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Phantom (15/15)

2016.09.11.Sun.
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 用心に用心を重ね、何度もシミュレーションし、計画を練り直し、何通りもの案を考え、実行できるように準備した。

 マンションの住人と男子学生の行動パターンを調べ上げた。午前11時を過ぎると住人に会うことはほとんどない。男子学生は授業には一応出ているようで、9時から18時頃までは授業のない時間も大学にいることがほとんどだということがわかった。

 マンションの非常ドアは中から施錠されているだけで、開けておいても誰も気付かないし、利用もしない。監視カメラもなく、ここから出入り自由だった。

 下調べをしている時、一度男子学生とニアミスした。春の終わり頃、彼は半袖の服を取りに来たようだった。なんとか会わずに済んだ。恋人とも順調なようで安心した。

 拾った保険証でトランクルームの契約をした。契約するときには普段着ないカジュアルな服を着て、野球帽で顔を隠した。四ヶ月という短期問契約で、使用料は前払い。契約書には事前に暗記しておいた最上渓一の名前と住所を書いた。

 引っ越し業者を呼んで、契約しておいたトランクルームへ荷物を運んでもらった。立ちあったのは最初と最後、鍵の開け閉めが必要な時だけ。業者に何か言われたら男子学生の兄で通そうと決めていたが、特に何も言われることもなく、引っ越しは完了した。

 学生の部屋に戻り、がらんとした空間に座り込んだ。本当に実行する気かと何度も自問自答する。ここまでやって今更引き返せるのかと声がする。

 久世の会社帰りや、借りているワンルームのあたりをウロウロして、遠目に何度か顔は見ていた。青白い顔をしていて、疲れている様子だった。仕事がきついのか、留美に振られたからか。

 たまに後輩らしい青年と飲みに行くこともあった。

 見知らぬ青年に笑いかける久世を見るのは辛かった。人見知りであるはずなのに、青年とはずいぶん親しげに見えた。それほど多く時間を共有しているということだろう。

 物陰から盗み見している自分がひどく惨めだった。

 恋人になりたいなんて身の程知らずなことを願ったりしなかったのに。ただ、そばにいられれば、それだけが望みだったのに。

 自分の知らない間に久世はどんどん交友関係を築いて広げていく。その中に久世の心を射止める者が出て来るだろう。そしていつか結婚報告されるのだ。結婚式の招待状が送りつけられ、数年後に家族写真の年賀状が届く。久世のそばに自分の居場所はなくなる。

 冷静ではいられない。平気なわけがない。それは耐えられない苦痛だ。

 樫木は実行する決心をした。
 


 そもそもが成功するか怪しい計画だ。男子学生が帰って来れば即刻終了。小さな綻びから破綻してしまう危うい綱渡りだ。その時にはすべてを捨てる覚悟で、樫木は久世の帰りを待ち伏せし、スタンガンで襲いかかった。

 男子学生の部屋に連れて行き、気絶している久世の衣類を脱がせた。全裸になった久世にしばらく見とれた。これから久世と一緒にいられる。最長で三ヶ月、短くて数時間。しっかり目に焼き付けてから次の作業にかかった。

 期間を三ヶ月間と決めたのは、運が良ければ次の衣替えの時期まで男子学生は戻ってこないと踏んだからだ。

 逃げられないよう足首にSM用の鍵付きバンドを巻き、ロープを括りつけた。ロープの長さはある程度行動はできるようにしてある。

 ベランダと窓の雨戸は閉めておいた。目隠し用の布を枕元に置き、パソコンで作成したメモは、目を覚ました久世が部屋を見渡した時最初に見つけられるように床に置いて、樫木は部屋を出た。

 久世が目を覚ましたのは数時間後、明け方近くだった。盗聴器と隠しカメラで、近くに停めた車からその様子を窺っていた。

 久世は自分の置かれた状況に顔を青くして混乱していた。無理もない。長い時間をかけてメモを読み、長い時間茫然としたあと、震える手で目隠しを取った。

 ベッドの上で膝を抱え、小さくなるとピクリとも動かなくなった。

 樫木は事前に用意しておいた香水をつけた。二種類の香水をブレンドしたもので、世界に一つの香水になっている。失敗しながら試行錯誤し、一番上品な匂いになる二種類を選んだ。

 これで久世が他の誰かと自分の匂いを間違えることはないはずだ。この匂いを嗅げばいつどこにいても自分を思い出すはずだ。

 しばらくモニターを観察してから部屋に戻った。音を聞きつけ、久世はさらに小さくなって怯えていた。心が痛むと同時に、愛おしさが溢れてきて樫木は無意識に笑みを湛えていた。

 まず目隠しの状態を確かめ、それから久世の体に触れた。極度の緊張のせいで久世の体は冷たかった。触ると肌が粟立るのが見えた。ブルブルと震えだし、「助けて」と掠れた声を出した。

 傷つけるつもりなんかないとわかってもらうために、ことさら優しくした。愛情を伝えるために体中に口づけた。

「許して……っ」

 瀕死の者のような悲痛な叫び声だった。本人は大きな声を出しているつもりなのだろうが、部屋の空気をわずかに震わせる程度の声量なのが哀れだった。

 抵抗すればスタンガンの存在を耳に教えた。石像のように固まった久世を四つん這いにさせ、大人になってからは誰にも見せたことがないだろう場所を見た。

 すすり泣く久世を慰めるように舌を這わせた。今までの思いの丈をぶつけるように、丁寧に時間をかけて丹念に舐め解した。何時間だって舐めていられる。

 手足が疲れたのか久世はベッドに突っ伏した。太ももがガクガク震えていた。つい夢中になってしまったことに気付いた。名残惜しかったが次の段階へ移った。

 ローションで穴を潤わせ、ペニスを挿入した。自分のしでかしたことも忘れてその瞬間は恍惚に浸った。

 久世の負担を考え、慣れるまでは動かずじっとしていた。久世の中は温かくて蕩けそうだった。射精の予感を紛らわそうと久世の体を舐めながら、苦痛を和らげてやるためにペニスを触った。

 久世の様子をみながら腰を動かしたり、止めたりした。嗚咽を漏らすだけの久世も、ペニスを刺激され続けて射精した。手にかかった生温かい液体を舐め取った。久世のものなら何もかもが愛しい。

 我ながらよく持ったと感心するほど長い時間のあと久世のなかに精を放った。力尽きたのか久世はぐったりと横たわる。

 お湯で絞ったタオルで久世の体を綺麗に拭いた。涙のあとが痛々しい顔は優しく、精液にまみれた性器は包みこむように、全身の汚れをくまなく拭い取った。

 布団のなかに寝かせると、久世は気絶するように眠りに落ちた。

 時計を見ると正午を過ぎていた。驚くほど時間の経過が早い。

 それから毎日、自宅と監禁部屋の往復だった。

 仕事は夕方にして、学生が学校に行っているはずの時間は久世と一緒にいた。

 最初の一ヶ月は久世の態度は硬かった。樫木が来たとわかると硬直し、体を震わせ、触ると許してと泣き、犯すと声すら失って呻くだけだった。

 二ヶ月目から少しかわってきた。樫木が危害を加えないことが理解できたのか、なすがまま、体を預けて来るようになった。心細さからか、逃げる好機を狙ってか、話しかけてくるようになったのもこの頃だ。

 三ヶ月目は別人になったと言ってよかった。樫木が部屋に入って雑事を片付けている間、その物音や気配を追って顔を動かしていた。深く息を吸いこむ動作も見られた。香水の匂いを、樫木の匂いだと認識しているのだ。

 シャワーで体を洗ってやると礼を言われるようになった。キスをすると舌を絡ませてきた。体を触れば甘ったるい吐息を漏らした。性器を擦れば声をあげた。ペニスを挿入すれば気持ちいいと喘ぐようになった。

 本能的な自己防衛から来る変化だとわかっていても、乱れる久世を見るのは興奮したし、嬉しかった。この時間が永遠に続けばいいのにと願った。何度目隠しを外し、自分のマンションへ連れ帰って一生閉じ込めておこうと思ったか知れない。

 そろそろタイムリミットが近づいていた。物悲しく思いながらベッドの久世を見下ろした。

「……どうしたの? 早く、入れて……っ……僕のなか、もうトロトロだよ……? あなたのを入れて欲しくてヒクヒクしてるの……見えるでしょ……?」

 淫らに変貌した久世を置いていくくらいなら、繋がったままの現場を取り押さえられ、何もかも失ったほうがマシだと思えて来る。

「ねえ、早く……僕のなか、あなたのでグチャグチャに掻きまわして……っ」

 頭を振って感傷を吹き飛ばした。ゆっくり味わうようにペニスを挿入した。中は熱くうねっている。直接敏感な部分を擦り合うのはこれが最後だ。明日からは証拠を消すための、最終段階に入る。

 この匂いを覚えておいて。次に会う時まで忘れないで。必ず迎えに行くから。その時まで愛しい人よ、待っていて。




美しい野菜 (1)

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コメント
終わりましたー!お付き合いありがとうございます!

明日、一応更新する予定です!
記憶喪失もの書きたい!と急に思いまして。それを書くのに丁度いい「楽しい」シリーズの2人組の番外編ということで明日更新します。今度は短いですw

ではまた明日、よろしくお願いします^^
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お返事
わず様

感想ありがとうございます!わりとBLあるあるネタの監禁ものでしたが、あるあるになるのがわかる気がしましたね。書くのが楽しかったです。捗ったゆえの全15話。読むとき退屈で飽きるんじゃないかと不安でしたので、楽しんで頂けて本当に良かったです!
こいつしか犯人ありえないという感じでしたが、できれば最後まで「いやどうだろう」と楽しんでもらえたらと思って、疑い向ける感じで幾人か男を登場させたりしましたw
私的にもハッピーエンドなんですが、犯罪は犯罪!しかも罰せられないなんて!と思われる方もおられるかもしれないと思いまして、後味悪しの注意書きをしていました。これも意図せず良い惑わかしになったのかもしれないですね。
最初の予定では香水の瓶を見つけるのは芳明だったのですよ。金子に教わった瓶と同じなのに、匂いは犯人と同じ…?!っていう。気付いても気付かないふりするんだろうなって、その時はうっすらと考えていました。書き終わった今も、二人ともずっと黙ってるんだろうなと思います。色んな人に迷惑かけちゃったけど、2人幸せになればいいじゃない!you 幸せになっちゃいなよ!

今回15話とお待たせいたしましたが、今日、明日、楽しいシリーズを更新予定ですので、こちらもお楽しみいただけたら幸いです^^
「Phantom」一気に読みました。

注意書きに「後味悪い」「退屈」と書いてらっしゃいましたが、とんでもない。
中盤、犯人=樫木さんじゃなかったらどうしようとハラハラしましたが、第一希望の展開&結末でした。

樫木さんの一途で盲目的な病みっぷりと芳明さんの無自覚女王ぶりに萌えました。

いやー、おもしろかった!
ありがとうございました。
お返事
キミドリ様

退屈じゃなかったですか!良かったです!ずっと短編を書いていたので、たまに長めの話を書くとエロぶっこんでないことに不安を覚えるのですw

私は格好いい人を書けないという重大な欠点を抱えているので、樫木みたいな攻めって嫌がられるかもしれないと心配でした。なので萌えたと言っていただけると本当に嬉しいです!


こちらこそありがとうございます!

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