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やりなおし(1/3)

2019.09.07.Sat.
<前話「大事だったのに」>

 待ち合わせ場所に向かうともう高山が待っていた。ただ立ってスマホを見ているだけなのに、遠目にもイケメンだとわかる。大人になってさらに格好よくなった。同じく待ち合わせしているっぽい女がチラチラ高山を見ている。そして意を決したように話しかけた。

 知らない女に声をかけられて高山は戸惑いの表情を見せた。でもすぐ笑顔の対応に切り替えた。以前の高山には見られない行動だ。

 高校時代の高山はいけ好かない人見知り野郎で、知らない奴が気安く声をかけようものなら警戒心バリバリの不機嫌面でまともに会話さえしなかった。それがいまや。

 成長を喜ぶ半面、身勝手にも俺は少し寂しく思ってしまうのだ。高山がとっつきにくい奴であればあるほど、誰も高山には近づかない、近づけない。俺だけに懐いていて欲しい。それで一度は痛い目にあったのに、俺という人間はつくづく学習しない。

 女は振られたようで軽く頭をさげると高山の前から去った。高山は気まずそうに頭を掻いてその後ろ姿から目を逸らした。スマホに視線を落としたかと思ったら、顔をあげてあたりをキョロキョロ見渡す。俺を見つけるとパッと笑顔になった。

 見つかったので観察はやめて高山の元へ駆け寄った。

「ごめん、待たせた」
「いや、俺が早く来すぎただけだし、さっき来たところだから」

 15分前に来た俺より先に到着した高山はいったい何分前から待っていたのか。これも以前の高山には考えられないことだ。

 待ち合わせをすれば高山はいつも時間ギリギリ。俺が少しでも遅れたら文句タラタラ。付き合い始めると「お前は俺と会う時間が減っても平気なのかよ」と俺の気持ちを確かめるような責めかたをした。いま思えば高山も不安だったんだろうが、それを知らない俺には堪えた。

 それが今じゃあ俺より先に到着して、俺を見つけると照れた笑顔を見せて、俺から逸らさない目は饒舌に好きだと伝えてくる。俺に触るのを躊躇って両手は小さく前に倣えみたいに変なところでとどまってるし。これが俺の意思を無視してむりやり尻にちんこ突っ込んできた高山とは信じられない。人ってこんなに変わるもんかね。

「調べたら上映までまだ時間があるから、飯でも食いに行かないか?」

 と俺の意思確認をしてくれる。前は全部自分で決めてた男が。今日の映画鑑賞だって俺が言いだしたことだし、俺が見たいと思っていた映画を見る。高山はそれでいいと賛成するだけで何も意見しなかった。

「俺、カレーがいい。昨日テレビでCoCo壱の特集やっててさ。それ見てからずっと食べたいって思ってたんだよ」
「よし、じゃあカレーにしよう」

 言うとさっそく最寄りの店舗を調べ始めた。その横顔をじっと見つめる。

 高校時代に仕入れた高山の情報は全部覚えている。高山はカレーが好きじゃなかったはずだ。誘われるのはたいていラーメンとか牛丼屋。

 人の味覚は数年で劇的に変わらないはずだ。苦手なのに高山は俺に合わせてくれた。

 本当に昔の高山とは違うのかもしれない。信じたいが、信じてまた辛い思いをするのが怖くて疑う気持ちが拭えない。だからつい試すような真似をしてしまう。

「ここから10分くらいの場所にあるみたいだ。行こうか」

 俺の腰のあたりでまた高山の手が宙に浮かぶ。同窓会で一応の仲直りをして、一応また付き合うことになってから1ヶ月あまり。高山が自分から俺に触ってくることはまだ1度もない。別に触るくらい、俺はなんとも思ってないのに。むしろ恋人なんだから触ってくれていいのに。

 店までの道中、高山は俺のくだらない話をにこにこと聞いている。前から俺の話によく笑ってくれたほうだけど、いまは俺といるのが嬉しくてたまらないって感じの眼差しが加わって俺のほうが気恥ずかしい。こんなに好きだって感情表現する奴じゃなかったのに。

 カレー屋だから当然だが、高山もカレーを注文した。少しでも嫌な顔をするのを見逃すまいと、俺はじっと高山を観察した。俺の嫌らしい思惑に気付かないで高山はカレーを完食した。

 店を出てから思いきって訊いてみた。

「そういえば高山ってカレー苦手じゃなかったっけ?」
「よく覚えてたな」

 誕生日も血液型もばっちり覚えてるよ。

「前は苦手だったけど、宝生が好きだったなって思い出してたまに食べてたら俺も好きになったんだよ」

 嘘か本当かは別にして、よくそんなことを恥ずかしげもなく言えたもんだ。俺のほうが赤面してしまうじゃないか。

 まだ時間に余裕があったからコーヒーショップに寄ってから映画館へ向かった。俺の好きなド派手アクション映画。高山は静かにポップコーンを食べながらスクリーンに集中している。その横顔がこちらを向くことはない。前は俺に痴/漢してきた奴が。しかもそのあとトイレに連れこまれて、そこでもむりやりヤラれて、しかも中出しまでされて、挙句「それ出してから来いよ」って置き去りだ。……あ、やなこと思い出しちゃったな。悔しいやら情けないやら、半泣きになりながら自分で精液掻き出したっけ。

 どんなにひどいことをされても俺は高山を嫌いにはなれなかった。俺にだけ甘えてるんだ、素を見せてるんだって、間違った優越感に浸って気持ち良くなってた。高山から雑に扱われるようになったのは、俺にも問題があったと思う。受け入れて我慢したのがいけなかった。高山だけを責められない。

 映画を観終わったら今度は街ブラに出かけた。服屋に入れば高山に似合いそうな服ばかりに目が行く。スタイルがいいからなんでも似合いそうだ。つい買いたくなるが、俺が甘やかすことで昔の高山に戻ったら嫌なので我慢する。

「宝生、これ、おまえに似合うんじゃないか?」

 すごい発見をしたって嬉しそうな顔で俺の胸に服を当てる。落ち着いた色あいの襟付きのシャツだ。俺がよくカットソーと合わせていたのを覚えていてくれたのかもしれない。

「おお、いいかも」
「だろ、絶対似合うよ。俺、これ買ってくる」
「え、おい」

 高山はさっさとレジに行くと会計を済ませて戻ってきた。

「もらってくれる?」

 イケメンが顔を誇ろばせながら、でもちょっと不安そうな目で俺を見るんだ。ぎゅうううって心臓を掴まれたみたいな感覚になる。こいつ、こんなにかわいい奴だったか? つい首のあたりに継ぎ目がないか探してしまいそうになる。偽物なんじゃないかって。

「もらっていいの?」
「当たり前だろ」

 高山にプレゼントするのを躊躇した自分が恥ずかしくなった。この服を見るたび、しばらく罪悪感で苦しみそうだ。

「お腹空いてる?」

 日が落ち、あたりが暗くなり始めた頃、腕時計を見ながら高山が言った。昼に食べたカレーがまだ腹に残ってる感じがする。それにもしこのあとホテルに行くなら、腹パンパンだとやることやりにくくなりそうだし。

「そんなに空いてない」

 だからとっととホテルなり、どっちかの部屋なり行きたかったのだが、

「そっか。じゃあそろそろ帰るか」

 びっくりすることに高山はデートを切りあげてしまった。

「えっ、もう帰んの?」
「宝生も明日仕事だろ。あんまり遅くまで連れまわすわけにいかないからな」

 イケメンか。いやイケメンだけど。心までイケメンか。俺が女ならコロッと落ちてるわ。そりゃ俺たちは付き合ってまだ1カ月の初々しいカップルでデートは今日を入れて3回しかしてないけど、その前に付き合ってたときはキスはもちろん、フェラだってセックスだってしてた仲なんだぞ。

 なのにどうして大人になった俺たちが、小/学生みたいなお子様デートしなきゃなんないの?

 同窓会のホテルのトイレで俺を抱きしめたのを最後に、高山は手さえ触れてこない。

 俺を物みたいに扱った昔のことを反省しているのはわかるけど、度を越し過ぎてないか? 俺ももう子供じゃないんだけど? 昔と違うって言うなら、一回セックスしてみないと俺も判断つかないんだけど??

 高山には悪気がない。むしろ俺を思っての行動だ。だから俺もなにも言えない。憤懣やるかたない気持ちのまま駅に到着して、高山と改札で別れた。

 3回目のデートが終わったのに、高山が俺に触った回数はゼロ。もちろんキスなし。セックスもなしだこの野郎!




ぺこと先生


「大事だったのに」その後が完成しました!
イチャラブまでちょっともったいぶってみました。シリアスなようなコメディなような、中途半端な仕上がりになってしまいました。
ちょっとでも楽しんでいただけますように。

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