とどめを刺されたい(3/3)
2018.08.23.Thu.
<前話>
男から解放されて、シャワーも浴びずホテルを出た。どこへ行こう。どこへ帰ろう。店? どこの? レンタル店は潰れた。隼人がいる店? あそこにはもう行きたくない。俺の負けでいい。逃げたい。隼人から逃げたい。
スマホを出した。迷ったけれど五木に電話した。もうあの仕事は辞める。隼人が店長やりたいって言ってるんだから、あいつがやればいい。この結果を招いたのは五木の責任でもあるんだから、また人手不足になっても俺の知ったことか。
意外にも五木は数コールで電話に出た。珍しい。雪が降るんじゃないか。
「俺、仕事辞めるから」
一瞬の間。
『いまどこにいる?』
「どこでもいいだろ。とにかく、辞めるから! 今日! 今すぐ! もう店に戻んねえから!!」
堰を切ったように大声が出た。喚く俺に対し、五木の冷静な声。
『何があった?』
「……ッ! あんたに関係ないだろ! 言ったってどうせ、自分でどうにかしろって言うくせに!」
『とにかくいまどこにいるか言え。すぐ迎えに行ってやるから』
五木のくせにちょっと優しい口調で言うもんだから、俺もついぽろっと自分の居場所を教えてしまった。
十五分ほどで五木の車が見えた。助手席に乗り込んで、さっきの出来事を話した。
「舐めた真似してくれたな、あいつ」
イラついた様子で五木がステアリングを指で叩く。
「言っとくけど、あんたが昔俺にしたのと同じだかんな」
「俺はもっと優しかっただろ。ちゃんと金もやったし」
「よく言う! 動画撮って脅したくせに」
「そっちこそよく言うぜ。イキまくってたくせに。今日の客とヤッてイケたか?」
「イケるわけねえだろ」
「じゃ、お前のにおいは全部客のか」
言うと五木は窓を開けた。シャワーを浴びてないから、そうとうイカ臭かったようだ。
車は五木のマンションに入った。久し振りに足を踏み入れた五木の部屋。においを嗅いだだけで、現金にも股間が疼いた。
浴室に押し込まれ、シャワーをかけられた。服が濡れていく。
「着替えないんだけど」
「俺のを貸してやる」
「やだよ。あんたのおっさんくさい」
「おっさんで悪かったな」
言いながら五木は腕まくりした。濡れて重くなった俺の服を脱がせていく。全裸になると後ろを向かされた。尻の間に五木の指が入ってくる。客のちんこが出入りしたばかりで熱い。
「中に出されたな?」
「尻に一回、口に一回。なんでもありで1時間1万だって。俺って安すぎない?」
「ああ、安すぎだ」
シャワーのヘッドが尻に押し当てられた。熱いお湯が中に入ってくる。離れると五木の指が中の精液を掻き出した。セックスのあとの処理をされたのは初めてだ。あの五木が強/姦された俺を労わってくれてるなんて驚きだ。
俺のちんこはいつの間にか勃起していた。先からシャワーのお湯だか先走りだかわかんない水滴が滴り落ちている。
ホテルの客としてる時は当然勃たなかった。さっき車のなかで五木も同じことをしたと詰ってみたが、俺の体が見せる反応はまるで違う。
握って上下に手を動かした。すぐイキそうになる。
「勝手にするな」
イク寸前、五木に止められた。不満に思って振り返ったら目の前に五木の顔。背中に五木が密着している。熱い怒張が俺の尻に張り付いている。
「入れるぞ」
囁くような低い声が鼓膜を震わせる。頷く前に入ってきた。壁に手をついて尻を突きだす。奥までゆっくり五木のもので侵略される。
「あ、ヤバ……出るかも……ッ」
触ることなく。三擦り半という最速記録を叩きだして俺は射精していた。排水溝へお湯といっしょに精液が流れていく。背後から聞こえる五木の息遣いだけで俺の体はまた熱くなる。
「中、出したあと……、口にも出して、欲しっ……、客の精子の味、まだ取れねえから……!」
「あとで出してやる。上も下も中まで全部犯しまくってやるから、安心しろ」
五木がそう言うから、俺は安心して身を任せた。
セックスのあと仮眠を取っていたら五木に揺さぶり起こされた。
「行くぞ、支度しろ」
と急かされてまた車に乗る。向かった先は隼人がいる店。「早く来い」と助手席から動かない俺の腕を五木に捕まれ引きずり降ろされた。
505号室。五木が先に中に入った。五木を迎える女の子たちの甲高い声。
「五木さん、連絡くれたら、自分迎えに行ったのに」
と隼人の声が聞こえて回れ右して帰りたくなった。五木に腕を掴まれてて逃げられない。俺の顔を見たら隼人はどんな顔をしてなにを言うんだろう。俺のプライドはもうズタボロだ。これ以上傷つきたくない。
五木は無言で女の子たちがいる待機部屋の仕切り戸を閉めた。女の子たちを締めだして振り返った五木の顔が一変する。冷酷な目で隼人を見下ろす。
「隼人、お前、いますぐ土下座してこいつに詫びいれろ」
五木は俺を前に押しだした。俺を見て隼人が顔を歪める。戸惑いの目と、半笑いの口元。あべこべの表情。
「は? 俺がこのホモに土下座? 意味わかんねえ」
「意味ならわかるだろ。お前、自分のケツも拭けねえのか? シノギがねえ破門寸前の無能をうちが温情で雇ってやってんだぞ。こいつはお前の上司だ。上司に舐めた真似してんじゃねえぞ」
「てめえこそ何様だ! 俺に舐めた口きいてんじゃねえよ! お前らみたいな半端な準構とは違えんだよ!!」
「誰が準構だこら。俺もやくざだ馬鹿野郎が」
五木の右手が動いたと思ったら隼人が吹っ飛ばされた。大きな音を立てて隼人の体がシンクに倒れ込む。突然の五木の豹変に腰を抜かして俺は床にへたりこんだ。
「てめえ、この野郎……!!」
シンクに手をついて隼人が体勢を立て直そうとする。その隙を与えず五木の踵が隼人の腹にめり込んだ。隼人は体を二つに折って床にうずくまった。グボッと音がしたと思ったら隼人は嘔吐していた。
「こいつに土下座して詫び入れろ」
体を震わせながら隼人は首を左右に振った。五木は呆れたように鼻で笑ったあと、躊躇なく隼人の顔を蹴りあげた。俺は思わず目を背けた。
「土下座して、詫び入れろ」
腹を押さえていた手を床について、隼人が頭をさげる。
「相手が違うだろうが」
よろめきながら、隼人は這いつくばるように体の向きをかえると俺に頭をさげた。
「言うことあるだろ、おい」
「す……いません……した……」
「こいつは堅気だ。手を出したらどうなるかわかるな」
床に額をこすりつけたまま隼人が頷く。
「お前に価値はねえが、こいつには価値がある。お前は使えねえただの馬鹿だが、こいつは俺の稼ぎに貢献してる。お前は何ができる? 言われた通り車出して女運ぶしか能がねえくせに、調子に乗った真似してんじゃねえよ。ここは俺の店だ。なに勝手に客引いてんだ? いつからお前の店になったんだよ?」
「すいませんでした」
涙で濁った声が許しを請う。ずっと土下座したまま。顔を上げることもできないみたいだ。
「お前にも客を取らせる。こいつがされたのと同じことをさせる」
「勘弁してください!!」
「いまさら調子良すぎるだろ」
「すいませんでした! それだけは勘弁してください!!」
必死の声で五木に泣き縋る。隼人がなんだか可哀そうになってきた。もう暴力もゲロのにおいもうんざりだ。
「もういいよ、俺は」
言うと五木は顔を顰めた。
「おい、ここでちゃんとシメとかねえと、こいつはすぐ調子に乗るぞ」
「乗りません! もう絶対乗りません!!」
かぶせ気味に隼人が否定する。年下の弱い者いじめをしているみたいな気分だ。
「次、なんかしたらクビってことで」
俺の提案に五木は肩をすくめた。
「甘いな、お前は。隼人、感謝しろよ」
ありがとうございます!ってでかい声で隼人が何度も頭をさげる。俺を蔑む目は消えて、必死に媚びへつらう姿は哀れだ。あの威勢の良さはなんだったんだ。
隼人に部屋の掃除を命じたあと、五木は奥の仕切り戸を開けて「ごめんね、驚かせて。俺が怖くなるのは男の従業員だけだから」と女の子たちへのフォローをしてた。俺はドン引き中だったけど、女の子たちの立ち直りは早くて「五木さん、やくざさんだったの?」と遠慮なく踏みこんだ質問をする。
「代紋があったほうが色々便利かなと思ってね。大丈夫、俺は怖くないやくざだから。みんなを驚かせたお詫びに何か甘いもの買ってくるよ」
怖くないやくざなんているんだろうか。そんな素朴な疑問が頭に浮かんだけど、口を開くのも億劫だった。よく考えたら俺、今日ホテルでおっさんに犯されて五木ともセックスして、そのあとこの大立ち回り見せられたんだった。そりゃクタクタにもなる。
「行くぞ」
床にへたりこんでいる俺に五木が声をかける。重い腰をあげ、五木と一緒に部屋を出た。二人きりでエレベーターに乗り込む。
「あんた、いつやくざになったんだよ」
「店立ち上げる時にな」
「入れ墨入れてんの?」
「入れてねえよ、見ただろ。あんな不自由なもん誰が入れるか」
「本格的にやくざの奴隷じゃん」
「同じ奴隷なら、稼ががねえと損だろ」
「かわいそ。上納金、きつくなんじゃないの?」
「しっかり稼げよ、俺のために」
「稼いで欲しかったら、もっと従業員を大切にしろよ。ずっとほったらかしにしやがって」
「大切にしてるだろ。さっきも隼人に灸すえてやっただろ」
やりすぎだが、実はちょっとスカッとした。あの馬鹿がこれでもう俺にちょっかいかけてこないとしたら、かなり嬉しい。五木が俺のためにあそこまでしてくれるとは思わなかった。ただ、上下関係を隼人に教えるためだったのかもしれないけど。
「あんたってなにげに俺を大事に扱ってくれるよね」
「今頃気付いたのか」
「あんたの愛情表現ってわかりにくいんだよ」
「これならわかりやすいか?」
いきなり壁に押しつけられてキスされた。もうクタクタになってるはずなのに、舌を絡め合っていたら股間が熱くなった。五木も暴力のあとで興奮しているのかもしれない。腰に固いものが当たる。
「車でいいか?」
五木の誘いにすぐ頷いた。エレベーターを出て、五木の車の後部座席に二人で乗り込む。キスをしながらお互いの服を脱がせあい、性急に繋がった。
女の子たちに甘いものを買いにいかなきゃいけない。予約も入ってる。仕事もしなきゃいけない。隼人が女の子たちをさばけると思えない。でも今は。
五木と繋がったこの時間を、誰にも何にも、邪魔されたくなかった。
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男から解放されて、シャワーも浴びずホテルを出た。どこへ行こう。どこへ帰ろう。店? どこの? レンタル店は潰れた。隼人がいる店? あそこにはもう行きたくない。俺の負けでいい。逃げたい。隼人から逃げたい。
スマホを出した。迷ったけれど五木に電話した。もうあの仕事は辞める。隼人が店長やりたいって言ってるんだから、あいつがやればいい。この結果を招いたのは五木の責任でもあるんだから、また人手不足になっても俺の知ったことか。
意外にも五木は数コールで電話に出た。珍しい。雪が降るんじゃないか。
「俺、仕事辞めるから」
一瞬の間。
『いまどこにいる?』
「どこでもいいだろ。とにかく、辞めるから! 今日! 今すぐ! もう店に戻んねえから!!」
堰を切ったように大声が出た。喚く俺に対し、五木の冷静な声。
『何があった?』
「……ッ! あんたに関係ないだろ! 言ったってどうせ、自分でどうにかしろって言うくせに!」
『とにかくいまどこにいるか言え。すぐ迎えに行ってやるから』
五木のくせにちょっと優しい口調で言うもんだから、俺もついぽろっと自分の居場所を教えてしまった。
十五分ほどで五木の車が見えた。助手席に乗り込んで、さっきの出来事を話した。
「舐めた真似してくれたな、あいつ」
イラついた様子で五木がステアリングを指で叩く。
「言っとくけど、あんたが昔俺にしたのと同じだかんな」
「俺はもっと優しかっただろ。ちゃんと金もやったし」
「よく言う! 動画撮って脅したくせに」
「そっちこそよく言うぜ。イキまくってたくせに。今日の客とヤッてイケたか?」
「イケるわけねえだろ」
「じゃ、お前のにおいは全部客のか」
言うと五木は窓を開けた。シャワーを浴びてないから、そうとうイカ臭かったようだ。
車は五木のマンションに入った。久し振りに足を踏み入れた五木の部屋。においを嗅いだだけで、現金にも股間が疼いた。
浴室に押し込まれ、シャワーをかけられた。服が濡れていく。
「着替えないんだけど」
「俺のを貸してやる」
「やだよ。あんたのおっさんくさい」
「おっさんで悪かったな」
言いながら五木は腕まくりした。濡れて重くなった俺の服を脱がせていく。全裸になると後ろを向かされた。尻の間に五木の指が入ってくる。客のちんこが出入りしたばかりで熱い。
「中に出されたな?」
「尻に一回、口に一回。なんでもありで1時間1万だって。俺って安すぎない?」
「ああ、安すぎだ」
シャワーのヘッドが尻に押し当てられた。熱いお湯が中に入ってくる。離れると五木の指が中の精液を掻き出した。セックスのあとの処理をされたのは初めてだ。あの五木が強/姦された俺を労わってくれてるなんて驚きだ。
俺のちんこはいつの間にか勃起していた。先からシャワーのお湯だか先走りだかわかんない水滴が滴り落ちている。
ホテルの客としてる時は当然勃たなかった。さっき車のなかで五木も同じことをしたと詰ってみたが、俺の体が見せる反応はまるで違う。
握って上下に手を動かした。すぐイキそうになる。
「勝手にするな」
イク寸前、五木に止められた。不満に思って振り返ったら目の前に五木の顔。背中に五木が密着している。熱い怒張が俺の尻に張り付いている。
「入れるぞ」
囁くような低い声が鼓膜を震わせる。頷く前に入ってきた。壁に手をついて尻を突きだす。奥までゆっくり五木のもので侵略される。
「あ、ヤバ……出るかも……ッ」
触ることなく。三擦り半という最速記録を叩きだして俺は射精していた。排水溝へお湯といっしょに精液が流れていく。背後から聞こえる五木の息遣いだけで俺の体はまた熱くなる。
「中、出したあと……、口にも出して、欲しっ……、客の精子の味、まだ取れねえから……!」
「あとで出してやる。上も下も中まで全部犯しまくってやるから、安心しろ」
五木がそう言うから、俺は安心して身を任せた。
セックスのあと仮眠を取っていたら五木に揺さぶり起こされた。
「行くぞ、支度しろ」
と急かされてまた車に乗る。向かった先は隼人がいる店。「早く来い」と助手席から動かない俺の腕を五木に捕まれ引きずり降ろされた。
505号室。五木が先に中に入った。五木を迎える女の子たちの甲高い声。
「五木さん、連絡くれたら、自分迎えに行ったのに」
と隼人の声が聞こえて回れ右して帰りたくなった。五木に腕を掴まれてて逃げられない。俺の顔を見たら隼人はどんな顔をしてなにを言うんだろう。俺のプライドはもうズタボロだ。これ以上傷つきたくない。
五木は無言で女の子たちがいる待機部屋の仕切り戸を閉めた。女の子たちを締めだして振り返った五木の顔が一変する。冷酷な目で隼人を見下ろす。
「隼人、お前、いますぐ土下座してこいつに詫びいれろ」
五木は俺を前に押しだした。俺を見て隼人が顔を歪める。戸惑いの目と、半笑いの口元。あべこべの表情。
「は? 俺がこのホモに土下座? 意味わかんねえ」
「意味ならわかるだろ。お前、自分のケツも拭けねえのか? シノギがねえ破門寸前の無能をうちが温情で雇ってやってんだぞ。こいつはお前の上司だ。上司に舐めた真似してんじゃねえぞ」
「てめえこそ何様だ! 俺に舐めた口きいてんじゃねえよ! お前らみたいな半端な準構とは違えんだよ!!」
「誰が準構だこら。俺もやくざだ馬鹿野郎が」
五木の右手が動いたと思ったら隼人が吹っ飛ばされた。大きな音を立てて隼人の体がシンクに倒れ込む。突然の五木の豹変に腰を抜かして俺は床にへたりこんだ。
「てめえ、この野郎……!!」
シンクに手をついて隼人が体勢を立て直そうとする。その隙を与えず五木の踵が隼人の腹にめり込んだ。隼人は体を二つに折って床にうずくまった。グボッと音がしたと思ったら隼人は嘔吐していた。
「こいつに土下座して詫び入れろ」
体を震わせながら隼人は首を左右に振った。五木は呆れたように鼻で笑ったあと、躊躇なく隼人の顔を蹴りあげた。俺は思わず目を背けた。
「土下座して、詫び入れろ」
腹を押さえていた手を床について、隼人が頭をさげる。
「相手が違うだろうが」
よろめきながら、隼人は這いつくばるように体の向きをかえると俺に頭をさげた。
「言うことあるだろ、おい」
「す……いません……した……」
「こいつは堅気だ。手を出したらどうなるかわかるな」
床に額をこすりつけたまま隼人が頷く。
「お前に価値はねえが、こいつには価値がある。お前は使えねえただの馬鹿だが、こいつは俺の稼ぎに貢献してる。お前は何ができる? 言われた通り車出して女運ぶしか能がねえくせに、調子に乗った真似してんじゃねえよ。ここは俺の店だ。なに勝手に客引いてんだ? いつからお前の店になったんだよ?」
「すいませんでした」
涙で濁った声が許しを請う。ずっと土下座したまま。顔を上げることもできないみたいだ。
「お前にも客を取らせる。こいつがされたのと同じことをさせる」
「勘弁してください!!」
「いまさら調子良すぎるだろ」
「すいませんでした! それだけは勘弁してください!!」
必死の声で五木に泣き縋る。隼人がなんだか可哀そうになってきた。もう暴力もゲロのにおいもうんざりだ。
「もういいよ、俺は」
言うと五木は顔を顰めた。
「おい、ここでちゃんとシメとかねえと、こいつはすぐ調子に乗るぞ」
「乗りません! もう絶対乗りません!!」
かぶせ気味に隼人が否定する。年下の弱い者いじめをしているみたいな気分だ。
「次、なんかしたらクビってことで」
俺の提案に五木は肩をすくめた。
「甘いな、お前は。隼人、感謝しろよ」
ありがとうございます!ってでかい声で隼人が何度も頭をさげる。俺を蔑む目は消えて、必死に媚びへつらう姿は哀れだ。あの威勢の良さはなんだったんだ。
隼人に部屋の掃除を命じたあと、五木は奥の仕切り戸を開けて「ごめんね、驚かせて。俺が怖くなるのは男の従業員だけだから」と女の子たちへのフォローをしてた。俺はドン引き中だったけど、女の子たちの立ち直りは早くて「五木さん、やくざさんだったの?」と遠慮なく踏みこんだ質問をする。
「代紋があったほうが色々便利かなと思ってね。大丈夫、俺は怖くないやくざだから。みんなを驚かせたお詫びに何か甘いもの買ってくるよ」
怖くないやくざなんているんだろうか。そんな素朴な疑問が頭に浮かんだけど、口を開くのも億劫だった。よく考えたら俺、今日ホテルでおっさんに犯されて五木ともセックスして、そのあとこの大立ち回り見せられたんだった。そりゃクタクタにもなる。
「行くぞ」
床にへたりこんでいる俺に五木が声をかける。重い腰をあげ、五木と一緒に部屋を出た。二人きりでエレベーターに乗り込む。
「あんた、いつやくざになったんだよ」
「店立ち上げる時にな」
「入れ墨入れてんの?」
「入れてねえよ、見ただろ。あんな不自由なもん誰が入れるか」
「本格的にやくざの奴隷じゃん」
「同じ奴隷なら、稼ががねえと損だろ」
「かわいそ。上納金、きつくなんじゃないの?」
「しっかり稼げよ、俺のために」
「稼いで欲しかったら、もっと従業員を大切にしろよ。ずっとほったらかしにしやがって」
「大切にしてるだろ。さっきも隼人に灸すえてやっただろ」
やりすぎだが、実はちょっとスカッとした。あの馬鹿がこれでもう俺にちょっかいかけてこないとしたら、かなり嬉しい。五木が俺のためにあそこまでしてくれるとは思わなかった。ただ、上下関係を隼人に教えるためだったのかもしれないけど。
「あんたってなにげに俺を大事に扱ってくれるよね」
「今頃気付いたのか」
「あんたの愛情表現ってわかりにくいんだよ」
「これならわかりやすいか?」
いきなり壁に押しつけられてキスされた。もうクタクタになってるはずなのに、舌を絡め合っていたら股間が熱くなった。五木も暴力のあとで興奮しているのかもしれない。腰に固いものが当たる。
「車でいいか?」
五木の誘いにすぐ頷いた。エレベーターを出て、五木の車の後部座席に二人で乗り込む。キスをしながらお互いの服を脱がせあい、性急に繋がった。
女の子たちに甘いものを買いにいかなきゃいけない。予約も入ってる。仕事もしなきゃいけない。隼人が女の子たちをさばけると思えない。でも今は。
五木と繋がったこの時間を、誰にも何にも、邪魔されたくなかった。
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ありがとうございます!
特定の誰かにだけ!っていうこの特別感、いいですよね!私も大好物です。
物理的にイチャイチャさせずとも、それだけでご飯一杯いける!みたいなw
後日談的なやつも書きたいです!
宙ぶらりんは書いてる途中から先生の性格を見失ってしまってw
柔軟な性格のようなのできっと幸せになるはず!w
嬉しいお言葉をありがとうございます!これからも頑張ります!!