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Tedious story(9/15)

2018.11.21.Wed.


 土曜日の昼過ぎに、レンタカーを借りて純を迎えに行った。今日の純はアクセサリーの類は一切つけておらず、ジーンズに無地のシャツとニットというおとなしい格好だった。

「どうした、その格好は」
「今井さん、こういうほうが好きでしょ?」

 助手席に乗り込んで純が笑う。こうしていれば進学校に通ういいとこのお坊ちゃんにしか見えない。素行の悪さは完全に隠せている。

「同級生の居場所わかった?」
「ああ、わかった。本当にいくのか? ここから車でも一時間かかるぞ」
「行こうよ。今日はそれがメインなんだから」

 純の好奇心はかわらないらしい。俺も欲望を満たしたい。

「お前よりきれいと言ったが、それは見た目の話じゃないぞ」
「え、話違くない?」
「あいつは人としてきれいなんだ。お前みたいにホモのクラスメートを利用しないし、年上の女をダッチワイフにもしない。高校卒業するまで童貞だったしな」
「その人に夢見過ぎじゃない?」
「夢なんか見てない。事実だ」
「そうかな。須賀さんって言ったっけ? その人にも裏の顔はあったと思うよ。好きな女の子を犯す想像してオナッてたかもしれないし、実はロリコンだったのかもしれないし」

 純の声と言葉が俺の須賀を汚す。初めて純に怒りが湧いた。

「怒った?」

 押し黙った俺の太ももに純は手を乗せた。また俺を操作しようとしている。

「ごめんごめん、誰だって初恋の人悪く言われたら頭くるよね。ごめんね、今井さん。俺ちょと嫉妬したのかも、須賀さんに」

 ズカズカ人の思い出に土足で入り込んだくせに、すぐさま飛びのいてごめんねと謝る。かわいい仕草と表情で。心をくすぐる言葉をすらすら口から出しながら。効果的な自分の見せ方を熟知している。腹立たしいが、わかっていても怒りが削がれる。許してしまう。

「お前の初恋とやらはいつなんだよ」
「俺の?」

 機嫌がなおったとみるや、純の手はもとの場所へ戻った。それを残念に思う。

「俺の初恋っていつなのかな。ないかも」
「ないことないだろ。今まで付き合った女、いるんだろ」
「いるけど、向こうから告られたから付き合っただけだし。俺、誰かを好きになったことないかもしれない。好きって気持ちがよくわかんないんだよね。今井さんみたいに誰かを犯したいほど好きになったことがない。この女の子犯したいなってのはたまに思うけど、それってただの性欲だし」
「まだ誰も好きになったことがないって言うのか?」
「実を言うとさ、人が恋愛に夢中になってるの見て、ばかだなって思うんだよね。くだらないことで喧嘩して仲直りしてまた喧嘩して。人目も憚らずイチャついたり。恥ずかしくないのかな。恋愛事で頭がいっぱいになる奴って単細胞だよね。なかには振られたくらいで自殺する人もいるじゃん。ありえないよ。ちょっと気持ち悪い」
「辛辣だな」
「今井さんはわかってくれると思ったけど」
「わかる部分もあるけど、気持ち悪いとまでは思わない」
「自分を見失った人の姿って、すごく醜いよ。俺はいつも自分を保っていたいし、冷静でいたいんだ」

 純の声にほんのわずかな変化。いつもより少し熱のこもった声。これは意図した言葉じゃなく、純の本心だとわかる。珍しく純が正直に自分の本音を明かしたのだ。

「今井さんは俺の友達にボコられた時もずっと冷静だったじゃん。強がってたわけでもなく、冷静に状況読んでそう判断したわけでしょ。ずっと言わなかったけど、あの時の今井さん、かっこよかったよ」
「鼻血流してた俺が?」
「うん」

 全力で純が頷く。かわいらしい顔で笑っていれば年相応の、むしろ世間知らずな高校生に見える。しかしてその実体は。俺もこの外面に騙された一人でもあるわけだが。

「俺は冷静じゃあないよ。その逆だ。欲望のまま、本能のままに動いてる。お前に声をかけたのも、須賀を犯したのも、冷静とは真逆だろ」
「それを冷静に実行できるところが今井さんのいいところだよ」

 こんなところをいいところだと言ってくれるのは、世界中で純ただ一人だろう。

 少し迷いながら、純のナビで年賀状に書かれた住所の近くまできた。ここからは歩いて移動したほうがいいと判断して、見つけたパーキングに車を入れた。

「もうすぐ初恋の人に会えるね。どんな気分?」
「別に。あっちは俺の顔なんか見たくもないだろうし。第一、会えるかどうかもわからないしな」
「会えるまで粘ろうよ。どうせ今日、泊まるでしょ?」
「やらせてくれるのか?」
「いいよ。でも今日はちゃんと俺のことも気持ち良くしてよ。前のときは痛くて苦しくて、ぜんぜん良くなかったんだから」
「じゃあ、今からホテルに行こう」
「駄目だよ、何しにここまできたのさ。先に須賀さんに会ってからだよ。ほら、このマンションじゃない?」

 純は小走りでマンションの集合ポストに近寄った。振り返り「あった!」と俺を手招きする。

 ポストには「須賀」と手書きのプレートが差し込んであった。心臓がドクンと高鳴った。須賀がここにいる。もう目と鼻のさきにまで近づいた。俺の顔を見てどんな反応をするか。恐れにも似た興奮が体中を走り抜ける。

「行こう」

 楽しそうな純に腕をひかれエレベーターで3階までのぼった。一番手前の301号室。純はためらいもなくインターフォンを鳴らした。

「おいっ、勝手に押すな」
「なんで? 会いにきたんでしょ?」
「心の準備が」
「初恋の人に会うから緊張してるの? 今井さん、そんな繊細な人じゃないでしょ」

 純と会話しながら俺の目は扉に釘付けだった。耳は扉の向こうの音を聞き逃すまいとそばだっていた。

 扉は開かない。物音も聞こえない。待ってもなにも起こらない。

「……留守っぽいね」

 ホッとすると同時に落胆もした。

 純は俺の気持ちなんかお構いなしに、踵を返すとさっさとエレベーターに乗り込んだ。

「行くよ、今井さん。来る途中にあったファミレスでちょっと時間潰してから、また戻ってこよう」
「まだ諦めないのか」
「顔見に来たんだから、これくらいで諦めるわけないじゃん」

 エレベーターの扉が閉まってから、俺は純に抱きついた。

「どうしたの? 甘えちゃって」
「わからん。ガッカリもしたし、安心もした」
「複雑だよね。レ/イプした相手だし、あとから好きだったって気付いたわけだしさ。いまもまだ好きだったりするわけ?」
「いや、そういう感情はもう残ってない。これはもう、俺の性癖だな」
「性癖って?」
「きれいなものを汚したくなるんだ。須賀は俺に犯されてもきれいなままで……、その須賀が俺の顔を見たらどんな表情になるか想像しただけでやばい」
「とんだ変態だね」
「ファミレスは後回しにして先にホテル行かないか。やらせてくれ」
「想像して興奮しちゃった? がっついた今井さんとやるの、嫌だなあ。俺またイケないじゃん」
「ちゃんとお前の事も考えるから」
「やってる間に須賀さん帰ってきちゃうかもしれないよ?」
「なあ、純、頼む、意地悪しないでくれ。いますぐお前を抱きたいんだ。お前のなかに入ったら収まるから。どうしたらやらせてくれる?」
「今度は駄々っ子? 仕方ないなあ。そこまで言うなら、先にホテル行く?」
「行く」
「じゃあ、一個、俺の言うこときいてくれる?」
「なんでもきく」

 エレベーターが一階につくまでのわずかな時間で純は簡単に主導権を握る。





昨日は急用のために更新できず、申し訳ありませんでした。
スマホからお知らせできればよかったんですが。やり方を調べている時間もなく…
残りの更新はいつも通りできると思いますので、あと数話、お付き合いくださるとうれしいです!
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