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待田くんに春の気配(1/3)

2015.08.30.Sun.
<前話「待田くんに春はこない」はこちら>

 冗談だか本気だかわからない感じで「付き合ってよ」と佐々木に言われたわけだけども、それと同じことを遠野にも言っていたことがわかったので俺の心は九分九厘断る方向で決まっていたのだが。

 月曜の朝、教室に入ると佐々木が駆け寄ってきて「今日のお昼、一緒に食べよ?」と耳打ちしてきてつい「お、おう」と承諾してしまった。弱すぎるぞ俺。既成事実とやらで固められて付き合うことになってしまいそうじゃないか。

 佐々木の見た目は悪くない。ただ遠野曰く、男を切らしたことがないのが自慢のビッチらしいし……。そんなに経験豊富なら、すごいテクとか持っていそうだな。

 ピンクな妄想に取りつかれていたら「what’s up!」と強い力で背中を叩かれて体がよろけた。見ると遠野だ。欧米か。

「いてえだろ、この野郎」
「鼻の下伸ばしてなに考えてたんだ、この野郎」
「べっ、別になにも!」

 友達同士で喋っている佐々木のほうをチラっと見てにやりと遠野が笑う。

「付き合うことにしたんだ?」
「付き合わないよ! ただちょっと……昼飯を一緒に……」
「流されやすい奴だなぁ。こっちまで食われないように気を付けろよ」

 ぎゅっと俺の股間を鷲掴んだあと、遠野は自分の席へと向かった。掴まれた感触にちょっと腰が引け気味の俺。ブラのホックを外す練習した週末が嫌でも思い出されてしまう。ただの友達の遠野と、キスしたり、扱きあったりしたんだよな。あいつの唇、柔らかかったなぁ……。

 またピンク色の妄想が始まりそうになり、慌てて追い払った。遠野で妄想とか。いくら今まで彼女がいなかったからって。ファーストキスが遠野だからって。ありえない。ありえないぞ。



 昼になると佐々木は当然のように「一緒に食堂行こ」と誘ってきた。これってもう付き合ってることになるんだろうかと思いつつ、「お、おう」と周りを気にしつつ教室を出る。

 ビッチな佐々木の次の男は待田だという目で見られているのだろうか。それちょっと恥ずかしい。いかにもヤルために付き合うみたいじゃないか。いや、そうなのか。いや、待てよ、俺って佐々木のこと、好きなんだっけ?

 うどんとカレーのセットを頼み、佐々木と並んでテーブルにつく。佐々木ビッチという遠野の情報のせいで、AV女優の隣にいるような恥ずかしさと居心地の悪さを感じる。そんなこと知ったら佐々木は怒り狂いそうだけど。

「一口頂戴」

 佐々木は俺のカレーに手を伸ばしてきた。食べかけのカレーなのに、気にもせず一口食べて「学校のカレーって家のカレーより美味しく感じない?」とか言ってる。

 あれか。これは回し飲みの延長みたいなものか。男の食べかけのカレーでも、いまは平気でシェアできる時代なのか。俺は凄く意識してしまうんだけど。というかきっと、男が同じことしたら女から非難轟々だと思うけど。女ずるいぞ。

「待田っていままで付き合ったの何人?」

 自分のオムライスをつつきながら佐々木が横目に見てくる。「付き合ったことある?」じゃなくて「何人?」だって?!

 佐々木との常識の違いに背中がゾクゾクする。嘘ついたほうがいいのか。見栄はって適当な人数言っといた方が馬鹿にされないのは確かだが、すぐにボロが出そうだ。

 迷いに迷ったすえ「何人だと思う?」と質問に質問で返すと言うタブーを犯した。佐々木は一瞬面倒くさそうに眉を動かしたが「二人くらい?」と笑顔を持ち直した。

「まぁ、そんな……多いような少ないような……」
「私の経験人数知りたい?」
「え、いやぁどうかな」
「たぶんだけど、遠野よりは少ないよ」

 急に遠野の名前が出て来る。遠野もそれなりに多いはずだ。遊ぼうと誘ってもデートだと断られたことがしばしば。あまりプライベートを話したがらないから詳しくは知らないけど、たまに話を聞けば、たいてい前回とは違う子と付き合っているし。学校のなかじゃ常に数人の女の子をはべらせているから誰が本命かわからないし。本命じゃない子も、何人がいるみたいだし。

 あの遠野と張り合える経験人数なのだろうか。

「凄いな」

 素直な感想がぽろりと口から零れ出た。佐々木は気を悪くした様子もなく、むしろ笑みを濃くして「学校終わったら、うち来ない?」とすり寄って来た。

「うちって、佐々木の? 家?!」
「そうだよ。うちの親、共働きでいつも遅いから」

 佐々木は俺の太ももに手を乗せて来た。触れ合っているその場所が、灼熱の棒を押し付けられたみたいに熱い。俺、食われちゃうのか!?



「完全に食う気だな」

 昼休みのやり取りを話すと遠野は断言した。

「どどどどうしよう」
「ゴム持ってるか? あの糞ビッチのことだから性病には気を付けろよ」
「お前、最低……性病持ってるの?」
「知るか」
「遠野でも、佐々木とはヤッたことないのか?」
「残飯食うほど飢えてねえの」
「お前、最t……じゃあ俺はなんなんだよ」
「珍味だと思って行って来い。シュールシュトレミング? だっけ? あれだよ、あれ」

 世界一臭い食べ物か。佐々木がこの場にいたらぶっ殺されそうだ。

「お前も佐々木にビッチ扱いされてたけどな」
「俺はあいつの足元にも及ばねえよ」
「実際、何人なんだ?」
「なにが?」
「経験した人数」
「遊びとか、一回限りも入れて?」

 一回限りとかあるのかよ。もう俺とは別世界の話だ。聞いてて頭がくらっとする。

「やっぱいい」

 同じ男として自信なくしそうだ。

「で、真面目な話、コンドーム持ってるのか?」

 乾く暇もなさそうな遠野と違って、童貞の俺がそんなもの常備しているわけがないだろう。黙って首を振ると「俺に任せとけ」と遠野はどこかへ姿を消した。

 休み時間が終わる頃に戻ってきて、俺の胸ポケットへ何かを滑り込ませる。

「悪い、一個しか用意できなかった」
「コン……ドーム?」

 遠野は笑って俺の肩を叩くと自分の席へ戻って行った。俺は自分の胸ポケットへ手を当てた。カサリと小さな音を立てて確かにそこにある。遠野はこれをどこから調達してきたんだ? というか俺は今日、これを使って本当に童貞を捨ててしまうのか?!



 放課後になって佐々木が俺のところへやってきた。「行こ?」とガッチガチに固まっている俺の腕を掴んで立たせた。しかしそのあと佐々木が動こうとしないので不思議に思って見ると、佐々木は俺じゃなくクラスメートと談笑中の遠野を見ていた。

「ねえ、遠野も誘わない?」
「えっ、なんで」
「待田って遠野と仲良いから」

 確かに仲はいいけど、いまから佐々木の家に行ってヤルんじゃないの? 遠野も一緒に誘うってことはヤルつもりじゃないってことか? それとも本命は遠野ってことか?

「別に二人でもいいんだけど。実は友達に遠野のこと好きって子がいてね、その子も誘ってるんだよね」
「あ、そうなの?」

 じゃあやっぱり今日はするつもりじゃないのか。安心するようながっかりするような。いや、これでいいんだ。付き合ってるかもわからない佐々木とそんなことするなんておかしいし、いきなり部屋に二人きりになるより、気心の知れた遠野が一緒にいてくれたほうが心強い。四人もいれば気まずい沈黙もできなくて楽しい時間を過ごせそうだし。

「だったら遠野も誘ってくるよ」

 俺は遠野へ近寄り声をかけた。話を聞いた遠野が顔をしかめる。

「なんで俺が」
「遠野が来なかったら佐々木の友達かわいそうだろ」

 俺の肩越しに佐々木を睨むように見て、遠野は舌打ちしたあと「仕方ないな」と承諾してくれた。



おれ、被害者

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コメント
更新しました!
なんとか8月中に更新できました!良かった良かった。

私は8月頭くらいからセキが止まらなくてこれちょっとおかしいんじゃないかと呼吸器内科に行ってみたら「軽い喘息」って言われてしまいました。
喘息なのか喘息じゃないのか微妙なところですけど、たまに咽喉がふさがった感じになって息が出来なくなるときは本当に苦しくてこのまま死ぬのかもと思ったりします。
音沙汰なく放置が続いたら死んだな、と思って下さい。

私のことはさておき、かなり涼しくなってきましたね。体調崩しやすい時期でもありますので皆様お気をつけくださいね。
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お返事
インディゴさん

2話に分けるとちょっと長くなりそうだったので今回は3つに分けました。内容としてはそんなにないんですけどもw
この話にもBL要素、感じてもらえると嬉しいです。ちょっと最近BLのLから遠ざかってるような気がしているので心配です。
ネット徘徊して萌えを補給しつつ、次のネタを練りたいと思います。こちらこそありがとうございます!!

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