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楽しい放課後!(2/2)

2015.04.16.Thu.
<前話はこちら>

 下駄箱で靴をはき替えたあと、またおんぶされて駐輪場へ移動した。そこで青い自転車に乗り換えた。

「掴まってて」

 自転車を漕ぐ西山の胴に腕をまわした。腹筋が締まって硬くなっている。こうやって意識して西山の体に触るのは初めてだ。俺だって体は締まってるほうだし、筋肉だってついているけど、西山に比べれば貧相だ。

 西山は腕まわりだって太いし、太ももは力を入れるとズボンがぴったりと張り付く。本当に恵まれた体をしていた。

 この体で梨香を抱くのか。

 想像したらたまんない気持ちになった。部活でも、それ以外でも見慣れた西山の裸なのになんか切なくなってくる。……主に股間のあたりが。最悪だ。

 気分を逸らすために話題を探す。

「そういえばもうすぐお前の誕生日だな」
「なにかくれるの?」
「彼女からもらえよ」
「梨香とはもう一度ちゃんと別れた。だからあれ以来会ってないよ」

 髪が揺れる後頭部を見あげる。「別れる必要ないのに」とか「俺に気を遣うな」とか言葉は色々浮かんだけど、なんとなく言う気にならなくて黙っていた。ホテルデートがなくなったことに、安堵してもいた。

 園が言っていたけど、梨香はホテルデートの費用も西山に負担させるつもりだったのかもしれない。プレゼントは私、とか言って。想像したらむかついてくる。別れて正解だ、そんな女。

「思い出した。お前のせいで園に絡まれてんだけど」
「孝雄に?」
「お前にだったら抱かれてもいいってさ」
「ははっ、あいつ昔からそんなこと言ってたな」
「やったことあんの?」
「あるわけないじゃん」

 否定されてほっとしてる俺がいる。

「ヤラせてくれるなら、誰でもいいんじゃないの?」
「男だから人並みの性欲はあるけど、俺は中根くんが一番いいな」

 緩やかな坂に差し掛かり、西山はサドルから腰をあげた。

 女と別れて、まだ男の俺がいいなんて言ってると知ったら、西山の父親はまた俺に対して腹を立てるだろう。

 男に貢がせて当然って女でも、女ってだけで交際に口出しされないんだと思うと、なんとなく理不尽だという気持ちになる。

「お前の父ちゃんってどんな人? 厳しい?」
「まったく。優しい方だと思う。あ、この前家に来てくれた時、会ったらしいね。なんか話した?」

 対面したことは知っているようだが、話の内容までは聞いていないらしい。

「別に、挨拶しただけ。厳しい感じだったけど」
「ほんと? 疲れてたのかな? 友達連れてくと絶対一緒に遊びたがって、負けず嫌いだからムキになって一番楽しんじゃうような人だよ。厳しいなんてぜんぜん。俺より子供っぽい。母さんがよく、私は子供を二人育ててるって言ってたし」

 あの夜俺が会ったのは別人だったのかな、と思うほど西山が語る父親像とは違いがあった。

 子供なんかじゃなかった。分別をわきまえた大人の男って感じで、声を荒げたりせず静かに俺と西山の仲を牽制して、終わらせるように言ってきた。

 西山の父親のなかで俺は、息子をたぶらかす悪い男だから、害のない友達と態度が違うのも無理はない話だけど。

「うちの親って特殊な出会い方でさ、昔、うちの母さんはホームレスの支援活動をしていて、その時炊き出しに並んでたのが父さんだったんだって。付き合う前から母さんは父さんの面倒みてんの」
「ホームレスだったのか?」
「うん、短い期間だったらしいけど。失恋して自棄になってどん底だった父さんを放っておけないから保護したのが馴れ初めだって聞いてる」

 身なりがよくて物腰も柔らかで、ホームレスだったなんて想像もつかない。

「そっからよく社長になれたな」
「会社は母方の爺ちゃんのを引き継いだだけだよ。経営センスは母さんのほうがあったらしいけど、やりたいことがあるって父さんに押し付けて海外に行っちゃった」
「そーなんだ……でも、うまくいってるってことは優秀だってことだろ」

 なんで俺、親父さんのフォローしてんだ。

「どうかな。そういえば、父さんがイチゴ、ありがとうって。甘くておいしかったって」
「あ、食ったんだ」
「また連れておいでって言われた」

 それは絶対嘘だ。社交辞令だ。息子の前では童心を忘れない良きパパでいたいだけだ。

「中根くんがいいなら、またいつでも遊びに来てよ。友達としてでいいからさ」

 遠慮がちに誘われる。俺はそれに返事をすることが出来なかった。



 母ちゃんは捻挫して帰って来た息子を見て「ほんとドジね!」と呆れたように言い、西山には「また迷惑かけちゃってごめんなさいね、どうぞあがって」と満面の笑みを浮かべた。態度が違いすぎるぜ、母ちゃん。

 西山の手を借りてリビングに行き、ソファに腰を下ろした。母ちゃんはお茶の用意でキッチンに消えた。

「俺、もう行くよ」
「来たばっかだろ。座れば」

 隣を叩くと西山は大きな体を小さくしてちょこんと座った。

 ほとんど毎日顔を合わせてそばにいたから、急にいなくなると離れがたい気持ちが湧いてつい引き留めてしまった。
 さっきは背中越しだったけど、西山ときちんと向かい合って話をするのは合コンで突き放して以来で緊張する。

 お前とは無理ってフッたのに。思わせぶりな態度を取っている自覚はある。友達としての縁まで切らなくてもいいじゃないかと自分に言い訳をする。

「足は痛くない?」

 西山もなんとなく気まずいみたいで、当たり障りない会話を始めた。

「平気。すぐ治りそう」
「よかった。でも無理しないように」
「わかってるって」
「…………」
「…………」
「あ」
「えっ」
「あの子とうまくいってる?」
「あの子って?」
「合コンの」
「あぁ……、ラインはしてるけど、なんか面倒だな」

 昨日こんな夢をみただの、学校帰りに見つけた猫の写真だの送ってこられてもどう返していいか困る。既読無視したらしたで、怒ってるスタンプだけが送られてきたり。

 学校の友達とのやり取りはそんなに面倒じゃないのに。そもそも、意味のないことを送ってこないのに。

「そんなこと言ってたら怒られるよ」

 と西山は苦笑した。

 そうやって軽く受け流せるんだ。俺が女とラインやってても、怒ったり拗ねたりしねえんだ。
 西山の反応に俺のほうが不満を感じていた。

 母ちゃんが紅茶とクッキーを持って戻って来た。テーブルの横に座ってまた西山に礼を言っている。

「あんたもちゃんとお礼言ったの? この子ったらどうせ学校でも不愛想で口悪いんでしょ? 頭に来たら殴っていいからね」

 なんてこと言ってんだこの母親は。

「中根くんは可愛いですよ」

 西山はにっこり答えた。お前もなんてこと母親に言ってくれてんだ。

「やぁだ! こんなのが可愛いなんて、親の私でももう何年も思ってないのに! ありがとねぇ。うちの馬鹿息子と仲良くしてやってね」
「はい」

 はいって爽やかに返事してんじゃねえよ。

 母ちゃんはその後も居座って西山にいろいろ話しかけた。西山もいちいちそれに答えるから会話が終わらない。
 つまらなくて俺は一人クッキーを齧る。

 ラインの通知音が聞こえてポケットからスマホを出した。遥からだ。

『前に言ってたDVD、いつ貸せばいい?』

 そういえば合コンしたときそんな話をしたな。貸りるとなると会わなきゃいけない。真っ先に、面倒だという感情がわきあがる。

「彼女?」

 西山が画面をのぞき込んできた。なんとなく後ろめたくて隠してしまう。

「見んなよ」

 西山の視線がすいと俺の顔に移動した。射すくめるような鋭い眼差しにどきっとする。

「この子やっと彼女が出来たみたいなのよ。ご飯のときも、お風呂入ってるときも、ずっとピロンピロンって鳴ってうるさいったらもう。プリクラなんか貼っちゃって。受験生が浮かれるなって言ってやって」

 空気を読まない母ちゃんがデリカシーのかけらも感じないことを言い出した。焦る気持ちで母ちゃんを睨み付ける。どうして母親ってのは子供に恥をかかせることに熱心なんだろう。

 西山は穏やかに笑ってた。俺の目を見て、

「良かったね」

 と、それだけ言うと、前を向いて紅茶に口をつける。その態度に、なぜだか俺のほうが打ちのめされる。

「西山くんはモテそうよね。彼女いるんでしょ?」
「いないですよ」
「今は、いないだけでしょ?」
「振られたばかりなんです」

 西山の言葉にギクリと身が竦む。

「こんなに優しくてかっこいい男の子振るなんて、見る目ないねぇ、その子」

 なにも知らない母ちゃんが目の前で俺をこき下ろす。俺はわけのわからない汗を滲ませながら、クッキーを口に詰めた。

「祐太に彼女が出来るくらいだから、西山くんにもすぐいい人が現れるよ」
「でも俺はまだ諦めたくないんです」
「気持ちはわかるけど、前に進まなきゃ」
「そうなんですかね」
「そうよ!」
「そうかもしれないですね」

 呟くように言うと西山は目を伏せた。

「西山、俺の部屋行くぞ!」

 ソファから勢いよく立ち上がった。びっくりした顔で西山が俺を見上げる。その腕を取って引っ張り立たせた。ここにいたら母ちゃんの質問攻めにあって俺たちがダメージを食らう。

 足を引きずりながらリビングを出て、階段のある玄関に来たところで、西山は俺の腕をやんわりと解いた。

「もう帰るよ」

 と俺から一歩離れる。

 行くなよ、と咄嗟に言いかけて口を閉じた。さっきの会話のあとでどの面さげて引き留められるんだ。

「……母ちゃんがごめん」
「テニス部の奴に自転車を借りたんだ。そいつが帰るまでに返さないといけないから」

 ってことは今から学校に戻るわけだ。

「俺のために、ごめん。ありがとう……」
「主力メンバーのサポートも補欠の役割だから」
「あのさ、もし、お前が出たいんなら、練習来いよ」
「体動かしたくなったら顔出すよ」

 うんとは言わずに、西山は「じゃあ」と靴を履いた。見送りのため外に出ようとする俺を「いいよ」と手で制す。
 バタンと音を立てて扉が閉まった。外からスタンドをあげる音がして、俺は急いで玄関に下りた。

 外に出ると自転車に跨る西山の後ろ姿が見えた。遠ざかる姿を見ていたらキリキリ胸が締め付けられた。

 西山は今日、一度も俺のことを「祐太」って呼ばなかった。前みたいに「中根くん」としか俺のことを呼ばなかった。
 そんな資格はないのに、すごく寂しくなった。



どっちもどっち 2

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コメント
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お返事
もるさん

初めまして、ありがとうございます!!
本、買って下さったんですね。わぁっ、すいませんっ!嬉しい!!なぜか謝ってしまいます。
本当にそれ私が書いたやつでしょうかと思ってしまうほどありがたい感想をありがとうございます!身が引きしまる!頂いた言葉に恥じないようにもっと頑張らなくては!

本の一つ目が「やってる最中ゲボする受け」を書きたいという動機で書き始めました。汚いですよね。いま思うとなぜ一つ目に持ってきた…。長めの話を、と思って頑張って書いていたので、そう言ってもらえると良かったーとにっこりします。

旦那さんシリーズ、そこまで…!ありがたやありがたや。昼下がりの団地妻がベースだなんてあんまり言わない方が良さそうな気がしてきました笑

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