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楽しい初カノ!(1/2)

2015.02.08.Sun.
楽しい合宿!楽しいお泊り!楽しい勉強会!

 部活が終わり、西山と門を出たところで一人の女の子が飛び出してきた。彼女はここから数キロ離れた場所にある高校の制服を着ていた。

「あの、中根さん、良かったらこれ!」

 と小さな紙袋を俺に差し出してくる。

「えっ?」
「甘いもの、嫌いですか?」
「え、いや、別に……えっ?」

 男子校にいて女の子と話す機会が滅多にない上、上目使いの彼女はよく見ると結構可愛くてテンパッてしまい状況把握に時間がかかった。

 そうだ、今日はバレンタインデーだ!
 この紙袋はチョコか? 俺に?! まじで?! もらっていいの?!

 驚きと、こんな往来でチョコをもらった気恥ずかしさとで、なんとなく西山の顔を窺ってしまう。西山は冷やかすでもなく、少し顔を険しくして口も真一文字に閉じていた。

「中に手紙が入ってるので読んで下さい。それじゃあ」

 女の子はスカートの裾を翻すと走り去ってしまった。俺はと言えば、受け取った紙袋をどうしようかとやり場に困っていた。

「バレンタインとか……男子校にいると忘れちまうよな」

 照れ隠しに頭をポリポリ掻く。

「どうするの、それ」

 西山は冷ややかな目線で紙袋を見た。

「どうって……もらっちゃったから食うけど」
「見ず知らずの子がくれた物を?」
「毒でも入ってるっていうのか?」
「何か裏がありそう」
「なんでだよ」
「だって中根くんはモテるタイプじゃないから」

 本人目の前にしてよくそんな失礼なことが言えるもんだ! 逆に感心する。

「モテない俺がチョコもらったからって僻んでんじゃねえよ」
「浮かれてないで冷静に考えてって言ってるだけだよ」

 悪かったな浮かれてて!! 鏡見て冷静になれとでも言いたいのかこいつは!!

「もうお前なんか知らねえ」

 西山を置いて先を歩いた。「待ってよ」と追いかけてきた西山に腕を掴まれたが、力任せに振り払ったあと道路を渡って距離を取った。

「中根くん!」
「うるせえ、明日から話しかけてくんな」

 がくりと肩を落とす西山から顔を背け、早足でその場から離れた。



 手紙にはこう書いてあった。

『登下校のときに何度か見かけて、いつも楽しそうでいいなぁと思っていました。私もあなたのお友達にして欲しいです。良かったら電話かメール、下さい。曽我志穂』

 電話番号とメールアドレスも書き添えられていた。もしかして悪戯かも、なんて思ったけど、男だったら危険とわかっていてもあえて踏み込む勇気も必要だとまずはメールを送ってみた。

『中根です。チョコレートありがとうございました。おいしかったです』

 送信する指が震えた。以前の俺なら怖くて恥ずかしくて自分から連絡なんて取れなかっただろう。でも今の俺は違った。西山にお前がモテるはずがないと言いきられた怒りから、それに反論するためにどうしても事の真偽を確かめる必要があったのだ。

 俺だって。西山の隣に並ぶとチビでガリの貧相な男に見えるけど、身長も体重も平均ど真ん中の平凡な俺だって! 世界のどこかには俺のことを唯一無二の存在だと見つめてくれる子がいるんだ! 

 どうしてもそれを証明したかった。だから数分後に『志穂です。チョコ食べてくれたんですね。いきなり渡して不審がられてないか不安だったんです。だから、良かった。嬉しい!』とハートマーク付きのメールが来たとき、すぐさま『良かったら付き合いませんか? とりあえず友達からで』と返信していたのは我ながら大胆で恐れ知らずだと思った。

 それから数時間、返事がこなかった。これ絶対引かれたと自分の行動を悔やんでベッドの上をのたうち回ったいたら、寝る前になってやっと『私でよければ』とメールがきた。

 とりあえず明日の部活が終わる時間、門の前で待ち合わせをした。「付き合うことになったから」と西山に彼女を紹介するためだ。



 今日は朝から落ち着かなかった。朝ごはんを食べていたら曽我さんからおはようのメールがきて顔がにやけた。
 授業中も、今日から俺も彼女持ちかと思うと見える景色が一変したような気がして、教室のクラスメイトたちに優越感を持ったりした。

 クラスの違う西山と一度、休み時間に廊下ですれ違った。西山は何か言いたげな顔で見つめてきた。すぐ目を逸らしたあと、くだらないことで喧嘩をしてると思いなおして、失礼な発言を許してやろうと寛大な気持ちになったりもした。
 だから部室で顔を合わせたとき俺から声をかけてやった。西山は嬉しそうに笑い、「昨日はごめん」と謝ってきた。別にと許したあとはもう普段通りだった。

 そしていよいよ、帰宅の時間。西山と二人で門をくぐると、昨日の約束通り、曽我さんが俺を待っていた。

「お疲れ様」

 と部活が終わったばかりの俺を笑顔とともに労わってくれる。彼女ってこんなにいいもんだったんだ。

「悪い、西山、今日はこの子と帰るから」
「えっ、あぁ……わかった」

 珍しく歯切れの悪い西山が可笑しかった。鳩が豆鉄砲を食らった感じってこういうのを言うのかな。これで昨日のチョコが悪戯や冷やかしじゃないってわかっただろう。

「中根くん、三人で帰ったらいいんじゃないかな? そっちの方が楽しそうだし」

 曽我さんが西山に気を遣ってそんな提案をする。なんて優しい子なんだ。

「曽我さんがいいなら俺は別に」

 しっかり西山に見せつけておくにはちょうどいい。

「じゃあ一緒に帰りましょ?」

 優しい曽我さんを真ん中に俺たちは三人で一緒に帰った。

 曽我さんは気の利く優しい女の子なので、俺だけじゃなく西山にも話を振っていた。西山は緊張でもしているのか、いつもみたいな明るさはなくて言葉少なく別人みたいだった。
 途中、曽我さんを駅まで送るために西山と別れた。

「西山くん、あんまり話さなかったけど怒ってたのかな?」

 曽我さんがぽつりと呟いた。

「そんなことないと思うけど。あいつなりに気を遣ったんじゃない」
「私が遠くから見てたとき、中根くんと西山くん、すごく楽しそうだったから」
「うん、普段はすごくうるさいし、馬鹿」

 ウフフ、と曽我さんは口に手を当てて笑った。男子校でこんな仕草を目にすることはない。何もかも新鮮だ。

「明日、部活休みだから俺が迎えに行くよ」
「ううん、私に行かせて。待ってるの好きなの」
「風邪ひかないように、暖かくね」
「うん。それじゃあ、また明日ね」

 曽我さんは手を振りながら駅の改札を抜けて行った。



 翌日の昼休み、西山の教室へ出向いた。友達と弁当を食べていた西山が、戸口に立つ俺を見つけて廊下まで出て来る。

「どうしたの?」
「今日も彼女が来るらしいんだ」
「あぁ……」

 西山の顔から笑みが消える。

「わかった、今日は一人で帰るよ」
「ん、悪いな」

 あっさり引き下がられて少々拍子抜けする。もっとこう……駄々をこねられるかと思っていたのに。

「付き合うことにしたの?」
「まぁ、そんな感じ」
「ふぅん。じゃあもう今日から一緒に帰れないね。俺は他の奴と帰るから、中根くんは気にしないでよ」
「あぁ」
「良かったね」

 にこりと笑うと教室へ戻って行った。俺はなんだか廊下に置き去りにされたような寂しい気持ちになって、クラスメイトに笑いかける西山を複雑な気分で眺めた。



 放課後、門を出ると曽我さんが待っていた。

「西山くんは一緒じゃないの?」
「うん、今日から一緒に帰るのやめた」
「私のせい?」
「違うよ。あいつは別の奴と帰るんだって」

 曽我さんは自分のせいじゃないかと落ち込んで黙り込んでしまった。だから俺は励ますように無理して明るく振る舞った。
 学校で起こったことを面白おかしく大袈裟に話した。曽我さんはやっと笑ってくれた。興味を持って質問してくれた。俺は持ってる情報すべて曽我さんに話した。

 駅で別れるとき、曽我さんは笑顔を取り戻していた。見送ったあと、俺は長いため息をついた。



 一週間も経たずに、クラスでも部内でも、俺に彼女が出来たという噂は広まっていた。冷やかされたし、持ち掛けられる猥談の数も増えた。いつの間にかポケットにコンドームを入れられていたこともあった。使う時なんかねえよとゴミ箱に叩きこんだ。

 彼女の顔を見てやろうと、部活終わりに数人の部員が付いてきた。勝手にしろと俺も止めなかった。
 曽我さんは門にもたれて立っていた。近づく俺たちを見つけると門から背を離し、体ごとこちらへ向き直る。
 誰かが「可愛い」と言った。「俺に譲れ」とも聞こえた。俺は目を伏せた。

「中根、ちょっと」

 同じ二年の綾瀬が俺の肩を掴んで引き留めた。他の連中は曽我さんに夢中でどんどん進んでいく。少し距離が空いてから、

「あの子が、お前の彼女?」

 と綾瀬は声を潜めて聞いてきた。

「たぶん」
「まじか……」

 綾瀬は自分の顎を撫でた。

「なんだよ?」
「いや……、俺の見間違いかもしんないんだけど、一ヶ月くらい前、外走ってる時に西山に告ってきた子に似てんだよな」
「たぶん、あの子で間違いないと思うよ」
「お前も知ってたのかよ」
「いや、初耳。でも、曽我さん、ずっと西山の話ばっかだったから」

 綾瀬は口を閉ざし、同情する目で俺を見た。

 一緒に帰りだした二日目、西山がいないことで機嫌を損ねた曽我さんを笑顔にしたのは西山の話をしたときだった。質問されるのはすべて西山のことだった。薄々気づいて情けなくなりながらも俺は西山のことで知っている情報を全て曽我さんに教えた。

 今日までの数日間、俺と曽我さんの話題は西山のことばかりだったのだ。

「あの子と付き合ってること西山は知ってんのか?」

 綾瀬に頷く。綾瀬はまた黙り込んだ。しばらくして、

「今日は俺らも一緒に帰るから」

 と俺の背中をバシンと叩いた。そんなに痛くもないのに、涙が出そうだった。

 今日は綾瀬たちがいるからか、曽我さんは西山の名前は口に出さなかった。終始笑顔でそつなく彼女役を演じると、可愛く手を振って駅の構内へ姿を消した。

 帰ってから、一緒に帰れないからもう待たなくていいと曽我さんにメールをした。わかったとそっけない返事がきただけだった。

 西山の言った通り、俺は浮かれて冷静さを失ってただけだった。俺なんかがモテるわけないんだ。俺はただ西山に近づくための踏み台に過ぎなかったんだ。
 西山は俺が傷つかないよう忠告してくれたのに。見せつけるような真似をした俺はなんて馬鹿だったんだろう。西山に合わせる顔がない。



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