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待っててね(1/2)

2015.07.03.Fri.
※未挿入

 一番上の笑子がデートだとかでシャワーを浴びたあとせっせと厚化粧をしている。受験生なのに遊び惚けて大丈夫なのか? 真ん中の真帆も鏡を覗きこんで「お姉ちゃんかわいいー。今度私にも化粧教えてー」とか騒いでいる。まだ中二のくせに必要ないだろ。

 俺はいま学校の宿題をやっているんだ。静かにしろ。だいたいどうしてリビングで化粧なんかやるんだ。騒ぐなら自分の部屋でやれ。

 母さんは夕飯の準備に忙しくて二人を注意しない。俺が注意したらそれこそ百倍になって二人から言い返されるので、ここは苛立ちをぐっと我慢して計算問題に集中するしかない。末っ子で男は俺一人。数と年齢の違いには勝てない。

「健人、ティッシュ取って」

 笑子がテレビの横に置いてあるティッシュを指さす。確かに俺のほうが若干近いけど、どうして俺がわざわざ勉強を中断してまでお前のためにティッシュを取ってやらなきゃいけないんだ。

「そのくらい自分で取れよ」
「あんたのほうが近いでしょ」
「笑ちゃんいま動けないんだからティッシュぐらい取りなさいよ」

 真帆が偉そうに口を挟む。だったら見てるだけのお前が動け。

「やだぁ、こいつ睨んでくるんですけどぉ」
「綺麗になった姉ちゃんに見とれてるの~?」
「誰がお前らみたいなブスに」
「誰がブスだって?!」

 笑子が立ち上がり俺に向かってくる。動けないんじゃなかったのかよ。やんのかコラ。ファイティングポーズを取ったら足をつかんで引っくり返された。すかさず真帆が頭のほうへ来て俺の腕を掴む。こいつらしょっちゅう喧嘩するくせに、俺を攻撃するときだけはなぜか息ぴったりなんだ。

「さっきからチラチラ姉ちゃんの胸見てるの知ってるんだぞ」

 風呂上がりにタンクトップでうろついてるから嫌でも視界に入ってくるんだよバーカ!

「誰が見るか、そんなきったねえもん!」
「あたしの胸が汚いっていうなら、健人のここはどうなのさ」

 あろうことか笑子が俺に電気あんましやがる。これが年頃の女のすることかよ!

「やめろよお前らまじで最低ぶっ殺す!!」
「笑ちゃん、健人のちんこ、潰しちゃって!」

 女がちんことか口に出してんじゃねえよ! 家の外じゃ猫被ってるの知ってんだぞ! 今度お前らの本性隠し撮りしてYouTubeにあげるぞ!!

「やだー! なんか足の下で大きくなってきた気がするー!!」
「最低なの健人のほうじゃん。変態が弟なんてやだー!!」

 似た者同士の性格最悪な姉妹が顔を見合わせ下品な笑い声をあげる。こんな奴らの弟に生まれてしまったのが俺の人生最大の不幸だ!!

「そろそろご飯よー、いつまでも遊んでないで手伝って」

 キッチンで母さんが声をあげた。力が緩んだ隙に、笑子の足と真帆の腕を振り払って逃げ出した。靴も履かずに家を飛び出し、マンションの通路を走って階段に駆け込む。2階ほどおりたところで階段に座り込んだ。

 膝を抱えて顔を埋める。悔しくて涙が出て来る。笑子の電気あんまで俺のちんこは確かにちょっと大きくなってしまっていたのだ。いっつもこうだ。いつも俺が一方的におもちゃにされて、笑いものにされるんだ。

 デリカシーのない女は糞だ。あいつらのせいで俺はクラスの可愛い女の子を見ても、家の中だと裸でうろついて口汚いのだと想像したらときめくことが出来なくなってしまった。

 どうして俺はあんな奴らの弟に生まれてしまったんだろう。家に帰りたくない。どっかよその家の子になりたい。

「健人?」

 メソメソしてたら優しい声がして、頭をふわっと撫でられた。この声は隣のしいちゃんの声だ。顔をあげたらやっぱりしいちゃんで、泣き顔の俺からいろんな事情を察したように優しく微笑んだ。

「また生駒と喧嘩した?」

 しいちゃんと真帆は同級生だ。同じ中2同士なのに、しいちゃんのほうが大人っぽくて優しくて思いやりがあって真帆とは大違いだ。しいちゃんが俺のお兄ちゃんだったら良かったのに。

「靴も履いてないじゃん。まだ帰りたくない?」
「一生帰りたくない」
「じゃあちょっとだけ俺んとこおいで」

 しいちゃんが伸ばした手に掴まって俺は階段から腰をあげた。

 あの極悪姉妹に泣かされるたび、しいちゃんはこうやって救いの手を俺に差し伸べてくれた。たまに真帆に注意してくれたりもした。真帆は「鍛えてやってんのよ」とぜんぜん聞く耳持たなかったけど。

 8階に戻っても通路には誰もいなかった。小学生の一人息子が飛び出したのに、母さんも姉ちゃんたちも薄情だ。

 しいちゃんはポケットから鍵を出して扉を開けた。しいちゃんちは三年前におじさんが亡くなってからおばさんと二人暮らし。おばさんは仕事で帰りが遅くなることがよくあった。そのたび母さんがしいちゃんに声をかけてうちで預かってたけど、中学に入ったくらいからしいちゃんが遠慮するようになった。しいちゃんがいてくれる間、あのデンジャラスコンビが少しおとなしくなるから俺は大歓迎だったのに。

 しいちゃんは明かりをつけながら奥へと進んで行った。しいちゃんちは部屋が片付いてて綺麗だ。家具も統一感があってキャラクターものが散乱するうちとは大違いの落ち着きがある。

「ご飯は食べた?」
「まだ」
「お腹すいてない?」
「ちょっと」
「おにぎり食べる?」

 しいちゃんはコンビニの袋をガサガサやって鮭おにぎりを俺に差し出す。

「それ、しいちゃんの晩御飯じゃないの?」
「いいよ。食べな」

 受け取ったおにぎり。なんだか申し訳なくて食べづらい。

「そうだ、あとでうちに食べにおいでよ。たぶん今日カレーだから」
「うーん、今日のお昼、カレーだったんだ」

 とやんわり断られる。

 俺は給食も晩ご飯もカレーで平気だけど。しいちゃんは最近うちに来るのを嫌がっているような気がする。俺はどんどん来て欲しいし、なんだったら昔みたいに泊まって行ってほしいのに。きっとうちが騒がしすぎるからだろう。恥ずかしい。

 しいちゃんはお弁当を温めて、インスタントのお味噌汁を作った。しいちゃんがおかずを食べたのを見て、俺もおにぎりをかじった。うまい。

 しいちゃんはから揚げも俺にくれた。お味噌汁も勧めてくれた。どうして血の繋がりのないしいちゃんのほうが俺に優しくしてくれるんだろう。本当に俺、しいちゃんちの子供に生まれたかった。しいちゃんの弟になっていっぱい遊んでもらいたかった。

 食べ終わってバラエティ番組を見てたらしいちゃんが「そろそろ帰る?」と訊いてきた。追い出そうとしてるんじゃなくて、俺を心配して気遣うような口調だ。

 まだ帰りたくない。でもこれ以上の長居はしいちゃんの迷惑になる。返事を迷って黙り込むと、しいちゃんは苦笑して「うちにいるって、生駒にメールだけ送っとくから」とスマホを取って操作しだした。

「しいちゃん、真帆とメールしてるの?」
「同じクラスになったときに。家は隣だけど、知ってたほうがいろいろ便利だからって」

 俯いてメールを打つしいちゃんを見ながら俺は嫉妬してた。こうやって優しくしてもらっていても、俺より真帆のほうがしいちゃんと親しいんだ。男同士で分かり合えるつもりだったけど、しいちゃんと俺はやっぱ対等じゃなくて、同級生の弟、隣の家の末っ子程度の認識なんだ。

 クッションを抱えてソファに寝転がった。

「寝るなよ」

 ってしいちゃんが俺の足を軽く叩く。俺は唇を尖らせて返事をしなかった。

 ※ ※ ※

「健人!」

 名前を呼ばれながら揺り起こされた。いつの間にか寝ていたらしい。枕にしていたクッションから頭をあげると、化粧ばっちりの笑子が俺を見下ろしていた。まだデートに行ってなかったのかよ。

「まぁた静雄んちに入り浸って。迷惑考えなさいよ」

 笑子がしいちゃんを静雄と呼び捨てたので驚いた。家族全員しいちゃんと呼んでいるのに。

「静雄もこんなの相手にしなくていいからね。こいつ、甘やかすとつけあがるから」
「甘やかしてるつもりはないけど。逆に生駒は昔から健人に厳しすぎるよ」

 ダイニングテーブルに寄りかかっている男の人が言う。これは誰だ? しいちゃんに似ているけど年齢が違う。この人は大人だ。背も高い。そして声は少し低い。しいちゃんの親戚? だけど笑子はこの人を静雄って呼んだ。ということはしいちゃん? 待て、待て待て待て! いまこの人、笑子を「生駒」って呼んだぞ?! もしかして、

「……お前、真帆……?」
「他に誰がいるのよ」
「笑子じゃなくて?」
「はあ? 笑ちゃんは結婚して北海道でしょ! 寝ぼけてんの?!」
「結婚?! 北海道?! 」
「駄目だこいつ、完全に寝ぼけてるわ」

 笑子だと思った女は両手を広げて首を振った。化粧か。化粧のせいか。確かに真帆に見えなくもない。だけど真帆だとしたらこっちも背が高いし、髪も長くなってるし、む、胸もでかい!

「今日はうちでご飯食べなね。母さんが静雄も呼びなって。ハンバーグ。好きでしょ」

 大人になった真帆がしいちゃんらしい男の人へ言う。男の人は「好き」と笑った。あぁ、この優しい笑顔はしいちゃんに間違いない。だけどどうして急に二人とも大人になってしまったんだ。夢か。これはきっと夢なんだな。色も音声もなにもかもこんなにリアルな夢は初めてだ!

「あたしも一緒に作るんだ。初めて作るから失敗するかもしれないけど」
「きっとおいしいよ」
「そんなの食べなきゃわかんないじゃん」

 大人の真帆が顔を赤くして下を向いた。なにかわい子ぶってんだか。俺にはしらじらしい仕草なのに、しいちゃんもほんのり頬を赤くして頭を掻いてる。なんだこの二人の間にある甘酸っぱい空気は。

「7時くらいに出来る予定だけど、暇だったら今からうちに来てテレビ見てればいいし」
「うん、大学のレポートちょっとやったら行くよ」
「その時うちの馬鹿も連れて来て」

 真帆は「うちの馬鹿」と言うとき俺のほうを見た。相変わらず口は悪いが、顔は幸せそうに緩みきっている。

「静雄の邪魔するんじゃないわよ」

 言うと真帆はしいちゃんの家から出て行った。

 見届けたしいちゃんが「はあ」と深いため息をつく。まるで今まで呼吸するのも難しかったみたいに胸をおさえて息を整えてる。まさかとは思うけど。

「しいちゃん、真帆と付き合ってんの?」
「えっ!」

 しいちゃんが目に見えて動揺している。

「まだ、だよ。あ、まだっていうか……」

 言葉に詰まってみるみる顔を赤くしていく。真帆の様子からもしいちゃんが好きなのは確か。二人は両想いなのか。

「しいちゃん、騙されてるよ! 真帆はそんな可愛い女じゃないよ!」

 ソファから立ち上がったらいつも以上に目線が高く伸びて、俺は思わずしいちゃんの肩に掴まった。その感触にまた驚いた。しいちゃんは大人になっているのに、肩は子供みたいに華奢に感じたのだ。

 違う。

 しいちゃんを見下ろしながら俺は違和感の正体に気付いた。しいちゃんが華奢なんじゃない。俺の体がでかくなっているんだ。

「……しいちゃん、俺より小さい」
「なんだよ改めて。健人が中学のときに俺を追い抜いたんだろ」

 夢の世界じゃそういうことになっているのか。しいちゃんが大学生ということは今の俺は高校生くらいということか。小5だった俺が高校生!! しかもしいちゃんよりでかくなってる!!



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コメント
ずいぶん長い間お休みさせてもらっていました。すみません。やっと更新できましたっ!

なにも考えず、とにかく完結させようと書いていました。いつも以上に読みにくいかもしれません。
時間かかりましたけども、仕上げることが出来てよかったです!
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待ってました!
タイトルが。うけました笑。

身長追い越しちゃった設定萌えますね〜
こんなに早く復帰うれしいです。無理せず、ご自身のペースで頑張ってください。これからも待ってます!

お返事
らつこさん

いわゆるショタおにですw なんだかんだ年下攻めが好きだなぁと。タイトルだけ見るとちょっとホラーちっくでもありますね。ストーカーっぽいというかw
まだ完全に勘を取り戻せてはいないのですが、もう一ヶ月以上もお休みしないように頑張って行きたいです!ありがとうございます!!

お返事不要の方もありがとうございます!!
ちぐはぐ、いいですよね。いま気付いたんですけどこれコナン君の逆バージョンだったんですね。実はジュマンジって映画を久し振りに見て思いついたネタだったのですw ジュマンジは実際26年という年月が経っているのですけども。つくづくBLはなんでもありのファンタジーだなって思いました。
ちぐはぐ設定は美味しい…!お礼だけのつもりがつい…すいません、ありがとうございます!!

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