うすらひ(6/18)
2019.10.24.Thu.
<1→2→3→4→5>
ミーティングで新人4人の割り振りが発表された。Aに立花、Nに周防と南、Zに名取。N案件は資料集めや現地入り調査で人手が欲しいため2人投入と説明がされた。
まさか本当に周防と一緒に働けることになるとは。発表の瞬間は顔がにやけそうになった。各案件ごとに会議室へ別れて、改めて2人から挨拶があった。
初日の今日はどうしても新人2人は雑用係になってしまう。手が増えただけで雑務の負担が減って少し楽になった。
周防も南もよく動いてくれた。もともと気が利く2人だ。こちらから言うまえに先読みして自ら御用聞きに走ってくれるからとても助かった。
仕事終わりに、チームリーダーの古田さんの一声で全員で飲みに行くことになった。移動中も店のなかでも、周防の隣にはいつも南がいて声をかけられなかった。気心知れた者同士くっついていたい気持ちはわかる。
飲み会も終わって、店の前で解散になった。帰る方向や手段によって、三三五五に散っていく。駅へ向かう集団に周防もいた。歩調を緩めると周防が隣へやってきた。
「お疲れさまです」
周防から少し酒の匂いがした。
「今日は疲れただろ」
「いえ、楽しかったです。また久松さんと一緒に仕事ができるようになって嬉しいです。これからもよろしくお願いします」
「ビシビシ厳しくするからな」
「はい」
嬉しそうな顔で頷く。このまま2人でどこかへ消えたい。みんな酔ってるし、俺たちがいなくなったところで誰も気付かないだろう。
素早く前を歩く連中に目をやる。そのなかに、こちらをチラチラ見てくる南がいた。話し相手がいなくて心細いのだろう。今日は諦めるしかなさそうだ。
「久松さん、明後日の夜、ご飯行きませんか」
体を傾けて周防が俺に耳打ちする。
「明後日だな、空けておくよ」
明日は駄目なのか? 言いかけたが飲みこむ。束縛のような真似はしたくない。
駅でそれぞれ別れた。周防の隣にまた南がくっついていく。周防に笑いかける南に心が騒いだ。まさか南は周防狙いか?
2人からむりやり視線を剥がし、反対のホームへの階段を上がった。
※ ※ ※
「実は行きたいところがあるんです」
周防とご飯を食べに行く約束をした今日、仕事が終わってどこにいくという話をしたら、なにか企んでいるような悪戯っぽい笑みを浮かべて周防が言った。
ホテルへ行くつもりだった俺は少々拍子抜けしながら周防が言う行きたい場所へ一緒に向かった。
会社からほぼ一駅分、駅と反対方向へ歩いた場所へ周防は俺を連れて行った。
「タクシー使えばよかったですね」
と5階建てのマンションのエントランスへ入っていく。
集合ポストを開け、ポスティングのチラシなんかを取ると「こっちです」とエレベーターのボタンを押した。
「周防、まさか」
「そのまさかです」
到着したエレベーターに俺を乗せ、2階のボタンを押した。
「うそ、いつの間に? そんな暇なかっただろ」
「スマホである程度目星をつけて、内見は昼休みに少し抜けさせてもらって、それでなんとかなりました。荷物は昨日の夜、友達に運ぶのを手伝ってもらったりして、いろんな人に迷惑かけちゃいましたけど」
2階の一番奥の部屋の前に立ち、ポケットから出した鍵をニコニコと俺に見せてから鍵穴に差し込む。ガチャン、と鍵が開く音が夜の通路に響いた。開いた室内は真っ暗で、消毒剤かなにかの、まだ空き部屋の匂いが籠っていた。
「どうぞ、中に入ってください。まだ荷物解いてなくて散らかってますけど」
明かりをつけながら周防が奥へ進んで行く。玄関を抜けるとダイニング、その奥の洋室には敷きっぱなしの布団と、段ボールや衣装ケースなんかが隅にまとめてあった。よくある1DK。
昨日会えなかった理由は引っ越しのためだったのか──。
「なんで……、実家から通えるのに」
「落ち着いたらいつか家を出るつもりだったんです」
「ぜんぜん落ち着いてないだろ」
「まあそうですけど」
と笑って頭を掻く。
「いつも久松さんと駅で反対方向に別れるのが、ずっと寂しいなと思ってたんです。同じ場所に帰れたらいいのになって。それに、2人きりになるために毎回久松さんをホテルに連れて行くのも悪いなと思っていて」
ホテルへ入るときに俺がやたら人目を警戒していたから、周防はわざわざ部屋を借りたのか? そんなことのために?
そりゃ男同士で入る姿をたとえ見ず知らずの他人であっても見られるのは嫌だった。人の気配がしたらホテルにさえ近づかず、誰もいない時に逃げ込むように入った。
それは俺が不慣れなだけであって、回を重ねたら気にならなくなるようなものだったのに。現に今日だってホテルへ行くつもりだったし、割と神経も図太くなって羞恥心も薄れてきていた。誰だってやることはやっているんだ。
「いつでも泊まりに来てくれていいですよ」
楽しげな周防の様子に胸がいっぱいになった。
「馬鹿だなあ、会社の近くに借りて。何かあったときは呼び出されたり残業押しつけられたりするのに」
「でも満員電車から解放されて快適ですよ」
「ほんとに、馬鹿だなあ」
他に何も言えなくなった。無理に喋ろうとしたら恥ずかしいことを口走ってしまいそうだったからだ。
大きな体が俺を包みこんだ。相手は年下なのにこの胸のなかはひどく安心する。額にキスされて顔をあげた。唇にキスが降りてきた。お互いの服を脱がせ合い、裸になって抱き合った。2人とも興奮していた。
衝動的に体が動いていた。膝をついて周防のものに口を寄せた。
「久松さん! そんなことしなくていいですよ」
周防の慌てた声を無視して先端を口に含む。初めてだが嫌悪感はない。先から滲み出てきたものを舐めとった。ぬるりとした粘液でしょっぱい味がする。俺はいま男の性器を咥え、先走りを啜っているのだ。客観的事実に、頭の奥が焼け付くような感覚がした。鼻血を出すまえの感覚に似ている。
「もういいです、もう、いいですから」
大きな手が俺の頬を撫でた。
「下手だった?」
「違くて……してもらえると思ってなかったからびっくりしました。すごく気持ちよかったです。すぐ出ちゃいそうでした」
だったら止めるなんて必要ないのに。
「僕も久松さんにしたいです」
と布団の上へ連れて行かれた。座った俺の膝を開いて、その中心へ周防が顔を近づけて来る。恥ずかしくて見てられない。
目を閉じたら、先端が温かく湿った感触に包まれた。先を舐められ、括れを唇で擦られた。
「う、んっ」
鼻にかかった、甘ったるい声が漏れる。
ずず、と奥まで咥えこまれた。あの大きな口が俺のものを飲みこんでいる。先端がのどの奥に当たる感覚があった。周防の動きが止まる。何かを考えたような間のあと、周防はさらに奥へと俺を招き入れようと動いた。
「周防っ、もう、いいっ」
慌てて周防の頭を押した。俺のものを根本まで咥える周防と目が合い、心臓が止まりそうになる。恥ずかしさのあまり周防の目を手で隠した。
「してもらうの、恥ずかしいでしょ」
身体を起こした周防が俺の手を剥がして笑う。
「恥ずかしいなんてもんじゃない。死にそう」
「死んじゃ駄目」
キスしようとした周防がなぜか直前で思いとどまった。理由がわかり、俺から唇をくっつけた。フェラチオしていたことなんかお互いさまだ。
いつものようにキスをしながらお互いの体を愛撫し合った。フェラだけでこんなに恥ずかしいのに、旅行では本当に最後までできるのだろうか。不安に思ったが、周防のペニスを扱いていたらまた口でしてやりたくなったから、根拠なく大丈夫な気がしてきた。
周防のためなら、どんな恥ずかしいことも耐えられる。
射精をし、抱き合い、飽くことなくキスをし、また抱き合って射精する。
いつの間にか消毒剤の臭いはしなくなって、俺たちの体臭と体液の匂いで満たされていた。
ホテルに比べれば狭いが、なんとか入れないこともない風呂に2人で入り、少しゆっくりしてから周防の家を出た。
送ります、と私服姿の周防が駅までついてくる。駅の蛍光灯が目にも心にも痛いほど眩しかった。密な時間を過ごせば過ごすほど、周防と離れがたく、日常の時間へ戻ることが難しく感じる。泊まっていければどんなにいいだろう。周防と帰る場所が同じなら、これほど幸せなことはないように思えた。
「また明日」
周防に見送られながら改札を抜けた。
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ミーティングで新人4人の割り振りが発表された。Aに立花、Nに周防と南、Zに名取。N案件は資料集めや現地入り調査で人手が欲しいため2人投入と説明がされた。
まさか本当に周防と一緒に働けることになるとは。発表の瞬間は顔がにやけそうになった。各案件ごとに会議室へ別れて、改めて2人から挨拶があった。
初日の今日はどうしても新人2人は雑用係になってしまう。手が増えただけで雑務の負担が減って少し楽になった。
周防も南もよく動いてくれた。もともと気が利く2人だ。こちらから言うまえに先読みして自ら御用聞きに走ってくれるからとても助かった。
仕事終わりに、チームリーダーの古田さんの一声で全員で飲みに行くことになった。移動中も店のなかでも、周防の隣にはいつも南がいて声をかけられなかった。気心知れた者同士くっついていたい気持ちはわかる。
飲み会も終わって、店の前で解散になった。帰る方向や手段によって、三三五五に散っていく。駅へ向かう集団に周防もいた。歩調を緩めると周防が隣へやってきた。
「お疲れさまです」
周防から少し酒の匂いがした。
「今日は疲れただろ」
「いえ、楽しかったです。また久松さんと一緒に仕事ができるようになって嬉しいです。これからもよろしくお願いします」
「ビシビシ厳しくするからな」
「はい」
嬉しそうな顔で頷く。このまま2人でどこかへ消えたい。みんな酔ってるし、俺たちがいなくなったところで誰も気付かないだろう。
素早く前を歩く連中に目をやる。そのなかに、こちらをチラチラ見てくる南がいた。話し相手がいなくて心細いのだろう。今日は諦めるしかなさそうだ。
「久松さん、明後日の夜、ご飯行きませんか」
体を傾けて周防が俺に耳打ちする。
「明後日だな、空けておくよ」
明日は駄目なのか? 言いかけたが飲みこむ。束縛のような真似はしたくない。
駅でそれぞれ別れた。周防の隣にまた南がくっついていく。周防に笑いかける南に心が騒いだ。まさか南は周防狙いか?
2人からむりやり視線を剥がし、反対のホームへの階段を上がった。
※ ※ ※
「実は行きたいところがあるんです」
周防とご飯を食べに行く約束をした今日、仕事が終わってどこにいくという話をしたら、なにか企んでいるような悪戯っぽい笑みを浮かべて周防が言った。
ホテルへ行くつもりだった俺は少々拍子抜けしながら周防が言う行きたい場所へ一緒に向かった。
会社からほぼ一駅分、駅と反対方向へ歩いた場所へ周防は俺を連れて行った。
「タクシー使えばよかったですね」
と5階建てのマンションのエントランスへ入っていく。
集合ポストを開け、ポスティングのチラシなんかを取ると「こっちです」とエレベーターのボタンを押した。
「周防、まさか」
「そのまさかです」
到着したエレベーターに俺を乗せ、2階のボタンを押した。
「うそ、いつの間に? そんな暇なかっただろ」
「スマホである程度目星をつけて、内見は昼休みに少し抜けさせてもらって、それでなんとかなりました。荷物は昨日の夜、友達に運ぶのを手伝ってもらったりして、いろんな人に迷惑かけちゃいましたけど」
2階の一番奥の部屋の前に立ち、ポケットから出した鍵をニコニコと俺に見せてから鍵穴に差し込む。ガチャン、と鍵が開く音が夜の通路に響いた。開いた室内は真っ暗で、消毒剤かなにかの、まだ空き部屋の匂いが籠っていた。
「どうぞ、中に入ってください。まだ荷物解いてなくて散らかってますけど」
明かりをつけながら周防が奥へ進んで行く。玄関を抜けるとダイニング、その奥の洋室には敷きっぱなしの布団と、段ボールや衣装ケースなんかが隅にまとめてあった。よくある1DK。
昨日会えなかった理由は引っ越しのためだったのか──。
「なんで……、実家から通えるのに」
「落ち着いたらいつか家を出るつもりだったんです」
「ぜんぜん落ち着いてないだろ」
「まあそうですけど」
と笑って頭を掻く。
「いつも久松さんと駅で反対方向に別れるのが、ずっと寂しいなと思ってたんです。同じ場所に帰れたらいいのになって。それに、2人きりになるために毎回久松さんをホテルに連れて行くのも悪いなと思っていて」
ホテルへ入るときに俺がやたら人目を警戒していたから、周防はわざわざ部屋を借りたのか? そんなことのために?
そりゃ男同士で入る姿をたとえ見ず知らずの他人であっても見られるのは嫌だった。人の気配がしたらホテルにさえ近づかず、誰もいない時に逃げ込むように入った。
それは俺が不慣れなだけであって、回を重ねたら気にならなくなるようなものだったのに。現に今日だってホテルへ行くつもりだったし、割と神経も図太くなって羞恥心も薄れてきていた。誰だってやることはやっているんだ。
「いつでも泊まりに来てくれていいですよ」
楽しげな周防の様子に胸がいっぱいになった。
「馬鹿だなあ、会社の近くに借りて。何かあったときは呼び出されたり残業押しつけられたりするのに」
「でも満員電車から解放されて快適ですよ」
「ほんとに、馬鹿だなあ」
他に何も言えなくなった。無理に喋ろうとしたら恥ずかしいことを口走ってしまいそうだったからだ。
大きな体が俺を包みこんだ。相手は年下なのにこの胸のなかはひどく安心する。額にキスされて顔をあげた。唇にキスが降りてきた。お互いの服を脱がせ合い、裸になって抱き合った。2人とも興奮していた。
衝動的に体が動いていた。膝をついて周防のものに口を寄せた。
「久松さん! そんなことしなくていいですよ」
周防の慌てた声を無視して先端を口に含む。初めてだが嫌悪感はない。先から滲み出てきたものを舐めとった。ぬるりとした粘液でしょっぱい味がする。俺はいま男の性器を咥え、先走りを啜っているのだ。客観的事実に、頭の奥が焼け付くような感覚がした。鼻血を出すまえの感覚に似ている。
「もういいです、もう、いいですから」
大きな手が俺の頬を撫でた。
「下手だった?」
「違くて……してもらえると思ってなかったからびっくりしました。すごく気持ちよかったです。すぐ出ちゃいそうでした」
だったら止めるなんて必要ないのに。
「僕も久松さんにしたいです」
と布団の上へ連れて行かれた。座った俺の膝を開いて、その中心へ周防が顔を近づけて来る。恥ずかしくて見てられない。
目を閉じたら、先端が温かく湿った感触に包まれた。先を舐められ、括れを唇で擦られた。
「う、んっ」
鼻にかかった、甘ったるい声が漏れる。
ずず、と奥まで咥えこまれた。あの大きな口が俺のものを飲みこんでいる。先端がのどの奥に当たる感覚があった。周防の動きが止まる。何かを考えたような間のあと、周防はさらに奥へと俺を招き入れようと動いた。
「周防っ、もう、いいっ」
慌てて周防の頭を押した。俺のものを根本まで咥える周防と目が合い、心臓が止まりそうになる。恥ずかしさのあまり周防の目を手で隠した。
「してもらうの、恥ずかしいでしょ」
身体を起こした周防が俺の手を剥がして笑う。
「恥ずかしいなんてもんじゃない。死にそう」
「死んじゃ駄目」
キスしようとした周防がなぜか直前で思いとどまった。理由がわかり、俺から唇をくっつけた。フェラチオしていたことなんかお互いさまだ。
いつものようにキスをしながらお互いの体を愛撫し合った。フェラだけでこんなに恥ずかしいのに、旅行では本当に最後までできるのだろうか。不安に思ったが、周防のペニスを扱いていたらまた口でしてやりたくなったから、根拠なく大丈夫な気がしてきた。
周防のためなら、どんな恥ずかしいことも耐えられる。
射精をし、抱き合い、飽くことなくキスをし、また抱き合って射精する。
いつの間にか消毒剤の臭いはしなくなって、俺たちの体臭と体液の匂いで満たされていた。
ホテルに比べれば狭いが、なんとか入れないこともない風呂に2人で入り、少しゆっくりしてから周防の家を出た。
送ります、と私服姿の周防が駅までついてくる。駅の蛍光灯が目にも心にも痛いほど眩しかった。密な時間を過ごせば過ごすほど、周防と離れがたく、日常の時間へ戻ることが難しく感じる。泊まっていければどんなにいいだろう。周防と帰る場所が同じなら、これほど幸せなことはないように思えた。
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周防に見送られながら改札を抜けた。
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