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凹の懊悩(1/2)

2016.10.15.Sat.
<前話「利害の一致」>

 男子トイレに行く途中の喫煙ルームで先輩を見つけた。派遣社員の和気さんとなにやら楽しげに談笑中。ああ、またか、と内心呆れる。

 見た感じだらしないというか、退廃的というか、やる気なさそうというか、気だるげなのに、先輩は意外や意外、女にモテる。

 積極的に「あの人かっこいいよね」と持て囃される正統派なイケメンではない。ネクタイ緩めがちだし、ガサツだし、いい年して言動がチャラいところがあるから最初は敬遠されがちなのに、一緒に働いているといつの間にか気を許してしまうタイプ。

 好意を持っていると周りに知られたくないが、いざ付き合い出すと優越感を持たせる、そんなタイプの人のようだ。まあ要するに遊び人認定されている。

 そんなあの人と、俺はホテルに行ってしまった。つい先日のことだ。酒で少し気が緩んでいた。アナルセックスがしたいと言われ続けて、アナニーにはまってる俺の尻が疼いた。好奇心に負けた。だから俺のケツを使ってくださいなんて口走ってしまった。

 いくら酒が入っていたからと言って、誰にでもそんなことを打ち明けられるわけじゃない。先輩だったら、断られても誰にも言わずに秘密にしてくれると思ったから、あんな恥ずかしいことを言えた。見た目の緩さに反して、意外とこの人の口は堅い。

 前に、先輩と一緒に昼休憩に行った時のことだ。先輩の携帯にレンタルビデオショップから電話がかかってきた。DVDの返却期限がとっくに切れていて延滞料が発生しているという督促の電話だ。

 先輩は身に覚えがないと答えつつ、借りているDVDのタイトルを聞きだし、他に客のたくさんいる定食屋で恥ずかしげもなく女子高生もののAVタイトルを復唱した。

 食欲が遠のくようなエグくて、汁だくなタイトルばかりを5本。よく借りたな。女子高生好きな事実に若干引きつつ、とぼけているけどこの人が忘れているだけだろうと思っていた。

 数日後、所用で外へ出かけようとしていた俺は、エレベーター近くの非常階段でコソコソしている先輩に気が付いた。

 一緒にいたのは俺の同期の小泉だ。小泉は泣いて詫びていた。「つい魔が差して」だとか「返そうと思ってた」だとか聞こえる。

「防犯カメラの映像見せてもらったらどう見てもお前だから、俺が頼んだっけなーと思って、とりあえず警察に連絡は止めてもらってるから。だから、返しに行く前に俺にも見せろよ。お前のお勧めは?」

 と普段と変わらない先輩の声。延滞していると連絡のあったAVのことだとすぐわかった。おそらく小泉は先輩のカードでDVDを借りたのだ。飲みに行くと人に財布を渡す変な癖のある先輩からカードを盗むのはたやすかったことだろう。

 俺なら絶対許さないが、先輩はそんなことがあってからも小泉と今まで通りに接していた。勝手にカードを使われていたことも、小泉が女子高生好きなことも、一切、誰にも、何も言わなかった。

 一度俺から、あの件はどうなったのかと探ってみたら、酔った時に借りてたみたい、と先輩は何食わぬ顔をして嘘をついた。

 あんなクズな小泉を庇う先輩だから、俺の秘密もきっと守ってくれる、そう思って打ち明けた。先輩が誰かに言った様子はない。誰も俺を変な目で見ない。それに先輩も共犯だ。事が終わったあと、取り返しのつかないことをしたって顔を引きつらせていた人が、自分から際どい話題を振ったりしないだろう。

 煙草を揉み消す先輩が俺に気付いて、目が合った。一瞬、目つきが艶めかしいものになった気がするのは、きっと俺の勘違いだ。セックス紛いの行為をしてしまったから、そう見えてしまうだけだ。

 合わさった視線を逸らし、そそくさとトイレに逃げ込んだ。

 先輩とのあれは、エネマグラやアナルバイブとは違う快感があった。体を合わせながら前立腺を刺激されて、身も心も満たされた。アナニーでは得られないものを得られた。したことを後悔してしまうほど、気持ちよかったのである。困ったことに。

 あれはセックスと言ってはいけない。お互いの利害が一致しただけ。先輩は突っ込みたかっただけ。俺は突っ込まれてみたかっただけ。愛だの恋だの存在しない、凸と凹を擦り合わせただけのマスのかきあいだ。

 用を足し、手を洗っていたら、先輩もトイレにやってきた。

「最近どう?」

 意味のない質問に「まあ、そこそこ」と意味のない返事をする。

「今もまだアナニーやってんの?」
「ちょっと!」

 普通のトーンでなに暴露してくれてんだ、この人は。幸いトイレには他に誰もいないが、もし近くを人が通ったら聞かれてしまうじゃないか。

「訴えますよ」
「で、どーなの」

 小便器の前に立ったまま、先輩が顔だけこちらに向ける。見たくもない隙間に目がいってしまいそうになる。アレが俺の中を……。

「最近はしてないです」
「えー、なんで? 俺のが忘れられないとか?」
「まさか」

 先輩の軽口を鼻で笑い飛ばした。

「捨てられちゃったんですよ。道具一式。彼女に」
「お前彼女いたの? いたのに俺とあんなことしたの?」
「別に浮気じゃないですし。風俗以下でしょ、あんなの」

 ズボンのチャックをあげながら「ひでえ」と先輩が笑う。こちらに来ると水道で手を洗いながら「それで?」と先を促された。

「私に使う気? って、すごい軽蔑した目で見られたから違うって。じゃあ、誰に使ってんのって」
「自分に、とは言えねえよな」
「そしたら、浮気だって騒がれて。あんなにヒステリーだったとは知りませんでした」
「女ってみんなそんなもんだろ」

 あまり選り好みしない先輩はいろんな女を見て来ただけあって達観した台詞を吐く。俺はじっくり相手を観察して、合うか合わないか見極めてからでないと付き合えない。

 今回の彼女だって、真面目で、金使いが荒くなくて、自炊できて、服装もパンツスタイルが多くて、先輩が「小/学生の遠足かよ。なにがおもしれえの?」と馬鹿にした工場見学という俺の趣味にも興味を示してくれる子だったから付き合うことにしたのに。

 人の話をちゃんと聞かないで浮気と決めつけ、「汚らしい!」とヒステリックに叫びながら俺のエネマグラとバイブを捨てた。たまたま親が買い物に出かけていたから良かったものの、家にいたら聞かれていた。

「じゃあ、いつ以来やってねえの?」

 まだこの話題を続けるつもりらしい。内心うんざりしながら指折り数えて「10日ほど」と答えた。

「ふーん。溜まってそうだな」
「別に。普通に抜いてますから」

 横目に俺を見ながらなにやら意味深に笑う。いや、その目に意味があるように、俺が勝手に思いこんでいるだけだ。先輩とあんなことをしたから、やましい勘繰りをしてしまうのだ。これじゃ、何かを期待する女子社員たちと変わらないじゃないか。

「先輩、次は和気さん狙いなんですか?」
「え?」
「派遣の女の人、片っ端から手出してるじゃないですか」
「そんなわけあるかあ」
「わかりやすいんですよ、先輩」
「俺がモテるからってやっかむなよ」

 先輩は俺の肩に腕を乗せ、耳元で囁くように言った。顔のすぐ横に先輩の顔がある。息のかかる距離に。 

 先輩が誰かと深い仲になるとすぐわかる。誰の目にもわかりやすい。やたら距離が近くなって、ボディタッチが増えるのだ。そう、こんなふうに。

 肩に乗る腕を振り払った。

「触らないでくださいよ。ばっちいな」
「ちゃんと手洗ったわ。お前も見てただろ」

 心外な顔つきで先輩が抗議する。俺は視線を逸らして溜息をついた。先輩は無意識なんだろう。体の距離が近づいた分、心の距離も近づいて、他人の髪や体を触るハードルが無いに等しいほどに低くなってしまうのだ。

 だから誰が見てもわかってしまう。俺と先輩がなにをやったか、男同士でも、見る人が見ればバレてしまうかもしれない。それは困る。とても困る。むやみに触らせてはいけない。

「はーん、わかった、そういうわけか」

 顎を撫でながら、先輩がなにやらしったかぶってにやりと笑う。

「なんですか?」
「ここ来る前に溜息ついてただろ。おもちゃを彼女に捨てられて、欲求不満だからだな?」
「溜息?」

 なんの話かわからなくて首を傾げた。

「さっき、喫煙ルームの前通る時に。ハアーっって、でかい溜息ついてただろ」

 言われて記憶を辿る。そういえば、喫煙ルームで和気さんとイチャついてる先輩を見て、またか、と呆れた記憶がある。その時、まったく無意識に溜息が出ていたのかもしれない。

「仕事疲れですよ」
「なんだ。生理かと思った」

 軽蔑の眼差しを向けたら「冗談だって」と先輩は笑った。全然面白くない。

「具合悪いのかと思って見に来てやったんだぞ」

 これでも一応、心配はしてくれたわけか。終始シモの話題だったけど。

「まあなんだ、また付き合ってやってもいいぞ」
「はい?」
「道具がなくて、出来ないんだろ? 欲求不満なら、俺のコレ、使っていいから」

 自分の股間を指さして、先輩はニッと笑った。つい指の動作につられて先輩の股間に視線が行く。あの夜見た先輩のちんこが頭に浮かぶ。尻穴が疼く。

「また道具を買い直すんで、大丈夫です」

 視線を先輩の顔に戻した。顔の内側がじんわり熱い。

「おもちゃより、俺のが良かっただろ」

 愉しげに細められた先輩の目。視線が絡みつく感じがして呼吸が苦しい。

「先輩のほうこそ、ハマってんじゃないですか。そんなに俺としたいんですか」
「俺も溜まってるから」

 ふーん。そういうことですか。俺だと気兼ねなく中出しし放題ですもんねー。冗談じゃない。

「中に出されるのはもうご免です。面倒なんですよ、あれ」
「じゃ、次はゴムつけるよ」
「えっ?」
「いつにする?」
「えっ、あの?」
「今日は? 予定ある?」
「いえ、ないですけど」
「じゃ、今日な。残業すんなよ」

 矢継ぎ早に質問して勝手に決めると、先輩はトイレを出て行ってしまった。遠ざかる鼻歌が聞こえる。

 一度きりのつもりだったのに。先輩もホテルで青ざめていたくせに。なんでまたやるつもりになったんだろう。俺もなんで断らないんだろう。追いかけて「嫌です」って言えばいいだけなのに。

 なに心臓ドキドキさせてるんだ? なに顔赤くしてるんだ?

 鏡に映る俺は、何も答えてくれない。




ちょっと久しぶりになりました。
書いては消し、消しては書いて。最初に書こうとしていた兄弟ものはボツにして、こっちにしたらなんとか書きあがったのでよかったです。続くような終わり方ですけど、まだ続きが思いつきません。次の更新は何になることやら。諦めずに兄弟ものをまた頑張るかもしれません。
寒くなりました。お風邪ひきませんように。

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コメント
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お返事
(^○^)さま

なんてかわいいお名前(*'ω'*)
利害の一致を書き終わったあとに、実は続きを書き始めたんですが、その時は書けなかったんです。私も書きたいと思っていた続きだったので、同じ気持ちで待っていてくださったとは嬉しいです!
何年もお待たせしないように、常に頭の片隅で続きを考えたいです。ありがとうございます!


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