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君が笑った、明日は晴れ(4/89)

2020.04.06.Mon.
1話前話

 暗い映画館の中、 俺は横目で隣に座る河中を盗み見た。河中は前を向いて映画に集中している様子で、俺の視線に気付く気配はない。

 どうして俺は河中と映画を見ているんだろう、と思う。

 先日、河中が映画のタダ券をくれた。律子と見に行こうと誘ってみたが無理だという返事。仕方なく戸田を誘ったが、戸田の奴も用事で無理だという。童貞のくせに、日曜に何の用事があるというのか。

 チケットの処理に困り、無駄にするのも勿体ないので、これをくれた張本人を誘って今、二人並んで映画を見ている次第なのだ。

 しかし、河中って奴は本当にかわいい面をしている。

 長い睫毛を上下させて瞬きする横顔に、思わず見とれた。気付き、慌てて前に向きなおる。

 なんだろう、顔が熱い。妙に照れくさい。懐かしいこの感覚。小/学生の時、席替えで好きな女の子が隣に座った時のような、なんともむず痒く甘酸っぱい感じ。ウキウキして浮かれるのを、そっけない態度で誤魔化す、あのウブな子供時代を思い出した。

 いやいや、相手は河中。男だし。いくらかわいい顔をしていると言ったって……。

 もう一度横目でチラと見た。河中もこちらを見ていて目があった。にっこり笑いかけてくる。

 どきりと心臓が跳ねた。気まずくて目を逸らす。

 いやいや、ないない。俺は宮本じゃないんだ、しっかりしろ。

 ほとんど上の空のまま、上映が終わり、館内がぱっと明るくなった。

「面白かったですね」

 河中が笑顔で言う。

「ああ、まあ、ぼちぼちな」

 曖昧に返事をし、階段をおりた。映画の内容を言えと言われたら、俺は言う事が出来ない。

「あっ」

 河中が足を踏み外し、体勢を崩した。咄嗟に腕を掴んで引き寄せていた。ドンと、俺の体にもたれかかってくる。前も思ったが、華奢な体つきだ。

「ありがとうございます」
「気を付けろよ」

 ぶっきらぼうに答えて手を離す。なんだこれ、なんだ俺。何をこんなに照れまくっているんだ。

 ~ ~ ~

 昼食のためファーストフード店に入った。

「先輩が映画に誘ってくれた時は本当に嬉しかったんですよ」

 頬を染め、河中が言う。

「ああ、そう。でも、チケットはもともとお前のだしな」
「でも先輩は俺を誘ってくれたでしょう」

 その前に戸田、戸田の前には律子を誘ったけどな。

「まぁ、たまたまな」
「先輩、僕と一緒にいてもつまらないですか? 戸田さんと一緒にいる時はいつも楽しそうなのに、今日の先輩はぜんぜん笑ってくれないし、あまり目も合わせてくれない」

 と顔を曇らせる。

「いや、そういうわけじゃねえけど」

 焦って否定する自分が恥ずかしくて死にたくなった。何こいつの機嫌とろうとしてんの俺ってば。河中といると普段の自分を保てなくなる。調子を狂わされる。どう接すればいいのかよくわからない。それもこれも、この外見のせいだ。

「あれから宮本はどうよ」

 いたたまれずに話題をかえた。

「宮本さんですか。何も言ってこなくなりました。先輩のおかげです。先輩強いんですね。かっこいいです」
「あのさぁ」
「はい」
「そういうこと言うのやめろ。恥ずかしいから。言ってて恥ずかしくないの、お前は」
「ぜんぜん恥ずかしくないです。思ったことは全部言うことにしたんです。もう後悔したくありませんから」

 なんだか知らんが、やけに張りきってるなこいつ。

「先輩、僕んち来ませんか」
「えっ」

 急な提案。どぎまぎする自分を叱咤した。

「今日の映画と同じ監督のDVDがあるんです。この前買ったばかりでまだ見てなくて、一緒に見ませんか?」
「え、いやぁ、でも……」

 部屋に二人きり? それってまずくない? 

 ……ん? 何がまずいんだ? 何を警戒してるんだ? 俺がこいつに何かしてしまう、そんなこと思ってなかったか。そんな心配をする前に、自分の頭を心配しろ!

「まぁ、いいけど」
「やった。じゃ、さっそく行きましょうか」

 河中が立ち上がった。 その時ふわりといいにおいがした。こいつ、なんでこんなにいいにおいがするんだろう。

 店を出る時、こいつのために扉を押さえている自分に気付いた。

 女扱いしてしまっている……!

 やっぱり家に行くのはやめたほうがいいかもしらん。思わず頭を抱えた。




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