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嘘 (1/7)

2016.07.29.Fri.
※途中視点交代。交代後、重複箇所あり。

 配達を頼まれたマンションの部屋番号をもう一度確認してからインターフォンのボタンを押した。

『はーい』

 適切な音量で話せないのかと思うような大きくて野太い声が応答する。

「××ピザです」
『いま出まーす!』

 しばらくしてガチャガチャと鍵の開く音がして、扉が開いた。

「お待たせし――」

 俺は最後まで言いきることが出来なかった。最初に目に飛び込んできたのは、涙と鼻水でグチャグチャの若い男の顔。

「あっ、あ、す、いませんっ……いくらっ、ですか、はぁっ!」

 喘ぎ声としか思えないような声をあげながら話しかけてきた男は全裸だった。その男の後ろでにやついた顔で腰を振っているのも、どう見ても男だった。こっちは30代前半だろうか。

 パンパンパンパンと肉のぶつかる音と、グチュッブチュッと粘ついた水音が聞こえる。前に立つ若い男の股間では勃起したものがブラブラと揺れていた。

「えっ……、あの、これ……」

 俺は一歩後ずさった。

 ピザ屋でバイトを始めて、いろんな家に配達に行った。なぜか居留守を使って「遅い!」と電話でキレてくる頭のおかしい奴もいれば、「一人で食べきれないからご一緒にどう?」と言ってくる一人暮らしのお年寄りもいたりした。

 大半はまともで普通の客だが、たまにヤバイとこに来た、と思わせる客もいる。こいつらなんかはまさにそう。

「悪いねぇ、いまいいとこだったからさ。ほら、祐樹、金払え」
「あはぁぁ、あっ、い、いくらぁっ?!」

 祐樹と言われた男は、後ろのデブに体を揺さぶられながら、歪めた顔を俺に向ける。よく見ると涙と鼻水と涎に混じって白い液体も見える。おそらくどちらかの精液。

「えっ、と、あのっ! えーっと、さっ、3800円、です!」
「ほら、祐樹、これで払え。おつり、ちゃんと受け取るんだぞ」

 後ろのデブが五千円札を祐樹に握らせた。祐樹がそれを俺に差し出してくる。何かを訴えかけるような切ない表情で。

「あっ、はい、えっとじゃあ、1200円のお返しですね。しょ、少々お待ちください」

 ウェストポーチからおつりを出して祐樹の手に乗せた。それを狙っていたみたいに、後ろのデブが激しく祐樹を突きあげた。

「いああぁぁっ、あっ、ああぁんっ、だめ、やっ、そんな、しちゃ……だめっ……お金、落としちゃうっ」

 祐樹の言う通り、振動で小銭が手から滑り落ちた。転がった百円玉が俺の足にぶつかって倒れる。一刻も早く帰りたくてそれを拾い上げた。

「あ、これ」
「祐樹、ピザも受け取らなきゃいけないから、お金は口でもらいな」

 デブがニヤニヤしながら祐樹に指示する。祐樹は男の言いなりで「わかった」と頷いて俺を上目遣いに一度見たあと、だらしなく開きっぱなしの口から赤い舌を出して、震える俺の手から百円玉を舐め取った。

「ピラ……もらいまふ……」
「え、あっ、はい! どうも、ありがとうございました!」

 マニュアル通りにお礼を言って、急いで扉を閉めた。直後、中からガタガタと慌ただしい音がして、「あはぁっ、あぁんっ、だめぇ、もうイク! イク! イッちゃう!!」と祐樹の声が聞こえた。

 走ってマンションを出た。バイクに跨り、その場から離れる。心臓がバクバクと興奮している。

 デブに犯られてる祐樹の顔に、俺は見覚えがあった。

 高校一年の時、同じクラスだった中原祐樹。ヤンキーっぽい粗暴な奴で、高校生活始まってすぐの頃、自分の存在感を見せつけるためか、クラスのおとなしめな連中をいじりだした、幼稚ではた迷惑な奴だ。

 ブスな女子に「お前、なんで生きてんの?!」と言ったり、デブな男子に「温暖化はお前のせいだろ」と言ったり、自分より目立つ奴がいると突っかかって行って「キモイ」を連発、場の空気を悪くしたりしていた。

 中原祐樹と一年同じクラスだということをクラスの全員が憂鬱に思っていたはずだ。俺もそうだった。憂鬱が絶望に変わったのは、密かに可愛いなと思った女の子をこっそり見ていたこところを、中原に気付かれた時だ。

 中原はすぐ、クラス中に聞こえる声で、俺が誰を見ていたかを言った。変態的な目で、股間を膨らませていた、なんて嘘もついて。

 またいつもの中原の残酷ないじりだとクラスの大半は思ったようだが、俺が思いを寄せていた由里原は、眉間に皺を作って軽蔑する目で睨んできた。そこには敵意もあった。

 俺に見られていたことへの不快感と、中原に目をつけられたことへの憤怒。余計な真似しやがって、ということだったのだろう。その被害者意識はよく理解できる。誰だって中原に目をつけられたくない。

 中原はことあるごとに、俺と由里原をからかってきた。席替えをすれば隣同士にしてやれよと言ったり、由里原が男と話していたら俺がヤキモチやくぞと肘でこづいたり、体操服に着替えていたらパンツをずり降ろされて、早く由里原に突っ込めるといいなと下品に笑われたりした。

 鬱陶しいことこの上なくて、由里原にも申し訳なくて、こいつと同じクラスで一年我慢しなきゃいけないことが嫌でたまらなくて……俺は学校に行かなくなった。

 二年になったらまた戻るつもりで家で勉強はしてたけど、中原とクラスが別になっても学校には行かなかった。そのままずるずる休み続けて結局中退した。

 21歳の今までずっとフリーターだ。まともに就職できる気がしない。それもこれも、中原祐樹のせいだ。あいつと同じクラスにならなければ。

 こんな形で再会したのは、何の偶然だろう。運命か。啓示か。

 素っ裸で男同士のセックスをピザの宅配スタッフに見せつける性癖があったとは知らなかった。あの頃の中原からは想像もつかない。

「どっちが変態だよ」

 吐き捨てるように呟きながら俺は道順をしっかり頭に刻みこんだ。

 その日、バイトが終わってから中原を見たマンションに自転車で戻ってみた。外から電気のついたベランダを眺めてみたりして5分ほど過ごしたが、中原の姿は見られなかった。

 この日から気が向けば例のマンションの周りをうろついていた。中原とセックスしていたデブの男は何度か見かけたが中原はいない。一緒に住んでいるものだと決めつけていたが、そうではないようだ。

 3ヶ月ほど経った今日も、バイトが休みだから駅前の本屋に行くついでに、あのマンションを見に行った。いつも通り、玄関は閉まっているし、ベランダのカーテンも揺れやしない。

 数分留まってから、本屋に向かおうと通りの先へ視線を伸ばしたら、俯き加減に歩いて来る人影があった。明るい頭。ヤンチャそうな見た目。ドクンと心臓が高鳴る。近づいて来るそいつは、中原祐樹に違いなかった。




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コメント
なんとか7月中に滑り込み更新。
昨日徹夜でせっせと書きあげただよ。おかげで今日は目がシバシバします。

後半書いてる間、ずっとうしろゆびさされ組の「うしろゆびさされ組」を聴いてました。
ヒューッ、懐かしい。若いお嬢さん方はご存知かどうか、ハイスクール奇面組というアニメのOPで、おニャン子クラブから派生したユニットだった……そんな感じだった気がします。秋元康作詞。初めてちゃんと歌詞見たのですけど、秋元さん作詞センス凄いッ!てなりました。

そして最近、「嘘喰い」って漫画にドはまりしています。個人的なイメージで(アカギ・カイジの福本+ライアーゲーム+哭きの竜)×喧嘩家業÷3のような漫画です。私もよくわかりませんけど。
ゲーム自体のルールやらトリックやら小難しくて理解できてないとこも多々あるんですけど、気にしないで読んでます。最後の種明かしで理解出来ればいいやw
アマゾンとかで試し読みできるので、ぜひぜひ。


さて。眠くなってきたのでそろそろ寝ます。
少しでも楽しんでもらえたらうれしいです。ではおやすみなさい。

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