FC2ブログ

Love Scars (1/3)

2016.07.16.Sat.
<前作「1万3千円」はこちら>

 最後に向居がトオルのケツに中出しして、それを舐めて綺麗にさせたところで「いいね!」と近田はビデオカメラを下ろした。

 近田は三ヶ月ほど前の塾帰り、カツアゲに遭った。少し抵抗したら袋叩きにされ、1万3千円を巻きあげられたのだ。プライド高く執念深い近田は、時間をかけて主犯のトオルを見つけ出し、用意周到に練った計画で復讐を実行した。

 媚薬を嗅がせ、ホモが集まる公園に半裸にして木に括りつけた。無数の男から凌辱される様子を、近田は冷静にビデオに撮影した。トオルは俺たちの言いなりだ。

 今日も向居の家でトオルに性処理させたところだ。近田は記録と称して毎回ビデオに撮影する。その間、トオルには指一本触れない。たまに声をかける程度。近田がトオルに触るのは、いつも俺たちが終わったあと。ビデオを止めてからだ。

「よく頑張ったね、トオル」

 さっきまでビデオを回していた手で、トオルの頭を撫でる。芸のできた犬を褒めるように。

「もう、嫌だ……こんなの、もう嫌だ……」

 最初は強気の反抗をみせていたトオルも、今ではすっかり牙の抜けたただの飼い犬だ。優しい声をかけてくれる近田にすり寄って涙を流している。

 精液臭いその体を嫌がらず、近田はトオルの肩を抱いた。

「頑張ったご褒美だよ」

 と言ってトオルに口づける。

 パンツを履いた向居が「うげえっ」と顔を顰める。

「そいつの口、精液の味すんじゃないの?」

 長いキスだ。触れ合う唇の隙間から舌が見える。近田が返事をしないので、向居は俺に同意を求める目を向けた。俺はそれから目を逸らし、かわりに、頭をもたげるトオルのペニスを見た。

 トオルは目を閉じて近田のキスを受けている。顎を持ち上げ、角度をかえ、自ら深い交わりを欲しているように見える。

「トオル、僕にもフェラしてくれる?」

 口を離した近田は囁くように言った。少し恥じらうような躊躇を見せたあと、トオルは近田のベルトに手を伸ばした。ベッドに腰かけた近田の足の間に座り込み、その中心へ顔を埋める。

「いい子だね。上手だよ」

 小さい子供を相手にしているような言葉をかける。俺や向居は絶対言わない台詞だ。浅黒い皮膚を赤くして、トオルは潤んだ目で近田を見上げた。

 近田のペニスを奥深くまで飲みこんで、顔を前後に揺する。

 俺たちには嫌悪と苦痛に顔を歪めて嫌々していることも、近田だと積極的に動いている。――ような気がする。

 眠くなってきたのかあくびをしながら向居は漫画雑誌をパラパラと見始めた。俺は近田とトオルを眺めた。俺の視線に応えるように、近田が目をあげ、笑いかけて来る。

 頬が上気して、少し引きつり気味の、性的な匂いが濃厚な微笑だ。返事のかわりに軽く頷いて目を逸らした。

「出すよ、トオル」
「んっ」
「全部飲むんだよ? 出来るね?」
「んんっ」

 近田はトオルを捕まえたあと、「こいつを調教する」と言った。ただのごっこ遊びだと思っていたが、近田は言葉通りの意味で言っていたようだ。

 飴と鞭。

 俺と向居が鞭で、近田が飴。俺と向居が手酷くトオルを犯したあと、近田が優しい声と言葉でトオルを慰める。

 すっかり心を許したトオルは、近田には素直に弱音を吐くし、縋りついて涙も見せるし、言うことも素直にきくようになった。俺たちと同じことをしても、近田がすれば正反対の意味を持つようだった。

 現に、口に出されるというのに、トオルは大きく頷いて一心不乱に近田に奉仕している。頭を押さえて口に吐き出されても、抵抗しないで飲みこんでしまった。

 近田は満足そうににっこりと笑い、また両手でトオルの頭を撫でると、前髪をかきわけたおでこに音を立ててキスした。

「気持ちよかったよ、トオル」
「う、うん……」

 褒められたトオルは顔を赤くして俯くのだ。

「もう帰ろうぜ」

 声をかけると、トオルは俺たちがいたことを忘れていたような顔で振り返った。そして自分の置かれている状況を思い出したのか、唇を噛んで俯いた。

「そうだね。帰ろうか。トオル、服を着て」

 近田に言われたトオルは素直に服を着た。怠そうな向居とは部屋で別れて、俺たちは向居の家を出た。帰る途中でトオルが立ち止まった。

「いつまでこんなこと続ける気だよ……もう許してくれてもいいだろ……」

 自分の足元を見ながら震える声を吐きだす。それを見た近田はヤレヤレと小さく首を振ってため息をついた。駄々っ子の我が儘が嬉しくてしょうがないって顔で。

「君が僕から盗んだ1万3千円分を、その体で返してくれたらね」
「返すからっ! 倍にして返すから、もう許してくれよ……!!」
「嬉しいお知らせだよ。1万円分は返してもらったから、残りは3千円分。あっという間だよ」

 嬉しいお知らせではなかったようで、トオルは絶望に満ちた顔で言葉を失っていた。

「じゃあまた連絡するね。残り3千円分、頑張ってね、トオル」

 歩く力さえなくしたようなトオルとは三叉路で別れ、俺と近田の二人になった。

「そろそろ潮時じゃね?」
「んー? トオルのこと?」
「もう気が済んだだろ」
「向居はまだ出し足りないんじゃないかなあ」

 確かに向居は性欲は人一倍強いくせに、自分から女に声をかけられないポンコツ野郎だから、気兼ねなく性処理に使えるトオルがいなくなったら文句を言いそうだ。

「ぶっちゃけ、1万3千円とか、もうどうでもいいんだよね。僕が味わった屈辱も果たせたし」
「だったらこの辺で手を引かないと、ヤバイことになるんじゃないか」
「水上は慎重派だなぁ。あいつが僕にだけ従順な人形になるまで、あと一歩ってところまで来てると思うんだ。だからもう少し遊ばせてよ」

 近田が目指すのは単なる復讐なんかじゃなく、身も心も自分の意のままに操れる人形になるまでトオルを堕とすこと。誇張でも冗談でもないことは、これまでの近田を見て来たからわかる。

「そこまで執着するような奴か?」
「……もしかして、水上って……」

 探るような目が向けられドキリとする。内心を見透かされそうな居心地の悪さ。目を逸らしたらやましいことでもあるのかと疑われるから、意地でも近田の目を見つめ続ける。

「まさか、トオルに惚れちゃったとか、言わないよね?」

 危うく安堵の息を吐いてしまいそうになった。

「んなわけねえじゃん。いくらケツに突っ込んでるからって、あんなの好きになんねえよ」
「あれでもかわいいとこあるよ? でも良かった。好きだって言われたら、もう遊びも止めなきゃって思ったから。さすがに友達の好きな奴は壊せないからね」

 安心したように近田は笑う。

「チカって、ホモに寛容なのな」
「寛容っていうか、理解は出来るでしょ。向居も水上もトオル相手に勃つんだから、あとは感情が伴えば男女の恋愛と何も変わらないよ」
「もしトオルからチカのことが好きだって言われたらどうするんだよ」

 近田はニッと口角を持ち上げた。

「僕が目指してる状態って、つまりそういうことなのかもしれない」
「あいつに好かれたいのかよ」
「酷いことをしてる張本人なのに、僕が飴の役割をしている限り、あいつは僕だけが唯一の味方だと錯覚するんだ。恋でも愛でも依存でもいい。その状態がいつまで続くのか興味湧かない? 完全に堕ちたと思ったらトオルのことは解放する。そのあと、期間を置いてまた接触したとき、トオルが僕の言うことをきくかどうか試したい」

 近田の目が好奇心でキラキラ輝く。

「それ、いつまで続ける気だよ」
「んー、トオルが僕の言うことをきかなくなるまで、かな?」
「一生だったらどうするんだよ」
「それも面白いね」

 と屈託なく笑う。

 一生あいつと付き合う気かよ。

 俺はいつまで近田のそばにいられるだろう。高校を卒業しても友達関係を続けているだろうか。社会人になっても、くたびれた中年になっても、近田と友達でいるだろうか。そんな未来、俺には想像できない。小中の友達とはみんな疎遠になっている近田が、俺を気にかけてくれるとは思えない。

 なのに、トオルには固執するなんて、面白くない。それがつい顔に出てしまったようだが、「水上は真面目だなぁ」と近田の行為を非難していると勘違いされた。

 駅の前で近田とは別れた。家に帰った俺は、トオルに中出ししたのにまたマスをかいた。漠然と思い浮かべる姿。直視しないことで誰かへ言い訳しているようだ。でも自覚はある。

 いつからかわからない。同じクラスになって最初に声をかけてきてくれた時か、友達になって一緒にいることが増えてからか。気付くと目で追っていた。自信溢れる態度がたまに鼻につくが、それがらしくて、魅力的でもあった。

 あいつの言うことならなんでも叶えてやりたいし、認められると舞い上がるほど嬉しくなる。

 俺は近田のことが好きだった。




関連記事
スポンサーサイト
[PR]

コメント

管理者にだけ表示を許可する