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続続・嫁に来ないか(1/3)

2019.09.15.Sun.
嫁に来ないか続・嫁に来ないか

 今日の仕事は後輩アイドルグループNAUGHTYの番組で家出した犬を探すロケだ。

「この手のロケは大澤さんが得意だって聞いてます。今日は勉強させてください!」

 それ褒め言葉のつもりかよ。俺が今日補佐するのは、NAUGHTYのリーダー奏斗。俺より少し後輩のこいつらは、事務所内での評価は高いがなぜか人気が伴わず、鳴かず飛ばずで10年燻っていたグループだ。今年の夏、急にゴールデンでの冠番組が決まり、お茶の間に寄り添った番組内容が受けて一躍人気者へ。

 俺は日頃のロケ経験がかわれて、彼らの補佐という役割でこの番組の準レギュラーに抜擢された。努力が報われた瞬間だ。もちろん結果を残していかないと他の誰かと交代させられてしまう。

 依頼をくれた素人さんのお宅へ行き、まずは話を聞く。朝起きたら犬がいなくなっていたという。度々脱走する犬で、脱走防止用の柵もあるが、器用に開けて行ったらしい。いなくなって三日。依頼人家族も空き時間に探しているがいまだ発見できず。

 さっそく捜索に取りかかるのも良いがここはちょっと依頼人の中/学生の娘とも絡んでおこう。お約束の「誰のファン?」という質問から学校生活、好きな人の話を聞き出し、奏斗から「大澤さん、そろそろ犬!」と突っ込まれてやっと捜索を始めた。

 目撃情報のあった場所を重点的に探しながら、町の人たちとも触れ合う。俺が受け持っている夕方情報番組のワンコーナー「アイドルの手も借りたい!」と勘違いした主婦やお年寄りから声をかけられる。奏斗から「大澤さん、さすがですね。帯番組の司会いけるんじゃないですか」と言われて悪い気はしない。まさに今俺が狙っているのはそのポジションなのだ。

 ちょっと休憩しましょう、とロケ車へ乗り込む。その隙に調べものをする。

 ついでに、中田さんの居場所も検索した。仕事の合間に、あの人の居所を確認するのがすっかり癖になっている。

 俺のスマホに仕込まれた浮気アプリ。それを削除するのは簡単だが、あえて残しているのは消したことで中田さんがどんな行動をするか予想がつかないから。そのかわり、俺も中田さんのスマホに同じアプリを入れさせた。それで俺も中田さんの行動を監視する。あの人が自宅周辺にいるのを見れば安心できるからだ。

 検索結果を見て思わず顔を顰めた。中田さんは区内に来ているようだ。ちょうど郊外へロケにきた俺とは入れ違いだが、それに気付いて追いかけて来るかもしれない。不思議なのは中田さんの居場所。俺の自宅近くでもないし、今日の仕事の出発地点でもない。

 あの人と知りあって3カ月ほど。月2、3回の頻度であの人は俺に会いに来る。そして俺を抱いて帰る。画像や動画を撮られているから仕方なく相手をしている。それに、慣れてしまえば体は気持ちいい。

 休憩のあとロケが再開された。調べておいた方面へ足を延ばす。依頼人の娘の中学校が見えてきた。運動場ではクラブ活動中の学生がいた。顧問に許可をもらい中に入る。ロケの内容を説明し、生徒たちに捜索の協力を仰いだ。

 捜索は広範囲に及ぶ。身軽な彼らが手伝ってくれれば百人力だ。

 手分けして探しながら、もう一度中田さんの現在地を調べた。区内から動いていない。なにしてるんだ? 俺の所在地を把握していないのか?

 犬を探しながら、今日中田さんはうちに来る気なのだろうかと、頭の片隅にずっとそれがあった。奏斗を誘って食事に行きたいけど、嫉妬深い人だから帰りが遅くなるのはまずい。部屋の片付けもしたいし、ちゃんとシャワーも浴びておきたい。

 中田さんを示すアイコンが近くにあるだけで、俺の生活にこうまで影響が出る。もういい加減、俺に飽きて欲しい。俺に似た男をあてがってやろうか。簡単になびかれたら、それはそれでなんかムカつくけどな。

 捜索隊の学生から犬を見つけたと連絡が入った。ロケ車に乗り込み現場へ向かう。公園で犬を確保、と追加情報が入った。聞いていた公園で車をおりて学生と合流した。野球部のユニフォームを見て内心ガッツポーズ。

 彼と一緒に犬を連れて依頼人宅へ。娘は彼を見て慌てている。俺がこっそり聞き出した娘の彼氏が、何を隠そう犬を確保した野球部の彼なのだ。

 付き合っていることは親にはまだ内緒だと言う。俺は娘を別室へ連れ出し、この際親に紹介したらどうだろう? 犬を見つけ出してくれた彼と知れば印象もいいし、と唆す。犬の帰宅を喜ぶ両親に、娘が「この人が彼氏です」と野球部の彼を紹介するサプライズ。今日のロケは大成功だ。

 帰宅途中の車内で、「プロデューサーの古賀さんから」とスタッフが俺に電話を繋ぐ。今日のロケの出来を聞いたらしく、お褒めの言葉を頂いた。これで三ヶ月は安泰とみていいだろう。

 古賀さんに言われ、奏斗に電話を代わった。奏斗の顔が強張ったように見えた。古賀さんはかなりやり手のプロデューサーだ。緊張するのも仕方ない。

 奏斗が電話をしている隙に俺はまた中田さんの居場所を調べた。少し移動しているが区内にいるのは変わりがない。なにしてるんだ、あの人。

 奏斗にはまた今度、と挨拶してロケ車をおり、そこからタクシーを拾った。中田さんがいる場所へ向かう。いつも急に現れて驚かされるから、今日は俺が驚かしてやろうという、ちょっとした仕返しのつもりだった。

 向かった先は洒落たレストラン。夕飯時でそろそろ混み始めているのが外から見てもわかる。女性客が多い。こんなところに中田さんが? 中田さんを示すアイコンはずっとこの店の中だ。

 少し迷ったが中に入ってみることにした。

 二人掛けテーブルに案内された。パスタを注文してスマホを見るふりをしながら中田さんを探す。農家の前は学校の教師をしていたらしいから、こっちに当時の知りあいがいたって不思議じゃない。ただこの店の雰囲気を見てある予感が働いた。

 一番奥のテーブルに中田さんを見つけた。案の定、女と一緒だった。年は俺と同じか少し上。きれいな人だった。バリバリのキャリアウーマンタイプだ。中田さんから目を逸らさず会話する様子からも自信が見て取れる。

 二人の会話はなかなか弾んでいる様子だ。中田さんも料理を食べながらあれこれ話しかけている。女性がそれに笑って頷き返す。かと思ったら今度はタブレットを見ながら話しを始めた。食事中のマナーとしては如何なものか。

 運ばれてきたサラダを食べながら中田さんたちの様子を窺う。女性がスタッフを呼び止めた。しばらくしてワインが運ばれてきた。アルコールが入って二人はさらに楽しそうだ。俺は隠れるようにコソコソとひとりでサラダを食べているのに。

 いま中田さんに電話をしたらどうするかな? 出るかな? 俺が好きだと言って憚らないんだから、そりゃ当然出るよな。これもう義務だよな。

 なんとなくイラついた気分で中田さんを呼び出す。着信に気付いた中田さんが鞄からスマホを出し、なにやら操作すると鞄に戻した。

 あの野郎、シカトしやがった……!! しかも電源切ったっぽいぞ。繋がらない。

 中田さんが女性に謝るジェスチャーをしているのが見えた。俺よりそっち優先。ほお。そういうこと!

 ふたりは食べ終わったあともずっと話し込んでいる。しかも顔が近い。ただの知り合いとは思えない。親密な、あるいはその一歩手前の関係にしか見えない。

 注文したサラダもパスタもおいしかったのに台無しにされた気分で店を出た。




ハチリツ【分冊版】1


お久しぶりです!嫁に来ないかの続編出来ましたー!
わりとあっさり話が進展しました。当て馬の利便性。
あと2話、お付き合いくださると嬉しいです^^
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