FC2ブログ

Tedious story(5/15)

2018.11.16.Fri.


 純を探す張り込みはやめた。名前も自宅もわかった。携帯番号も知っている。捕まえようと思えばいつでもできる。

 すぐに会いに行けば純に笑われる気がして行けなかった。電話もしていない。純にしゃぶってもらった記憶でマスをかいて毎日を過ごしていた。

 二週間くらいたって、純から電話がかかってきた。仕事が終わって家で飯を食っていたときだった。電話の向こうは音楽と雑音でかなりうるさい。

『今井さん、これから出てこれる?!』

 純が怒鳴るように言う。

「もう風呂に入って飯食ってる」
『俺のあとつけてた時、若松に会う前に寄った店覚えてる? いま俺、そこにいんだけど、出てこれない?』
「あとはもう寝るだけだ。明日仕事だしな」
『来ないってこと? わかった、じゃあね、今井さん』

 どんな用件だったかも言わないで純はあっさりと電話を切った。これがあいつの手口なんだろうとわかっていても、呼び出された理由が知りたくてたまらなくなった。

 箸を置いて服を着替えた。俺の顔を見た純の微笑が頭に浮かぶ。やっぱり来てくれた、その声さえ、頭に聞こえる。

 構わない。あいつの思い通りでも、とりあえず今は純に呼び出されたから行く。横文字の店名は忘れたが場所は覚えている。

 家を出て駅に急ぐ。ちょうどきた電車に乗り込み、スマホで時間を確認した。20分で純が言っていた店につく。さすがにタクシーを使うほど冷静さを失ってはいない。

 予想通り20分ほどで店の前に到着した。以前来たのは昼だった。今日は夜。看板にも明かりが灯っている。階段を降り、店の扉を押した。大音量の音楽。暗い店内。出入り口に近いテーブル席の奴らがこちらを見てくる。

 純を探して店を歩いた。

「今井さん!」

 一番奥のテーブルで純が手を振っていた。

「来てくれると思ってた」
「高校生がこんな店にいていいのか」
「ここ、知り合いの店でさ。たまに場所使わせてもらってるんだ」

 テーブルには純と同じ年頃の男女が8人。男は挑発的な目を俺に向けてくる。女は女同士で顔を見合わせクスクス笑っている。

「それで、なんの用だ」
「とりあえずこっち来て座りなよ。莉音、今井さんとかわって」

 純の隣に座っていた女が唇を尖らせながら腰をあげた。今度は俺がそこへ座った。

「何か飲む?」
「いらない。用件は?」
「そんなに急がなくてもいいじゃん。このあと何か用があるの?」
「言う気がないなら帰るぞ。時間の無駄だ」

 腰をあげかけると純に腕を掴まれた。

「待ってよ、今井さん」

 腕を引っ張られて腰を下ろす。

「この前、俺をぼこった奴らが俺のこと探してこのへんウロついてるらしいんだよね。またやっつけてくれない?」
「そんなくだらないことで俺を呼び出したのか? ここにいる仲間に追っ払ってもらえよ、お姫さま」
「今井さんだから許すけどさ、お姫さまとか、冗談でも言うのやめてくれない? むかつくから」

 純の笑顔が歪んだ。仲間が密やかに目配せしあう。女扱いするような言葉は純には禁句らしい。

「それは悪かったな」
「真面目な話、俺らは喧嘩できないんだよね。受験生だから」
「向こうは何人だ?」
「5人くらい」
「増えてるじゃねえか」
「だから困ってんの」
「逃げろ。そんでもうこのへんでは遊ぶな。夜の外出も控えろ」
「やっつけてくれないの?」
「俺一人でか? 無茶いうな」
「今井さんならできるよ、だって強いじゃん」
「漫画の読み過ぎだ。あの時は不意打ちだったからいけたんだ。今日は向こうも準備して来てんだろうし、1人で5人も相手にできるか」
「じゃあ俺も一緒に行く」

 顔を見たら真面目な目が見つめ返してきた。俺が吹きだすと純はムッと眉を寄せた。

「何で笑うのさ」
「お前じゃなんの足しにもならない。むしろ足手まといだ」

 前にボコボコにされた痣がまだ残っている。それを指で押してやった。

「つまんないよ、今井さん」
「つまんなくて結構。わざわざ痛い思いをしに行くなんて馬鹿だろ。お前、マゾか」
「ひよってんのかよ」
「なんとでも言え」

 純の前に置いてあるグラスを飲みほした。

「酒なんか飲みやがって」
「ただのコークハイだよ」
「帰るぞ」

 今度は俺が純の腕を掴んで立ちあがった。

「お前らも解散だ。とっとと帰れ」

 俺への非難の声は分厚い店の扉でシャットアウトした。店を出て左右を見渡す。駅は待ち伏せされている可能性があるのでタクシーを拾える大通りへ向かう。

「さっきも言ったが、もうこの辺りはうろつくなよ。身バレはしてんのか?」
「学校はバレてんじゃないかな。あ、女の子からラインが来てどの子かわかったよ。俺の友達が声かけた子の連れでさ、彼氏いないって言ってたはずなんだよね。納得いかないのは俺、その子と最後までしてないんだよ。キスして胸触って、ちょっとアソコに指入れただけなのにさ。それだけであんなにボコボコにされて、まだつけ狙われるってちょっと割に合わなくない?」
「お前の彼女が他の男に同じことされても平気なのか?」
「ぜんぜん平気。てか、そんな股の緩い女、彼女にしないし」
「彼女いるのか?」
「いまはいない」
「お友達は?」
「何人だろ? 数えたことない」

 純はあっけらかんと笑った。

「自慢じゃないけど一応進学校だからさ、この顔で制服着て歩いてるだけで寄ってくる女は多いんだよね。たまに今井さんみたいなおじさんも釣れるけど」
「俺は魚かよ」

 前方にあきらかに雰囲気の違う集団を見つけ、純の手を引いて路地裏に入った。見られたかもしれない。急いで路地裏を進んで隣の通りへ。

「さっきのが俺を探してるやつらかな」
「入れたのは指だけだから許してくださいって頭下げて来いよ」
「この前の痣、まだ痛むんだよね。むかつくよね。俺悪くないのにさ」

 駅へ行っても反対方向へ逃げても、あいつらに挟み撃ちされそうな気がした。細い道を選んでデタラメに歩く。タクシーも通らない。
 いつの間にかラブホ街に来ていた。

「おい、純、ラブホでしばらくやり過ごすぞ」
「最初からそれが目的でここに連れてきてたりして?」
「たまたまだ。またボコられたくなかったら行くぞ」
「仕方ないなあ」

 純は俺の腕に腕を絡めてきた。

「おい」
「どうせホテル入るなら、こうしたほうが恋人同士っぽいじゃん」
「そこまでしなくても」
「照れてる? かわいいとこあるね、今井さん」

 なにを言い返してもからかわれる。実際、俺は少し照れていた。




関連記事
スポンサーサイト
[PR]

コメント
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
お返事
えりさん

いつもお優しいコメントありがとうございます……!!
パソコン画面の前で震えました。まさかそんなふうに言ってもらえると思っていなくて。この話はわりと辛辣なコメントをもらってしまうかもと覚悟していたくらいなので、一人でも楽しんでくれている人がいるとわかって感動です!めげずに完成させてよかったー!



管理者にだけ表示を許可する