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奔走(2/3)

2019.08.06.Tue.
<前話>

「今日はちょっと趣向をかえてみようと思うんだ」

 鞄からロープを出した。昨日ホームセンターで買っておいた。

「その変態をそこの柱に縛りつけて放置してやろうぜ」

 ABCが顔を見合わせる。いつも俺の指示待ちのくせに、ちょっとヤバそうなことだと思ったらすぐ尻込みする。江田島を振り返った。こういう時、江田島は何も言わない。俺のやることに意見しない。俺の意図を組んでくれる理解者だ。

 江田島は俺からロープを受け取ると、冴木の横に屈んだ。冴木が弱々しく体を持ち上げる。

「な、なに、する気……?」

 三人にかわるがわる犯され、口にもケツのにも中出しされて、演技ではなく本当に疲れ果てているように見えた。

「放置って? どういうこと? 藤園くん」
「お前が喜ぶことだよ、ド変態野郎」

 江田島に腕を掴まれて冴木がヨロヨロ立ちあがる。下半身は誰のものかわからない精液でドロドロに汚れている。はだけたシャツから見える胸も白いものが付着していた。

 そのままの格好で一番太い柱に縛りつけた。冴木は慌てた。演技なのか、本気なのか、俺にはわからない。

「やめてよ、藤園くん! こんなところにこんな格好で…ひ、一人にしないでくれよ!!」
「大丈夫だって、夜には迎えに来てやるから」

 鞄を拾い上げ、工場を出た。ついてくるABCがヒソヒソと「これヤバイんじゃね」と囁き合う。こいつらのなかじゃ、強/姦はヤバくないらしい。クソだな。

「夜は俺が来るから、お前らは来なくていいぞ」

 俺の一言で三人はほっと胸をなでおろした。

「俺も行くよ」

 江田島ならそう言うと思っていた。だが断った。なにか言いたげだが無視した。

 ABCとは駅で別れた。

「何時ごろに戻って来る気なんだ?」

 電車のなかで江田島が訊いてくる。時間を合わせて来る気だ。

「22時半くらいじゃね。塾が終わったあとついでに寄るわ」

 ふうん、と江田島。わざと遅い時間を言った。こいつを騙すのは少しだけ心苦しい。

 最寄りの駅で江田島と別れたあと、俺はまた電車に乗ってとんぼ返りした。来た道を急いで引き返し廃工場へ戻る。

 冴木はまだ柱に縛りつけられたままだ。足音に気が付いて顔をあげる。俺だとわかると嬉しそうに笑った。

「藤園くん、もう迎えに来てくれたの?」
「まさか。お楽しみはこれからだろ」
「放置プレイ以外に、まだ何かあるの?」
「とっておきがな」

 冴木の鞄を見つけ、中からスマホを出した。ロックがかかっている。俺が訊いて冴木が素直に答えるとは思えない。雨水の溜まった錆びたバケツにスマホを水没させた。

「あ、なんてことするんだよ」
「わり、手が滑った」
「あー、あの時の動画? 拡散されないか心配だった?」
「ずいぶん余裕だな、お前。自分の置かれてる状況わかってる?」
「なにされるのか、すごくドキドキしてる」

 興奮した顔で笑う。股間の汚いものが半立ちだ。変態め。

「ホモの掲示板に書きこんどいてやったぜ。廃工場で待ってるからメチャクチャ犯してくださいって。何件か返信があったから、待ちぼうけはねえだろうよ」
「いいね。最近マンネリだったからね。藤園くんなら何か楽しいことやってくれるって信じてたよ」
「遠慮なく楽しめよ」

 鼻息を荒くする冴木を放ってまた駅へ戻った。電車で家とは反対方向へ移動する。初めて下りる駅。冴木の家がある土地。冴木に勘づかれないよう、同じ中学出身の奴を探しだして家の場所を訊いておいた。あいつがしたようにネットの地図で下調べもした。

 迷っている時間はない。駅前で拾ったタクシーで周辺まで行く。表札を見ながら冴木の家を見つけ出した。

 普通の一軒家。車一台分しかないカーポート。似たような見た目の隣家とはとても近い。表札の横のチャイムを押したら女の声で応答があった。

『はい?』
「冴木くんはいますか?」
『啓介はまだ学校から帰ってませんけど』

 そりゃそうだ。あいつはまだ廃工場でほとんど全裸で縛られている。そろそろ気の早いホモに見つけられている頃かもしれない。

「あれ、おかしいな。もう家にいるから来てくれって呼ばれてきたんですけど」
『えっ、そうなの? ちょっと待って』

 しばらくしたら玄関の戸が開いた。出てきたのは中年のおばさん。これが冴木の母親。どこにでもいる普通のババアだ。どういう育て方をしたらあんな変態になるんだと小一時間問い詰めたい。

「部屋を見たけどやっぱり啓介はまだ帰ってきてないみたいなのよ」
「じゃあ、駅からこっちに向かってる途中なんですかね。迎えに行ってみます。あ、入れ違いになるかもしれないから、もし冴木くんが帰って来たら駅にいるって伝えてくれませんか?」

 精一杯爽やかな笑顔を作った。おばさんはちょっと迷ったあと、

「もうすぐ帰ってくると思うから、中で待ったら?」

 と俺を家にあげてくれた。いくら息子と同じ制服を着ているからって不用心すぎる。それは俺の母親にも言えることだ。友達だと名乗られて、ホイホイ冴木を家に入れやがった。おかげで俺がどんな目に遭ったか。クソ。

 冴木の部屋は二階の奥にあった。ふすまを開けた和室にベッドと勉強机、タンスの横に衣装ケースが積まれている。母親が掃除をしているのか部屋は綺麗だった。布団も乱れていないし、ゴミも落ちていない。

 机の横に鉄アレイがあった。筋トレをしているのかあいつ。道理で犯されたとき力が強いと思った。

 いやいや違う。あいつの部屋を観察しに来たんじゃない。俺の目的は机の上のノートパソコン。用意しておいたドライバーでHDDを取り出した。あの日、冴木は俺を犯しながら動画の撮影をしていた。データをスマホからパソコンに移しているかもしれない。だから念のため、HDDを破壊する。あれがある限り、俺は安心して眠れない。

 HDDを鞄に入れ、冴木の部屋を出た。

「やっぱり駅まで行ってみます」

 と声をかけてから冴木の家を出た。駅に行く途中で見つけた公園に入り、拾った石でプラッタを粉々に破壊した。

 もう18時半だ。掲示板には18時と指定しておいた。地方の、しかも少し駅から離れた廃工場。地元の人間だって近づかない。うっかり誰かに見つからないかわりに、待ち合わせには不向きな辺鄙な場所。書きこみを見てやってくるホモも迷っているかもしれない。

 ホームにやってきた電車に飛び乗り、一旦家に帰った。咽喉がカラカラに乾いていた。水を飲んで潤す。気持ちが焦っている。家に帰ってきてもぜんぜん落ち着かない。

 冴木のスマホは水没させて使い物にならなくした。でもまだ心配だから、あとで様子を見に行ったときに壊しておこう。冴木のパソコンのHDDも壊した。俺が冴木に犯されたときの動画は、もうこの世に存在しないはずだ。

 でもまだ安心できない。抜かりがないか不安で仕方がない。始めた塾の課題にも集中できない。

 何度も時計を見た。家に帰ってきてから時間の進むのが遅い。気持ちだけ昂っている。やっと20時になった。キャップをかぶって家を出た。

 江田島はきっと来るだろう。江田島より先に廃工場へ行って、冴木のスマホを破壊しなければいけない。問題は掲示板で集めたホモがまだ残っているかどうか。集まったホモは多くて5人程度だろう。二時間もあれば充分だとは思うが、まだ残っていたらこっそり撮影をしておこう。いつか脅しに使えるかもしれない。冴木のスマホを壊すのはホモがいなくなってからでもいい。

 電車をおり、廃工場への道を急ぐ。昼間でも人通りの少ない場所、夜になると人の気配すらなくなる。外灯も少なく、用事がなければ絶対近づきたくない場所だ。

 行く途中、ひとりの男とすれ違った。目を合わさなかったが、視線は感じた。この先にあるのは廃工場だけ。男は廃工場のほうからやってきた。掲示板を見たホモかもしれない。心臓がドクンと鳴った。冴木を犯したホモか? 他にもまだ残っている?

 足音を忍ばせ、工場の裏手へ回った。破れた窓から中を覗く。外灯の明かりが中を照らす。見慣れた工場のはずが、今は様子が違って見える。耳を澄ますが話し声はおろか物音ひとつ聞こえない。

 足音を立てないよう、そっと中に忍び込んだ。冴木を縛りつけた柱が見えたが、冴木の姿はない。逃げられた? どこへ行った?

 動悸が早まる。出口を意識しながら奥へ進む。床に転がる大きな物体に気付いたとき、体中の毛穴が開いた。心臓が壊れたみたいに高鳴る。頭のてっぺんがキュウッと尖ったような感覚と同時に血の気が引いた。

 冴木の、死体……?

 まさかあいつ、ホモたちに嬲られ、挙句の果てに殺されたんじゃ……?!

 恐ろしかったが確かめないわけにはいかない。恐る恐る近づいて、顔を覗きこんだ。悲鳴をあげて腰を抜かした。物体は冴木だった。虚空を見つめる生気のない目、力の抜けた半開きの口元、まさに死人の顔だった。

 やばい、やばい、やばい!!

 冴木が死んだ! 殺された!!

 俺の責任だと必ずバレる。この廃工場に冴木を縛りつけ、解きに来たのは俺だと、江田島は黙っていてくれるかもしれないが、ABCは絶対俺を売る。冴木の家にも行った。冴木のババアにも顔を覚えられているだろう。タクシーの車内カメラにも俺が映っている。電車を何度も乗り降りする、不自然な俺の姿も防犯カメラの映像に残っているはずだ。警察が調べればネカフェでホモ掲示板に書きこんだのも俺だとわかる。

 真っ先に疑われるのは俺だ!

 どうしよう。どうすればいい。冴木の死体。こいつをどうにかしなければ。死体がなければ警察は捜査のしようがない。家出とか失踪で片付けるしかないはずだ。

 死体。どうやって処分する? 埋める? バラバラにして細かくしてどこかへ捨てる? どっちも駄目だ。道具も時間もない。第一、道具を用意したら、状況証拠で俺が犯人になる。

 どうしよう。どうしよう。どうしてこんなことになった? くそったれめ!

 逃げだしたいのを必死に抑える。これをどうにかしなければ、俺の人生は破滅だ。

 混乱と恐怖のなか、頭をフル回転させて、打開策を探る。ストレスが溜まったときの癖で爪を噛んだ。

 目の奥がじんと熱くなった。泣きそうだ。涙があふれた時、物音が聞こえた。目撃者か、冴木を殺した犯人。どちらにせよ、俺の脅威。

 反射的に中腰になって振り返えると、下半身丸出しの男がいた。




お騒がせ!ぼくの暴君


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