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盲目の狼(1/2)

2018.06.22.Fri.
 俺は、自分が羊の皮をかぶった狼である自覚があった。

※ ※ ※

 古瀬が油断をさせてそののど元に噛みついてやろうと虎視眈眈と狙うのは親友の上村要。小学五年に要の隣家へ引っ越してきて以来の付き合いだ。

 要は面倒みがよく、たまたま同じクラスになった古瀬の世話を頼まれもしないのに買って出た。

「いじめられたら俺に言えよ」

 要は失礼なことに古瀬の見た目だけで弱っちそうだと決めつけて兄貴風を吹かせてきた。一応親切心だとわかったので、古瀬は「ありがとう」とそれを受け入れ、要が思いこむ弱っちそうな転校生役を演じた。そのほうが楽だったからだ。

 顔もそれなりに整っていた弱っちそうな見た目は女子に受けた。転校生という要素も加算されカッコいい子が転校してきたと学年で噂されてしまった。

 当然男子の反感を買う。要と同じように古瀬を弱い奴だと決めつけからかってきた。言い返すのも面倒で放置していたら、お節介な要がしゃしゃり出てきて古瀬を庇った。面倒事を引き受けてくれるのだから、古瀬は自分のイメージなんか二の次でか弱い転校生でいた。

 そのイメージは高校生になっても要のなかで定着したままだ。

 いつまでも庇護下に置かれ、兄貴風を吹かれるのも鬱陶しい。中学でクラスが別れてからは割と伸び伸びやった。からかってくる男子がいれば時に辛辣にあしらった。調子に乗って肉体的攻撃に出てくる輩には鉄拳をもって応酬した。もともと手が早く、気は短い質だった。

 古瀬が実は優男の見た目に反した強い男だとわかるとからかいは止んだ。惚れなおす女子が多発した。

 にもかかわらず、古瀬が要の前ではイメージを崩さなかったのには、あるわけがある。

 中学一年の夏の終わり、要の母が他界した。夜、隣がやけに騒がしかった。どうしたのだろうと家で話していたら救急車のサイレンが近づいて、家の前で止まった。

 家族と外へ飛び出した。しばらくして担架で運ばれる要の母と、付き添う父親、顔の色も表情も失った要と泣きじゃくる妹が、救急車に乗り込んで走り去った。

 亡くなったのはその深夜過ぎ。古瀬は親と一緒に葬式も通夜も参列した。その間、表情豊かなはずの要は無表情だった。

 要は数日、学校を休んだ。隣からにぎやかな声は聞こえない。笑い声一つない。たまに妹の泣き声が聞こえる。

 数週間が経って、父親の二泊三日の出張のため、要と妹を古瀬の家で預かることになった。父親が夜に頼みにきた。実家は遠く、また妻の死を義父母から恨まれていることを話しているのを階段の上から聞いていた。

 要は古瀬の部屋で、妹は母の部屋で寝た。

 要は笑顔を見せるようになっていたが、どこか弱々しく無理をしているように見えた。

 母を亡くしたばかりの親友に同情した。

 自分より一回り小さい体がとても頼りなく。俯く項が細くて。いままで何かと世話を焼いてくれた兄貴分が。まさか自分よりこんなにはかなげな存在だっとその時目の当たりにして。古瀬の気持ちはグラグラと揺れた。初めての感覚に胸が詰まった。

 なのにその夜、「新しいクラスには慣れたか」と要はまた性懲りもなく兄貴風を吹かせた。温かくも哀しい風に当てられて、古瀬はわけもなく涙が流れた。

「うまくいってないのか? 俺はクラスが違うんだからしっかりしろよ。ほんと泣き虫だなあ」

 自分が同情されていると知ってか知らずか、要は古瀬の頭を撫でた。古瀬は「俺がいつどこで泣いた」と内心では思いながら、要に頭を撫でられ続けた。甘えるような気持ちが働いて要の胸に抱きついてみたら抱き返された。

 抱き心地の良さに戸惑ったが、しばらく抱擁を続けた。

 その一件があり、古瀬は自分の本性を要に見せることに躊躇があった。隠していれば要は頭を撫でてくれるし、優しくしてくれるし、甘えさえてくれるし、抱きついても怒らない。

 自分がなにをしたいのか。なぜそんなことを望むのか。その答えは近日、あっさり如実にはっきりくっきりと出た。

 古瀬の家のソファで並んでテレビを見ていた。肌を密着させるだけに飽き足らず、要にもたれかかり腰に腕をまわし、ほとんど抱きつく様な格好で、テレビの内容なんか上の空で要の匂いを嗅ぎ、息遣いを聞いていた時──。

 古瀬はついに勃起した。理由は単純明快。要の甘い体臭と、こちらを気にもしていない息遣いのせいだ。テレビに夢中なのをいいことに、無防備なのど元に唇をおしあて、耳の裏に鼻を突っ込んで匂いを嗅いでも要は気付かないんじゃないかと。そんな想像をした時の出来事だった。

 古瀬は身動きせず静めることに集中した。ところがますます激しくなる。

 要に冷蔵庫からお茶を出してほしいと頼み、キッチンに立ったその隙に古瀬はトイレに逃げ込み事なきを得た。

 友を相手に勃起させ、友をオカズに抜いた、初めての日だ。

 それからといもの古瀬のオナネタは必ず要だ。剥き出しの肌に触れるとドキドキしてそのたび勃起した。中/学生とはそういうものだった。

 純真無垢な要は疑うことを知らず、ベタベタする古瀬をただの甘えん坊だと片付けて気にもしていなかった。たまに鬱陶しがってみせるが、気付くとくっついている古瀬に諦めモードだった。

 古瀬がどんな下心を抱いているかなんて、想像どころか、可能性の一ミリも考慮していなかったに違いない。

 だから古瀬はそれを逆に利用して大胆に質問することができた。

「要は男同士の恋愛ってどう思う?」
「わからないけど、見たらびっくりするだろうな」

 要は質問の意図なんか探らず素直に答えた。

「じゃあもし俺が要のこと好きになったらどうする?」
「古瀬は友達だから考えられないな。うーん、やっぱ無理かな」

 これまたあっけらかんと否定されて古瀬は落ち込んだ。

 それからも要の弟分を演じながら、秘めたる思いを燃やし続けた。いつかそののど元に噛みつきたい。自分の思いをぶちまけて、驚く要を乱暴に組み敷きたい。

 庇護対象だと思っていた男が実は自分より力が強く、常にいかがわしい目で見ていたと知った時、このお人よしはどんな顔をするか。

 それを想像すると古瀬はいつも身震いした。



 学校の帰り、少し先を要が歩いていた。いつもと違う角を曲がるので走って声をかけた。

「どこ行くの」
「買い物。今日は俺が当番だから」

 母を亡くしてからここの家族はみんなで家事を分担していた。中/学生になった妹も最近料理当番に加わったという。

「俺もアイス食べたいから一緒に行く」

 古瀬は要についてスーパーに行った。要はカートを押して店内を歩いた。他の主婦と同じ様子で野菜や肉を選んでかごに入れていく。家に帰って待っていれば料理がテーブルに並べられている自分と比べて申し訳ないような後ろめたい気持ちになる。

 スーパーを出て、古瀬はアイスの袋を破った。一口食べ、隣の要の口に持っていく。

 要が口を開いてかぶりつく。シャクシャクと咀嚼音にすら、やましい気持ちがわき起こる。当然エロい気持ちで要が食べたあとをなぶる。最近、むやみやたらに勃起はしなくなった。

「今日、遊びに行ってもいい?」
「いいけど。俺、ご飯作るから相手できないぞ」
「俺も手伝うよ」

 かくして古瀬は要の家にあがり込むことに成功した。





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