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通販開始のお知らせ

2015.03.06.Fri.
(一ヶ月ほど上にくるよう記事を固定させておきます。)

販売が始まりましたのでお知らせに参りました!
こちらからどうぞ。

もっと時間がかかると思ってたのに意外とすんなり書店委託の審査が通ったので一周年より先に販売開始です^^

sample1.jpg

「不埒な短編集」
A5/オンデマンド/総ページ48
本体価格500円+税。
配送料はとらのあなさんにてご希望の発送方法でご確認下さい。

短編
「酒は飲んでも飲まれるな」
  …酔いからさめたら知らない男とヤッてた
「現実はコントより奇なり」
  …コントの練習してたら相方とヤッてた
「僕の救世主」
  …人生に悲観したら同居人とヤッてた

の三本です。


続きにサンプル置いておきます。良かったら読んで下さい。

「酒は飲んでも飲まれるな」

「はぁっ……あ…ん……あぁっ!」

 骨の浮き出た背中が俺の目の前でしなっている。俺が掴んでいる腰も細い。

「んあっ、あ、や、すた…か……、ちょっ、タンマッ……待って……んっ」

 あれ。これ誰。
 聞き覚えのない声にだんだん意識がはっきりしてきて血の気が引いていく。なのに俺の腰は動き続けて知らない相手をバックからガンガン突きまくっている。

「――あ、やべ、出る……っ!」

 慌てて引き抜いたが時すでに遅く、第一弾が知らない人の中にたっぷり吐き出されてしまった。

「んぐぅ…うっ…うげえぇぁあ……ッ!!」

 世にも恐ろしいうめき声をあげながら、目の前の知らない人は大量の吐しゃ物を敷布団にまき散らした。
 それを見て思わず飛びのいた。
 知らない人は体から力が抜けたみたいに布団に……というか、吐しゃ物の中に倒れ込んだ。
 辺り一面にゲロの臭気と酒の臭いが漂う。もらいゲロしそうになって頬を膨らませながら、ぐったりして身動きしない相手の顔を覗きこんだ。
 長い前髪の下に小さな鼻が見えた。半開きの薄い唇には唾液だか胃液だわかんない液体とゲロにまみれている。

「ちょっと……大丈夫?」

 手で口をおさえたまま尖った肩を揺さぶった。

「やめ……やめろ……頭が、グルグルする……」

 そいつの声を聞いて俺の意識はまた一段階覚醒した。汚れた口許から視線をずらし胸を見る。真っ平。ぺったんこ。小さな乳首が見えるだけ。
 恐る恐る股間へ視線を移した。俺の股間にあるものと同じものが、そいつにもくっついていた。

「?!」

 肩から手を離し、後ずさった。
 おっ……男、だと……?!
 俺は男とヤッちゃってたのか?!

 さっきまで自分が入っていた場所を改めてみると、それは確かに女のあそこじゃなくて、ケツの穴で……えぐいことに俺の精液を垂れ流していた。

 今度こそ本当に吐きそうになって、俺はパンツとズボンを引き上げると、ファスナーをあげて出口へ向かって駆けだした。
 靴に足を突っ込みながら尻ポケットを叩いて財布と携帯が入っていることだけを確認する。これさえ持っていればいい。
 俺は脱兎のごとく部屋を飛び出した。

 エレベーターを呼び出すためにボタンを連打しながらバクつく動悸に顔がカッカッと熱くなった。
 あれは誰だ?!
 あそこは堀の部屋だった。でもどう見てもあれは堀じゃない。
 どうして堀の部屋で俺は知らない男とセックスなんかしてたんだ?!
 堀はどこへ行った?!

 っていうかあれ、誰なんだよっ!! どうして俺、男とセックスなんかしちゃってんだよおおぉぉっ!!
 ほとんど泣きそうになりながらエレベーターに乗り込み、一階のボタンをまた連打する。

 落ち着け、俺。とにかく落ち着いてよく思い出してみるんだ。
 昨夜、大学の友達と飲んでいた。解散になったあとも飲み足りなくて、ゼミが一緒の堀の部屋に行って追い酒をあおった。

 そうだ。堀の部屋に行ったときにはもうあいつがいたんだ。おぼろげながら輪郭が浮かび上がる。
 酔っていた俺は先客がいるからと遠慮せず、一緒に飲もうと誘って三人で飲んだ。そしたら堀の携帯が鳴って、彼女から呼び出された堀は俺たちを置いて女のもとへ行ってしまったんだ。

 そのあとが思い出せない。
 あのあとなにがどうなって、あの男とあんなことになってしまったんだろう? 

 頭を抱えた。
 なにも思い出せない。あの人の顔も名前も。ぼんやり浮かぶシルエットは、前髪の長い小柄な姿で、思い出せる限りあまり口数はなかったように思う。それだけ。
 あとは背骨の浮き出た背中と、細い腰と、ゲロまみれの顔……。

「うぷっ」

 胃が持ち上がり、俺は両手で口を塞いだ。


 講義のあと、堀の部屋へ寄ってみることにした。本当は確認するのが怖くて仕方ないのだが、このままうやむやにしてうっちゃるほうが不安が募って居ても立ってもいられない気分になるからだ。犯罪者が犯行現場へ戻る心理というのはこういうことなのかもしれない。

 俺は犯罪者か。
 ごくり、と唾を飲み込んだ。あの前髪の男とのアレが合意の上じゃなかったらどうしよう。もし俺がむりやりしてたらどうしよう。
 エレベーターのボタンを押す手が震えた。膝もカクカクして力が入らない。

 俺は今まで男に興味なんかなかった。性的な対象で見たことなんか一度もない。女と間違えてヤッちゃったんだろうか。
 確かに華奢で小柄な男だった。泥酔していたからか。堀が女のとこへ行ってなにをするか想像したらムラムラしちゃったからなのか。

 だからって男を抱くだなんて――。
 当分酒は控えよう。エレベーターを降りて俺は強く決意した。

 いつも来慣れた堀の部屋が今日はとても敷居が高い。なにも考えずに押していたインターフォンのボタンを押すのが怖い。
 緊張しながらチャイムを鳴らした。堀は今日は午前中で授業が終わっている日だから、出かけていなければ家にいるはずだった。
 いてほしいような、いて欲しくないような。いや、やっぱり今日はいて欲しくないな。
 と思っていたらあっさり扉が開いて堀が顔を出した。

「おう、入れよ」

 一九〇㎝はある大きな体が前に立ちふさがる。スポーツマンっぽい黒い短髪と太く凛々しい眉が、今日はいかつく見える。うっすら笑ってはいるが、静かに怒っているようにも見える。
 先に廊下を歩いていた堀が振り返って玄関から動かない俺を見ると首を傾げた。

「入らないのか?」
「う、うん……お邪魔します」

 靴を揃えて脱いで廊下に足をそろりとおろした。
 つい三日前に、慌てて逃げた道順を今度は逆に辿る。何度も来たワンルームの部屋が視界に広がる。ドラマの再放送を流しているテレビとか、丸くて小さいこたつテーブルだとか、ベランダ側に敷きっぱなしの布団だとか……。

 込み上げてくるものがあり俺は唾を飲んだ。あいつは盛大にゲロを吐いていたが、あれの処理はどうしたのだろう。俺は介抱もせず逃げてきたけれど。
 有責カウンターがくるくる回る音が聞こえて冷汗を流した。

「もうすぐレポート提出でさ」

 頭をガシガシ掻きながら堀は座椅子に座った。テーブルには本やノートパソコンが広げられている。

「あ、悪い」
「まぁ気分転換になるからいいんだけど」

 カチカチと操作して堀はパソコンを閉じた。座椅子に凭れて目頭を揉んでいる。

「こないだは悪かったな」
「えっ」
「飲んでる最中に由里んとこ行って」
「あっ、あぁ、そのこと。別に。そりゃ彼女から電話きたら行くだろ」
「直史のやつ、そうとう飲んだみたいだな」
「なおふみ?」
「覚えてないのか? 俺の幼馴染みだって紹介した、背のちっこいの。お前ら一緒に飲んでただろう」

 背のちっこいのってどう考えてもアレだよな。俺がバックでガンガンに掘りまくって、最後ゲロまみれになった、あいつ。

「あぁー、直史か、うん、かなり飲んでた。もうベロンベロン。俺も人のこと言えないんだけどさ」

 酔ってて前後不覚だったと印象付けるために言葉を重ねる。

「あのあと、彼、どうした? 俺、飲み過ぎてぜんぜん覚えてなくて」
「朝戻ってきたら、あいつが泣きながら布団のシーツ洗ってた。ゲロったんだって」
「わー、そうなんだ、知らなかった」

 硬直した顔でほとんど棒読みになった。頭にはゲロに突っ伏す直史の姿がくっきり浮かび上がっているのに。

「泣きながらまた吐くから、風呂入れてやったりで朝から大変だったよ。お前は大丈夫だったのか?」
「うん、俺は全然大丈夫だった。ってか、彼、泣いてたの?」

 まさか俺とやったから? やっぱり強姦しちゃったんだろうか。

「あいつ、昔から泣き虫だからすぐ泣くんだよ。今回は俺の布団汚した責任感じてな。そんなことぐれーで泣かなくてもいいのにな」

 と堀は笑った。幼馴染みというだけあって、直史という男のことをよく理解しているのだろう。泣き虫な性格に呆れながらも、その顔や口調には親しみがこもっていた。



「現実はコントより奇なり」

 次のライブでやるコントのネタ合わせをするぞと、相方の夜明のマンションに呼ばれた。
 公園では出来ないネタらしい。
 几帳面で綺麗好きな夜明の部屋は今日も掃除が行き届いて塵一つ見当たらない。俺の部屋と大違い。

「先に手洗いうがい」

 と夜明に洗面所に押しやられた。お前は俺の母ちゃんか。言われた通り手を洗ってうがいをしてから部屋に行った。

「これ、台本」

 指紋一つないガラステーブルに文字が印刷された紙束が置かれた。いつも夜明がパソコンを使ってネタ作りをしている。それをプリントアウトし、ホチキスで留める。いつも決まって右上に一ヶ所。

「どれどれ」

 手に取って読んでみる。マッサージに行ったら整体師がホモだった、という設定のコント。『アドリブ』とか『適当に』とか書いてあって即興性を求められる場面が多い。
 読み終わった感想は「これやって大丈夫? 怒られない?」だった。

「大丈夫だろ、この程度」
「お客さん、引かない?」
「じゃあ、DVDの特典映像にする?」
「うーん……」

 ライブでやったら後始末とかに時間がかかって大変そうだな、と考えていると、夜明が腰をあげた。

「とりあえず、始めるか」

 夜明はどこからかブルーシートと紙袋を取り出し、テーブルを退かせてそこへシートを敷いた。

「いまどんなパンツはいてる?」
「変態か。普通のボクサーパンツだよ」
「本番のときは柄もののほうがいいか。キャラクターものとか、ちょっと可愛い系の」
「お前は?」
「俺は最初は白衣で、ある程度進んでから白衣脱いでビキニになる」
「なるほど、了解」

 打ち合わせをしながら夜明は紙袋の中身をぶちまけた。大量のローションボトル。

「さらさら系とねっとり系の二種類買ってみた。どっちがいいか試しながら、コントが終わるまで乾かない量も知りたい」
「何分くらい?」
「引っ張っても飽きそうだから十分くらい?」
「風邪ひきそう」
「確かに」

 台本片手にネタ合わせを始める。
 俺は仕事に疲れたサラリーマン。最近ぜんぜん疲れが取れないと独り言をいいながら、見つけたマッサージ店に入る、という出だし。
 整体師役の夜明が、俺を見て一瞬目を見張る。恋に落ちた瞬間らしい。
 服を脱げと言われ、訝しみながらパン一になる。うつ伏せに寝転がると、夜明にケツを触られた。台本通りでもピクッと尻が反応する。

「ちょ、ちょっと、いまお尻触りましたよね」
「凝りを確かめただけです。凝ってますね」
「なんだ、すいません。そうなんですよ、最近体がだるくて疲れも取れないし」
「体に老廃物がたまっているのかもしれませんね。今日はたくさんイッてください」
「行くってどこへ?」
「いっぱい出せば体もすっきりしますよ」
「え、出すって何を? あの……なにを?」

 俺の言葉を無視して夜明はボトルを開けるとぶっかけてきた。

「ちょ、これ、ローションですよね?!」
「ローションのほうが揉み返しが起こりにくいんですよ」

 ほんとですか、と首を傾げている間に、夜明はどんどんボトルを空にして俺の体をローションまみれにした。

「本番のときは、あらかじめバケツに入れて柄杓みたいなのでかけたほうが早いな」
「できれば直前まであっためておいてほしい」

 冷たくて鳥肌が立っている。夜明はリモコンを操作して暖房をつけてくれた。
 夜明の手が俺の背中を円を描くようにマッサージしてくる。あ、まじで気持ちいいかも。

「肩甲骨んとこ、お願い」
「こら、真面目にやれ」

 とか言いながら本当に肩甲骨のあたりを揉んでくれる。気持ち良くて溜息みたいな声が漏れた。

「じゃあ次は仰向けになって下さい」
「あ、はい」

 言われた通り仰向けになると、夜明が俺に跨った。

「股関節からやっていきますね」

 膝が持ち上げられ、胸のほうへ押さえ込まれる。ちょっときついけどこれも気持ちいい。ほんとにマッサージを受けにきたみたいだ。
 反対の足が終わると膝を左右に大きく広げられた。

「うわっ」

 台本に書いてあった通りなんだけど、つい驚いて声が出た。開いた股の間に夜明が陣取る。

「恥ずかしがることありませんよ、男同士なんですから」
「あ、はい、そうなんですけど……」

 夜明はさらにボトルをあけて俺の胸にローションをかけた。それを両手で胸全体に広げる。冷たくて体がゾクゾクする。

「乳首立ってるぞ」

 笑いながら夜明が乳首を指で突いてくる。

「ちょっ、やめろよ! 寒いんだから仕方ないだろ」
「こちらも凝っているようですね」

 急にコント口調に戻って夜明は俺の胸を揉んだ。手の平で尖った乳首を重点的に擦られる。

「んっ……!」
「変な声出すな」
「だって……!」

 苦笑しながら夜明は手を動かし続ける。手で押しつぶしながら、たまに指で乳首を弾かれて、俺の体は勝手に跳ね上がった。

「…うっ、ん……っ、も、そこばっか……やめろよ……!」
「いやいや、コントだから。お仕事、ね、お、し、ご、と。気持ちよくなってんじゃねぇよ」
「はぁっ、だって……あ、あっ」
「ミヤ、お前かなり敏感だな」
「んっ、あっ、もう、やめろって」
「お客様、動かないで下さいね」

 夜明の手が乳首から離れた。体からほっと力を抜く。自分でもこんなに感じてしまうなんてびっくりだ。過去に彼女とエッチをしたとき、乳首を責められたことはあったけど、ここまで反応したことはない。ローションか。ローションがいつも以上に感じやすくさせているのか。



「僕の救世主」

 カレーに使う具材でメークインかじゃがいもかで悩んでいる僕のすぐそばで、二十代前半のカップルが「今日はシチューにするからね」「えー、俺シチューって苦手なんだよね。メシ食えねえじゃん」「パンだよ」「パンって! 日本人なら米だろ!」って会話をしながらあっさりじゃがいもを取ってかごにいれていた。

 シチューにはじゃがいもなのか。じゃあ似たようなカレーもじゃがいもだろうか。だったらメークインっていったいなんなんだ。
 メークインの素性に思いを馳せていたら「もういい加減にして」と僕の手からメークインの袋を取り上げたのは同居人の沢渡だ。

「メークインでいいの?」
「じゃがいもがいい?」
「違いがよくわからない。でも最高においしいカレーにしたいから待って、調べる」
「ほんといい加減にして」

 沢渡は僕からカゴまで奪うと、よく選びもせずにんじんも入れて野菜コーナーを抜けた。

「玉ねぎは?」

 おいかけて背中に問うと「ある」と返事。

「肉は薄いやつにして」
「わかってるって。……今日はあっくんが作る番だけど」

 ぴたっと止まった沢渡が振り返って釘を刺す。
 モデルみたいに背が高くて顔が小さくてお洒落で、駐車場もろくにないような商店街の小さなスーパーのなかでさえ、主婦たちにまじってお洒落な帽子を手放さないお洒落番長だ。さすが美容師の卵。

「豚肉でいい?」
「給料日前だしな」

 僕たち二人とも別々の専門学校に通う学生で、実家からの仕送りとアルバイトで生計を立てている。沢渡は駅前の美容院で、僕は駅の地下にある本屋で。

 薄い豚肉をカゴに入れると沢渡は明日のパンを選びにパンコーナーに向かった。僕はお菓子コーナーでスナック菓子を物色する。
 再び合流してレジに並ぶと、さっきのカプルが前にいた。

「やっぱ米がないと食った気しないっしょ」
「パンでも食べた気になるよぉ」

 と自分たちの仲の良さを見せつけるみたいな大きな声で、まだ米対パンの論争を繰り広げていた。

 彼女のほうが後ろに立つ沢渡に気がついた。二度見して一瞬我に返ったような顔で沢渡を見つめる。その目が自分の彼氏に向かったとき、あきらかに「がっかり」という落胆の色が浮かんでいて、まだ「米だ」と言い続けている能天気な彼氏に僕は同情した。

 誰だって、特に女の子は沢渡を見ると同じような反応をする。二度見するし、振り返えるし、追いかけて来る子もいるし、話しかけて来る子だっている。
 高校のときからそうだ。異様にモテた。人気があった。そんなモテ男とダサくて地味で女子からもからかわれていた僕が一緒に暮らしている。

 きっかけは高校三年の夏。下駄箱に手紙が入っていた。中には「好きです。今日の放課後、教室に残って待っていて下さい」と女の子っぽい字で書かれてあった。

 悪戯。もう絶対悪戯だってわかってたんだけど、もしかしたらの可能性が捨てきれなくて、馬鹿正直に放課後待っていたら、教室に女子五人が笑いながら乱入してきて「信じるとかウケル」「あんたなんか誰も相手にするわけねえだろ」「もうちょっと現実みようよ」と散々馬鹿にしてきた。

 泣きそうになった。泣いたらさらに馬鹿にされるから必死に堪えたら吐きそうになった。逃げ出そうとしたら「逃げんなよ」って通せんぼされた。

「あんたって一生童貞で終わりそうだよね」
「母親以外の女と手、繋いだこともないでしょ?」
「可哀そうだからキスしてあげよっか?」
「胸触ってもいいよ?」

 どういうつもりでそんなことを言うのかわからなくてただひたすら恐怖だった。のどがカラカラになって膝が震えて、ずっと出口を見つめて逃げ出すチャンスを窺っていた。

 そしたら、加藤って女子が僕の手を取って自分の胸へ持っていった。とにかく触ってしまったら僕の学校生活は卒業するまでどん底の最低最悪なものになることだけはわかったので咄嗟に振り払った。
 緊張のせいで力加減ができず、僕の手を掴んでいた加藤はよろけて尻もちをついた。それが彼女たちの怒りを買ったようだった。

 ふざけんじゃねえよと女と思えない罵詈雑言の嵐で僕を責めながら、やっきになって僕に胸を触らせようとした。こっちも必死に抵抗してもみくちゃにされながらなんとか彼女たちから逃れて教室のそとへ飛び出した。

 その時、ジャージ姿の沢渡が廊下に立っていた。驚いて見開いた目が、僕の体をさっと上下して、ちょっと顔を強張らせた。

 沢渡はクラスではかなり目立つ存在だった。それは人並み外れたルックスのせいだ。モテたし、性格も良くて男子からも人気があった。そんな人と情けない場面で遭遇したことがひたすら恥ずかしくてたまらなかった。

「誰かにチクッたらあんたがレイプしようとしたって言いふらすから!」

 教室から聞こえてきた怒声に我に返り、沢渡の脇をすり抜けて校舎から逃げ出した。
 翌日になって沢渡が話しかけてきた。

「昨日の奴らが変なこと言い出したらお前は被害者だって俺が証言するから」

 人から後光が見えたのはこの時が初めてだった。

「イケメンなのに優しいね」
「なんだそれ。普通だろ」
「普通はあんな目に遭ってる僕を笑うよ。レイプ魔ですって証言するよ」
「しねえよ」
「心までイケメン。眩しい」
「……きもい」

 呆れたように呟いた沢渡だったが、その後、ことあるごとに僕に話しかけてくれるようになって、サッカー部を引退したあとはなぜか一緒に帰るようになっていた。

 しかも進路先の学校がたまたま同じ沿線にあったので、学校一のモテ男とレイプ魔にでっちあげられそうになった僕が一緒に暮らしてさえいる。縁とは不思議なものだと思う。

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コメント
ちゃんと××注意って記載しておいて下さい。不快ー
お返事
1:13の方へ
不快にさせてしまったようですみません!「××注意」の××がなんなのか教えて頂けるとありがたいです。私は客観的になれず見落としているようなので…

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