距離(2/2)
2019.12.25.Wed.
<前話>
今度は俺の提案で、公園でキャッチボールをした。二人とも少年野球経験者。
始めは肩ならしのキャッチボールが、次第に本気に。暑くなって上着を脱いで我に返る。
「疲れた。休もう」
「そこの自販で飲み物買ってくる」
山中がスポーツドリンクを買って戻ってきた。
「近くの池で貸しボートがあるって。行こう」
と、山中は、斜め前を指差した。ドリンクを飲みながら、公園の中を移動する。山中が受付をすまし、ボートに乗り込んだ。
「うわ、揺れる」
「気を付けて」
傾く山中の腕を持ってやった。
山中がオールを漕いで池の真ん中へ。
「意外に疲れる」
「かわる?」
「頼む」
今度は俺が漕いだ。
「気持ちいいなぁ」
山中がボートのへりにもたれかかり、目を閉じた。俺は漕ぐのをやめ、山中の顔を見つめた。何時間でも見ていられる気がした。
雨の日は山中の家でDVD鑑賞会。俺の苦手なスプラッター系のホラー映画を見させられた。痛々しくて画面から目を逸らした先に、欠伸をする山中。
「寝る?」
最近仕事で疲れているようで心配になる。
「悪い、先、寝る」
俺の肩を持って立ち上がり、ベッドの上に寝転がった。
「俺、帰るよ」
「なんで?泊まってけば」
布団をひっぱりあげ、俺に背を向けた。テレビを消し、俺も布団の中に潜り込んだ。
「布団、冷たい。寒い」
理由をつけながら、山中の背中に抱きつく。前に手をまわし、肩口に顎を乗せ、密着する。
「お前の手、冷たい」
山中が文句を言った。
「お前の体、あったかい」
山中を湯たんぽかわりにして眠った。
今日は直帰。接待終わり、山中にメールした。
『いまどこ?』
しばらくして『家にいる』と返事。山中の家に向かった。
「今夜泊めて」
山中の顔を見るなり言った。
「お前、酔ってるね」
苦笑しながら中に入れてくれた。先を歩く山中の背中に抱きついた。
「山中、彼女いる?」
「いたらお前を泊めたりしない」
それもそうか。洗面所には、俺の歯ブラシが置いてある。半同棲みたいだと浮かれる俺。
寝支度をして、二人でベッドへ。横向きに山中と向き合い、あれこれ話をした。
酒のせいで気が緩んでいる。山中の口や首筋に目がいく。触れたい、という欲求がわきあがる。
脳の薄皮一枚下に押しこめた自分のマイノリティを意識せずにいられない。
まずよな。山中と親しくなるのは嬉しいが、これ以上のめり込むのは危険だ。傷つく結果が待っているだけ。少し距離を取ったほうがいいだろう。
数日後、喫煙ルームで山中に会った。
「おす」
片手をあげて挨拶したが、山中は暗い顔でかすかに笑っただけだった。
「どうした?」
「今晩、時間ある?家に来てくれないか」
その時に話す、と山中は喫煙ルームを出て行った。不穏な前置き。
仕事が終わり、山中の家へ行った。
「本社に異動になった」
暗い顔で山中が言った。本社に異動。頭のなかでその意味を理解するまで少し時間がかかった。
「あ……、おめでとう、良かったな」
かろうじて繋いだ言葉。
所詮、俺の運命なんてこんなもんだ。俺が心配するまでもなかったんだ。俺が距離を取る前に、山中は俺から離れて行く。
いつだってそうだ。大事な物はこの手に掴む事は出来なくて、俺の脇をすり抜け、手も届かない場所へ行ってしまうんだ。
むしろ、本気になる前で良かった。
「どうしてそんな暗い顔なんだ。栄転じゃないか」
「自信がないよ」
弱々しく山中が言った。
「今までの頑張りが評価されたんだ。お前ならやっていける」
「俺はそんなに強くない」
頼りなく呟き、山中は目を伏せた。その姿に理性が切れて、俺は山中を抱きしめた。
こういうとき、なんと声をかければいいかわらかない。不器用な人間はいざという時、まったくの無能になる。
「ごめん、俺、何言っていいかわからん」
山中は俺の肩に頭を乗せてきた。胸のドキドキが聞こえているかも。
「せっかくいい友達が出来たと思ったのに。お前と離れるのも嫌だよ。離れたくない」
普段とは違う声でそんな言葉を吐く。山中の肩を持ち、顔を近付けた。山中の唇に、俺の唇が触れる。
人生で初めてキスするみたいに緊張した。なのにこれ以上ないほど興奮した。止められなくて舌を入れた。
山中の目を覗きこむ。二人とも荒い呼吸、切羽詰った顔つき。余裕なんてない。
「どうしよう」
助けを求めるように聞いていた。
「どうしたらいいんだろう」
山中も困っているようだった。
キスしながら服を脱いだ。素肌に触れた時、眩暈がした。俺に組み敷かれ、山中が赤面した。
引かれるかも、と思ったが、これが最後なら躊躇は後悔のもとだ、と山中の股間に顔を埋めた。もう、先走りを滲ませている。
「ハァ……ァ……んっ」
声から山中が感じているとわかる。
「おまえ……男としたことあんの。なんか、慣れてるっぽい」
愛のあるセックスはないよ。
「山中は?」
「俺もない、お前が初めて」
それが特別な言葉に聞こえる。そして実際特別なことだ。俺にとっては。
山中が俺の口に出した。それを飲み込む。体を起こした山中が「飲んだのか」と驚いていた。
「次は俺が」
屈みこんで俺のものを口に咥えた。拙いフェラなのに、すごく感じる。愛しくて頭を撫でた。
「顔にかけてもいい?」
断られると思ったが、山中は意外にあっさり「いいよ」と言った。
間際に山中の口から引き抜き、手で扱いて顔に出した。白い液体が山中の口元を汚し、下に垂れて落ちる。
「なんかごめん」
手で自分の精液を拭う。たまらなくなってキスした。舌を絡ませていると、垂れてきた俺の精液が唾液に混じった。
また勃ってきて、股間を押し付けた。「あっ」と山中が声をあげる。お互い扱きあって、射精した。壊れたみたいに、何度もエレクトしては精を出した。
二週間後、山中は本社へ行った。
『俺もそっちに行けるように頑張るから、お前も頑張れよ』
メールを送った。
『了解。ドリフ、全部見てないよな。また見に来いよ』
と山中。すぐに返信。
『次の休みに会いに行く』
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今度は俺の提案で、公園でキャッチボールをした。二人とも少年野球経験者。
始めは肩ならしのキャッチボールが、次第に本気に。暑くなって上着を脱いで我に返る。
「疲れた。休もう」
「そこの自販で飲み物買ってくる」
山中がスポーツドリンクを買って戻ってきた。
「近くの池で貸しボートがあるって。行こう」
と、山中は、斜め前を指差した。ドリンクを飲みながら、公園の中を移動する。山中が受付をすまし、ボートに乗り込んだ。
「うわ、揺れる」
「気を付けて」
傾く山中の腕を持ってやった。
山中がオールを漕いで池の真ん中へ。
「意外に疲れる」
「かわる?」
「頼む」
今度は俺が漕いだ。
「気持ちいいなぁ」
山中がボートのへりにもたれかかり、目を閉じた。俺は漕ぐのをやめ、山中の顔を見つめた。何時間でも見ていられる気がした。
雨の日は山中の家でDVD鑑賞会。俺の苦手なスプラッター系のホラー映画を見させられた。痛々しくて画面から目を逸らした先に、欠伸をする山中。
「寝る?」
最近仕事で疲れているようで心配になる。
「悪い、先、寝る」
俺の肩を持って立ち上がり、ベッドの上に寝転がった。
「俺、帰るよ」
「なんで?泊まってけば」
布団をひっぱりあげ、俺に背を向けた。テレビを消し、俺も布団の中に潜り込んだ。
「布団、冷たい。寒い」
理由をつけながら、山中の背中に抱きつく。前に手をまわし、肩口に顎を乗せ、密着する。
「お前の手、冷たい」
山中が文句を言った。
「お前の体、あったかい」
山中を湯たんぽかわりにして眠った。
今日は直帰。接待終わり、山中にメールした。
『いまどこ?』
しばらくして『家にいる』と返事。山中の家に向かった。
「今夜泊めて」
山中の顔を見るなり言った。
「お前、酔ってるね」
苦笑しながら中に入れてくれた。先を歩く山中の背中に抱きついた。
「山中、彼女いる?」
「いたらお前を泊めたりしない」
それもそうか。洗面所には、俺の歯ブラシが置いてある。半同棲みたいだと浮かれる俺。
寝支度をして、二人でベッドへ。横向きに山中と向き合い、あれこれ話をした。
酒のせいで気が緩んでいる。山中の口や首筋に目がいく。触れたい、という欲求がわきあがる。
脳の薄皮一枚下に押しこめた自分のマイノリティを意識せずにいられない。
まずよな。山中と親しくなるのは嬉しいが、これ以上のめり込むのは危険だ。傷つく結果が待っているだけ。少し距離を取ったほうがいいだろう。
数日後、喫煙ルームで山中に会った。
「おす」
片手をあげて挨拶したが、山中は暗い顔でかすかに笑っただけだった。
「どうした?」
「今晩、時間ある?家に来てくれないか」
その時に話す、と山中は喫煙ルームを出て行った。不穏な前置き。
仕事が終わり、山中の家へ行った。
「本社に異動になった」
暗い顔で山中が言った。本社に異動。頭のなかでその意味を理解するまで少し時間がかかった。
「あ……、おめでとう、良かったな」
かろうじて繋いだ言葉。
所詮、俺の運命なんてこんなもんだ。俺が心配するまでもなかったんだ。俺が距離を取る前に、山中は俺から離れて行く。
いつだってそうだ。大事な物はこの手に掴む事は出来なくて、俺の脇をすり抜け、手も届かない場所へ行ってしまうんだ。
むしろ、本気になる前で良かった。
「どうしてそんな暗い顔なんだ。栄転じゃないか」
「自信がないよ」
弱々しく山中が言った。
「今までの頑張りが評価されたんだ。お前ならやっていける」
「俺はそんなに強くない」
頼りなく呟き、山中は目を伏せた。その姿に理性が切れて、俺は山中を抱きしめた。
こういうとき、なんと声をかければいいかわらかない。不器用な人間はいざという時、まったくの無能になる。
「ごめん、俺、何言っていいかわからん」
山中は俺の肩に頭を乗せてきた。胸のドキドキが聞こえているかも。
「せっかくいい友達が出来たと思ったのに。お前と離れるのも嫌だよ。離れたくない」
普段とは違う声でそんな言葉を吐く。山中の肩を持ち、顔を近付けた。山中の唇に、俺の唇が触れる。
人生で初めてキスするみたいに緊張した。なのにこれ以上ないほど興奮した。止められなくて舌を入れた。
山中の目を覗きこむ。二人とも荒い呼吸、切羽詰った顔つき。余裕なんてない。
「どうしよう」
助けを求めるように聞いていた。
「どうしたらいいんだろう」
山中も困っているようだった。
キスしながら服を脱いだ。素肌に触れた時、眩暈がした。俺に組み敷かれ、山中が赤面した。
引かれるかも、と思ったが、これが最後なら躊躇は後悔のもとだ、と山中の股間に顔を埋めた。もう、先走りを滲ませている。
「ハァ……ァ……んっ」
声から山中が感じているとわかる。
「おまえ……男としたことあんの。なんか、慣れてるっぽい」
愛のあるセックスはないよ。
「山中は?」
「俺もない、お前が初めて」
それが特別な言葉に聞こえる。そして実際特別なことだ。俺にとっては。
山中が俺の口に出した。それを飲み込む。体を起こした山中が「飲んだのか」と驚いていた。
「次は俺が」
屈みこんで俺のものを口に咥えた。拙いフェラなのに、すごく感じる。愛しくて頭を撫でた。
「顔にかけてもいい?」
断られると思ったが、山中は意外にあっさり「いいよ」と言った。
間際に山中の口から引き抜き、手で扱いて顔に出した。白い液体が山中の口元を汚し、下に垂れて落ちる。
「なんかごめん」
手で自分の精液を拭う。たまらなくなってキスした。舌を絡ませていると、垂れてきた俺の精液が唾液に混じった。
また勃ってきて、股間を押し付けた。「あっ」と山中が声をあげる。お互い扱きあって、射精した。壊れたみたいに、何度もエレクトしては精を出した。
二週間後、山中は本社へ行った。
『俺もそっちに行けるように頑張るから、お前も頑張れよ』
メールを送った。
『了解。ドリフ、全部見てないよな。また見に来いよ』
と山中。すぐに返信。
『次の休みに会いに行く』
(初出2009年)
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