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利害関係の終了(1/2)

2018.03.01.Thu.
<「利害の一致」→「凹の懊悩」→「メリクリあけおめ」>

※健全

 テキパキ動いているようには決して見えないのに先輩は意外に早く仕事を終わらせる。無駄口を叩くのは自分の仕事が一段落ついてからだったり、口を動かしながら手もしっかり動かしていたりするからだ。

 あと、口癖のように「疲れた」とか「早く帰りたい」とか言っているせいで、怠け者の印象を持たれてしまう。それがわざとなのかはわからないが、損なことをしていると思う。

「おい、まだか」

 缶コーヒーを飲み終わった頃に隣の机に座っていた先輩が言った。

「もう少しです」
「それ十分前も言ったぞ」
「待つのが嫌なら先に帰ればいいじゃないですか」
「メシの約束したろ」
「メシならいつでも行けるじゃないですか」
「もう焼き鳥の舌になってんの。今日は絶対焼き鳥」
「他の誰か誘ったらどうです?」
「誰よ。もう誰も残ってねえじゃん」

 一部を残して照明の落とされた夜のオフィスを先輩は見渡した。

 俺だってこんな時間まで残業なんてしたくない。でも同期の小泉が退職した穴埋めを誰かがしなきゃならない。「お前、手が早いからできるよな?」って部長はそれを俺に振った。俺はできるだけ定時で帰りたい一心で仕事をしてただけなのにそれが裏目に出た。

「これで、終わり」

 ファイルを上書き保存した。ある程度は終わらせた。明日確認しながら完成させるほうが、急いでいまやるより正確だろう。

「よし、帰るぞ」

 コートと鞄を持って先輩はすぐ立ちあがった。急かされるように片付けをし、フロアを出た。ほかに利用者のいないエレベーターに先輩と二人きりで乗り込む。減っていく数字を眺めていたら、先輩に肩を叩かれた。振り返ると同時にキスされていた。

 仕事場で何をする。一瞬は焦ったが、もう誰もいないんだし、と好きにさせた。

 先輩はキスが好きだ。何度もするし、時間も長い。それに特別ななにかを見出そうとしてしまいそうになる。これは遊びじゃなくて、本気なんじゃないかと。

 勘違いする前に目を開けて先輩の頭越しに表示を見る。もうすぐ1階に到着する。

「先輩、もう止めないと」

 軽く胸を押したら簡単に引いた。先輩はにやついた顔で熱をはらんだ視線を送ってきた。

「鳥八って持ち帰りできたよな。今日は俺んちで食うか」
「別にどっちでもいいですけど、どうしたんですか急に」
「仕事してるお前ってなんかエロいよ。待ってる間ずっと早く服ひっぺがしてやりてえって思ってた」

 俺だって気だるげな表情で待ってる先輩に色気を感じていた。食事なんかどうでもよくて、早くヤリたいって気持ちは俺も同じだった。

「じゃあ、どっかその辺のホテル行きますか?」
「俺んち泊まってかねえの?」

 驚いた顔が俺を見る。

 今年は先輩の家で年を越した。元旦は昼頃まで先輩とベッドの中で過ごし、遅めの昼食を食べたあとまたセックスして夕方ごろに初詣に行った。帰るつもりだったのに先輩に引き止められて二泊した。恋人同士みたいにずっとイチャイチャしていた。

 あれ以来、先輩は当たり前のように俺を家に誘い、週末は泊まって行けと言うようになった。洗面台のコップには俺の歯ブラシが並んでるし、クローゼットには私服も置いてある。

 最近は彼女の理恵子より先輩と過ごす時間のほうが多い。

「明日も仕事ですけど」
「ちゃんと夜は寝かせるよ」

 エレベーターが一階に到着した。先輩は俺の返事を待たず先に出た。

 鳥八に寄ってから先輩の家に二人で帰った。さっきの雰囲気じゃすぐセックスするかもと思っていたのに、先輩は俺に洗濯物を取り込むように頼むと自分は風呂掃除に行った。ワイシャツの袖をめくった姿で戻って来ると、今度は台所に立って食事の支度を始める。

 箱に入っていた焼き鳥を皿に移して温め直し、それを待つ間に飲み物や箸や取り皿を用意する。先に食事をする気らしい。

 洗濯ものを畳み終わったあと先輩を手伝い、テーブルに向かい合って座って焼き鳥を食べた。これなら普通に店で食べてくればよかったじゃないかと思わなくもない。

 食事のあと二人で風呂に入った。少しイチャついてから風呂を出て、今度こそセックスした。アナニーとアナルセックスに興味がある者同士が酔った勢いで始めたセフレの関係。恋愛関係でもないのに体を繋ぐのはどういう意味があるのだろう。ただ欲望を解消する目的だけで、こんなに続くものだろうか。

 先輩は前の彼女に振られて以降、誘われる合コンには参加しているようだが女を欲しがっている様子はない。性欲が解消されると、恋人が欲しいという欲求も収まるものなのだろうか。

 先に言っていた通り、先輩は一回で終わらせて俺を寝かせてくれた。後ろから俺に抱きついて、足も巻きつけて眠る。柔らかい部分がたくさんある女の体じゃなく、男の俺を抱き枕にする。

 先輩、もしかして俺のこと好きになったんじゃないですか?

 何度かのど元まで出かかった言葉。まだ外へ出したことはない。否定されることがわかっているし、そんなことを思うお前はどうなんだと逆に質問されたら答えられる気がしないからだ。

 家や外で携帯の着信や通知音が鳴るとまず頭に浮かぶのは先輩の顔だ。休日、どうしているだろうと考えるのは理恵子のことではなく先輩のことだ。一緒にいて罪悪感を感じるのは理恵子といる時。時間が早く進むのは先輩といる時。

 この心理状態に名前をつける勇気は、俺にはまだない。

 

「起きろ、寝坊助」

 肩を揺さぶられて目が覚めた。先輩はとっくにワイシャツ姿で、俺は慌てて飛び起きた。

「すいません」
「もう朝飯できるから顔洗って来い」

 言われた通りベッドを出て顔を洗いに行った。すでに洗濯機が回っている。昨夜俺が脱いだパンツもきっとこの中だろう。

 部屋に戻るとテーブルには朝食が並んでいた。先輩はパン派なのに俺に合わせてご飯にしてくれている。

「いつもすいません。今度は俺が作ります」
「エッグベネディクトとか作ってくれんの?」
「……レシピ検索してみます」
「冗談だろ」

 ハハ、と先輩が笑う。こんな朝が続けばと、つい思ってしまうじゃないか。

「あー、そのうちお前の耳にも入ると思うから先言っとくけどさ」

 食べ始めて五分、二本目のウィンナーをケチャップにつけて食べようと口を開いた時だった。

「なんですか?」
「俺、三月から名古屋だから」
「え……?」
「新しい支社の立ち上げ要員だってさ」

 なんでもないことのような口調で先輩は言う。

 立ち上げにかりだされるのは能力を評価されているからだ。見ている人はちゃんと見ているということだ。

「どのくらいの期間ですか? すぐ帰ってくるんですよね?」
「最低半年つってたかな」
「半年も?」
「俺に会えなくなんのは寂しいか?」

 先輩がにやりと笑った。自分が前のめりになっていたことに気付いて姿勢を戻した。

「別に。急に言われたから驚きましたけど」

 いつもの癖で言い返して後悔した。もう少し素直になりたい。

「だよな」

 そう笑う先輩が少し寂しそうに目を伏せたので、「一緒に飯食う人が減ったのは寂しいですけど」と慌てて付けたした。

「お前には彼女がいんだろ」

 責めるでもからかうでもない、普通の口調だった。なのにひどく俺を傷つけた。

 そのあと、口に入れる料理は味がしなかった。先輩となにを話したかも覚えていない。いつのまにか電車に乗っていて、気付くと会社についていた。

 先輩が移動する話は数日後にはみんなが知ることとなり、移動の一週間前には送別会も開かれた。泣いている女子社員が何人かいた。

 先輩になんて言葉をかけていいかわからず、「お元気で」と他人行儀に見送った。





STAYGOLD(3)

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コメント
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お返事
youさん

お待たせしました!
これも早く続き書かなきゃなーと思っていたので更新出来て嬉しいです!
一応これで完結ではあるんですが、ある時ふとネタを思いついたらまた書いてみたいです。割と書きやすい二人ですし。
読んでくださってありがとうございます!

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