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奔走(3/3)

2019.08.07.Wed.


 反射的に中腰になって振り返えると、下半身丸出しの男がいた。

「あ、まだDKいたんだ」

 粘ついた声が嬉しそうに言った。こいつが冴木を殺したんだと直感でわかった。俺はその目撃者。見逃してくれるはずがない。俺も殺される。

「そっちの子も良かったけど、君もかわいい顔してるね。残ってて良かった」

 男が笑った。暗闇に白い歯が浮かびあがる。逃げだしたいのに、蛇に睨まれたカエルのように動けない。叫ぶ声さえ出ない。目の前に迫った死が、俺を縛りつけている。

「怖いの? あんな書きこみしておいて? 君もめちゃくちゃに犯して欲しいんでしょ?」

 近づいてきた男が手を伸ばしてくる。捕まったらおしまいだ。わかっていても、体はピクとも動かなかった。ただ目の前に迫ってきた男の手を見つめることしかできない。むんず、と肩を掴まれた。男の手の肉感と体温。絶望の感触。

「い──や、いや、いやだ、いやっ」

 やっと出た声は女のすすり泣きのようだった。

「急に怖気づいちゃった? なんか本当のレ/イプみたいで興奮するね」

 服のなかに男の手が忍び込んできた。顔にかかる男の息遣い。腹の奥がギュウッと縮んだ。殺される前に犯される! 嫌だ。嫌だ、誰か助けてくれ!!

 男の手が奥にこようとした時、急に男が吹っ飛んだ。文字通り俺の目の前から消えた。かわりに立っていたのは全裸の冴木だ。

「こいつに手は出すなよ」

 冴木は吹っ飛んだ男へ向かって冷たい声で言った。男は腹を押さえて呻いている。上目遣いに冴木を睨み「なにしやがんだよ、クソガキが、舐めてんじゃねえぞ」と苦しそうに凄む。

「もう充分だろ。5人がかりで寄ってたかって俺をいたぶって上からも下からもあんたらの精液注ぎ込んだくせにまだ足りないのか」
「めちゃくちゃに犯してくれって書きこんだのはお前たちだろうがっ!」

 男がわめく。ダメージから復活してきているのか、よろよろ立ちあがった。

「書き込んだのは俺だよ。だからおとなしく犯されてやっただろ。こいつはただの通りすがり。これに手出したら、あんたのこと殺すよ」

 冴木は笑ってみせた。男が叫びながら飛びかかってくる。冴木は男の顎にまわし蹴りを決めた。一瞬の出来事だった。俺の理解がおいつかない。まわし蹴りだとわかったのも、残像を反芻した結果だ。失神した男はグニャリと崩れ落ちた。

「危なかったね、藤園くん」

 にこりと笑顔で冴木は俺に向き直った。俺は茫然と冴木を見た。

「おまえ……、生きてたのか……」
「死んでるように見えた? さすがの俺も5人相手はしんどくてさ、ちょっと放心状態だったけど、ちゃんと生きてるよ。藤園くんが俺を見て腰抜かしたのも見てた。どうやって隠蔽しようか必死に考えてたでしょ」

 安堵はすぐ消えた。そして、蘇る恐怖。冴木は柱に縛られていない。掲示板を使ってホモをおびき出し、犯させたのは俺。そしてなぜか冴木は喧嘩慣れしている。仕返しされて勝てる気がしない!

 じり、と冴木から一歩離れた。冴木は笑みを濃くする。

「いい顔するねえ。やめてよ、まじでSに目覚めちゃうじゃん。俺ドMなのにさ、知ってるでしょ」

 離れたぶん、冴木は距離を詰めてくる。背を向け逃げだしても、冴木に捕まるイメージしかわかない。逃げおおせる気がしない。

「今日のは最高だった。いつも妄想してたシチュエーションだったから、すごく興奮した。これでも一応自制してたから実際に俺を犯しにきてって書きこんだことはなかったけど、藤園のおかげで夢がいっこ実現したよ。ありがとう」

 いつの間にか壁際に追い詰められていた。目前に冴木が迫る。息が荒い。目が、あの時の目をしている。

「おまえ、なに考えてる……」

 聞くのが怖い。なのに、確かめずにはいられない。

「さすが。勘がいいね。藤園くんが考えてることで正解だと思うよ」

 冴木の手が伸びてくる。頬を掴まれ、口で口を塞がれた。乱暴な舌が中をまさぐる。

 冴木に犯されたあの日の記憶が蘇る。またあんな目に遭わされるのか。いやだ。ぜったいにいやだ。

 冴木の胸を押し返した。自分で思うほど力がでない。悪夢で全速力で走れない感じに似てる。もどかしい。怖い。逃げたい。なのに体が動かない。

 キスをやめた冴木がしゃがみ込んだ。俺のズボンの前を開け、ちんこを引っ張りだす。

「なにすんだよ、やめろ」

 力のこもらないスカスカの声で拒否する。当然冴木はやめない。口に咥えてフェラを始める。萎えたちんこはすっぽりと冴木の口内に収まった。舌で転がされ、強く吸われたり、唇で扱かれた。

「いやだ、やめろ、やめてくれ」

 逃げるために腰を引く。壁のせいで横へずれるしかない。冴木が腰にしがみついているせいで体勢をくずし、尻もちをついた。

「大丈夫、犯さないよ」

 舌なめずりしたあと、冴木はまた俺のちんこを咥えた。恐怖でなにも知覚しなかった体が、冴木の言葉のせいか感覚が戻ってきた。冴木の口の熱さとか、ぬるぬると蠢く舌の動きとか、吸われる気持ちよさとか。

「もうやめ…、やめてくれ、頼む……っ」

 意思に反して冴木のフェラで勃起した。葵のフェラとは比べ物にならない。それが悔しくて情けなくて勝手に涙が滲む。

「ずっと待ってたんだよ。いつもABCにばっかりやらせて、藤園くんは俺に触りもしない。焦らしプレイはもう飽きたよ」

 完全に勃起したちんこの上に冴木は跨った。手で位置を調整しながらゆっくり腰を落としてくる。トロトロに熟した窮屈で熱い穴に俺のちんこが飲みこまれていく。中から液体が押しだされる。いったいどれほど中出しされたのか。考えたらぞっとした。

「きたねえ、ふざけやがって……! 病気になったらどうしてくれるんだよ」
「俺は病気持ってないよ。でも俺を犯した奴らはどうかわかんないけどね」

 全部収まると冴木は長く息を吐いた。

「やっと藤園くんに犯してもらえた」

 と満足げに笑う。俺を犯さないと言ったくせに。突っこまれなかっただけでこれもれっきとした強/姦だ。この嘘つき野郎。

 冴木は俺の上で腰を揺らした。卑猥な言葉を口にしながら、自分で乳首やちんこを弄る。

「藤園くん、俺にイケって言って! 淫乱メスブタ野郎、ザーメン撒き散らせって言って!」

 完全に自分の世界に没入している。ただの棒として扱われて、だんだん腹が立ってきた。

「誰が言ってやるかよ。早くそのきたねえ穴から俺を出せ、このド変態サイコ野郎」
「んっ、あ──アァ──ッ!!」

 冴木のなかがギュッと締まった。体を痙攣させる冴木のちんこから精液が飛び出す。さっき5人のホモにさんざん犯されたんじゃないのかよ。その前はABCにも犯されているのにこいつの体力どうなってるんだ。

「藤園くんもイキなよ」

 また乗馬みたいな動きで冴木の腰が揺れる。誰がイクか、と抵抗したが数分後には冴木のなかに吐きだしていた。どこの誰とも知らないホモの精液と俺の精液が冴木のなかで混ざり合う。気持ち悪い。吐きそうだ。

 気分が悪い俺と違い、冴木はさっぱりした顔で立ちあがると、自分でケツに指を突っ込んで中の精液を掻き出した。それが終わると制服を着た。まだ下半身を出したまま寝転がっている俺の横に屈み、ズボンの前を閉めた。

「立てないくらい、俺のなかは気持ちよかった?」
「ばかじゃねえか、死ね」
「俺が死んでなくて安心したくせに。かわいくない口だな」
「……おまえ、喧嘩に慣れてんのかよ」
「小/学生の時から格闘技やってたからね。マゾに目覚めたのもそれきっかけだし。殴られるのも、蹴られるのも、締められるのも、ぜんぶ気持ちよくて夢中で練習してたらけっこう強くなったんだよ。物足りなくなって、もう辞めたけど」
「きめえ」
「そ、気持ち悪いんだよ俺。だから藤園くんに会えて良かった。これからも好きなだけ俺を痛めつけていたぶってくれよ。今日みたいなのも大歓迎。だけど人にやらせてばっかで手は抜くなよ。俺は心中相手に藤園くんを選んだんだ。藤園くんもちゃんと堕ちてきてくれなきゃだめだ」
「勝手に気持ち悪いこと決めんな。誰がてめえなんかと心中するか」

 立ちあがり、制服についたドロを払った。

 スマホは水没させた。パソコンのHDDも壊した。俺を脅す材料はもうこの世に存在しない、はずだ。

 廃工場を出た。少しあとを冴木がついてくる。駅のホームでも、電車の中でも、冴木は少し離れた場所にいた。纏わりつく様な視線が息苦しかった。

 先に電車を下りたのは冴木だ。ホームに降りた冴木は遠ざかる俺をじっと見送っていた。あの変態が、俺を脅すデータが無くなったくらいで諦めるとは思えない。また脅す材料を作るために俺を犯しにくるかもしれない。親には誰もいれるなと念を押しておく必要がある。できるだけ独りにならないようにしないといけない。

 今後の対策を考えていたらすぐ駅についた。改札を出たら江田島がいた。中から出てきた俺を見て、江田島は驚いていた。

「一人で冴木の所へ行ったのか?」
「ああ、塾が早く終わったんだよ。他の誰かに見つかって騒ぎになってもまずいだろ」
「藤が行かなくたって俺が行ったのに」
「あいつを縛って放置しようって言いだしたのは俺だからな」

 そうだけど、と不満そうに江田島が口ごもる。そして何かに気付いたようにハッとした顔をした。

「それ……」
「なんだよ」
「……いや、なんでもない」
「なんでもなくねえだろ、気になる。言えよ」
「じゃあ言うけど、これ」

 江田島の手が俺の服を撫でるように触った。指先を鼻にもっていって匂いを嗅ぐ。江田島の顔つきがかわった。今度は俺がハッとなった。きっと冴木の精液。

「冴木となにしたんだ?」

 責めるような目が俺を見る。できるだけ平静を装って答えた。

「別に何も。いつも冴木にやらせてることだよ」
「だから、なにしたんだよ」

 俺の腕を掴み、珍しく江田島が声を荒げる。

「なにって……、口でやらせただけだよ。いつもあいつにやらせてることじゃねえか」

 江田島の目がかっと見開いた。腕に江田島の指が食いこむ。この馬鹿力。痛えだろ。

「やっぱり藤から離れるんじゃなかった。俺も一緒に行けばよかった。今度からぜったい、冴木とふたりで会わないで」

 こいつがたまに見せる俺への忠犬ハチ公ぶりには辟易とすることもあるが、状況がかわった今は願ったりかなったりだ。

「じゃあお前が俺から離れなきゃいいだろ。べったりくっついてろよ」
「そうする」

 有言実行で、「送る」と江田島は俺の家までついてきた。

 




更新しましたー!またいつか続編を書くつもりです。もうちょっと冴木と藤園の関係を発展させないと完結できない…!
そして明日も更新予定です!新作短編。読んでいただけると嬉しいです。
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