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Tedious story(8/15)

2018.11.19.Mon.



 純から電話がかかってきた時、俺は出張先のホテルだった。

『今井さん、今から出てこれる?』

 屋外なのか電話の後ろが少し騒がしい。

「お前な、俺のことなんだと思ってるんだ。呼び出されてほいほい出ていくお前の暇な仲間とは違うんだ」
『そんなふうに思ってないよ。今井さんの顔が見たくなったから。それに今日は俺の友達いないよ。予備校の帰りなんだ。迎えに来てよ』
「あいにく俺は出張で名古屋だ」
『そうなの? なんだ。それじゃ仕方ないね』
「なにか俺に用か? この前の奴らがまた来てるのか?」
『違うよ、言ったじゃん、今井さんの顔が見たくなっただけだって』
「お前が言うと営業トークにしか聞こえない」
『ひでえ。オオカミ少年の気分。いま、ひとりなの?』
「ああ」
『デリヘル呼ばないの?』
「疲れてそんな気分じゃない。お前が出張してくれたら勃つけどな」

 電話口から純の笑い声。本性を知っていても、涼やかで耳に心地がいい。

『いっしょにホテル泊まってからもう……二週間? 俺のこと思い出してひとりでシテるの?』
「ああ。あれからずっとオナネタはお前だ」
『気持ち悪くてウケるんだけど』
「金出すから今から来いよ。させろ」
『もうちょっとマシな口説き方ないの?』
「お前の穴の具合、最高に良かった。またブチ込ませろ」

 純が爆笑する。

『嫌いじゃないよ、その誘い方。でも名古屋は遠いかな。俺明日も学校あるし。帰って来たらまた遊ぼうよ。じゃね、ばいばい、今井さん』

 勝手に話を切りあげて通話を切られた。音の聞こえなくなった受話口。純に切り捨てられたような焦りが全身を蝕む。いてもたってもいられなくなった。

 一回、純の誘いを断ったらつまらない人間だと判断されてアウトになるのか? 言うことを聞かない人間は必要ないのか? 純ならどう考える?

 急いで純に電話した。

『どうしたの?』
「明日帰る予定だ。明日の夜は?」
『それ言うために?』
「俺もお前に会いたい」
『ヤリたい、の間違いじゃない?』

 俺をからかうような口調。

「ヤリたい。お前の顔が見たい。声が聞きたい。お前を抱きたい。本物の純を抱きたい」
『必死過ぎ』
「どうなんだ、明日は?」
『明日は予定があるから無理』

 あっさりと断られて落胆する。

『明後日の土曜日ならいいよ。泊りで遊びに行こうよ』

 純の言葉に簡単に浮上する。

『じゃあ、今井さんに宿題。土曜日までに、ラッシュ嗅がせて犯したっていう同級生の居場所つきとめといてよ。俺よりきれいなんて言われたら、一回見てみたいからさ』
「須賀の居場所?!」

 思わず大きな声が出た。今まで何度となく思い出すことはあったが、いまどこでなにをしているかなんて調べようとも思わなかった。

「なんで、そんな必要があるんだ」
『セックス以外の目的があったほうがデートも楽しいじゃん』
「調べられるかどうか、わからないぞ」
『大丈夫、今井さんならできるよ。じゃ、土曜日に迎えに来て』

 さっきと同じように純は言いたいことを言うと電話を切った。

 須賀の居場所を調べる、だと。

 大人になった須賀を想像したことはあった。想像の須賀は、大人になっても高校生の頃と同じように周りの空気を結晶化させた凛と美しい姿だった。

 俺のせいで綺麗な人生に黒く消せない染みができた須賀は、以前のように屈託なく笑わない。静かな微笑を浮かべるのだ。不幸を背負った細い体。色気のある物憂げな眼差し。もしその目が俺を見つけたら──?

 想像した瞬間、体中に震えが走った。鳥肌も立っている。

 絶対に俺を許さないと言った。金輪際近づくなとも。

 もし俺が須賀の前に姿を現したら。須賀のきれいな目は驚いて見開かれるだろう。そして怒りと怯えと屈辱の表情を浮かべるだろう。もしかすると殴りかかってくるかもしれない。胸倉を掴まれるほど須賀を間近で見られたら。

 俺のこと、俺にされたことを必死に忘れようとして生きてきたに違いない。その努力を台無しにしてやったとき、あのきれいだった須賀をまた、汚せるかもしれない。

 急いでズボンとパンツをずり下ろしペニスを握った。久し振りに純ではなく、須賀で抜いた。

 その夜、連絡先を知っている昔の知り合いに片っ端からメールを送った。世間話という前置きも思いつかないほど切羽詰まった内容になった。

 須賀の連絡先を知らないか。知ってたら連絡をくれ。

 返信のなかに、なんとか須賀に繋がりそうなものがひとつだけあった。須賀と仲の良かった男を知っている、というメールに、すぐそいつに連絡を取って須賀のことをなんでもいいから教えてくれと返事をした。理由を訊かれ、高校時代須賀に借りたCDを送りたいと嘘をついた。

 金曜の夜になってそいつから画像付きのメールが送られてきた。年賀状の画像だった。きれいな文字で書かれた差出人の名前と住所が写っている。須賀公作。住所は実家ではなかった。マンション名から地図で調べると単身者向けのマンションに住んでいることがわかった。

 あいつは生きている。暮らしている。俺のマンションから車で一時間ほどの場所に。生活圏は被らないが、出先で偶然会う可能性は決してないと言えない距離に。高校からずっと付き合いを続けている友達に年賀状を送る律儀さは須賀らしい。几帳面な性格を表した文字。須賀は須賀のまま、俺と同じ空の下に暮らしているのだ。





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コメント
『Phantom』がいちばん好きな作品ですが、『Tedious story』も良いです!決して長くて退屈、なんて事ありません。
谷脇さまは短編中編の読み切りを得意とされる方だと、長い事思い込んでましたが、長編の“牽引力”も素晴らしくじっくり拝読させて頂いて居ります。
『新雪の君』、これはもうタイトルからして素敵です。誰も足を踏み入れたことのない場所を荒らしたい、これは人間の業でしょう。
今井孝浩はむかし、ふだん異性にしてる事を同性にやってみて、同じ事をされたいとどこかで願望するようになってしまった……
それを高野 純に見透かされてしまってる。
あれから須賀広作(この名前の響きがいいです)はどう年月を過ごしたのか、白雪のような少年は現在どのような姿でいるのか? 更新が待たれます。
お返事
つきみ様

なんと嬉しいコメント!ありがとうございます!!!
ほんとに書いてる最中、これ「おもしろくない」とコメントもらうんじゃないかと思っていたので、そういう風に言ってもらえるとありがたいです。書いてた時間は無駄じゃなかった!!><
動機に「使いたい台詞」というのがあって、使えるシチュエーションがリバしかない!と私のなかで固定されてしまったので、一番リバを嫌がりそうな今井に白羽の矢がw年下に翻弄される年上受けが大好物すぎます。
気の毒な須賀くんは明日登場します!


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