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支配人(3/3)

2014.10.27.Mon.
<前話はこちら>

 休憩室にいると戻って来た三井さんの嫌味を聞かされることになる。いまの僕はそれを聞き流せる状態ではないので支配人室で待たせてもらった。
 戻って来た諸井さんは僕を見るなり「顔色が悪い」と苦笑いで言った。

「お二人は帰られましたか」
「ええ。ケーキも召し上がって帰られました」
「途中で抜けてしまい、申し訳ありませんでした」
「最後に彼が小泉さんに会いたいとおっしゃっていましたが、体調が優れないので帰したと言っておきました。良かったですか?」
「はい。すみません」
「それと彼に、あなたがそうなんですか、と尋ねられました。意味はわかりませんでしたが、そうです、と答えておきました。それも、良かったですか?」

 僕にもその意味はわからない。わからないが、もうどうだっていい。

「それで構いません」

 と頷いておいた。

「今日こそ送らせて下さい。そんな状態の君を帰すわけにはいきませんから」

 と僕の背中に手を当てる。じんわりと体温が伝わってくる。火傷するのではと思うほど熱く感じた基樹くんの熱が塗り替えられていく。
 深く追求せずに優しく接してくれる諸井さんに感謝しながら、「お願いします」と目を見つめ返した。

 諸井さんの着替えを待って一緒に店を出た。他のスタッフはもう帰っている。駐車場にとめてある諸井さんの車に乗り込む。

「少し飲みますか」

 諸井さんの言葉に「はい」と返事をした。
 車が夜の街を走る。窓の外を見ながら、今頃基樹くんは、と考えている。

 ゲイだと言ったくせに。僕を好きだといったくせに。僕さえいれば他に何もいらないと言ったくせに。必ず幸せにすると言ったくせに。
 次はその言葉を僕以外の別の誰かに言うのか。あのお嬢さんに言っているのか。いま、まさに。肌を合わせながら。愛し合いながら。愛を。囁いているのか。
 また目が熱くなってきたので瞬きで散らした。

 車はマンションの地下駐車場に入って行った。諸井さんのマンションだろうか。店で飲むのかと思っていた。確かに車に乗っていたら諸井さんは飲めない。
 エレベーターに乗り込んだ。

「目が赤いですよ」

 蛍光灯の下で顔を覗きこまれた。

「明かりが眩しくて」
「嘘が下手だ」

 見抜かれている。僕が口にしたこと以上のことを、きっと諸井さんは見抜いている。でも何も言わないでいてくれる。

 諸井さんの部屋は黒を基調とした、落ち着いた大人の雰囲気だった。間接照明をうまく取り入れて穏やかな気持ちにさせてくれる。
 皮張りのソファの艶を見て、しっかり手入れされているのがわかる。マメにクリームを塗っている姿を想像して、諸井さんらしいと思った。
 ピッと音がして、カーテンが自動で開いた。近づくと眼下に夜景が広がった。

「いい眺めですね」
「もう飽きましたがね」

 キッチンで酒の用意をしながら諸井さんが言う。僕も手伝いに入った。食べるものをと言われ、簡単なつまみを作った。僕の腕前を見て諸井さんが感心してくれる。
 何かをしていると気が紛れる。誰かと話をしているとその間は基樹くんのことを考えずに済む。

 僕は無駄に饒舌になった。弱いくせに早いピッチで酒を空けた。心配した諸井さんがグラスを取り上げた。
 僕が手を伸ばすとグラスは更に遠のいた。

「もうやめたほうがいい」
「まだ飲めます」
「明日の仕事に差し支えますよ」
「仕事は辞めます」
「辞める?」

 諸井さんは眉を寄せた。

「勝手を言ってすみません。でももう続けられません」
「彼のせいですか」

 返事が出来ずに黙り込む。諸井さんはため息をついて、テーブルの端にグラスを置いた。

「あなたに興味があると言ったのを覚えていますか」

 頷いた。

「彼と何があったのかとても気になっているんですよ。仕事中、ずっと考えてしまうくらい。だいたいの察しはついていますが、すべてを聞き出したいと言う欲求を押さえ込むのに苦労しています。あなたのその取り乱しようが、私の心まで乱しているんですよ」

 諸井さんが僕の肩を掴んでゆっくり押し倒した。諸井さんの腕に手を添えた。抗うつもりはなかった。最初から、こうなることがわかっていて車に乗った。酒がそのきっかけに過ぎないことも承知で飲んだ。
 酔っていなければ。羞恥と自己嫌悪で我に返る余裕もないくらいに酔わなければ、僕は基樹くんをあやふやに出来ない。理性をなくして彼を責めることでしか、いまは自分を保てない。この行為を一時的でいいから正当化しなければ踏ん切りがつかない。

「弱みにつけ込む男だと思われたくないんですが」

 諸井さんが笑う。

「だけど、こんな状態でないと、私のところへ来てはくれなかったでしょうね」
「諸井さん…」

 手を背中にまわした。シャツ越しに感じる体温に泣きそうになった。基樹くんじゃないのに、僕はこの温もりを恋しがっている。一晩むちゃくちゃにしてもらいたいと思っている。
 あんなに後悔したのに、僕はまた同じ過ちを犯そうとしている。

 唇がおりてきた。僕の口を塞ぐ。自ら口を開いて中に招き入れた。触れ合うと同時に膝を開いて諸井さんの体を受け入れた。

「はぁ…あ…ん…ン…」

 舌を絡ませながら諸井さんの手が僕の服を脱がしていく。慣れた手つき。いったい何人が僕のように彼の手によって落とされてきたのだろう。救われてきたのだろう。

「泣かないで」

 目尻から流れる涙を舐め取られた。僕は諸井さんの首に腕をまわした。

「私のものに、おなりなさい」
「……はい」

 後孔に指が入れられた。久しぶりの異物感にぎゅっと目を瞑る。僕の腕の中から諸井さんが抜けていき、下半身に顔を埋めた。
 熱い口腔内におさめられる。粘膜を使って全体で扱かれた。

「あっ…はぁっ、あっ、ああっ…ん…」

 中の指からも快感がもたらされるようになってきた。敏感な場所を擦られると条件反射のように基樹くんを思い出した。たまに泣くまで僕を苛めていた場所だ。

「あっ、あっ…やぁ…だめ…そこは、いや…あぁ…んっ」
「そんな声と顔で嫌だと言われてやめる男はいませんよ」

 激しく指が律動する。

「ふっ…んっ、アッ、アアァッ…だめっ、やめて…あっ、諸井さんっ! やっ、ん…!」

 感じすぎてガクガク体が震えだす。諸井さんは手を休めない。

「いっ、やぁっ…、だめっ、諸井さん、もう…止めて、下さ…んっ、んあっ、いや…あ、あぁ…っ!」

 頭の中でフラッシュを焚かれたように真っ白になった。それと同時に僕は射精していた。
 強烈な絶頂にぐったりしていると、諸井さんに膝を持ち上げられ、中心に熱い塊を押し付けられた。

「きてください」

 自分から誘った。捨て鉢な気持ちで足を開いた。諸井さんが腰を進めて来る。

「うう…ん……あぁ……っ」
「感じますか。私のすべてが入りましたよ」
「あ…ん、はい…わかり…ます…あ、まだ、動かないで…!」

 諸井さんはゆっくりと腰を引き、また戻すという動作を何度も繰り返した。立派に反り返ったものが僕の奥を擦り上げていく。
 数か月前まで男との恋愛事を考えたこともなかった僕が、この短期間ですでに三人の男を受け入れたことになる。
 妻には不能のように扱われた。だけど基樹くんは僕を「男に抱かれて感じる体」なのだと言っていた。実際その通りだと思う。

 僕は基樹くんだけでなく、桜庭さんに無理矢理抱かれたときも感じて乱れた姿を晒した。そして今も、好きでもない諸井さんとのセックスにはしたい声を上げている。それだけじゃない、同じアパートの高校生相手のときも、僕は最後まで抵抗できなかった。
 本当の僕はただの色情狂なのかもしれない。いっそそうだと割り切ったほうが、楽になるかもしれない。

「もう、大丈夫ですから…動いて下さい」
「私は時間をかけたいのですがね」

 腰を抱えなおして諸井さんは腰つきを早くした。

「はぁっ! んっ! あっ、あぁっ!」

 諸井さんの手が僕の胸を撫でさする。脇腹を薄く触られるとくすぐったさと気持ちよさでぞくぞくと腰が震えた。

「いっ…やぁ…あ、んっ…!」
「仕事をしているときの君とは別人のようだ」

 コリコリと乳首を転がされた。基樹くんによってそんなところでも感じるようになってしまった。

「仕事中ずっと、君の制服を脱がせたいと思っていたんですよ。その白い体中に、私のものだという印をつけてやりたいと」

 膝を立てた諸井さんは前傾になると激しく僕を突き上げた。体重を乗せて奥深くまで叩きこまれる。最奥が男らしい力強さでこじ開けられる。

「はぁんっ、あっ! あぁっ…そんな…に、されたら……!」
「またイキそうですか?」
「あっ、はいっ…あっ、あぁっ、諸井さんっ」
「どうぞ、気をやって下さい」
「あっ、あんっ、アァッ、だめっ…あっ、また…あ、く…っ!」

 諸井さんの腕を掴みながら僕はまた精を放っていた。それと同時に口走りそうになる名前を噛み殺した。
 違う男に抱かれているのに、視界いっぱい、その男しかいないのに、僕の頭のなかには基樹くんが居ついて離れなかった。
 諸井さんに見下ろされながら、僕は基樹くんの眼差しを思い出していた。
 諸井さんの声を聞くたび、四六時中僕に愛を囁いた基樹くんの声を思い出していた。
 彼を忘れるなんて出来るわけがない。初めから無理な話だったのだ。

「…ハァ…は…ん…今度は、後ろから、してください…」
「積極的ですね」

 僕の意図をわかっているのかいないのか、諸井さんは微笑むと僕を裏返し、望み通り背後から犯してくれた。
 ソファの肘かけに掴まった。腕の間に顔を埋め、僕は泣き顔を隠した。


無慈悲なオトコ

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コメント
あと2回の更新で完結です!
初めまして…先程偶然にこちらのサイトに行き当たりました。まだ1つ2つしか拝読できていないのですが、とても好みのストーリー展開。取り下げられる前に1つでもたくさんの作品を楽しませて頂きたく思います。「上司」の連作、こういう話大好きです。
お返事
クッキー様

はじめましてこんばんは!ようこそおいでくださいました!!
少しでも楽しんでもらえていたらいいなと願っております!
「上司」シリーズはありがたいことに評判がよくて、昼下がりの団地妻をイメージして書いたんですが、やっぱり王道って理由があって王道なんだなと実感した次第です笑
小説の取り下げ予定は12月に入ったら、と思っています。長いような短いような?余計なお世話かもしませんが、延長が必要なときはおっしゃってください。読者様第一でやっております!
良かったらこれからもよろしくお願い致します^^!


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