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アガルタ(1/2)

2014.11.30.Sun.
<前話「クラスの地味男」はこちら>

※地味。シリアス。身内不幸ネタ。挿入ってない。

 いつになっても学生気分の抜けない馬鹿ってのはいるもんだ。

 卒業式のあと体育倉庫で中村を犯したあと、山本と田中は「こいつにウリさせね?」と俺に言ってきた。

「ウリ?」
「出会い系みたいので援交させてもいいし、店に登録させてもいいし」
「でピンハネするってか?」

 いい考えだろと言わんばかりに目を輝かせて二人は頷いた。こんな馬鹿でも通わせてくれる大学があるっていうんだから末恐ろしい限りだ。

「中村はやりたいって?」

 二人の背後でモソモソと自分のケツを拭っていた中村は俺の声に顔をあげた。

「こいつの意思なんかどうだっていいよ」
「男に掘られるの大好きだから、喜んでやると思うぜ」

 悲壮な顔つきで中村は小さく首を振る。

「やりたくねーってさ」

 田中と山本は顔を険しくして、体育倉庫で縮こまる中村に「ふざけんなよ」「ウリはお前の天職だろうが」と文句をたれている。

「もう卒業したし、これもそろそろ終わりにしねえ?」

 俺が言うと二人は目を剥いて振り返った。

「なんで?!」
「中村逃がしてやんのかよ?」

 そんな唾飛ばしてムキにならなくたっていいじゃん。なんだか友達だった二人に急に嫌悪が湧いた。身勝手な感情だと思うが。

「そんなに執着するって、お前ら中村に惚れたのか?」
「んなわけねえじゃん!」
「ただの性処理だよ。こんな肉便器野郎、誰が!」
「だったらもういいだろ。いつまでも男とヤッてたらお前らまでホモになるぞ」

 二人は顔を見合わせた。納得しきれていない顔。でもこれ以上言えば俺にまたホモ扱いされると思って黙っている。

「大学行ったら女作れよ。男なんか相手にしたてって仕方ねえだろ。何が楽しいんだよ」
「……そうだな。おっぱいねえし、チンコついてるし」
「俺らもこいつに構ってるほど暇じゃねえしな」

 ホモにはなりたくない、大学に行けば女が出来ると自分を納得させることで二人はやっと中村というおもちゃを手放す決心をしたようだった。

 制服を身に着けた中村が複雑な表情で俺たちのやりとりを見ていた。

 行け、と顎をしゃくった。警戒しながら中村は立ち上がると、物音ひとつで俺たちの気がかわると思っているのか、布ずれの音さえ立てずにそろそろと出口に向かった。

 田中の舌打ちに怯えながら中村は静かに戸を開いた。明るい光が差し込んでくる。俺たちに見守られながら、中村はその光のなかへ消えていった。

 ※ ※ ※

 卒業の少し前に父親が脳梗塞で倒れてしまい、半身不随となって仕事を辞めた。専業主婦だった母親はパートに出、俺は大学へ行くことを諦めた。

 両親はせっかく合格したのだからと進学を強く勧めてきたが、父親の医療費、昼間のヘルパー代や妹に今後かかる学費を思うと、長男の俺が働くしか道が残されていないのは、高校生の俺でもわかった。

 地元が嫌いだった。県外の大学、これが受験の絶対条件だったのに、結局俺は地元で就職し、残ることになってしまった。

 田中と山本は二人そろって上京した。あんな馬鹿が大学に行けるのに、どうして俺は行けないんだと腐りそうになる。

『俺らもこいつに構ってるほど暇じゃねえしな』

 どうせ勉強もしないで遊び惚けるだけのくせに、なにが暇じゃない、だ。ふざけるな。

 中村を逃がしたのは二人への腹いせだった。親の金で大学に行って遊ぶあいつらのおもちゃを取り上げてやりたかった。

 そんなことをしたって気が晴れるわけじゃなかったけど、あいつらの遊ぶ金を少しでも減らせてやれたことはいい気分だ。

 地元で高卒の働き手はそれなりにはあったが、就職組からは完全に出遅れていた。給料も待遇もそれなりの中小企業ばかりで気が滅入っている俺のそばで、あつらは中村をヤルことばかり話していて、その人間性にほとほと嫌気がさした。もう二度と会うこともないだろう。

 就職先が決まったら連絡を寄越すようにと担任から言われていたので、三月末、学校へ行ってみた。最後の学生気分を少し味わいたかったのかもしれない。

 三年間通った校舎やグラウンドがもう懐かしく思える。卒業式という区切り一つで、自分は部外者だと強く感じた。

 地元の小さな電子部品会社から採用通知がきたので、担任にその報告をした。土壇場で進路を変更した家庭の事情を知っているので担任は「大変だが頑張れよ」と俺を励ました。

 そのまま帰ろうと思ったが、ふと思いついて教室に行ってみた。鍵が閉まっていて開かない。扉のまえでため息をついた。

 帰るか、と踵を返すと廊下に中村が立っていた。俺と目を合わせて「やあ」とはにかむ。

「橋本が階段あがっていくの見えたから」
「あ、そう。お前はなんで学校いんの」
「合格発表があったから報告に」
「どうだった?」
「なんとか」

 と、中村は襟首に手をやって俯いた。

「国立か。あんな目に遭ってたのによく入れたな」
「……橋本は大変だったね」
「ざまあねえって笑ってんだろ」
「そんなことないよ!」

 中村は顔をあげた。

「山本たちと一緒になってお前を犯ってたんだから恨まれて当然だよな」
「恨んでなんかないよ……」
「まさかまだ俺を好きとか言わないよな?」

 揶揄するように笑う俺から目を逸らして、中村は「そのまさかだよ」と小さく呟いた。

 田中と山本が犯すときより、俺に犯されているときの方が中村が喜んでいるのは一目瞭然だった。こいつは俺のちんこなら進んでしゃぶったし、一際大きな声をあげて中出しをねだった。

 山本たちに変態だと嘲笑われても、中村は何も言い返さずに切ない目を俺に向けてきた。その目がだんだん気に食わなくなってきた。

 日に日に膨らむ苛立ちと罪悪感。そんな時に父親が倒れて三日ほど学校を休んだ。休み明け、そんな気分じゃなかった俺を励まそうとする山本たちに強く勧められて中村を犯した。

 苛立ちが爆発して酷いことをした。苦しそうだった。辛そうだった。目に涙が浮かんでいた。だけど一番俺を苛立たせたのはその目だった。俺を赦し、同情する、中村の目だった。

 それ以来、機械的に腰を振って射精した。本当に中村をただの性処理として扱った。それでもまだ俺を好きだと言うのか。

「マゾだよな」
「違うよ」
「マゾでなきゃなんなの? 三人がかりで犯されたのにまだ足りねえの?」
「違うってば!」
「犯って欲しけりゃしゃぶれよ」

 中村は口を閉ざした。

 一丁前に傷ついた顔するんじゃねえよ。

「俺が好きなんだろ。早くしゃぶれ」

 ベルトを外してジーンズを下げた。下着をずらしてペニスを引っ張り出し、中村に向ける。

 中村は例の俺を苛つかせる目で俺を見ていた。小さく息を吐き出して一歩一歩近づいてくる。目の前で立ち止まり、跪くと俺のペニスを咥えた。舌を広げ、唇をすぼめてしゃぶりながら顔を前後に揺する。

 勃たないだろうと思っていたのに、あっさり勃起した。俺の感情と真逆の反応を見せる。すぐに上り詰めてもう射精しそうになった。

 中村の頭を押さえ込んだ。痙攣するのどの奥に吐き出して引き抜いた。

「俺の専属で使ってやる」
「えっ……」
「連絡するから、呼び出したらすぐ来いよ」

 廊下に膝をついたままの中村を残して校舎を出た。

 ※ ※ ※

 先輩社員と一緒に新規の取引先を探し回った。何度も頭を下げた。何度も「すみません」と言った。自社製品の説明が出来ず、出向いた先の社員に馬鹿にされた。車に戻れば先輩社員からもっと勉強しておけと叱られた。営業なんてクソだ。

 ささくれた気持ちで中村を呼び出すメールを送った。その夜、中村をホテルに連れ込み犯した。自分の快楽だけを求めた一方的なセックスだ。ホテル代は中村に任せて帰宅する。こんなことをもう何度か繰り返していた。

 突然の呼び出しにもかかわらず中村は必ずやってきた。そして文句ひとつ言わないで俺と別れた。その従順さに苛ついた。だから毎回乱暴に扱った。

 たまに山本と田中から連絡があった。電話の向こうのあいつらはまだガキのままだった。TPOをわきまえない大声で学生生活を語ってくる。東京の夜は楽しいから休みの日に出てこいよと誘ってくる。

 携帯電話を耳から少し話して適当に相槌を打ち、最後は「また今度電話する」と言って通話を切る。

 心がざらついた。胸がキリキリ締め付けられた。俺だってあいつらと同じように地元を離れて遊んでいられたのに。加齢臭のする親父共に頭をさげないでいられたのに。

 荒んだ気持ちで荒んだ生活を送って半年が経ったある日、営業車のなかでサボッていたら妹から電話がかかってきた。

「お父さんの様子がおかしいんだけど! お兄ちゃん、どうしたらいいの?!」
「ばか、病院だ! 救急車呼べ!」

 車を出て会社に戻った。上司に事情を説明した。嫌な顔をされたが早退の許可をもらって急いで帰宅した。

 動転していたのか家の鍵は開いたままだった。父親がいつも寝ている和室を覗くと、乱れた布団だけがあった。手をあてるともう冷たい。

 妹に電話をかけた。留守電に繋がったので母さんにかけてみた。電話に出た母さんはまだ仕事中なのか声を潜めて「あとでかけなおす」とだけ言って電話を切った。

 しばらくして折り返しがあって、父さんが運ばれた病院を教えてもらった。頼まれた荷物を持って病院に向かった。

 父さんは意識不明だった。今度は脳出血だった。医者と話し合った母さんが危篤状態だと教えてくれた。

「でもまだ持ち直す可能性だってあるんだろ」
「覚悟はしておいて」

 妹は泣き崩れた。

 ※ ※ ※

 葬式のゴタゴタが一段落ついた夜、中村を呼び出した。顔色のよくない俺を見てどうしたのかと心配顔で訊いてくる。

「舐めて立たせろ」

 それだけ言ってベッドに腰を下ろした。何か言いたげな表情で近づいてきた中村は、俺の足の間に膝をついて股間に顔を埋めた。

 どんなに長い時間、口淫を受けてもピクとも反応しやがらない。

「もういい」

 声をかけると中村は立ち上がった。

「なにかあった?」
「親父が死んだ」

 中村の表情が固まる。

「それは……、大変だったね」
「脳出血だって。脳梗塞の予防薬があだになって出血量が多かったらしい」
「辛かったね」

 中村はそっと俺の頭を抱きしめた。乾いていた感情が急に湿り気を帯びて、涙腺を刺激した。胸元からせりあがってくるものがあって、それを我慢していたらどんどん涙が溢れてきた。

 嗚咽が漏れた。

「橋本」

 中村の腕に力がこもる。胸に顔を押し付けながら俺は泣きじゃくった。

 中村は俺が泣き止むまでずっと背中を撫でていてくれた。



 目覚めたときに、自分がぐっすり寝ていたことに気付いた。親父が危篤になってから今日までろくに眠れなかったのに、今日は満足感のなか瞼を開くことが出来た。

 俺は中村の腕の中にいた。一緒のベッドに入り、ホテルの一室で朝を迎えていた。

 枕元の時計を見るために頭をあげると、中村も目を覚まし「おはよう」と微笑んだ。

「悪かったな、昨日は」
「ぜんぜん」
「仕事だから俺、行くわ」
「……うん」

 布団から出てシャワーを浴びた。頭も体も覚醒していく。久しぶりの清々しい気分だった。

 浴室を出たら中村も顔を洗っていた。

 鏡の前で中村と隣あって髪を乾かし、歯を磨いた。中村はなにも言わない。同情も、労りの言葉もなく、控えめで優しい眼差しを向けて来る。それが面映ゆく、目を合わさないまま身支度を整えた。

「行くぞ」

 俺の声に中村も鞄を拾ってやってくる。俺が部屋の支払いをして、ホテルを出た。

「また連絡してよ」

 駅に向かって歩いていると、数歩後ろから中村が遠慮がちに言ってきた。

「さあ、わかんね」
「待ってる」
「こういうのも飽きてきたな」
「いつでもどこでも、すぐに飛んでいくから」
「お前も物好きだな」
「橋本のためなら、なんだってしたいんだ」
「やっぱマゾだよ、お前」
「橋本に会えるなら、もうなんだっていいよ」

 どこかいじけたような、投げやりな呟きに口元が緩んだ。

 駅の改札で中村と別れた。向かいのホームから、電車に乗って駅を離れるまで付き纏う中村の視線がこそばかった。




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コメント
リクエストと違った…!すいません。
私の悪い癖というか陰気な性格が影響してしまいました。
なんとか幸せな二人に軌道修正しようと頑張りました。ハッピーエンドにはなってます!
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お返事
つきみさん

ゼロかマイナスの地味な日常のあとにあるハッピーエンド萌えなので、ある意味今回本領発揮でしたw 受け入れられにくいかなと思っていたので安心しました^^
あと年下攻めが好きなので父子相姦ものはオヤジ攻めが多いなんて知らなんだ!!その逆パターンばっかり読んできたせいですねきっと。ええ、また親父受け書きたいです!

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