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楽しい親子喧嘩!(1/2)

2015.04.21.Tue.
楽しい合宿!楽しいお泊り!楽しい勉強会!楽しい初カノ!楽しいOB会!楽しいロッカールム!楽しい遊園地!楽しい入院生活!楽しい旧校舎!楽しいお見舞い!楽しい合コン!楽しい放課後!

※健全。なんでも許せる人向け。

 夏の甲子園の正式名称は『全国高等学校野球選手権大会』という。各都道府県の地区大会に優勝した高校だけが出られる。

 一週間後に出場をかけた初戦を控えた今日、OB会から差し入れが届けられた。スポーツ飲料と粉末、栄養ドリンク、新しいボールの箱が高く積まれている。その横に、会の代表と一緒に西山の父親が並んでいたのには驚いた。

「こちらは西山のお父さんだ。お父さんの代で初めてうちは甲子園に出たんだぞ」

 と監督が紹介がてら豆情報を挟む。
 今日も髪を後ろへ撫でつけて、口元には優しげな笑みを浮かべている西山の父親は、俺たちをゆっくり見渡すと「いつも息子がお世話になっています」と軽く頭をさげた。

 ここに西山の姿はない。チラッと視線をあげた先の教室の窓は開いているから、今日もあそこで勉強をしているのだろう。

 捻挫をしたあの日、練習に戻って来いと西山に言ってみたが、結局あれから一日も顔を見せていなかった。

「残念ながら恵護はメンバー入りできなかったけど、OBとして君たちの活躍を応援しているから、これから始まる試合一つ一つを大切にして、全力で、悔いのないように頑張って下さい」

 西山父の言葉に全員で「はいっ!」と返事をする。

 父親と目が合った。俺を覚えているようで、他とは違う重い視線が絡み合う。俺が西山をフッたことを知っているような気がする。それでいいんだよと、目で言われているようで、俺のほうから視線を外した。

 差し入れの山と一緒に記念撮影をすることになった。端っこに並んだ俺の後ろにいつの間にか西山の父親が立っていた。

「久し振りだね。元気だった?」

 囁くような声で話しかけてくる。

「はい、まぁ」
「連絡してくれないから、どうしてるのか気になってたんだ」

 もらった名刺のことか。誰があんたなんかに連絡するか。

「約束を守ってくれて嬉しいよ。恵護は落ち込んでいるけど、それも少しの間だ」

 西山は家でも落ち込んでいるのか……。

 学校で見かける西山は、最近ますます周囲から孤立して、一人でいることのほうが多くなっていた。
 もちまえの明るさが消え、ノリが悪くなった西山は以前とは別人のようにおとなしい。

 園は顔を合わせると「あんたのせいだ」とネチネチ嫌味を言ってくる。綾瀬には「中根のほうが西山のマイペースに振り回されてるんだと思ってたけど、実際は逆だったな」と言われてしまった。

 他の連中も似たようなもので、西山はどうしたんだと訊ねてくるのは、暗に俺のせいだと思っているからだろう。
 そのくらい元気がないので、そんな姿を見たくない俺はいつも目を逸らしていた。

 写真撮影が終わり、もらった差し入れを部室へと運ぶ。
 監督と話をしていた親父さんが俺を手招きした。監督もこっちを見ているので無視するわけにいかず走って向かう。やって来た俺に向かって西山の親父さんは言った。

「まだ車に残っているのを忘れていたんだ。運ぶのを手伝ってくれるかな?」
「えっ」

 嫌だという思いが隠せず顔に出てしまう。監督は一言「行って来い」だった。
 仕方なく、西山の父親と連れだってグラウンドを離れた。

 来客用の駐車場は正門の右手にある。だが西山父は裏門のほうへと歩いていく。そっちには教職員用の駐車場があるから、そこに停めているのかもしれない。とりあえず親父さんのあとをついて歩く。

「甲子園、行ってくれよ」
「あ、はい……」
「恵護がベンチ入りしてくれてたら応援のし甲斐もあるんだけど、如何せんあいつは野球の才能はないからなぁ。本当に残念だよ」
「うちのOBだったなんて知りませんでした」
「父親が来るなんて嫌だと思ったからあいつがいる間は遠慮してたんだ」

 じゃあなんで今回は来たんだよ。

「じゃあどうして今日は来たんだって思ってるだろう?」

 親父さんが振り返り、悪戯っぽく笑う。見透かされた俺はどきりとして目を泳がせた。

「あれから家に来てないようだね」
「そ、そりゃあ……」
「友達付き合いは続けてくれても構わないんだよ。むしろどんどん遊びにおいで」
「なんで……?」

 そんなことを言う意味がわからない。真意をはかりそこねて戸惑ってしまう。

「俺は、あなたに言われたから、西山を振ったのに……どうしてそんなこと言うんですか? それって西山の気持ちを弄ぶことになるんじゃないですか?」
「君に気がないとわかれば諦めるさ。人は必ず立ち直る。この僕がそうだった。僕は昔、最愛の人を失ったんだ。それでも今こうして元気に生きているだろう?」

 失恋して失意のどん底だったときがあると、西山が話していたっけ。そのことを言っているのだろうか。

「運命の相手なら、必ずまたなんらかの形で再会する。人生とはそういうものなんだよ」

 左に曲がれば教職員用の駐車場なのに、西山父は右に進路を取った。

「あの、駐車場はこっちですけど」
「少し寄り道をしよう。僕たちがいた頃とずいぶんここも様変わりしたね。あそこの旧校舎ももうすぐ見納めだと思うと寂しいよ」

 かつての学び舎は建て替えられ、いま残っているのは取り壊しの決まっている旧校舎だけ。昔を懐かしみたいのかもしれないが、それは俺のいないときにやってくれないものだろうか。

 西山父は旧校舎の前に立つと、腰に手をあて、校舎を見上げた。

「君たちが本当に愛し合っていたなら、僕が反対しようが引き離そうが、決して諦めなかったと思うけどね。僕たちはそうだった」

 僕たち?

「僕と彼はそれは深く愛し合っていた。親にバレて反対されても、僕たちは愛を貫くことを選んだ。そのために勘当されても構わなかった。ここが君と恵護の違いだよ」

 以前西山の父親が言った、自分にも覚えがある、男子校には珍しくないことだと言っていた言葉を思い出す。この人もこの学校で、俺と西山のような関係を持った生徒がいたのだ。

「僕のほうが一つ上だったから、先に卒業して彼を迎え入れる準備をしていた。なのに、もうすぐ卒業という時に、彼は交通事故で亡くなってしまった」

 西山父はがくりと項垂れた。

「僕をあんなに愛してくれたのに。卒業したら一緒に暮らそうと約束をしたのに。僕を置いて、彼は逝ってしまったんだよ」

 親父さんが振り返る。さっきまで絶えずあった笑みが消えていた。真顔になった男は俺の肩をがしっと掴んだ。

「だけど、またこうして会えた。君は僕の秋広にそっくりだ。最初に君を見たときは心臓が止まるほど驚いたよ。特に僕を上目使いに見る目つきがそっくりだ。豊川と言う姓の親戚はいるかい?」

 と俺の目をじっと覗きこむ。

「い、いませんけど」
「じゃあ僕に会うために生まれ変わってきてくれたんだね。やっぱり僕たちは結ばれる運命だったんだよ」

 理解できないことを言ってにっこり微笑む。顔が近づいてきて、動けない俺の唇を塞いだ。慌てて胸を押し返して顔をずらした。骨が軋むほどの強い力で抱きしめられる。

「秋広……!」
「ちょ……っ、や、やめて下さいよ!! 秋広って誰なんですかっ!」
「恵護に君は渡さないよ。君は僕の秋広なんだからね。そのために君たちを別れさせたんだから」

 迫ってくる唇を避けながら、必死に腕の中で逃げまわった。西山の父親というだけあって、腕は太いし力も強くてびくともしない。

「や、だ……っ、やめ、ろ……! やめろってば!!」

 いい加減にしろ、この糞おやじ……!
 ぶん殴って逃げるしかねえと俺が握り拳を作ったとき、

「何してるんだ!」

 鋭い声が飛んできて、腕の力が少し弱まった。その隙に逃げ出し、声の主へと駆け寄った。
 西山は俺を抱き留めると、父親から隠すように自分の肩を前に出した。

「父さん、なにしてるんですか」

 西山の声は震えていた。見上げた西山のこめかみには血管が浮かんでいた。強く奥歯を噛みしめているのが顎の軋みでわかる。西山は激怒していた。

「事と次第によっては、いくら父さんでも許しませんよ」



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