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その後(1/3)

2015.05.09.Sat.
前前話「ノビ」前話「再会」

 仕事が終わったその足で斉藤の部屋へ向かった。勝手に入れと渡された合鍵を使って中に入る。

 カーテンは閉まったまま。空気も籠っている。斉藤はまだ寝ているらしい。午前六時過ぎ。そろそろ起きる時間だ。

 足音を忍ばせて部屋の中を移動し、狭い台所に入って冷蔵庫を開けた。先日俺が買ってきた食材がまだ残っている。やはり自分で料理はしないようだ。

 俺だって得意なわけじゃないから簡単なものしか作れない。ただ卵をかき混ぜるだけのスクランブルエッグと、ベーコンとソーセージをフライパンに放置して、その間にトマトを切った。

 刑務所に入る前は食事の内容なんて気にしたこともなかったのに、こうして誰かに食べさせるとなると野菜も採らなくては、と義務の様に思ってしまう。

 炊飯器をあけると黄色く変色したご飯が湯気をくゆらせる。数日前に俺が炊いてそのままだ。しゃもじを突っ込んで奥を探ると白いご飯が出て来たのでそれを茶碗によそった。

 皿を持って奥の部屋へ行くと、布団のなかから斉藤が俺を見上げて欠伸をした。

 なんて声をかけようかと一瞬迷う。おはよう、が妥当なシチュエーションだがなんだか気恥ずかしい。結局ぶっきらぼうに「……メシ」としか言えなかった。

「ああ」

 斉藤も挨拶なしで短く答えるとベッドから起き上がってトイレに向かった。用を足した斉藤が洗面所で顔を洗い歯を磨いている間に、俺は料理をテーブルに並べ、カーテンを開けた。

 明るくなった部屋の様子をついチェックしてしまう。女を連れ込んだ様子はなし。

 2週間ほど前、斉藤が個人的に用心棒をしてやっている水商売の女が転がり込んできた。なんでも付き纏っている昔の男に住所がバレたから、引っ越し先を見つけるまで匿って欲しいとやってきたのだそうだ。

 そういうわけだから、俺が呼ぶまでお前は来るなよ、と電話で斉藤に告げられた。ばか! と怒鳴ってやりたくなったが「関係ねえよ」と電話を切った。

 それから連絡が来るまで五日ほどかかった。その間、斉藤は女と寝食を共にしていたわけだ。肉体関係のある二人だ。当然、セックスもしていただろう。

 利害が一致しただけだと斉藤は言うが、男と女、いつ関係が進展するかわからない。

 女が残して行った歯ブラシは俺が勝手に捨てた。斉藤はなにも言わない。気付いてもいないかもしれない。女のことについては何一つ俺に言わない。

 連絡をもらってすぐ現れた俺を見て、斉藤はただ可笑しそうに笑っただけだ。何か言えば俺がブチ切れるとわかっていたからかもしれないけど。

 テレビを見ながら、斉藤は黙って俺が作った朝食を口に運ぶ。美味しいともまずいとも言わない。ありがとうと言われたこともない。俺もそんなばかな期待はしない。

 ほとんど無言のまま食事を済ませ、斉藤は出勤の支度を始めた。

 土曜であってもほとんど仕事に出ていた。宿直明けでも事件が起こればそのまま続けて夕方まで勤務することも少なくない。おかげで俺が用意した食事が無駄になることもあった。

 俺を酷い目に遭わせてムショにぶちこんだこいつのために、どうしてメシなんか作ってるんだ。

 腹が立ったが、コンビニ弁当ばかり食べている斉藤を見ていたらついスーパーに寄って食材を買い込んでいたのは自分なので文句も言えない。

 ネットで調べたレシピで初めて作った野菜炒めは肉が固く、野菜は半生、味付けは辛いだけの最悪なものだったのに、斉藤はなにも言わずに食べ続けた。

「はっ、人の食いもんじゃねえな。あんたも無理しなくていいよ」

 俺が止めても「お前が俺の為に作ってくれたんだろ」と、口の中の野菜をシャリシャリ音を立てながら完食した。

 その夜は俺の出勤ギリギリまで斉藤と繋がっていた。

「今日はサービスがいいな」

 と揶揄されるほど奉仕した。単純に俺が止まらなかった。
 憎い相手なのに。体が欲しがってしまう。

 支度の終わった斉藤が玄関に立った。

「帰って来てからゆっくり相手してやるからな」
「していらねえよ」

 答えながら、斉藤のネクタイを掴んで引き寄せ、自分から口を合わせた。

 斉藤の手が俺の腰を抱き寄せる。お互いの口の中を弄って朝っぱらから濃厚なキスをする。股間が熱くなるころ、唾液の糸を引きながら離れた。

「物欲しそうな顔するな。行きづらくなるだろうが」
「そんな顔してねえよ」
「昼までには帰る。それまでここで寝てろ」

 待っていろと言われて頬が持ち上がりそうになる。わざとらしいしかめっ面を作って「帰りにシュークリーム買って来いよ」と拗ねた子供みたいにねだった。

「好きだなそれ」

 斉藤が呆れたように言う。

 刑務所で祝ってもらった誕生日でシュークリームが出た。それまで好きでもなかったのに、久し振りに口にした甘いお菓子がとてもうまくて好物になってしまった。

「じゃあ行ってくる」
「……うん」

 いってらっしゃい、とは恥ずかしくて言えない。



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コメント
2分割にしにくかったので3つにわけました。
なので1話あたりがいつもよりちょっと短いです。
初期の頃は1話あたりこのくらいの長さでしたね。いつの間にか長くなっていました。昔がスカスカすぎたのか、今がくどくなってるのか…。

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