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隣人(2/3)

2014.10.23.Thu.
<前話はこちら>

 バイトのない日、俺は寄り道せずにアパートに帰るようになった。階段に座り、出勤する母親を見送りながら小泉さんが現れるのを待っていた。
 まだ仕事は見つからないようで少し疲れた顔をして小泉さんが帰って来る。俺を見つけると「元気くん、ご飯、一緒にどう?」と誘ってくれる。一度は遠慮して断ってみせるが、小泉さんが「一人で食べても味気ないんだ」と言ってくれるので、親切に甘えて部屋にあがりこむ。

 無職の人に、毎回ご馳走になってばかりは悪いので、母さんからもらったメシ代の千円を渡そうとしたが、頑なに断られた。なので、学校帰りにスーパーに寄って野菜を買って帰り、それを「家に置いてても腐らせるから」と小泉さんに押し付けた。
 それじゃ悪いから、と小泉さんは保存のきくものを作るとタッパーに入れて俺に持たせて帰してくれた。
 こんなに気が利いて優しい人を俺は知らない。ますます好きになっていた。

 自分の家に戻っても、ずっと小泉さんのことばかり考えている。テレビもつけずに、壁にもたれて座って耳を澄ましている。かすかに聞こえる物音すら愛しく感じた。

 隣の玄関の開く音がした。俺も急いで玄関へ向かう。扉を開けると、ちょうど小泉さんが前を通りかかったところだった。

「こんばんは、元気くん」
「こんばんは。もしかして今から風呂?」
「そうだよ」
「俺も今日は銭湯にしようと思ってたんだ。一緒に行ってもいい?」
「もちろん。下で待ってるよ」

 この機会を窺って何日も前から用意していた銭湯セットをリュックに詰めると、小泉さんのもとへと急いだ。
 銭湯はアパートと商店街の中間にある。数えるほどしか行ったことはなかったが、小泉さんと一緒なら毎日だって通いたい。
 小泉さんは受付を済ますと、ロッカーの前でさっさと服を脱いでいく。俺も服を脱ぎながら、ずっと横目に小泉さんを見ていた。
 やはり細い体だった。そして綺麗な白い肌だった。俺が邪な感情を抱いているせいかもしれないが、とても色気のある体だと思った。

「元気くん、先に行ってるよ」

 小泉さんが先に中へ行く。俺もあとを追った。
 隣に座った。小泉さんは先に頭を洗っていた。目を瞑っているのをいいことに小泉さんの体をジロジロと眺めまわした。
 背中流しますよ、とボディタオル越しに肌に触った。また勃起した。亀頭までパンパンに膨れ上がって痛いほどだ。

 斜め後ろの爺が俺の腰に巻いたタオルが持ち上がっているのを見てニヤニヤ笑っている。小泉さんの背中の泡を流すとすぐ横に座って前を隠した。

「じゃあ次は僕の番だ」

 と小泉さんが俺の後ろにまわり、背中を洗ってくれた。股に挟みつつ、前かがみになってやり過ごした。
 一緒に湯船に浸かった。小泉さんが「はあ」と息を吐き出す。その吐息がまた色っぽいと思う。
 俺の顔を見て「元気くん、顔が赤いよ」と小泉さんが驚いて言う。あなたのせいですとは言えず、俺は俯いた。その俺の前髪を小泉さんがすくいあげる。

「のぼせたら大変だから、もう出た方がいいよ、元気くん」

 直視は出来なくて上目使いに小泉さんを見た。水滴の滴る髪の先とか、ほんのり色づいた肌だとか、濡れた首筋だとか。すべてが目に毒だった。

「先、出てます」

 逃げるように俺は湯船をあがった。
 定番のコーヒー牛乳を飲みながら小泉さんが出て来るのを待った。出てきた小泉さんが服を着るのを後ろからじっと凝視する。さっきの爺も出てきて、俺を見つけるとからかうようにニタニタ笑う。

 銭湯を出ると二人並んでアパートに向かって歩いた。コーヒー牛乳がおいしかっただとか、明日学校でテストがあるだとか、星がきれいだとか、くだらないことを話していたらあっという間に到着した。
 このまま帰りたくない。離れたくない。

「今日、ご飯は食べたの、元気くん」
「あっ…軽く」
「僕は今からなんだけど、一緒にどう?」
「いいんですか」
「遠慮しない」

 と俺の背中を軽く叩いた。
 そのまま小泉さんの部屋にあがりこむ。小泉さんは鞄から洗濯物を出すと、俺に向かって手を伸ばした。

「一緒に洗濯するから出して」
「えっ、いいですよ、自分ちで洗うから」
「一人分も二人分も一緒だよ」

 差し出された腕を見つめた。細くてもしっかり男の手だ。なのにこんなにどきどきしている。触りたいと思う。どんな手触りなのか、確かめたい。
 俺は小泉さんの手首をつかんだ。思っていたより頼りない手首だった。

「元気くん?」
「小泉さん…」
「どうしたんだい?」

 掴んだ手を引き寄せて、小泉さんを抱きしめた。

「も、元気くん?」
「好きです、小泉さん」

 耳のすぐそばで小泉さんが息を飲む音を聞いた。少し掠れたその音に、情欲が一気に突き上げてきた。布越しに感じる小泉さんの肌、温もりに、理性が砕け散る。衝動のまま、俺は小泉さんを押し倒していた。

「元気くんっ」

 俺の下で小泉さんが慌てふためいている。やっぱり可愛い人だと思う。

「好きです」

 腕を曲げて顔を近づけた。俺のやることを察した小泉さんが顔を背ける。追いかけて無理矢理口を塞いだ。拒んで固く結ばれた唇をこじ開けて中に舌を差し込む。触れ合った柔らかな感触に眩暈がした。夢中で吸っていた。

「ん…っ…もと、き、くん…っ!」
「お願い、俺を拒まないで」

 膝を使って小泉さんの足を開かせた。ズボンの上から股間を揉む。

「あっ…もとき、くん! だめ、駄目だよ」
「まだ浮気相手のこと好きなんですか?」

 はっと泣きそうな顔で小泉さんが俺を見上げる。震える唇が「もときくん」と呟いた。

 きっとまだ相手のことが好きなんだとわかった。でも事情があって別れることになったのだろう。元奥さんの制裁か、世間体の問題か、もしかすると相手も既婚者で旦那が離婚に応じなかったのか。

「俺だって小泉さんが好きです」
「君は…そう思い込んでるだけだ」
「これでも、ですか」

 小泉さんの手を取って自分の股間へ導いた。膨らみに気付くと、小泉さんは動揺して俺から目を逸らした。

「これが思い込みなんですか」
「元気くん…っ」

 小泉さんの股間を掴んだ。揉むように手を動かすと、慌てた小泉さんが俺を押しのけながら身を捩った。

「だめ…っ、やめなさい、元気くん!」
「嫌だ、やめたくない、小泉さんが好きなんだ」

 小泉さんは体を捻ってうつ伏せになると、腕を使って俺の下から這い出ようとした。ズボンに手をかけ、力任せに引きずりおろした。羞恥に顔を染めて小泉さんが俺を睨み付ける。でも迫力に欠けた。小泉さんは俺を恐れていた。俺のほうが力が強いと自覚して怯えていた。

「怖がらないで下さいよ」
「やめるんだ、元気くん」
「酷くしたくないんです」

 ベルトを外して前をくつろげる。飛び出したペニスを見て小泉さんは顔を強張らせた。

「やめ…、元気くん、こんなことはやめなさい」
「男を好きになったのは小泉さんが初めてなんです。だからどうすればいいか、わからない」

 小泉さんの上にのしかかった。露になった股間を擦りつける。暴れる小泉さんを体で押さえつけた。
 知識はある。どこを使うかも知ってる。でも本当にそんなところに挿れていいのか不安だし怖い。小泉さんを傷つけて嫌われたくない。

「元気くん、いい加減にしなさい、これ以上は駄目だ…!」
「もう止まんないよ」

 小泉さんのペニスと擦り合わせて、痛いほど勃起しているのだ。
 二本まとめて握った。小泉さんはふにゃりと柔らかいままだ。それが残念だったが、いまは目前にまで迫っている爆発のために手を動かした。

「はぁっ、はっ、はっ…小泉さん、小泉さん…っ!」

 好きだと何度も繰り返しながら俺は射精した。俺の精液が小泉さんのペニスにべっとりかかった。それを全体に馴染ませながら俺はまた手を動かした。

「元気くん、もう、いいだろう…っ、出したんだから、だから…僕の上から退くんだ」
「まだ無理…一回出してもまだギチギチなんだもん、俺」

 ニチャニチャと音を立てながら扱いた。だんだん小泉さんのペニスも太くなり芯を持って立ち上がった。

「気持ちいい?」

 問うと前髪を揺らしながら首を左右に振る。風呂上がりみたいに頬が色づいていた。男なのに壮絶にエロい。
 手の動きを早くした。唇を噛みしめる小泉さんの呼吸が乱れ始めた。

「やめ…、おね、がいだから…もうやめて、もときくん…っ」
「小泉さん、大好きだよ」

 扱きながらキスした。最初は嫌がって逃げてたけど、途中で諦めたのかおとなしくなった。奥で震えている舌を絡め取った。

「ふっ…ん、んん……」

俺の肩を小泉さんが掴む。その手を首にまわすと、小泉さんがおずおずと抱き付いてきた。

「もときくん…っ」

 手の中で小泉さんが大きくなる。
 小泉さんの膝に引っかかったままのズボンと下着を蹴り落とし、開いた足の間に腰を入れた。

「もときくん、もときくん……っ!」

 熱にうかれたように小泉さんが何度も俺の名前を呼ぶ。それが嬉しい。

「んっ…あ、あぁ…だめ…、もときくん」
「イキそう?」
「う、ん…あっ、あっ…もときくん、嫌だ…いや…もときくん、いや…あ、あっ…!」

 俺の首にしがみついたまま小泉さんは絶頂を迎えた。温かい液体が俺の腹にかかる。

「俺も、もうイキそう」
「イッて…もときくん…」

 濡れた声にくらっとした。漏らすような感覚がして慌てた直後に俺も射精していた。
 余韻に浸っていると小泉さんに押しのけられた。油断していた俺は無様に仰向けに転がった。その隙に小泉さんが体を起こし、俺から顔を背ける。

「すまなかった」

 震える小声で言う。なぜ小泉さんが謝るのかさっぱりわからない。

「どうして」

 謝るのは俺のほうなのに。

「君に、悪いことをした…すまない、西浦くん」

 急に下の名前じゃなく苗字で呼ばれて胸がキリッと痛んだ。

「なんで…なんで俺が悪いのに小泉さんが謝るんだよ」
「僕がいけなかった。君は何も悪くない。でももう僕に関わらないで欲しい」

 小泉さんの拒絶に胸が潰れそうだった。鼻の奥がジンとして目の表面も熱く潤んだ。

「ご、ごめんなさい…っ、小泉さんのことが好きで、小泉さんに触りたくなって…そしたらもう我慢できなくなって…もう絶対こんなことしないから、そんなこと言わないでよ!」
「僕なんかを好きになっちゃいけない」
「嫌だっ! 小泉さんが好きだ! こんな気持ち初めてなんだよ!」

 泣きながら声を荒げると、小泉さんは振り返って俺を見た。

「僕には好きな人がいる。一瞬でも君を身代わりにした。こんな最低な僕を、好きだなんて言わないでくれ」

 泣きそうな顔で自嘲する。たまに見たあの悲しそうな目をしながら。どれほど深くその人のことを愛しているのか、一瞬でわかる目だった。
 俺が言葉をなくしていると、小泉さんはよろりと立ち上がった。

「お風呂に行ってくるから、その間に帰っててくれるかい」
「え、や、やだ…、離れたくない」
「頼むよ」

 溜息まじりに言うと小泉さんは奥の風呂場へ消えた。

 しばらく呆然となって動けなかった。俺は小泉さんが好きだ。でも小泉さんは俺のことなんて好きじゃない。離婚するほど好きになった人を今でも思い続けている。俺には少しの望みもない。一瞬、心を通わせられたと思ったあの瞬間、小泉さんは別の誰かのことを思っていた。俺じゃない、別の人を。

 のどから嗚咽がせりあがってくる。涙と鼻水を垂れ流しながら後始末をし、服装を整えると部屋を出た。


ナンバーコール

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旦那さんがビッチ化していく…

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