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楽しい遊園地!(1/2)

2015.03.04.Wed.
楽しい合宿!楽しいお泊り!楽しい勉強会!楽しい初カノ!楽しいOB会!楽しいロッカールム!

※未挿入

 待ち合わせの時間より十分早くついたのに、矢神はもう先に来ていて俺を見つけると手をあげた。

 坊主頭が目立つ。うちの野球部は頭髪に関しては長すぎなければOKという規則でよく他校の生徒から羨ましがられる。でも俺は坊主頭のほうが高校球児っぽいし、なにより楽そうでちょっと憧れる。丸刈りにする勇気はないけど。

「いつ来た?」
「さっきだ」

 矢神は満面の笑顔。嘘かほんとかよくわからない。

「今日は? どうする?」
「遊園地に行こうと思ってる」

 矢神は鞄から二枚のチケットを取り出した。男二人で遊園地デートですか。今更ながら恥ずかしくて顔が火照る。

 先日の練習試合、情けないことに3対11で7回コールド負けを喫した。「命がけで投げる」という言葉通り、矢神は最初から気迫溢れるキレッキレの投球で、甲子園の決勝戦かというほど鬼気迫る様子に、チームメイトも攻守にわたってをエースを支えて勝利に貢献した理想的な形となった。

 女マネの前で負かしてやろうというゲスな下心を持ったうちが勝てるはずもない。

 試合終了後、必死に監督にアピールしてなんとか副捕手としてメンバーに名を連ねた西山の絶望に満ちた顔はいま思い出してもなんとも言えない気持ちになる。

 うちが取った3点のういち1点は、なんと野球センスゼロの西山が、いつもは汚れることのないユニフォームをスライディングで土まみれにしながら、泥臭くもぎ取った貴重な一点だったのだ。

 奇跡に近い一点を取っただけに、西山の落ち込みようは目もあてられないほどだった。
 いつものような明るさは消え、むやみに脱がなくなり、堂々とした背中を丸め、隅っこを選んで歩いた。

 負けた責任でも感じているのか、俺を見てもたまにしか話しかけてこないし、デートに行くなとも言ってこない。あれから一度も「ヤラせて」と迫ってもこないから重症だ。
 おとなしくていいけど。
 とは言え、カビでも生えそうなジメジメした空気でいられるのもいい加減鬱陶しいのだが。

「なにを考えてるんだ? あいつのことか?」

 電車を乗り継ぎやってきた遊園地で、ついボーッとしてしまったらしい。矢神が顔を覗きこんできた。

「西山は関係ねえよ」
「西山とは言ってないがな」
「あ」

 矢神は困ったように微笑む。ごめんと謝るのも違うような気がして俯いた。

「責めたわけじゃない。悪かった」

 と俺の頭を撫でた。犬かよ。

「どうしてあいつとあんなことをするようになったんだ?」

 それを訊いて来るか。

「合宿の……その場のノリで……」
「ノリ……」

 矢神がショックを受けてる。

「俺だって好きでやられたわけじゃ」
「本当に嫌ならきっぱり断らないと駄目だぞ」
「わかってるよ」
「祐太は案外流されやすい質のようだからな。俺がキスしたときも拒まなかった」

 思い出させんなよ。まともに顔、見れなくなるだろ。

「今日は俺とデートしているんだ。他の男のことは頭から追い出してくれ」

 矢神は俺の腕を掴むと「あれに乗ろう」と絶叫マシーンを指さした。まじで?!



 絶叫マシーンでフラフラになったあと激流下りで服を濡らし、休憩に入った店で軽い食事をとった。店を出てまたアトラクションを梯子して、俺が疲れたと音を上げれば、「これくらいなんだ」とアイススケートに連れて行かれた。

 中学のころを思い出して純粋に楽しかった。デートという名目でなければ気の合う友達と遊んでいるのとかわらない。

 恋愛と友情の違いはなんだろう。同性の場合、なにをもって判断すればいいんだろうと考えていたら、へっぴり腰の俺の両手を掴んだ矢神に「祐太にキスしたくなってきた」とリンクの真ん中で囁かれて、これか、と納得した。

 共学で、可愛いマネージャーもいて、エースできっとモテるだろう矢神が俺なんかを好きだと言うのは、男子校にいて身近に女がいない西山の場合とはわけが違う。勘違いや性欲の暴走ではないのだ、きっと。

 本当に、なんで俺なんかを。
 不思議に思って矢神を見つめていたら、「キスしていいのか?」ときかれて我に返った。

「いいわけねえだろ」
「残念だ」

 俺の手を引いてスイスイと滑る。野球だけじゃなくスケートもうまいなんて知らなかった。

「矢神って彼女いたことねえの?」
「ない」
「まじで。モテるだろ?」
「たった一人に好きになってもらえればそれでいい。好きになってもらえるよう努力して、その結果、何人かに告白はされたが断った」

 そのたった一人ってもしかして俺のことか……? 確かめるのが怖いので黙って足を動かした。手摺りに捕まったら「まだまだ」と連れ出される。部活か。

 一時間ほど滑ったあとやっとリンクから出た。いつの間にか夕暮れで辺りが暗くなり始めていた

「ちょっとトイレ行ってくる」
「体が冷えたな。俺は温かい飲み物を買っておくよ」

 矢神は売店へ、俺はトイレに向かった。

 小便を済ませ手を洗う。手許から鏡に視線を移して心臓がとまるかと思った。鏡に映る大きな体。暗い表情の西山が映っていた。

「お――まえ、びっくりするだろ! なんでこんなことにいるんだよ?!」

 振り返ると同時にぎゅっと抱き付いてきた。ダウンジェケットが冷たい。

「おい、西山っ」
「つけてきた」

 ボソッと呟く。大きなため息が出た。

 試合に負けてから毎日さりげなく予定を訊かれていた。デートの日を探るためだとわかっていた。隠すようなやましいところはないので、正直に答えていたがまさかここまでつけてくるとは。

 俺たちが遊びまわっているあいだ、こいつはずっと見張っていたんだろうか。みんなが笑顔になるはずの楽しい遊園地で、男のデートを見張って一人コソコソしていたなんて想像するのも哀れな姿だ。

「馬鹿なことしてんじゃねえよ」
「スケートもうまいってあの男、何者」

 恨みがましい口調。手とり足とり教わっていたのもしっかり見ていたらしい。

「中根くん、楽しそうだった」
「そりゃまぁ……遊びに来たんだし」
「中根くんてこう言っちゃなんだけどモテないほうだし、口は悪いけどどっちかっていうとおとなしいタイプだし、俺以外、誰も好きにならないって安心してたとこがあるんだ」

 言いたい放題だな。

「矢神くんはY高のエースだし、寄ってくる女はたくさんいるはずなのに、なんでそんな奴が中根くんを好きだって言うのさ」

 俺もそう思うけど。

「俺は時間をかけて中根くんに好きになってもらおうと思ってたんだ。なのに矢神くんは、俺が少しずつ詰めてた距離を、祐太ってたった一言で飛び越えて行った。中根くんも俺に見せない顔して笑ってた。前にあいつとなんかあったの? 俺としてるようなこと、あいつとしてたのか?」
「するわけねえだろ」
「ほんとに?」

 至近距離から見つめられた。西山の目は充血して赤い。

「ほんとだ」

 その目を見返しながら頷いた。真偽を確かめるようにしばらくじっと目を見たあと、西山は大きく息を吐き出してまた俺に抱き付いた。

「気長に構えてる場合じゃないってわかったから、俺もこれから遠慮しないことにしたから」
「お前の場合はちょっと遠慮しろ」

 俺が焦って言うと西山はふふっと笑った。

「矢神くんが別の高校でよかった」
「だな。人としてお前の方が劣ってるもんな。あいつはスカウトが見に来るくらい実力があるし、有言実行だし、人格者だし」
「酷いよ」

 さっき俺をこき下ろしておいてなに甘えたこと言ってるんだ。仕返しだ。
 トイレの外で足音が聞こえた。西山も気付いたらしく顔をあげ、解放してくれるのかと思いきや俺を個室に連れ込んだ。

「おい」
「静かに」

 鍵をかけてまた俺に抱き付く。
 足音が中に入ってきた。

「……祐太? いるのか?」

 外から聞こえたのは矢神の声だった。西山を見上げると、声のしたほうを睨むように見ている。ふざけてなければ凛々しい顔つきなのに。

「いるよ、ここ!」

 無視するわけにもいかないので声をあげた。逃がすまいとするように西山の腕に力がこもる。

「遅いからどうしたのかと思って」
「悪い。ちょっと、腹壊して」
「そうか。大丈夫か?」
「平気。すぐ行くから、外で待っててくれよ」
「わかった」

 矢神はすぐには出て行かなかった。トイレのなかを足音が移動して、チャックを下げる音がする。用を済ましてから行くつもりらしい。



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