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生温い(2/2)

2018.08.16.Thu.
<前話>

 2、3時間って言ったくせに、実際五木から電話がかかってきたのは4時間も経ってからだった。わかってたけどむかつく。しかも五木は一旦家に帰ったのか、スーツに着替えていた。俺、パーカーにジャケットって学生みたいな格好なんだけど。

 五木の車でホテルに乗りつけて、いつの間に予約取ってたのか五木の名前で席に案内された。ディナータイムなので静かで上品な雰囲気、ドレスアップした客も多い。ますます俺が浮くじゃん。

「好きな物頼めよ」

 メニューを広げる俺に五木がニヤニヤ笑う。メニューが難解すぎてどんな料理か想像できねえよ。

「あんたに任せる」

 五木はこなれた感じで注文するとメニューをウエイターに返した。荒稼ぎした金でこういう店に女連れて来てたんだろうってのがわかる。

「そういえば何歳になったんだ?」
「えっ」
「誕生日だったんだろ」
「25」
「初めて会ったのが18の時だから、もう7年になるのか」
「なかなか濃い7年だったよな。騙されて犯されるわ、AV出演させられるわ、あんたはやくざの奴隷になって、刑務所入れられるしさ」
「そう言われると、お前と出会ってからろくなことがないな。疫病神か」
「こっちの台詞だし」

 ワインが運ばれてきたので会話を一旦中止する。白ワイン。口当たりがよくておいしい。

「そういえばさっき電話でえらく不機嫌だったな。何があった?」
「別に。あんたに関係ないことだよ」
「ならいい」

 またさっきのウエイターが料理を運んできた。大きな皿に少しの料理。小洒落た盛り付けでそれっぽく見えるだけじゃん、こんなの。一皿食べ終わるとまた次の皿がくる。これがコース料理か。25歳にして初めて食うわ。メインの肉も少なっ。こんなことならやっぱ焼肉にしときゃよかったかも。

「カードキー。忘れる前に渡しとく」

 デザートを待つ間、五木が思い出したようにポケットからカードを出した。

「ほんとに部屋取ってくれたんだ?」
「誕生日プレゼントだ。もう俺に集るなよ」

 テーブルのカードキーと五木の顔を交互に見る。

「なんだ」
「あんたは帰んの?」
「俺はお呼びじゃねえんだろ」

 確かにそう言ったけど。あんな本心隠したやり取りなんていつものことだろ。わかれよそんくらい。口をモゴモゴさせる俺を見て、五木は「クッ」と笑った。

「そんな顔で誘われちゃ仕方ねえな」

 って言うとテーブルのカードをまた自分のポケットに戻した。

「誘ってねえし」

 誘ってはいないが、縋る顔をしていた自覚はあったので抗議の声も自然と控えめ。五木はずっとニヤついている。恥ずかしくって顔あげられない。



 デザートを食べてすぐ部屋に向かった。五木をベッドに押し倒し、その上に馬乗りになる。ベルトを外して前を緩め、もどかしく引っ張りだしたちんこにしゃぶりついた。

「そんなにこれが欲しかったのか」

 口の中で五木のちんこがピクピク動く。俺は無言でしゃぶり続けた。完全に勃ちあがるとそこへ跨り、尻を落としていった。久し振りでけっこうきつい。歯を食い縛って五木を咥えこむ。

「お前、最後に女とセックスしたの、いつだ?」
「なんで? 覚えてないけど」
「覚えてないくらい前か?」
「出会いがないんだから仕方ないだろ。あんたみたいに、3Pしてる暇もないし」
「女抱けるのか?」
「どういう意味だよ」
「前に言ってたよな、お前、男とヤルとき俺がいなきゃ勃たないって。もしかして、女とヤルときも勃たないんじゃねえのか?」
「勃つよ! 今日だって勃ってたじゃん」
「なかなかイカなかっただろ。最後は俺の顔を見ながら扱いてた。あれ、俺を見ながらじゃなきゃイケなかったんじゃねえのか?」

 内心ぎくりとしてたら五木がにっと笑った。

「図星だな。中が締まった」
「あんたの顔なんか見なくてもイケるし」
「じゃあまた仕事頼もうかな」

 俺の腰を掴んで五木が下から突きあげてきた。

「ハッ、あっ」
「あいかわらずキツいな。男ともしてねえのか? ああ、俺がいなきゃ勃たねえんだっけ」

 楽しそうな声。リズムをつけて突きあげてくる。いいところに当てるために俺も腰を動かし、振り落とされない態勢を取る。

「ちゃん、と、勃つ、しっ!」

 家で一人でするときは勃起もするし射精もする。でもなぜか生身相手になると気分が乗らなくなって射精にまで至らなくなる。

 今日、女優さんにぶっかけるって時にその感覚に陥って焦った。五木を探したのはほとんど無意識だ。若い女の裸を見ても興奮はしなかった。射精のプレッシャーのほうが大きかった。そんな時に五木を見るとその気になれる。刷り込まれた反射。いつまで俺を縛りつけるんだ。

「一回抜くぞ、腰が痛い」

 五木は体を起こすと俺を押し倒し、また挿入した。

「3Pなんかするから痛いんじゃないの」

 俺の嫌味をフンと鼻で笑う。

「まだ根に持ってんのか」
「ケーキとられたんだぞ。あんたと食べようと思って買ってったのに」
「悪かったって。撮影のいろはを教える名目なだけで、あいつらも仕事欲しさに枕営業必死なんだよ」
「役得だね」
「馬鹿言え。興味ない女相手に勃起させ続けるのも大変なんだぞ」
「年だからじゃないの? あんたこそ、何歳だっけ」
「舐めんな、まだ32だ」

 足を押し広げられた。叩きこむように五木が腰を振る。

「ふあっ、あっ」
「今度好きなだけケーキ食わせてやるよ」
「あっ、あんっ、一緒に……食ってくれんの?」
「ああ、歌も歌ってやるぜ」
「はあっ、あ、もっと奥、来て……!」

 五木が俺の膝を押しあげた。体が曲げられて、自分のちんこはおろか、五木との結合部も見える。ほとんど真上から五木のちんこが中を抉るように突き刺さる。深い挿入に息がつまりそうになる。

「ああっ、やっ……! もっと、来てよっ」

 目の前に垂れるネクタイを引っ張った。五木の顔が近づいてくる。俺も首を伸ばして口を合わせた。無理な体勢。ぴったりくっつかない唇。必死に舌を絡め合う俺たち。獣じみている。

「はあっ、はっ、ん、んんっ」
「キス好きだな、お前」
「あの女優ともした?」
「しねえよ」
「他の誰かとしたら、許さねえかんな」
「そんな相手、お前しかいねえよ」

 五木の顔から余裕が消えた。腰の動きも早くなる。ちんこを扱きたい衝動を我慢する。擦ったらすぐ出ちゃいそうだから。五木の顔を見ただけで。匂いを嗅いだだけで。それだけで俺は反応する。

 結局長くはもたなくて、五木がイクまえに俺が先にイッてしまった。



 朝の六時半に叩き起こされた。五木はすでにワイシャツにネクタイを締めている。

「出るぞ。お前も仕事だろ」
「あー、うん」

 寝惚けながらベッドを出て洗顔と歯磨きを済ませる。部屋を出て五木の車に乗った。

「そうだ、俺、またあんたのとこで働こうかな」
「ホモビデオか? どうした急に」
「店畳むかもしんないんだって。オーナーから連絡あってさ。俺無職になるかも」
「今まで潰れなかったのが不思議なくらいだ」
「とりあえず食ってかなきゃなんないから、何かしないと」
「せっかく足洗えたのにか?」
「俺馬鹿だし学歴ないから、他に稼ぎ方知らねえもん」
「もっと慎重に考えろよ」
「あんただってまた仕事手伝えって言ったじゃん」
「本職にするのとはわけが違うだろうが」
「この道に引きずり込んだのはあんたのくせによく言うよ」

 いつもの軽口のつもりだったのに、五木は口を閉ざして黙り込んだ。なんだよ、マジな空気出されたら俺が気まずいだろ。

「まあ、ずるずる続けたのは俺だけどさ」

 なに五木をフォローするようなこと言ってんだ俺。

「……ほんとにやる気ならちゃんとした事務所紹介してやるよ」

 妙に低い五木の声。

「あんたんとこは?」
「うちはメーカー会社のほうだからな。プロダクションじゃねえんだ。専属がいることはいるが女ばっかだ」

 五木がいない他の事務所じゃ入る気がしないな。

「現場に俺がいなきゃ勃たねえのに、どうすんだよ」

 いつもの口調に戻って五木が俺を茶化す。確かにその通り、かもしれないので、ぶすっと口を尖らせていたら五木に頭を撫でくり回された。

「まあ、ちょっと待て。お前の働き口くらい、俺がなんとかしてやる」

 五木にそう言われると。なんかものすごく安心する。



 ネパールにいたオーナーが帰国した。ネパール人の彼女を連れて。実家にはもう挨拶に行って、結婚の話もしたそうだ。両親は最初驚いていたが祝福してくれたらしい。

 という話をネパール土産を持って店にやってきたオーナーから聞いた。その時、この店の話もした。俺がここを買い取ることは無理で断った。ローンを組む甲斐性も将来性もない。

 オーナーはしきりに残念だと惜しんでくれた。それなりにこの店と俺に愛着を持っていてくれたのだろう。

 店は他の誰かに売るらしい。すでに実家の両親に話を持ちかけてきた人物がいたそうだ。そのことがあったから、オーナーは急に俺に店を買わないかと言いだしたのだそうだ。

 レンタルビデオ店は他の誰かの手に渡る。今月一杯で営業も終了。俺は無職確定。

 働き口をなんとかしてやると言っていた五木からは連絡がない。俺、どうなっちゃうの。

 不安になって五木に電話してみた。いま忙しいとなかなか時間を作ってくれない。そうこうしているうちに店は閉店、俺は無職になった。

 一人暮らしの金もなくなり実家に戻った。はやく次の仕事を見つけて来いと毎日親から言われて肩身が狭い。家に居づらく高校時代の友達と遊びに行ったりして貯金を使い果たした頃、やっと五木から連絡してきた。

「おっせーよ、ハゲ」
『ハゲてねえよ。迎えに行ってやる。いまどこだ?』

 毎度毎度、俺に用事があるとか考えないのかこの自己中は。あいにく予定もなかったので、実家近くの駅を指定した。待つこと十分、五木の車がやってきて助手席に乗り込んだ。

「とうとう俺、無職なんだけど。いつ俺に仕事紹介してくれんの」
「今日」

 見覚えのある道を車が走る。雨の日も風の日も、働くのが面倒だった日も、毎日通ったレンタルビデオ店への道。ほらもう見えてきた。

 店の窓からポスターの類は全部剥がされ、ベニヤ板のようなものが全面に貼られていた。出入り口だった扉には、俺が手書きした閉店のお知らせの紙がまだ残っている。

 店のまえを車が通りすぎた。少し行った先のマンションの駐車場に入って車は止まった。

「なんの仕事紹介してくれんの?」
「デリヘルの店長」
「はあ?!」

 目を剥く俺の背中を押して五木はエレベーターに乗り込み、5階のボタンを押した。

「とりあえず、AV女優志望の女何人かこっちに引っ張って来てるから。将来的にはAV女優とヤれる店って売りにしようと思ってる。超VIP向けのメニュー作ってな。オーナーが俺でお前がフロント。仕事内容は女の子の管理と送迎、電話番。いまのとこ男の従業員はお前ひとり。仕事が増えて来たらドライバーを雇う」
「ちょちょ、ちょっと待てよ、俺そんなのできねえよ」

 勝手に喋り続ける五木を慌てて止めた。

「お前ならできる。むしろ適任だろ。お前のその当たり障りない人付き合いしかできねえところとか、勃たねえから商品の女に手を出しようもないところとか」
「褒めてねえじゃん、悪口じゃん。あんたは? あんたは何すんだよ」
「俺はまだ今のところを辞められねえんだよ」
「なんで?」
「最初のうちは向こうから嬢をレンタルさせてもらうから、いい女の引き抜き防止と、こっちが失敗したとき俺が飛ばねえように監視目的だな」
「ああ、あんた、やくざの奴隷だもんな」
「そういうこと。当面、お前ひとりで頑張れ」

 止まったエレベーターを出て通路を進む。505と書かれた部屋の前で止まり、五木は鍵を差し込んだ。部屋の間取りは1K。手前のキッチンにパソコンと電話が乗ったデスク。奥の部屋にはテーブルとソファ、テレビが置いてある。ここが女の子たちの待機場所。

「まじで? 俺、自信ない」
「売上次第だが、うまくいけば同年代の平均年収は軽く稼げるぞ」
「金の問題じゃなくって」
「なにが問題だ?」
「一人じゃ不安だって」
「俺がいるだろ。何かあれば連絡してこい。営業は明日からだ。しばらく暇だろうが、客から電話があったらオーダー聞いて俺に電話しろ。女はこっちで見繕う。お前はここで待機して俺の指示で車を出せ」
「車は?! 持ってない!」
「下に用意してある」

 用意周到だ。ここ最近忙しいと言っていたのは、これの準備のためだったのかもしれない。

 いきなりの展開すぎて頭がついていかない。戸惑う俺を五木はソファに座らせた。

「やりたくないならしなくていい。ゲイビでも男優でも、好きなことをやればいい」

 少し前まで本気でAV業界に戻ろうかと考えていた。でも五木が言う通り、俺は五木がいないと男相手に勃たないし、女相手でも射精できなくなってしまった。こんなんじゃどこも使ってくれない。

 かと言って何かやりたい仕事もないし、選べるほど優秀な人間でもない。

 もうずっと流されるだけの人生だった。いまさら流れに逆らったりなにか考えるなんて性に合わない。これまでなるようになってきたんだ、なんとかなるだろう。ならなけりゃ、その時また考えればいい。

「あんたもたまにはここに顔出してくれる?」
「当たり前だろ、俺の店だ」
「じゃあ、やってみようかな。できるかわかんないけど」
「よし、決まりだ」

 ソファから立ちあがると、五木は小さな冷蔵庫を開け、ケーキとシャンパンを持ってきた。

「これって」
「一緒にケーキ食うって約束しただろ」

 プレートに「誕生日おめでとう ミワ」って書いてある。こういうとこ、ずるいと思う。女嫌いのくせに女をこますことがうまいのも、こういう天性のたらし気質のせいだ。

「ローソクつけるか?」

 ライターを探す五木に抱きついた。

「なんだ、ケーキだけじゃ足りねえのか」
「足りない」
「なにが欲しい」
「あんたが欲しい」

 言い終わるや、五木にキスした。五木が俺を抱き返し、ソファに押し倒す。勃起に触られただけでイキそうになる。

 もしかしたら俺、一生五木から離れられないかもしんない。





会いたくなかった1

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コメント
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お返事
13:44の方へ

ありがとうございます!そう言ってもらえると嬉しいです。
ウキウキで続きを書こうと思いますw
これからもよろしくお願いします!


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