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Tedious story(11/15)

2018.11.23.Fri.
10

 結局その日はホテルに泊まって須賀には会いに行かなかった。服が濡れたせいもあるが、俺が純の体から離れがたかったのが一番の理由だ。

 射精後二人ともぐったりしてしばらく抱き合ったまま眠った。俺が先に目を覚まし、純の寝顔を飽きることなく眺めた。そのうち劣情を催しキスで純を起こし、また抱いた。

 純のペニスをしゃぶった。玉も肛門も、余すところなく舐めた。純の笑い声が喘ぎ声にかわる頃、挿入した。

 純はよく声を出した。同時によく喋った。学校の友達の愚痴や、進路のことや、セックスのこととかを。セックスの最中、ああしろこうしろと注文が多かった。そのかわり、気持ちいい、もっとして、と素直に言ってくれるのは嬉しかった。

 翌朝になっても純の体を離すのが惜しくて今日一日ここにいたいと頼んでみたが、「何しにここまで来たんだよ。早く行くよ」と一蹴された。

 しかたなくホテルを出て、近くのファミレスで朝食をとったあと須賀のマンションへ向かった。

 車を降りた純が一人で301号室の前まで行ってすぐ戻ってきた。

「留守みたい。インターフォン鳴らしたけど、誰も出てこなかった」
「もう諦めて帰ろうぜ」
「会いたくないの?」
「なんかもう、どうでもいい」
「どうでもよくない……あ、待って、今井さん、あの人、違う?」

 純が俺の太ももを叩きながら、前方を指さす。フロントガラスの向こうに、男女の二人組がこちらに向かって歩いて来るのが見えた。俺と変わらない年恰好の男と、それより少し若く見える女。近づいてくる男の顔を凝視する。心臓がドクンと高鳴った。

「マンションに入っていくよ。ねえ、今井さん、あの人は違うの?」

 隣の純も少し興奮気味だ。記憶の須賀と別人の男。なのにはっきり、あれは須賀だとわかった。俺に犯されたことなんか忘れたような顔で隣の女に笑いかけていた。

「あいつだ」
「やっぱり!」
「あいつが、須賀だ」

 純は車を飛び出していった。二人組に追い付くと純は須賀の肩を叩いた。須賀が振り返る。純が何か言ったのか、須賀の顔つきが変わった。須賀は手で純を制すと、隣の女に何か言った。女は不安そうな顔で頷くとエレベーターに乗り込んだ。

 須賀は下を向いた。額に手を当て、肩をがっくり落としたあと顔をあげた。俺の知っている須賀公作がいた。俺に犯された直後の、怒りと屈辱を抑え込んだ須賀だ。俺は瞬きせずに懐かしい須賀の姿を見つめた。

 純の人差し指がこちらに伸びた。それを追って須賀がこっちを見る。車の中のいる俺に気付くと軽く目を見開いた。そして純を押しのけ一直線にこちらへやってきた。

 運転席側の窓を須賀がコツコツ叩く。考えるより先に窓を開けた。外の空気と一緒に入り込んできた清涼な匂い。須賀の匂い。以前より温かく優しい。

「何しに来た」

 それと正反対の、強い怒りを感じる須賀の声で我に返った。

「おう、久し振り」

 間の抜けた挨拶。あるいは人を食ったような。須賀は眉間にしわを作った。

「わざわざうちを調べたのか? どういうつもりだ?」
「俺のこと、覚えてるのか?」

 須賀はハッと息を飲んだ。唇を噛みしめ、俺から目を逸らした。

「あの女は、お前の恋人か?」
「君に関係ない」

 須賀の声が震えていた。

「あの女と寝てるのか?」

 窓越しに胸倉を掴まれた。

「彼女は俺の過去を知っている。それごと俺を受け入れてくれた。彼女を傷つけるような真似をしたら、今度こそ許さない。ただじゃなおかないからな」
「男に犯されたこと、喋ったのか?」
「彼女に隠し事はしない。お前がなぜあんなことをしたのか俺の知ったことじゃない。暇潰しか、嫌がらせか、それとも別の意味があったとしても、俺には関係ない。なんであっても許さない。お前のしたことは絶対忘れないが、お前のことを思い出すことはこの先一生ない。お前はもう、顔も名前も忘れたただのクラスメート、それ以下だ」

 突き放すように須賀は手をはなした。踵を返し、マンションに向かって歩き出す。途中、純に声をかけた。

「あのろくでなしとどういう関係か知らないが、付き合いはやめておけ」

 純はいつもの人懐っこい笑顔で肩をすくめた。遠ざかる須賀の後ろ姿を見ていたら純が車に乗り込んできた。

「どうだった? 初恋の人との再会は」
「お前はどうなんだ。あんなに会いたがってただろ」
「想像してたのと違ってちょっとがっかりかな。思ってたより普通。今井さんから話聞いて期待値あがりすぎてたみたい。いかにも優等生な感じが鬱陶しい」
「はは、レ/イプ被害者に厳しいな」

 ギアをドライブに入れ、車を動かした。301号室の前ではずっと、須賀の彼女がこちらを不安気に見下ろしていた。男に犯されたことを知っても、須賀のそばにいる女。気持ちが悪い。

「今井さんはどうだった? また犯したい? 俺、手伝うよ?」
「俺もお前と似たような感想だよ。昔はあんなにきれいだったのに、今じゃ普通、その他大勢になってやがった」

 須賀は須賀のままだった。公明正大の優等生。なのになんの魅力も感じない。女の手垢がついた須賀は、ただの普通の男に成り下がった。凛と背筋を伸ばして俺に汚されたことを隠す痛々しさが美しかったのに、それを女に打ち明け、陰部で慰められた須賀は、存在そのものが汚物にさえ見える。

 世間では圧倒的に須賀が正しいのだろうが、俺には須賀のほうが汚れて見えた。須賀に掴まれた胸倉が気持ち悪い。服を着替えたい。

 吐き気がこみあげてきて、見つけたコンビニの駐車場に車を入れた。

「今井さん、大丈夫? 顔色悪いよ」
「少し気持ち悪い」
「水買ってこようか?」
「頼む」

 シートベルトを外し純が外へ出ようとする。その腕を掴んだ。純が振り返る。男も女も関係なくたらしこむくせに、なぜ純は汚れないのだろう。

「お前はどうしてそんなにきれいでいられるんだ」
「俺が?」

 可笑しそうに純が笑う。

「須賀さんより、俺のほうがきれい?」
「お前の方が心も体も黒くて汚いはずなのに、俺にはきれいなんだ」
「その感覚、少しわかるかも。今井さんって悪い人なのに味方したくなるし、俺より強いのに守ってあげたくなるんだよね。俺たちってどっか変なんだろうね」

 俺の頭を撫でると純は車をおりた。軽い足取りでコンビニのなかに入っていく後ろ姿を見ていたら、急に泣きたくなるほど純が恋しくなった。たったいま、離れたばかりなのに。






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