みは塾で……」
誰だ、休日に会う約束しようとした奴!!
「クリスマスの予定ですか?」
どんだけ先の話してんだよ!!
どいつもこいつも、重夫がいないと思って好き勝手してくれちゃって!
「その一年、困ってんのとちゃうか。それぐらいにしたれよ」
救世主の声! そのしゃべり方はカンサイだな。人垣の向こう、頭ひとつ飛び出た柔道部のカンサイがこちらを見て苦笑していた。サンキュー、カンサイ!
「なんだよ、俺らはいま河ちゃんとはなしてんだからお前は関係ねえだろ」
「そうやけど……」
カンサイってばおとなしい性格してるから、すぐ言い負かされるんだよな。それでもナイスファイトだったぜ、カンサイ!
「ありがとうございます、相田さん」
河中がまっすぐカンサイを見つめて微笑んだ。カンサイの顔がほんのり赤くなる。あれ、こいつまでやられちゃったのか? ミイラ取りがミイラになってどうする!
「僕、先輩を迎えに行って来ます。もうすぐ昼休み終わっちゃいますから。それじゃ。戸田さん、相田さん」
みんなの視線を一身に集めたまま、河中は教室を出て行った。
「かわいいなぁ、河中って」
「男にしとくのもったいないよ」
「俺の彼女よりかわいいかも」
みんなが口々に言うのを聞きながら、アレ、と俺は思い出した。
「河中、なんでカンサイの名前知ってたんだろ」
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最近重夫の河中への態度が軟化したように思う。
とにかく重夫は自分に付きまとう河中を鬱陶しがってまともに顔を見もしなかった。 俺は河中が不憫で仕方なくて、もっと優しくしてやるように何度も重夫に言った。それがようやく効果をあらわしはじめたのかもしれない。
うん、いいことだ。
今日も河中は重夫に会いに教室までやってきて、つい先日返ってきた中間考査の結果を見て言葉をなくしている。
「先輩……欠点がたくさんありますね」
「うるせえな」
俺も人のことは言えない点数ばかりなので、ここはおとなしく二人のやり取りを見守ることにしよう。
「いつもこんな点数なんですか」
「ほっとけよ」
額に手を当て河中は溜息をついた。アンニュイな表情の河中も可愛いな。
「こんなんじゃ期末が終わっても夏休みは補習行かなくちゃいけませんよ」
「毎度のことだ。恒例行事だよ」
それは俺も同じだ。
「いばることじゃありませんよ。夏休み、僕と出かける約束でしょ」
「そんな約束したか?」
え、それは俺も聞き捨てならないぞ。二人でどこに行くつもりだ? 俺も仲間に入れてくれよ。
「約束したじゃないですか。休みに入ったらどっか行きたいですねって言ったら、そうだなって答えたじゃないですか」
え、それって約束したっていうのか? 俺と重夫はあっけに取られて河中を見た。
「馬鹿じゃねえの」
面倒くさそうに吐き捨て、重夫は席を立った。
「どこ行くんですか」
「屋上。ついてくんな」
前に出た河中の足が、重夫の最後の一言でぴたっと止まる。まったく重夫の奴、こんなに可愛い河中の何がそんなに不満なんだ。かわいそうに河中は俯いて落ち込んでいるじゃないか。ここは俺の出番だな。
「河中君?」
「あっ、戸田さん!」
あれ、今気付いたみたいなリアクション。さっきからずっと一緒にいたよ、俺。
「あいつ、河中が可愛いから照れ隠ししてんだよ。だから気にしなくていいからね」
「僕を慰めてくれてるんですか。優しいですね、戸田さんて」
ニッコリ笑う河中に思わず見とれた。ほんっとに可愛いなぁ。どうしてこんなに可愛いんだろう。男子校にいるから余計にそう見えるのかな。いや、こいつは共学だろうとダントツ可愛いな。だって外を歩いている時にすれ違う女と比べても河中のほうが断然可愛いもんな。
「あれでも河中に優しくなったほうだよ。あいつなりに進歩してるから長い目で見てやってよ」
「僕に、優しい……?」
「ああ、だって前はまともに顔も見なかったのに、最近は普通に会話できてるほうだろ」
「そう……ですか?」
「あいつってへんに難しい性格してるから河中を持て余してんだよ。だから素直に優しくできないんだ」
「へぇ。戸田さんて先輩の事よく知ってるんですね」
ん。 いま河中の目がキラッと鋭く光ったように見えたが気のせいか? 気のせいだな。だって河中ニコニコ笑ってるし。
「まぁ、一年の時からのツレだからな。あいつってあんな性格だろ、おまけに喧嘩っ早いから皆に誤解されることも多くてさぁ。俺しかダチって呼べる奴いないわけよ」
君の大好きな重夫の唯一のダチよ。だからもうちょっと俺に興味持ってよ、河中ちゃん。
「自慢ですか、それ。僕へのあてつけですか。喧嘩売ってんですか。宣戦布告ですか」
「違う違う。俺はもっと君と仲良くなりたいなぁって」
「充分仲いいじゃないですか」
河中の天使スマイルが炸裂した。
その時運悪く俺の後ろを通り過ぎた奴がモロにそれを見てしまい撃沈した。かわいそうに。重夫のそばにいて見慣れている俺だって河中のこの笑顔は心臓に悪いというのに、防御もせずに気を抜いた状態で見たらひとたまりもない。
「君、山口とどこまでいったの」
コラコラ、声をかけるんじゃない。河中の犠牲者は野球部の西田だった。
「どこって何の話ですか?」
河中もこんな奴無視していいから。
「その、やっぱりあいつと、山口と付き合ってんの」
「僕の片思いなんです」
頬を真っ赤にして河中が恥ずかしそうに俯く。か、かわいい……!!
「本当にあいつに惚れてんの」
西だ以外の奴が集まってきた。こいつら、普段は遠慮して話しかけてこなかったけど、重夫がいない今、西田を突破口にしてなんとか河中の気を引きたいんだな。下心が見え見えだぞ。あぁ、やだやだ、男子校って。
河中のまわりに人垣が出来ていた。その中心にいる河中は少し戸惑った顔でみんなの質問に答えている。
「え、携帯の番号ですか」
河中、答えなくていいからそれ!!
「次の休みは塾で……」
誰だ、休日に会う約束しようとした奴!!
「クリスマスの予定ですか?」
どんだけ先の話してんだよ!!
どいつもこいつも、重夫がいないと思って好き勝手してくれちゃって!
「その一年、困ってんのとちゃうか。それぐらいにしたれよ」
救世主の声! そのしゃべり方はカンサイだな。人垣の向こう、頭ひとつ飛び出た柔道部のカンサイがこちらを見て苦笑していた。サンキュー、カンサイ!
「なんだよ、俺らはいま河ちゃんとはなしてんだからお前は関係ねえだろ」
「そうやけど……」
カンサイってばおとなしい性格してるから、すぐ言い負かされるんだよな。それでもナイスファイトだったぜ、カンサイ!
「ありがとうございます、相田さん」
河中がまっすぐカンサイを見つめて微笑んだ。カンサイの顔がほんのり赤くなる。あれ、こいつまでやられちゃったのか? ミイラ取りがミイラになってどうする!
「僕、先輩を迎えに行って来ます。もうすぐ昼休み終わっちゃいますから。それじゃ。戸田さん、相田さん」
みんなの視線を一身に集めたまま、河中は教室を出て行った。
「かわいいなぁ、河中って」
「男にしとくのもったいないよ」
「俺の彼女よりかわいいかも」
みんなが口々に言うのを聞きながら、アレ、と俺は思い出した。
「河中、なんでカンサイの名前知ってたんだろ」
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