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インモラル 6

2019.08.01.Thu.
のりちゃん。

 学生時代はクリーチャーと呼ばれて死んだほうがマシなレベルのいじめを受けていた。本気で自殺を考ええて実行すること数回。全部失敗したから僕は生きている。

 あいつらのせいで死ぬなんてばかばかしい。僕が死んだところであいつらは後悔も反省もしない。害虫駆除をしてやったと武勇伝のつもりで語るに違いない。

 僕が欲しいのはただの平穏。誰にも攻撃されず、気付かれず、ひっそり暮らしていたいだけ。その最低限の生活のために高校卒業後、ゲイ向けのウリ専のバイトを始めた。

 それも簡単じゃなかった。面接で落とされることがほとんど。なかには「そんな顔で客から金取れると思ってる?」とはっきり言われたこともある。

 人並みになりたいだけなのに、そのための準備すら、僕には困難極まりなかった。

 やっと雇ってもらえた店でもなかなか指名されなかった。フリー指名の客のところへ行って顔見た瞬間チェンジ。店もそれをわかってるから、最初から別のボーイと一緒に移動させた。

 三ヶ月経っても客ひとり取れず、僕の仕事は待機室の掃除とポスティングとビラ配り。

 ビラ配りをしていた時だった。ゲイ向けのビラを受け取ったノンケに絡まれ、また顔のことを言われ、通行人の注目を浴びるが誰も助けてくれない絶望的な状況。

 そんな時にたまたま通りかかったのが蝉丸だ。ノンケどもを追っ払い、僕の顔を見ても「大丈夫か? 災難だったな」と優しい態度を変えなかった。

「すいません、助けてくれて、ありがとうございます」
「この店で働いてるの?」
「あ、はい。いえ、僕なんか誰も相手にされなくて。まだ一度もお客さん取ったことないんですけど」
「なんで? かわいいのに」

 ああ、こいつも結局僕をからかいたいだけか。と思った。

「いまは仕事が残ってるから無理だけど、今度ほんとに指名するよ。名前教えて」
「……則之です」
「のりちゃん。ビラ一枚もらってくよ。またね」

 バイバイ、と手を振って数日後、蝉丸は本当に僕を指名した。

 指定されたホテルにいる蝉丸を見て驚いた。密室にふたり。僕をいたぶる仲間がいるんじゃないかと身構えた。僕を気に入ってくれただなんて、そんな甘い考えを持てるような人生じゃなかった。

 蝉丸は僕をみて「久し振り」と微笑んだ。部屋の照明の下で見る蝉丸は若くて優しげだった。人のいい笑顔に騙されちゃいけない。きっとちょっとした暇つぶしに化物みたいな男を抱いてやろうと気まぐれを起こしたに違いないんだ。

 ポケットのスマホが鳴った。ドライバーからで『チェンジ?』と訊いてくる。

「あの、チェンジしますか?」

 蝉丸は驚いた顔で「君を指名したのに、チェンジなんかしないよ」と否定した。

 ドライバーにチェンジ無し、と伝えたら向こうも驚いていた。

 ここで初めて蝉丸の名前を知った。最初はふざけた偽名だと思った。神経を逆なでしないよう、そこには触れず、コースの説明をしたあと、蝉丸と一緒にシャワーを浴びた。僕に体を洗われながら、蝉丸はあれこれ世間話をした。僕への質問も多かった。出身地とか年齢とか好きな食べ物とか、当たり障りのないものばかりだったけど。

 終わったあと、蝉丸にフェラした。うまいね、と褒められた。店を辞めさせられないかわりに、ひとつ特技を見つけろ、と出勤したら毎回店長にフェラさせられていたからだろう。

「ほんとに本番していいの? 初めてなんだろ?」

 僕の髪を撫でつけながら蝉丸が言う。細く長い指が心地よかった。

「僕、どうしてもお金稼ぎたいんです」
「何に使うの」
「整形したいんです」
「自分の顔嫌い?」
「嫌いです。見ず知らずの人も、僕の顔を見て化け物だって言うんです。好きになれません」
「かわいいのに」

 他人事だと思って。腹の内が重くなる。

「おいで」

 蝉丸は僕の手を引くとベッドに仰向けで寝かせた。なにをするのかと思ったらいきなりキスされた。恋人にするような優しい接触、深い口付け。僕なんかにキスできる人がいると思わなかったから驚いた。

 蝉丸は僕の体も触った。あの心地よい細く長い指で、僕の顔、首、胸、脇、腰、下半身にも触った。他人に愛撫されたのは生まれて初めてで、どう反応していいのかわからなかった。

 その間も蝉丸はよく喋った。日常の、自分がおかした失敗談を僕に話し、自分で笑った。胸がくすぐったくなるような笑い声。警戒していた僕も知らず笑っていた。僕の緊張が解れたのを見て、蝉丸はローションを使って僕の尻の穴に指を入れた。

 この仕事がなにをするかわかっているつもりだった。この見た目だから人より辛いプレイも耐えようと覚悟していた。僕の認識は甘かった。そんなところを人に触られる恥ずかしさは想像を絶する。

 自分でします、と言っても蝉丸は「いいから」と譲らない。丁寧に、丹念に、入念に、そこを解し、柔らかくした。ただ、申し訳なく、恥ずかしかった。

 自分からもう入れてください、と頼んだ時にはもう耐えられなくなっていた。恥ずかしさと、ムズムズする気持ち良さに。

 蝉丸はゴムをつけ僕に挿入した。何度も「大丈夫? 辛くない?」と確認し、何度も僕にキスをし、僕のしょうもない乳首を舐めたり吸ったりしてくれた。

 最後は蝉丸に扱かれながらイッた。初めてだと言うのに、頭が蕩けるような気持ち良さだった。僕のあとに蝉丸が達した。ゴムを取った蝉丸のペニスを夢中で舐めて綺麗にした。愛しくてたまらなかった。

 僕がお金を払いたいくらいだったが、蝉丸は僕にお金を渡すとまた指名するよ、と言ってくれた。その通り、僕が整形手術を受けるために仕事を休むまでの数か月間、蝉丸は定期的に僕を指名してくれた。

 つらい手術を乗り越えた一年と数ヶ月後、デートして欲しい、と僕は蝉丸を誘った。別人になった僕を見て蝉丸は目を丸くした。

「のりちゃんは女の子になりたかったのか」
「きれいになったでしょ」
「うん、かわいいよ」

 全身整形して生まれ変わった僕は、すれ違う男が思わず振り返るような、上物になった。ここに来るまでに何度もナンパされた。一度メスを入れてしまうと歯止めがきかなくなった。どうせやるなら誰よりも美しくならなければ意味がない。

 大変な額の借金を背負ったが、ニューハーフのクラブの面接に受かって働きだしたから、無駄遣いをしなければいつか返済できるだろう。

 客たちは僕が少し前までクリーチャーと呼ばれるような醜い男だったとも知らず、「かわいいね」とデレデレ鼻のしたを伸ばして言い寄ってくる。僕に気に入られようと高い酒を飲み、お世辞を惜しまない。

 女として僕を抱きたがる男、残したままのペニスで僕に抱かれたがる男。全部、僕の見た目にしか興味がない。人生、見た目次第なのだ。

「こんなに変わったけど、私とデートしてくれる?」

 蝉丸だって隣を歩くのがこんな美人なら鼻が高いはずだ。

「もちろん喜んでデートするよ。でももう、前ののりちゃんに会えないのはちょっと寂しいなぁ。俺は前ののりちゃんも好きだったから」

 嘘だ、と思った。本音は違うくせに、と。

 蝉丸は女になった僕にも優しかった。あいかわらずよく喋り、よく笑った。でもたまに、ほんの一瞬、僕のなかに昔の醜い則之を見つけて、愛しそうに目を細めることがあった。それを見ると、僕は無性に泣きたくなるのだ。






書きたいものも全部書いてネタ切れになりましたので、このシリーズは一旦放置完結とします。またネタが浮かんだときの不定期更新で、いつかちゃんと完結っぽい形で終わらせたい。

そして出し惜しみするものでもないので、また明日も更新予定です!
お触り禁止の続編で、江田島視点のBLじゃねえよって過去編です。申し訳ない。その次は藤園視点のお話を更新予定。すごい。過去なかった更新頻度じゃないかしら。(当社比)
そのおかげかどうだか、最近右ひじが痛いんですよね。ちょっと動かすと肘が痛い。なぜ肘…?
というわけで、また明日お会いしましょう

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