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Tedious story(2/15)

2018.11.13.Tue.
<前話はこちら>

 翌日から純を探し始めた。仕事終わりや休日、あの日純と会った同じ路線、同じ時間、同じ駅を中心に、乗客の出入りをチェックした。警戒しているだろうからすぐに見つかるとは思っていなかった。向こうの気が緩む頃を待って地道に見張り続けた。

 一ヶ月経った日曜日、朝から張り込んでいたらやっと純が駅に現れた。制服ではなく私服姿だった。それでもすぐわかった。シルバーアクセをつけて、今時の洒落た高校生のような格好。手足が長いせいでモデルのようにも見える。

 純は俺には気付かず電車に乗り込んだ。座席につくとスマホを操作しだす。おかげで尾行が楽になる。

 若者向けの街で純は電車をおりた。電話をしながら街を歩く。誰かと待ち合わせだろう。彼女だろうか。あの容姿ならさぞモテるだろう。案の定、駅を出て数分で純は派手めな女に声をかけられていた。断るジェスチャーをして純は歩き続ける。

 ひと気の少ない通りにきた。純はスマホをポケットにしまった。何かを探すように左右を見渡す。あるいは誰かを。

「若松!」

 親しげな笑みを浮かべながら純が手をあげた。高校生くらいの青年が純に向かって駆けて来る。公園で見た仲間とは正反対の、お洒落とは無縁の地味な男だった。

「ごめん、高野、待った?」
「俺もいま来たとこ」
「急におなか痛くなってコンビニ行ってたんだ。連絡すればよかった。ほんとごめん」
「いいって、謝んなくて。おなかもう平気?」
「うん。大丈夫」

 若松と呼ばれた青年の顔が赤い。さっきからずっと俯きがち。もとから人の目を見て話すことが苦手なのか、それとも純の顔をまともに見られないのか。

 純はその反応を楽しむように眺めている。背中に手をあて、顔を覗きこむ。若松は近くなった顔から逃げるように横を向いた。

 一瞬だった。純は無防備にさらされた若松の頬に唇を押し当てた。驚いた若松が純を振り返る。悪戯っぽく純が笑う。若松はさらに顔を赤くして、それを自覚したのか手で顔を隠した。

「行こう。どっかお店入ろっか?」

 純の言葉に若松が何度も小さく頷く。なんだこれは。俺は何を見せられている?

 二人は少し歩いた先のカフェに入った。勘定は別々。二人掛けのテーブルに向かい合って座った。俺は店の外で、スマホを操作するふりをしながら見張った。

 ニコニコした純が若松に話しかけている。若松もそれに一生懸命返している。余裕のある純に対し、若松は身振り手振りを交えて必死だ。まさに、手練れの純と、童貞丸出しの若松という感じ。

 あの二人はできてるのか? 男同士で付き合ってるいるのか?

 純のあのお綺麗な顔だ。男からモテても不思議はない。だが純が男を相手にしているのが解せない。女に不自由しないはずだ。なぜわざわざ男を、しかもあんな冴えない若松を?

 さっきは純から若松にキスしていた。ほっぺたにだが、確かにキスをしていた。

 まさか、純のほうが惚れているのか? あの童貞臭いガキに?

 店の二人に動きがあった。若松が鞄から小包を取り出した。ラッピングされた小さな箱。受け取った純が大げさに喜んでいるのが見える。若松からの贈り物。包装紙が剥がされる。箱の中から純が取りだしたのはブレスレットだった。

 純が若松に何かを言う。若松が頷く。純はブレスレットを手首につけた。それを若松にも見せる。若松はデレデレとした顔で頭を掻いている。

 なんだこのおままごとは。苛々しながらスマホで撮影した。

 純が男と付き合っている。これがもしあいつの弱みになるのなら。そう思ってシャッターを押すが、決定的ではないし、純の弱みになるとは思えなかった。

 若松の頬にキスをした時も、プレゼントに喜んでみせた時も、どの瞬間もすべてが嘘くさい。俺を引き止めるためにゲーセンに誘い夜道が怖いから送って欲しいと頼んできた時とまったく同じように見える。例えるなら、客をカモとしか見ていないホステスの接客の仕方と同じ。

 二人が店から出てきた。店に入るまえは猫背だった若松の背が伸びていた。二人の間では純が彼女役なのだろうか。そうさせたい顔立ちではあるが、あれはかなりの性悪だ。

 二人は街を歩きながらたまに店に入ったりしてダラダラと無駄な時間を過ごしていた。デートというやつだろう。俺は何をしているんだと自問自答しながらあとをつけていたら、いつの間にか駅前に戻って来ていた。

 二人が立ち止まったのでコンビニの看板に隠れた。

「今日は楽しかったよ」
「僕も。学校じゃあまり話せないから、今日は高野とゆっくりできて嬉しかった」
「学校でも話しかけておいでよ」
「む、無理だよ、高野と僕じゃ釣り合わないもん。話しかけたら他の奴らに変な目で見られる」
「別に構わないだろ」
「僕はよくても、高野が……。ぼ、僕は今のままでも充分幸せだから。高野が変に噂されるのだけは嫌なんだ」
「若松のそういう優しいところ、俺好きだよ」
「優しくなんか……。俺の気持ち知って、気持ち悪がらずにこうして会ってくれる高野のほうがずっと優しい」
「若松と一緒にいるの、楽しいもん。また二人で遊ぼうよ」
「うん。今日はほんとにありがとう」
「こっちこそ。これ、大事にするね」

 純は手頸のブレスレットに触れた。若松は照れて俯く。

「じゃあまた明日、学校でね」

 純が改札を抜ける。若松はそれをじっと見送る。見失う前に俺も改札を抜けた。若松はおそらく、純の姿が見えなくなってもしばらく動かないだろう。

 二人の関係がなんなのかは知らないし、どうでもいい。若松が純を好きで、純はそれをどういうわけか受け入れている。ただ、正反対に見える二人の組み合わせは意外だった。

 純はホームの端っこでまたスマホをいじっていた。自動販売機のかげからそれを見張る。やってきた電車に乗り込み、純が降りた駅で一緒に降りた。少し距離をあけてまたあとをつける。

 純がビルのなかに入った。地下の階段を降りていく。鉢合わせる危険があるので仕方なく通りで待った。テナントの集合ビル。地下にも店がある。英語で書かれた店名。なんの店なのかもわからない。

 十分ほどで純が出てきた。駅とは反対のほうへまた歩き出す。目的地が決まっている足取り。若松と会ったあと得体の知れない店へ寄り、また別の場所へ。ずいぶん忙しいことだ。

 純がスマホを出して誰かへ電話をした。声は聞こえなかったが、通話時間は一分もなかった。

 しばらく歩いていたらどこからか現れた男三人が純を取り囲んだ。一人が純の肩に腕をまわして路地裏へ連れこむ。男たちの顔つきと雰囲気から純の仲間ではなさそうだった。静かに駆け寄り純が連れこまれた路地裏を覗きこんだ。

「人の女に手出してただで済むと思ってんのか」

 精一杯ドスを聞かせた声が聞こえた。女の取り合いの喧嘩。あほらしい。

「ちょっと待ってよ、女ってどの女のこと?」

 この状況でも純は冷静なまま。むしろ相手をおちょくる余裕さえある。いや、ただの虚勢か?

「ちょっと顔がいいからって調子乗ってんじゃねえよ」
「どこの誰かわかんねえくらい、その顔グチャグチャにしてやるからな」

 路地から鈍い音が聞こえた。品のない言葉を喚きながら男たちが純を叩きのめしている。たまに純の呻き声が聞こえる。だが泣き言や許しを請う声は聞こえない。

 純の顔が殴られている。潰れ、裂け、血を吹きだす純の顔を想像する。腹の底がグツグツと熱くなった。あの顔を先に壊されたことに対する怒りだ。

 気付くと体が動いていた。路地に入り、男たちに近づく。一人が俺に気付いた。

「なんだ、おっさん」

 警戒はしていても、いきなり見ず知らずの人間が殴ってくるとは思っていない。近くにいた男の顔面に拳を叩きこんだ。力加減はしない。男が吹っ飛び壁にぶつかって倒れた。残り二人の顔色がかわった。先に手を出される前にもう一人の男に金的を食らわす。男は膝をついて悶絶した。複数相手の喧嘩で手加減は命取りになる。残りの一人は足をもつれさせながら反対へ逃げていった。わざわざ追いかけたりしない。

 地面に寝転がっている純を抱き起こした。顔が潰れて血まみれだ。

「今井さん、強いんじゃん」

 のどに何か詰まったような純の声。

「お前は仲間がいないと弱いな」
「そんなの見たらわかるでしょ」
「しょうもない女に手を出すからだ」
「ほんとに、どの女のことか、わかんないんだって」

 純は力なく笑った。体を抱きかかえながら路地を出た。出くわした通行人がぎょっとした顔をする。

「どこに連れて行けばいい?」
「この先に五階建てのマンションあるから、そこ連れてって」

 純が言うマンションは200メートルほど先にあった。歩みの遅い純に肩を貸しながら歩く。予想通り細い体だった。若い男特有のしなやかさもある。今日も甘いムスクの香りがした。

「なんで俺を助けてくれたの?」

 喋るのも辛そうな息遣い。

「お前をボコボコにしてやるのは俺だからな」
「今井さんって強いのに、なんであの夜は無抵抗だったのさ」
「お前らがどれだけイカれた奴らかわからなかったからな。下手にやりあうと大怪我するだろ」
「傷、治ってるね」
「お前らが手加減してくれたおかげでな。丸一日飯は食えなかったけどな」
「俺は一日で済むかな」
「お前は2、3日は辛いぞ」
「あー、だんだん腹立ってきた」

 ぜんぜんそんな風には聞こえない口調。本当にこいつはおかしな奴だ。




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