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続・嫁に来ないか(1/2) 

2018.02.19.Mon.
<前話「嫁に来ないか」>

 中田さんにあんなことをされてから二週間。俺のなかであの出来事はトラウマになり、いまでもその後遺症に悩まされている。

 視界の端、街のあちこちで中田さんを見つけてしまうのだ。

 ほんとうはただ年齢と背格好が似てるだけの赤の他人なのに、一瞬本人登場かと思って焦ってしまう。中田さんがウォーリーなら俺は誰よりも早く見つけられるんじゃないだろうか。

 昨日も「アイドルの手も借りたい!」で地方ロケがあったが、そこでも中田さんの幻を見てしまった。忘れてしまいたいのに、行動を監視されているようで、もうノイローゼになりそうだ。

 そんな理由で出不精になりつつあった二週間の俺を心配して、共演がきっかけで仲良くなった芸人の城野さんが今日は食事に誘ってくれた。

「最近元気ないし誘っても断るし、どうしたん?」

 乾杯が終わったあと城野さんから柔らかい口調で訊かれた。あれをどう説明すればいいのだろうか。クスリ盛られて犯されたなんてことは口がさけても言えないから、そこのあたりはボカすしかない。

「ロケ先で会った素人さんが強烈な人で……こっち帰ってきてからも、なんかその人の幻を見ちゃうんですよね」
「へえー、女?」
「男ですよ」
「どう強烈やったん?」
「常識が通じないっていうか、話も通じないっていうか」
「なんかされたん?」
「いや! なにもされてはないですけど。なんか、理解できない人種だったなぁって」
「ヤッバイ人って世の中腐るほどおるからなぁ。そういう人ってこっちの世界の理をぜんぜん理解しようとせえへんし配慮もないから、相手するだけ疲れるよ」
「ほんとですよね」
「アイドルはイメージ大事やし、邪険にできんから大変やな。俺ら芸人は『アホんだら、どつきまわすぞ!』って言えるけど」

 城野さんはツッコミだからそういう悪態も世間に通じるが俺の場合そうはいかない。ただでさえメンバーの小東が未成年の時に大麻使用で世間を騒がせた過去があるのだ。これ以上悪いイメージは今後の芸能生活に関わる。

「あんま気にしいなや。強烈な奴に引っ張られたらこっちの精神まで参ってしまうで」
「そうですね」

 忘れることは不可能でも思い出さないようにすることは出来るはずだ。似た男を見るとビクついてしまうのは俺がいつも中田さんを思い出しているからに他ならない。思い出さないでいれば、群衆の中から中田さんに似た人物を見つけることもなくなるはず。

 その後、城田さんの後輩芸人も二人やってきて賑やかで楽しい食事会になった。日付がかわるころお開きになり、タクシーで自宅マンションに帰った。帰宅したときの癖で郵便受けを確認していたら「おかえりなさい」と声をかけられた。

「あ、どうも」

 マンションの住人だと思って振り返った。顔を見て心臓が止まりそうになった。足元がぐらりと揺れて、目の前に中田さんがいることが理解できなかった。

 これも幻なんだろうか。いつもは二度見したら消えていたり、他人の空似だとすぐ気付くのに、今日の幻は消えないし別人にもならない。

「ずいぶん遅いですね」

 しかも声までかけてきた。

「え……本物? なんで、どうして、ここに……?」
「今までなにをしてたんですか?」
「なにって、知り合いと飲んでただけ……っていうか、ほんとなんでここにいんの?!」

 夜中だってことも忘れて大声が出た。幻でないとしたら、どうして俺の家を知っているのか、そっちの恐怖でパニック寸前だ。

「なっ、なんで……! ここ、なんで知ってんだよぉ!」
「大きな声は近所迷惑じゃないですか。とりあえず部屋行きません?」

 と俺の腕を掴んでくる。俺は半狂乱でそれを振り払った。

「警察! 警察呼ぶから!!」
「その前にこれ」

 ポケットから中田さんが出したのはスマホ。操作して俺に画面を見せる。我が目を疑った。軽い眩暈がした。拒否する目の焦点をなんとか合わせてちゃんと確認した。裸の俺の写真。苦しそうに顔を歪め、口は半開き、胸には白い付着物も見える。精液だ。

 あの時の写真。あの夜の後半の出来事はほとんど記憶にない。執拗に責められて意識は飛びかかっていた。自分がなにを口走ったか、どんな乱れ方をしたかも覚えてない。写真を撮られたことすら理解していなかった。

「なんでそんなもの!」
「記念に残しておきたいと思って。あとこれ」

 また別の画像を見せられた。と思ったら動画だった。耳を塞ぎたくなるような卑猥な音声が辺りに響き渡った。

『あっ、ああぁ、あぁんっ、奥、当たって……ぁあんっ、あ、はああっ、やっ、やめ……またイクッ……中田さん、イカせて……!』

 男に揺さぶられながら喘ぐ俺の姿。考えるより先にスマホに飛びついていた。寸前でかわされた。中田さんを睨みつけた。

「……俺を脅しに来たのか?」
「まさか。やっと繋がった大澤さんとの縁を切りたくなかったんですよ」
「金蔓にして死ぬまで強請る気か!!」
「僕の収入で大澤さんを養いたいくらいなのに、そんなことしませんよ」
「じゃあ、なにしに来たんだよ」
「悪い虫がついてないか、心配で様子を見に来ました。城田さんとはいつから親しいんですか? 『お昼はごきげん』で共演してからですか?」

 城田さんの名前が出てきて血の気が引いた。

「あんた……俺のあと、つけてたのか……?」
「はい。とりあえず話は中でしませんか?」

 中田さんは人の良さそうな顔でにこりと笑った。笑顔が怖い。俺の家で待ち伏せされていたことも、俺の行動を監視していたことも、俺の人間関係まで把握していることも、全部が怖かった。

 反撃することも考えたが、体格は中田さんのほうが上。しかも向こうはなにを準備しているかわからない。上着のポケットにナイフが入っているかもしれないと思うと反撃の勇気はでなかった。

 逃げだそうかとも思った。でも移動はもっぱらタクシーの自分が、毎日農作業で鍛えている中田さんから逃げおおせるとは思えなかった。逃げることで中田さんを逆上させてしまうことも怖かった。

 2、3秒の間でいろいろ考えたが、中田さんに腕を掴まれ促されると逆らえなかった。一緒にエレベーターに乗り込み、自分の部屋へと招き入れてしまった。この優しい顔の悪魔を。




いつの間にか広告が出ていて驚きます。一カ月経ってたんですね。そんな感覚も記憶もなくて更に驚きです。
時間かけすぎたせいで失速具合がハンパないです。最初思い描いてた方向とは違う…ような気がする…合ってるような気もする…そんな感じで書いた本人もよくわからない感じになりました。明日続きを更新します。その次は別の話を書きます。勢いよく書き切れるものを書きたいです!まだ寒いので風邪ひかないよう体あったかくしてくださいね!


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