FC2ブログ

彼はセールスマン(1/2)

2015.11.14.Sat.
過去話<俺のセールスマン僕はセールスマン

※主役以外と無理矢理系、玩具挿入、セールスマンの名前は池田

 最近こっちの仕事は他の奴に任せていたから、事務所にいるなんて何か月ぶりだろう。欠伸をしながらそんなことを考えていたら、戸を叩く音のあと池田が中に入って来た。

「いま起きたって顔ですね」

 きっちりした身なりで涼しげに笑いながら指摘しやがる。

「お前が辞めるなんて言い出したから眠れなかったんだぞ」

 本当は別件で寝る時間が遅くなっただけだ。その分昼まで寝ていたが。俺の嘘に慣れっこの池田は鼻で笑った。

「まさか引き留められるとは思いませんでした」
「一応ここの責任者なんだから、優秀な社員が辞めるって言い出したら止めるだろ」
「留守が多いから、最近の僕の営業成績をご存じないんでしょう」
「悪いのか?」
「この一ヶ月酷いもんです」
「スランプみたいなもんだろ。お前ならすぐ巻き返せる」
「この仕事に飽きました」
「まだ25なのに枯れたか?」

 まったくの見当違いだと言いたげに、池田は口角を持ち上げて薄い笑みを浮かべた。この顔だったな、と初めてこいつを認識した日のことを思い出した。

 池田は高校の後輩だ。読書部という俺の先輩が作った漫画を読むだけのクラブに実態も知らずに池田が入部してきた。少し調べればそこが素行のよろしくない連中のたまり場になっているとわかりそうなものなのに。

 入部してすぐそれがわかっても池田は退部せず、放課後になると律儀に顔を出した。漫画には興味がないようで自分が持って来た本を読んで静かに過ごしていた。

 家で読めばいいだろと誰もが思った。俺がそれを言うと、池田はさっきみたいな笑い方をして目を伏せた。男相手に性衝動を感じたのはこの時が初めてだった。

 池田は細身だがちゃんと男の体つきをしていた。顔だって不細工じゃないがイケメンでもない。でも肌が綺麗で、一度も染めたことのなさそうな黒髪は艶やかで、全体的に地味なくせに妙に色気を感じる表情をする。

 初めて抱いた感情に俺は焦った。下品な会話が飛び交う騒がしい部室の隅で、黙々と本を読んでいるだけの池田が気になって仕方なかった。

 我慢できなくなってこっちから色々話しかけた。憎たらしいことに池田は最小限の返事しかしない。それがますます俺の飢餓感を煽ったのだと思う。

 他の部員を早く帰るよう誘導して、池田に戸締りを任せて一旦校舎を出た。忘れ物をしたとベタな手を使って部室に戻り、帰る前と同じ姿勢で本を読んでいた池田に襲い掛かった。

 もちろん抵抗された。ビンタもされた。頭がおかしいと罵られた。無視して強引に事を進めた。むりやり捻じ込み夢中で腰を振ってあっという間に射精した。

 終わってから自分のしでかしたことに真っ青になった。溜まってただの、たまたまお前だっただのと本心じゃない最低な言い訳を並べてなんとかなかったことにしようと必死だった。

「誰にも言うなよ。こんなこと喋ったらお前も一巻の終わりだぞ」
「言いませんよ」

 服の乱れをなおしながら池田は冷静だった。ボタンを留める指を見てたらまた欲情した。きれいな爪をしていた。

「親にも、だぞ」
「親はいません」
「え?」
「小さい時に両親が事故で死んでからずっと施設です」

 他人事みたいに淡々とした口調だった。それを聞いて息が苦しくなるほど池田のことが愛おしくなった。

 こんなことがあったからもう部に出て来ないと思っていたのに池田はそれからも毎日通い続けた。俺に対しても普段通りの態度で、あれは夢だったのかと混乱するほどだった。

 夢か現実か確かめるためにまた池田を襲った。今度は抵抗されなかった。ただ、痛いので今度からちゃんと準備させて下さい、と言われただけだ。

 それから池田とは個人的につるむようになった。家に呼んで何度もセックスした。慣れてくると池田も感じるようになったのか喘ぐようになった。その声をもっと聞きたくて、池田の痴態を見たくて、あの手この手で池田を責めた。男の池田に夢中だった。

 大学に行って会う頻度は減ったものの、週末や長期休暇には、一人暮らしを始めた俺の部屋に泊まらせて寝る間も惜しんでセックスした。

 二年後に池田は高校を卒業して就職した。地元の中小企業。池田は半年ほどで社長夫人と不倫を始めた。それを知って俺は激怒した。思わず拳を振り上げたが、罪悪感を微塵も感じていない池田の顔を見て真実に気付かされた。俺たちは別に付き合ってるわけじゃなかった。

 池田に好きだと言ったことはない、池田から言われたこともない。溜まってたから、たまたまお前だったという、高校のときの言い訳を池田はずっと信じて疑わなかったから、俺は池田を殴る立場になかったのだ。

 俺が就活を始めた頃、高校の時の先輩にAV撮影の仕事を手伝えと言われた。そこでアルバイトしながら色々企画を出した。その一つに素人の人妻ものを滑り込ませた。

池田には内緒で不倫相手の社長夫人に接触した。不倫をバラされたくなければ、AV撮影に協力しろ、と。夫にバレるのがよほど怖かったのか、社長夫人はAVに出演することを選んだ。

 そのDVDを池田に見せた。お前が好きな女はこの程度なんだぞ、と。最後まで見終わった池田は、俯きがちに口角を持ち上げて薄く笑った。「それが?」と言いたげに。

「あの人に付き合ってたのは、いろいろ便宜をはかってくれるからです。社長にもこれを送ったんですか? じゃあ離婚かな。利用価値がなくなったら、僕もあの人に用はありませんよ」

 冷酷に言い放つ池田にゾクゾクした。こいつと他人との間には取り壊せない壁があるのだ。誰もその壁のなかには入れない。もちろん、俺であっても。

 社長夫人の離婚のゴタゴタで池田とのこともバレて池田はクビになった。その時俺がいまの仕事に誘った。

 最初は俺の秘書兼事務兼受付といろいろ雑務をやらせていたが、得意先の奥さまから急きょ呼び出しがかかった時、担当者がいなくて、電話を受けた池田が出向くことになった。

 次回から池田が指名されるようになり、外回りもすることになった。

 高級住宅街に住む奥さまや娘に実践つきで大人の玩具を売りつける。そのついでにAV女優を探し出す。両親を事故で失い施設育ちだった池田には、大人の女の保護欲を激しく掻きたてるフェロモンが出ているのか、驚くほど売り上げた。そして、性に貪欲な女を見つけて来るのが上手かった。池田の天職だったんじゃないだろうか。

 それなのに辞めるだなんて。

「しばらく男優のほうでAVに出るか?」
「僕はカメラの前では勃たないので」
「お前がスカウトしてきた奥さんと男優にお前が挟まれるAVなんてどうだ?」
「悪趣味ですね」
「お前に迷惑がかかるって言えば、最初ちょっとごねた女も素直に言うことを聞くようになるんだ。健気な奥さんたちを抱いてやれよ」
「僕には関係ないですよ」

 相変らず冷たい奴だ。だが俺はそんな池田に強く欲情する。

「久し振りにヤルか」

 池田のネクタイに手をかけると、うんざりした顔でため息をつかれた。

「疲れてるんですけどね」
「成績落ちてるのに?」

 池田は答えなかった。俺を見ない目は、何かを隠していた。いや違う、誰かを、だ。

「これは上司の命令だから」

 力任せにワイシャツを開いた。




関連記事
スポンサーサイト
[PR]

コメント

管理者にだけ表示を許可する