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ちょろくない(1/2)

2017.05.24.Wed.
「ちょろい」「やっぱちょろい」

※性犯罪注意

 五木から電話があったのは零時をとっくに過ぎた三時前だった。

 タクシーで五木のマンションに乗りつけた。運転手さんに領収書をもらう。

 電車が動いてないと言ったら「タクシーがあるだろ」って俺を呼び出したんだから、あとで五木に請求しよう。

 入り口で五木の部屋番号を押して待つ。これで寝てやがったらどうしてくれてやろうと不安だったが、あっさり「入れ」と五木の声が聞こえてきた。

 五木のマンションに来るのはこれが初めてだ。五木たちに犯されていた頃使っていた部屋はレンタルルームだった。五木の仲間は雑談まじりに自分の個人情報をしゃべっていたが、五木だけは自分が住んでいる場所も出身地も出身校の話も一切しなかった。

 思えばあの頃から用心深さだけは人一倍強かった。

 自分たちのしていることの罪深さをはっきり自覚していた証拠だ。

 そろそろ潮時だと思っていた矢先にやくざに目を付けられたと以前俺に愚痴っていた。絵に描いたような廃工場に連れて行かれて、そこで相当怖い目にあったという。

 仲間だった奴らは我が身可愛さに五木が主犯だと五木を売り、実家と金融会社に借金した金で見逃してもらったのだそうだ。

 五木は金を用意出来ず、またその行動力を買われて、やくざの下請けとして一生働くことで手を打ってもらったらしい。

 五木が名ばかり社長をしている制作会社の他のスタッフは半数がやくざの下っ端構成員で、逃げないように四六時中見張られているというのだから、まさに生き地獄だろう。

 オートロックで守られた気になれるこのマンションだけは、五木の安息の地なのかもしれない。

 部屋の前でもう一度インターフォンを鳴らしたら内側から扉が開いた。スウェットのルームウエア姿の五木が「入れ」と顎をしゃくる。

 いつも後ろに流してる髪が濡れて前に下ろされている。風呂上りかよ。

「時間考えろよ。明日でもいいじゃん」
「仕方ないだろ。仕事だったんだから。今度メシ奢ってやるよ」

 めちゃくちゃ高いやつを奢らせてやろう。

「仕事の話ってなに」

 奥へ進む五木の背中に声をかける。廊下の先に広いリビングがあった。黒い家具、黒い絨毯、調度品の配置はシンメトリーな印象。片付いていて、余分なものがない神経質っぽい部屋だった。

「インポって本当か?」

 五木は皮張りの黒いソファに腰をおろして言った。

「治った」
「ならいい。うちでも本格的にホモビデオ出してくことになったから、これから忙しくなるぞ、お前」
「えー、オカマに需要あんの?」

 五木は男の娘とか女装男子とかの区別がまったくつかない。全部オカマ呼ばわりだ。

「もう女装ものは終わりだ。男のまま、男とヤラせる」
「ちょっ、女装なしで出たらバレるじゃん! そんなの困る! 俺もう出ないからな!」
「いまさらこの業界から完全に足洗えるかよ、馬鹿が」

 それは俺だけじゃなく五木にも当てはまる。皮肉った笑みには諦めと苛立ちが見えた。

「どうせホモビデオなんてホモしか見ねえだろ。指摘してくる奴がいたら、そいつもホモってことだ」
「そうとは限んないじゃん。俺もあんたもホモじゃないし。この前の3Pのやつ、普通にアダルトコーナーに置かれてるし」

 五木は声をあげて笑った。

「笑い事じゃないんだけど。バレたら俺、外歩けなくなっちゃうじゃん」
「ゲイビ男優として生きてけばいいだろ」
「やっぱ俺、インポ治ってないかも」
「ほんとか?」

 笑い顔のまま、五木は目を据わらせた。こいつも半分やくざの世界に足を突っ込んでるから、時折こういう顔を見せる。冷静に見定める目。暴力の一歩前の目。

 俺は顔を背けた。

「なにか飲み物もらっていい?」
「勝手に飲め。俺はビール」

 持って来いということか。忌々しいと思いながらもキッチンへ逃げ込み冷蔵庫を開けた。冷蔵庫の中も整理整頓が行き届いていて逆に気持ち悪い。

 青い液体の入った瓶と、五木ご要望のビールを持って戻った。他に座る場所もなく、五木の隣に座った。瓶の蓋を開け、ソファの横に置いてあるゴミ箱へ蓋を捨てた。

 その時、見えてしまった。でかい字で「死ね」と書かれた紙を。何枚もある。

「これ……」

 拾い上げたら下から封筒が出て来た。表には住所と五木の名前が書いてあった。不気味なのは血のような赤いペンで書かれていることだ。

「気味悪いだろ」

 ビールを飲みながら五木がなんでもない口調で言った。

「前に金稼ぎでやってた時に犯した女の一人だろうな。興信所使ったんだか知らねえが、俺の居場所付きとめてたまに手紙を送ってくんだよ。俺を呪い殺そうとしてんだろうな」
「あんた、まじで恨まれてんじゃん」
「そりゃそうだろ。あんなことしてたんだから」

 と、唇の端を歪めて笑った。

 五木たちがやっていたことは犯罪だ。家出掲示板に書きこんだ女の子と待ち合わせをして、紳士的な態度で安心させてから部屋に連れこみ強/姦する。しかも口止めと販売目的でその様子を撮影するという悪質さだ。殺されたって文句は言えない。

「でも俺に言わせりゃ、男をみくびってほいほいついて来る女も頭悪いけどな。自分のまんこちらつかせれば金になることわかってたんだから、俺はそれを最大限に利用してやっただけだよ」
「前から思ってたけど、あんたって女に恨みでもあんの?」
「ない。あいつらには何の感情もない。ただの穴。よくできたダッチワイフだよ」
「サイコパスだ」
「流行りの言葉使っときゃいいと思うなよ。しいて言えば母親だろうな。俺の母親、男なら誰でもいいような色狂いだったから」

 驚いた。五木が身内の話を自分からするなんて初めてだ。五木もそれに気付いたのか、照れ隠しのような笑いをちらっと見せた。

「思春期の頃に母親が知らない男とセックスしてる声を頻繁に聞かされてみろ。しかもそれが原因で親が離婚したら、お前も女が汚く思えるようになる」

 汚い、という言葉を使うあたり五木らしい。性に奔放で息子がいようがセックスしていた母親と、小遣い稼ぎのために女である自分を商品にする家出娘。五木のなかでそれらは同列の「汚らしさ」なのだろう。

「あんた一生結婚できないね」
「結婚どころか、恋人もできねえよ」
「かわいそー」
「女と一緒になるくらいなら一生独身でいい」
「その前にあんた、刺されるんじゃね?」

 死ねだの許さないだの地獄へ落ちろだのと書かれた便箋に視線を落とす。相当な恨みが籠っているようで見てるだけで寒気がするほどだ。

「俺の心配してる?」
「はあ?! どの口が言ってんの?」
「よくよく考えたら変な奴だよな、お前。被害者面していいのに、たまに恨み言並べるだけで普通に俺と話するし、普通に割り切ってAV撮ってるし」
「普通ってわけじゃねえよ。俺だってめちゃくちゃ嫌だったし、あの時だって逃がしてくれってさんざん頼んだじゃん」
「そうだっけ。そうだったな。あの頃引っかかる女子高生全員カモにしか見えなかったから泣き言なんか聞いちゃいなかったわ」

 とせせら笑う。微塵も反省していない。

「極悪人」
「その極悪人のそばに、お前はなんでいるんだよ。もしかして俺に惚れてるとか?」
「ありえないっしょ!」
「良かった。俺もお前から告白されたらどうしようって焦ったぜ」

 言いながら俺の手から便箋を取りあげると顔を近づけて来た。

「なにする気?」
「ほんとにインポじゃねえか確かめる。それが目的でお前を呼んだんだし」

 言い終わると同時に唇がくっついた。五木のちんぽは何度もしゃぶったけど、キスはしたことがなかった。

「お、俺、仕事でしか男相手に勃たないんだけど」

 五木は俺の股間をチラッと見て笑った。

「これは仕事じゃねえぞ」

 ぎゅっと掴まれた俺のちんこ。本田さんの時にはぴくりともしなかったのに、今は簡単に勃起してる。





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