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うすらひ(1/18)

2019.10.19.Sat.
「リロード」スピンオフ

※不倫、挿入なし

 思いつめた顔の周防から「久松さん、お話したいことがあるので、仕事のあとお時間頂けませんか」と言われたとき、予感はしていた。

 周防は今年入ってきた新入社員で、俺が教育係について仕事だけじゃなく社会人としてのイロハを教えてやった。ミスのカバーもその後の説教も、仕事のあとは相談や悩みを聞いてやったのも俺。いつの間にか同期の奴より、教育係の先輩社員と仲良くなる、というのはよくあることだ。

 中高とバレー部だったという周防は体育会系なだけあって先輩の言うことには絶対服従の扱いやすい奴だった。でも暑苦しさはなくて、むしろおとなしめ。わからないことや疑問に思ったことはきちんと質問してくるが、無駄口は叩かない。でもこちらの冗談や軽口には付き合う。真面目で誠実なタイプだ。

 その周防から最近、意味深な視線を向けられていることに気付いた。じっとりと、日影の石の裏みたいな湿り気を帯びた視線だ。過去にも覚えのあるもので、だからこそ心構えを持てた。

「久松さんのことが好きです」

 店に入り、注文した飲み物が届いてすぐの告白だった。まだ料理が届いてさえいない。

 とりあえず俺は、個室のある店にしておいて良かった、と思った。

「そっか、ありがとう、気持ちは嬉しいよ」

 今後、仕事に支障がでないよう軽くあしらう。これではっきり断らなくても可能性はないとわかってくれればいい。

「初めから変な目で見てたわけじゃないんです。最初は尊敬だったんです。厳しいけど優しくて、優秀だけど楽しくて、久松さんが僕の指導係になってくれて本当に良かったと思いました」

 驚くべきことに周防は話を続けた。

「教育期間が終わって久松さんと離れ離れになってすごく寂しくなりました。気付くといつも久松さんを見ていました。胸が苦しくなって、でも家に帰ると久松さんのことばかり思い出して、久松さんに会えると思うと会社に行くのが楽しくなりました。最初は男同士でなにかの間違いじゃないかと思いました。でも久松さんが他の誰かと仲良くしているのを見ると嫌な気持ちになって、これはもう誤魔化せないと思ったんです」

 周防はまっすぐ俺を見つめながら「久松さんが好きです」とまた言った。こんなに長々告白されたら適当に流すわけにもいかない。はっきり振ってやらなきゃならない。今後も毎日顔を合わせるっていうのにこんな告白をしてくるなんて浅慮だ。

 苛立ちと疲れを感じて軽くため息をついた。その時、テーブルに置いたスマホがメッセージを受信した。

『次の休みは先約があるからごめん。また今度』

 高校時代の親友、公祐からだ。結婚式以来会っていなかったから、また会えないかと思いきって俺から誘ってみた返事がこれだ。告白が欲しかった相手からは振られて、欲しくなかったところから告白をされる。皮肉なもんだ。

 公祐とは高校時代、親友以上に親密な付き合いをしていた。

 自分を見る公祐の目が他と違うことにあるとき気付いた。観察を続け、疑惑は確信へ。

 自分の挙動次第で公祐が一喜一憂する様をみるのが楽しかった。例え男でも好かれて悪い気はしない。むしろ優しくされて甘やかされるのは気分がよかった。

 はっきり下心がわかった上で体に触られても嫌じゃなかった。事故に見せかけてキスされた時も、公祐のずるさがいじらしいとさえ思った。

 告白されたらどうしよう。自分はどこまで許せるだろう。

 ゲイではないが、興味はあった。キスくらいしてもいい。体を触られるのも大丈夫だ。それ以上のセックスは……大事にされるなら、1度試すくらいはしてやってもいい。

 夜寝る前はそんなことばかり考えていた。

 告白しやすいよう、雰囲気も作ってやったつもりだった。だが公祐は卒業するときになっても告白してこなかった。

 臆病だと思った。思わせぶりな態度だけじゃ足りなかった。もっとはっきり示してやればよかった、と。

 公祐のことは好きだった。でも恋愛感情とはちょっと違う。友情以上恋人未満、そんな程度の、愛着と情が入り混じった思春期特有の同性への淡い恋に似たものだった。キスやセックスなんてものはおまけで、ただの好奇心だ。

 俺の結婚報告で高校時代の仲間と集まったとき、久しぶりに公祐にも会った。俺が結婚すると聞いて公祐はかすかに顔色を変えた。俺をまだ好きなんだと確信した。その日、酔った勢いで告白されたら、こちらも酔った勢いでホテルに行くつもりだった。でも公祐は何も言わず帰った。

 結婚式では平然と新婦にも挨拶した。妙に晴れやかな顔だった。公祐は俺を諦め、吹っ切ったのだとわかった。それを見て俺のほうが焦りを感じた。俺はホモじゃない。公祐のせいで中途半端に興味を持ってしまっただけ。持たせた公祐が責任を取るのが筋だ。なのに断られた。

 公祐は、昨今激務で名高い教師の職についている。家に仕事を持ち帰り、放課後土日は部活動でサービス残業休日出勤が当たり前だとテレビで聞く。

 仕事なら仕事だと言うだろう。先約とは、匂わせる。友人か、恋人か。

 恋人なら俺の誘いを断ったのにも納得がいく。俺にしたように優しく甘やかす相手ができたのかもしれない。

 モヤモヤと暗い感情が胸に広がった。

 勝手なことを全部言いきって、俺の返事をじっと待っている周防に目を戻す。

 6歳も年下。まだ仕事のフォローも必要。俺が面倒を見ることのほうが多い。俺の出方を待ってお座りしているだけの、積極性に欠ける頼りない男。公祐とはぜんぜん違う。

 でも俺の消化不良な好奇心を満たすには周防くらいがいいのかもしれない。少し相手をして、目を覚まさせてやって、良い思い出になるように別れてやれば、それほど仕事にも影響しないだろう。言っても周防も大人だ。何事もないように振る舞うことはできるはずだ。

「気持ちは嬉しいよ、ほんとに」

 周防が入社したての頃のように、優しい笑顔を心掛けた。

「周防が俺のことをそういう風に見ているなんて知らなかったから驚いたけど。男同士とか考えたこともなかったから……、正直に言うと、すごく戸惑ってる。俺のかわいい後輩だし、傷つけたくないと思う。受け入れることはできないけど、俺も周防が好きだし、これからも今の関係を続けたい。仕事では先輩後輩でも、仕事が終わったら友達になれないかな。周防が辛いならよすけど」

 俺の言葉を聞いて周防はゴシゴシ目元を拭った。

「すぐ振られると思ってたから、そんなふうに言ってもらえるだけで嬉しいです。僕なんかが久松さんの友達になってもいいんでしょうか。本気にしてしまいますよ。ただの慰めとか社交辞令なら遠慮しないではっきり言ってください。僕は空気を読めないんです」

 それは短い付き合いだけどわかってる。

「社交辞令なんかじゃない、俺も本気でそう思ってるよ」
「ありがとうございます。急にこんな……気持ち悪い話をしてすみませんでした」
「頭上げろよ、気持ち悪くなんかないから」
「久松さんは僕が思ってた通り、素晴らしい人です」

 とまた涙を拭う。大の男が人前で泣いている。それほど思いつめていたのだろう。周防に思わせぶりな態度は一切とらなかった。なのに告白してきた。そこも公祐とは大きく違う。

 普通明日からのことを考えて思いとどまる。それでも告白してきたのは、それだけ俺のことが好きだからだろう。もう胸に押しとどめることができないくらいに。勇気はあるが不器用で愚直な男だ。

「周防の気持ちはわかったから、明日からも普通に仕事できるな?」
「はい」

 鼻を啜りあげて子供みたいに頷く。

「でも久松さんを意識してしまうと思います」

 正直な言葉に思わず笑みが漏れる。

「毎日ずっと久松さんのことで頭がいっぱいなんです」
「わかったから」
「こんなに誰かを好きになったこと、初めてなんです。それが久松さんで良かった」

 もう何も言えなくなって酒の入ったグラスに口をつけた。普段自分のことは滅多に語らないくせに、俺を口説くときだけ饒舌になるなんてずるい。本当は全部計算なんじゃないのかと疑いたくなる。

「すぐに諦めるなんてできないと思うので、もう少し、久松さんを好きでいることを許してくれますか? もう気持ち悪いことは言わないので」

 そんな簡単に諦めるなよ。その程度なのか?

「だから気持ち悪いと思ってないって。さっきも言ったけど、周防の気持ちは嬉しい。俺の方こそ、そこまで慕ってくれてありがとう」

 まだ少しも減っていないビールを勧めたら、周防はちびりと一口飲んだ。そして隠していたものを吐きだしたすっきりした顔で息を吐いた。





ご無沙汰しておりました。
久松視点のスピンオフというリクエスト頂いてすぐ話の大筋が頭のなかでできました。前回主人公の先生との絡みがあまりなくて、リクエストにお応えできていないかもしれないです
しかも、本編より長い。スピンオフのほうが本編より妙にノリノリで長くなるのはあるあるだと思うんですが、ちょっと今回は本当にダラダラ長いです。後半間近で我に返って、どうしよ、と不安になりました。全18話、お付き合い頂けたら嬉しいです。

書いてる間、バレーとラグビーを見ていました!うっすら好きなんです。なので周防はバレー経験者という設定。久松のフルネームが明かされることはないんですが、下の名前は洋司という設定です。ラグビーを見るきっかけになったスクラムハーフの永/友洋/司さんから拝借です。今回ラグビーで解説入ってらっしゃっいますね!今もかっこいい~

そんなわけでバレーは終わっちゃいましたけど、ラグビー見ながら更新していこうと思います。
少しでも楽しんで頂けますように


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