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三食ゲーム付き(3/3)

2020.03.29.Sun.


「触って」

 手を前田の股間に導かれる。指先に当たったものは、やはり驚くほど熱かった。仕方なく握って上下に扱く。

 前田は俺のズボンに手をかけ、下着ごとずりおろした。露出された下半身には、前田と同じように勃起したものがあった。その状態のものを他人に見せたことは一度もない。未経験な羞恥が俺の頬を熱くする。

 机に頬ずりしていた時のように、前田は恍惚とした表情を浮かべながら手を動かした。たまにピクリと眉が動く。その度、感じた吐息を漏らした。それと同じ反応を、俺も前田に見せていた。

 性器だけを晒した格好でお互いのものを扱き合う。嫌悪や羞恥というものは、峠を越えるとどうでもよくなるものらしい。今はただ、出してしまいたいと、それだけだった。

 目を閉じ、手つきを早くする。俺の表情から終わりが近いことを読み取り、前田も手の動きを早くした。喘息のようなせわしない息をしながら、俺は前田の手の中に射精した。

 全部吐き出した後、頭の中はしばらく真っ白になる。つい、前田をイカせることも忘れて余韻に浸っていた。

「杉村ぁ、僕やっぱり、君の中に入れたいよ」

 擦れた声で前田が切なげに訴えてくる。

「こんなもの入らない」

 けだるく答える俺の肛門に前田の指が押し当てられた。途端、ダルさは吹き飛んで体に力が入った。

「入るよ、みんなここ、使ってるんだもん」

 グリグリと指を押し込んでくる。みんなって誰だ。

「こんなもの入れられたら切痔になる」
「僕がクスリ塗ってあげるから」
「死んでも嫌だ」
「ねぇ、杉村、僕、考えたんだけど」

 こんな時になんだ、と前田を睨む。まだ射精していない前田は、頬を赤く染めながらウットリ俺を見ていた。

「そんなにゲームが好きなら、僕のところでずっとゲームしてたらどうかな? もちろん、今すぐは無理だけど、僕が就職して君を養える時がきたら、僕のところに就職しない?」
「就職?」
「杉村はただ、僕の家でずっとゲームしててくれればいい。それが杉村の仕事。どうかな」

 確かに、レベル上げを請け負う会社があったら就職したいと思っていたが……。こいつと一緒に暮らせば俺は外に働きに出なくてもいいのか? 本当にゲームしているだけでいいのか?

「そんなうまい話……」
「たまにこうしてエッチなこともするけどね」

 やっぱり――。舌を鳴らすと前田は苦笑した。

「仕事はゲームとセックスだけ。三食昼寝付きで好きなだけ家にこもっていられるよ」

 三食昼寝付き……。今はまだ十六歳だから親の扶養で面倒をみてもらっているが、十年後も同じ状況では笑えない。俺もいつか自立して働かなくてはならない。このまま登校拒否を続けていれば俺は間違いなく留年する。それでも行かなければ退学ということになる。中卒で雇ってくれる職場は限られている。頭じゃわかっているが、どうしても学校に行く気にはなれない。そこに価値や意味を見出せないのだ。

 押し黙った俺の迷いを嗅ぎつけ、前田はさらにまくしたてた。

「ゲームは好きなんだろ? エッチだって気持ちいいことなんだからそのうち絶対好きになるよ。一生誰ともエッチしないって決めてるわけじゃないんだろ? その相手が僕だから迷ってるんだろ? だけど考えてもみてよ、気持ちよくセックスするだけで、あとは何もしなくていいんだよ。料理も掃除も洗濯も全部僕がやる。杉村は好きな時に好きなことをしてくれればいいんだ。ただ、僕と一緒に暮らして、僕とセックスするだけ。それも気持ち良く、ね」

 俺の手の中で前田の性器がドクンと脈打ち膨らんだ。何を想像したんだ。

「毎日……か?」
「セックス? そうだな、週三回でどう?」

 週に三度、前田の性処理に我慢して付き合ってやればいいのか――?

 急に下半身が軽くなった。体を浮かせた前田が、俺のズボンを足から抜き取っていた。

「一度、試してから考えたら?」

 と腰を持って裏返す。尻を割って中心に指を入れてきた。

「やるなんて言ってねえ」
「これは僕に嘘をついたペナルティでもあるんだよ、杉村」

 ズクと指が奥まで入った。息が詰まるような圧迫感に背中が反った。

「どうして俺なんだ、どうしてそんなことするんだ」

 思わず泣き言を漏らした。ゲーム三昧で三食昼寝つきは確かに魅力的な就労条件だが、週に三度もこれを我慢できる自信は微塵も持てない。

「中学の時、僕はいじめられそうになったことがあった。その時、クラスの奴を止めてくれたのが杉村だった」

 前田は指を二本に増やし、中で関節を曲げる。

「覚えてない……っ」

 脂汗を額に浮かべながら呻った。

「ね。杉村はそういうことが当たり前に出来ちゃうんだよ。僕にとっては忘れられない出来事でも、杉村にとっては些細な出来事なんだ。僕はずっと杉村に憧れてた。杉村みたいになりたくて、君のことばかり見ていたら、いつの間にか好きになってた」

 指が抜かれた。ほっとしたのも束の間、次の瞬間には指より太いもので貫かれていた。本当に切痔になる!

「頼むよ杉村、僕のそばにいてよ。杉村が何不自由ない生活を送れるよう、僕がんばって働くから。だから僕のところに来てよ」

 真摯に訴えかけながら、前田はちゃっかり腰を動かした。体の奥深くをえぐられる感覚に焦りがわいた。

「動くな、脱肛するっ」
「そんな簡単に脱肛したりしないよ」

 引きずられそうで布団にしがみついた。この異物感と痛みを耐え続けることが果たして俺に出来るか? 無理だ。こんなことを続けるなんて、俺にはとても無理だ――。

「…………条件がある」
「なに?」

 ピタリと前田の動きが止まった。

「俺が欲しいと言ったものは何でも買い揃えろ」
「もちろん、出来る範囲で」
「ゲームしている時は邪魔するな」
「しないよ」
「俺は家事は一切やらない」
「杉村の部屋も僕が掃除するよ」
「俺の部屋は自分でする。俺の持ち物には一切触れるな」
「わかった、約束する」
「契約書を書け。一年目の違約金は百万。学生の間、一年ごとに五十万増やす。社会人になってからは百万ずつ増やす」
「僕は絶対に契約破棄なんてしないよ。杉村こそ、途中で嫌だなんて出て行かないでよ」
「行って欲しくなかったら、おまえは高給取りになれ」
「――なるっ、僕、がんばるよ!」

 再び前田の腰が動いた。興奮して勢いづいた前田は激しく腰を振る。これが気持ち良くなるなんて考えられない。この行為を好きになる日が来るなんて想像もできない。前田に騙されたのだろうか。苦痛を噛み締めながら、決断を早まったかと早速後悔した。

 背後から聞こえる前田の息遣いが速く、荒くなった。うわ言のように俺の名を呼ぶ。

 どうしてそこまで必死になれるのか、前田の言動は俺の理解を超えている。取るに足らない過去の出来事をいつまでも覚えていて、挙句男相手に好きだと言ってくる。自分が働くかわりに、俺にはずっと家でゲームしていろと言う。たとえ性交渉という条件がつくとしても、家事もやらない、子供も産めない俺を養って何のメリットがあるのか。正気の沙汰とは思えない。それが――俺には理解不能な――恋というものなのだろか。

 俺の腰を掴む前田の手に力がこもった。直後、息をつめて前田は吐精した。

 ※ ※ ※

 契約書の内容はこうだ。

 前田と同じクラスの間、俺は学校に通うこと。クラスが分かれた時にはその強制力は消滅する。社会人になった前田の収入が安定したら同居をする。働かなくていいかわりに、義務として前田と週三度の性行為。

 前田は、出来るだけ好条件の仕事につき、出世の努力を惜しまぬこと。三食昼寝付きという環境を維持して俺を養い、俺が欲しがるゲームに金を出し惜しみしないこと。ゲームの時間を邪魔しない。家事全般は前田がやる。ただし、俺の部屋は例外とする。俺の持ち物に許可なく触らない。

 一年目の違約金は百万円。二年目以降、学生の間は一年ごとに五十万円増やす。社会人になってからは一年ごとに百万円増やす。

 無収入の俺が契約を破棄したい場合、前田の希望によって契約終了の期限を五年まで延長できることとする。

 どちらに有利な契約なのか、よくわからない。感情が醒めた時、前田にとって俺はお荷物以外の何物でもないだろうし、中年になってから放り出された時――しばらくは違約金で生活出来るだろうが――俺は路頭に迷うことになる。

 どちらにも分が悪い、賭けのような契約だった。そのことがわかっているのかいないのか、前田は喜々とした表情で契約書にサインした。

「はい、杉村もサインして」

 眼前につきつけられる契約書。これに名前を書いたが最後、俺の人生は決まってしまうのだ。前田に食わせてもらいながら、家に引きこもってゲームばかりしていていいのだろうか。夜になれば我慢しかない前田との性行為だ。本当にそれでいいのか。男として、人として、それで――。

「杉村、早く」

 前田が俺をせっつく。急かすな、これは人生の岐路なんだ。大事な場面なんだ。

 そういえば、俺は勘がいいほうだった。ダンジョンに入り込んだ時も、地図を見なくてもあまり迷わず進むことが出来た。攻略本が役に立たない、運だけが頼りの宝箱の選択の時だって、俺は当たりを選ぶことが多かった。

 前田からこの話を持ちかけられた時、迷いながらも、無理だと思いながらも、俺はその道を選んだ。自分の直観力を信じるしかない。

 ――ままよ!

 意を決して、俺は契約書にサインをした。


(2010年初出)

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