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君が笑った、明日は晴れ(17/89)

2020.04.19.Sun.
1話前話

「最近、河ちゃん来ないねぇ」

 開け放った窓に腰掛け戸田が言う。

「うるせえから、窓閉めろよ」

 戸田を睨んだ。窓から外に出たカーテンがさっきから風にあおられ、バタバタと音を立てているのだ。

「重夫、お前、河ちゃんになんか酷い事言ったんだろ。だから最近来ないんだろ」
「さあな」

 戸田から顔を背けた。

 河中の話は聞きたくない。一週間前、俺はあいつに強/姦された。翌日、妙に痛い股関節の原因がわからなくて、思い至った時の俺の気持ちがお前にわかるか? 犯されただけじゃなくて、気持ち良くてよがった俺が、どんな顔であいつに会えっていうんだ?

「あーあ、河ちゃん、また宮本さんに狙われるんじゃないの?」
「知るか」
「そうなったらお前のせいだぞ」
「俺には関係ねえよ」

 そうだ、あいつが宮本に狙われようが俺の知ったことじゃない 。第一あいつは「バリタチ」って自分で言っていた通り、突っ込まれるより突っ込むのが好きな男らしいから、宮本なんか相手にしない。

「河ちゃん、小柄で女の子みたいだから、もしかしたら今頃もう宮本に押し倒されてたりして」

 と横目に俺を見る。

「だったらお前があいつを守ってやれよ。もう俺には関係ねえよ」
「冷たいね。あんなかわいい後輩に慕われてるのに、気にならないの、重夫は」
「ならない」

 これ以上話をするのは面倒で席を立った。

「あ、おい、授業始まるぞ」

 戸田の声を無視して廊下を歩く。始業のチャイムが鳴ったが、構わず校舎の外へ出た。

 裏手にまわって体育倉庫へ。扉は施錠されているが、合鍵を使っていつでも好きな時に中に入ることが出来る。合鍵はいつ誰が作ったのか知らないが、一人でさぼりたい時にはたいへん重宝しているので礼を言ってやりたいくらいだ。

 一部の人間にしか知られていない隠し場所から合鍵を取り出し、鉄の扉を開いて中に入った。

  薄暗い体育倉庫。 スポーツ大会や体育祭の時にしか出番 のない大道具と壊れた備品やらでごった返している。一番奥のスペースにマットが敷かれてあり、そこに座って時間を潰すことにした。

  かび臭く、 饐えた匂いがして 快適な空間とは言えないが、グラウンドの喧騒も遠く、四方をコンクリートに囲まれひんやりとする狭い倉庫は、一人でいると妙に落ち着いた。

 ポケットから取り出した煙草に火をつけ、ふうと煙を吐き出し、天井を仰いだ。

 明かりは通風孔からの頼りない光だけ。徐々に目が慣れていき、荷物の輪郭も捉えることができるようになった。

 マットの横にエロ本が数冊とご丁寧にティッシュが置かれてある。誰かが使ったと思われる丸めたティッシュが離れたところにころがっていた。

 苦笑いしながら雑誌を手に取りページをめくる。裸の女が色々なポーズを取って男を誘惑していた。

 と、ギィと嫌な音を立て、 倉庫の扉が開いた 。誰か来た。体育祭で使う玉転がしの大玉の後ろに隠れ、そっと戸口を窺った。 日をバックに、大きい黒い影が立ちはだかる。目を凝らすと、それは同じクラスのカンサイだった。本名は確か相田。関西出身だからついたあだ名がカンサイという安直さ。190近い身長、柔道部でガタイもいい。

 2年になって同じクラスになったがあまり話をしたことはなく、柔和な顔つきでおとなしい男、というイメージしかない。

「お前もサボリか」

 俺の声にカンサイはちょっと驚いた様子だったが、中を覗きこんで「山口か?」とのんびりした声で言う。

「ここ」

 大玉から顔を出して手をあげた。俺を見つけたカンサイが苦笑いのような笑みを見せた。

「お前、こんなとこで何しとんねん。授業始まってるで」

 自分も人のこと言えないくせに、関西地方独特のイントネーションで言いながらカンサイは俺の隣に座った。

 改めて近くで見ると本当にでかい。背が高いだけじゃなく体が筋肉に覆われていてよけいに大きく見える。衣替えして半袖になった裾からがっちりと太い腕が伸び、厚い胸板は薄いシャツを押しあげている。

「お前もサボリ?」
「うん? まぁ、そんなもんかな」

 カンサイは照れ笑いのような顔で頭をかいた。

「いる?」
「ん? あぁ、俺はいいわ」

 俺が差し出した煙草を断り、マットの上に体育座りをする。

「寝るつもりで来たんだったら、これ吸ったら俺、出て行くけど」
「あ、ちゃうちゃう、ゆっくりしいや」

 変な奴。煙草を吸うでもなし、寝るでもなし、いったい何しにここへきたんだ?

「お前とはあんまりしゃべったことねえよな」

 俺はマットに寝転がった。

「うん、そうやな。俺はずっとお前としゃべりたいと思っとってんで」
「そうなの? だったら話しかけてくれりゃよかったのに」
「お前はいつも戸田とおったし、最近一年の子とよう一緒やったやん」

 ここでまた河中の話を聞くとは思っていなかった。そういえば、俺と河中って、クラスの奴らからどう見られてたんだろ。

「河中のことどう思う?」
「どうって、そうやなぁ、女の子みたいな顔してるな」
「俺とあいつ、何かあると思ってる?」
「なんかあるんか?」

 カンサイが俺の顔を覗き込む。いやに真剣な目つきだ。

「なんもねえよ。俺が宮本みたいにあいつとなんかあると思ってんのかって聞いてんだよ」
「そら、あんなかわいい子がそばにおったら男同士でも我慢できんようになるんちゃうか」

 それってやっぱり、俺と河中がデキてると思ってるってことだよな。うわ、最悪。確かに1回「デキ」てしまった間柄ではあるけど、あれは無理矢理の不可抗力だ。

「あの一年の子と、お前、付き合ってんのか?」

 神妙な顔つきでカンサイが聞いていた。

「馬鹿言うなよ、んなわけねえだろ」
「そうか、良かった」

 にっこりカンサイが笑う。もしかしてこいつ、河中のこと好きなのか?




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