隣人(1/3)
2014.10.22.Wed.
※NTR耐性のない方にはお勧めできない内容です
<第一話(旦那さん)はこちら>
<第二話(元旦那さん)はこちら>
<第三話(元上司)はこちら>
バイトのない日は、少し時間を潰してから帰るようにしている。そうすれば、自分の母親が濃いメイクを施し、露出の多い服を着て女にかわる瞬間を見ずに済むからだ。
きつい香水の匂いが漂う部屋のテーブルには千円札が置いてある。今日の俺の晩飯代。
千円札をポケットにねじ込んでアパートを出る。バイト先がコンビニだから冷たいコンビニ弁当は食べ飽きている。商店街の裏道にある、小さなで惣菜屋で弁当を買った。
コンビニと違い、店の厨房で作ったものだから、手作りの味に飢えている俺にはご馳走だった。
まだ温かい弁当を持ってアパートへ戻ると、前方にスーツの後ろ姿が歩いていた。
今月頭、このボロアパートに引っ越してきた隣人だ。わざわざ引っ越しの挨拶にやってきた。母さんはもう仕事に出ていて俺が対応した。
高校生の俺にも丁寧で物腰の柔らかな人だった。優しそうな笑顔で「小泉です」と名乗ったその人の目は、なんだか寂しげだった。
年齢は四十前後くらいだろう。その年でこんなボロアパートに越してくるには、なにか理由があるのだろう。離婚して、敷金礼金ゼロ、保証人不要、家賃四万のアパートしか住めない俺たち母子みたいに。
「こんばんは」
声をかけると小泉さんは振り返った。俺を見て「お隣の」と笑みを浮かべる。
「西浦です。もう仕事終わったんですか? 早いですね」
「無職なんだ」
少し恥ずかしそうに小泉さんは笑った。リストラされて嫁に逃げられたくちかな。
「いま、仕事を探しているんだけど、この年だから難しくてね」
「早く見つかるといいですね」
「ありがとう。……いい匂いがするね」
「あっ、これですか」
惣菜屋の袋を小泉さんに見せた。プリントされている店の名前を見て小さく首を傾ける。
「どこの店? そこの商店街にはない店だね」
「商店街の裏にあるんですよ」
「そうなんだ。知らなかったな。場所を教えてもらってもいい? 今日は僕もそのお店のお弁当にしよう」
道順を詳しく教えてあげた。商店街の風景を思い出しながら俺の言葉の一つ一つに頷いて、場所の見当がつくと小泉さんは笑顔になった。
「ありがとう。着替えたらさっそく行ってみるよ」
部屋の前で俺たちは別れた。
玄関に立ったまま、俺は聞き耳を立てた。耳を澄ませば、隣から物音がかすかに聞こえてくる。しばらくすると戸の開閉の音がして、俺の部屋の前を通り過ぎる足音が続いた。小泉さんは本当に弁当を買いに行ったようだ。
※ ※ ※
コンビニでバイトを終え帰宅するとアパートの部屋に明かりがついていた。母さんがいる。きっと男を連れ込んでいる。母親の濡れ場なんかに遭遇したくないから、俺はアパートの階段に腰掛け、コンビニで買った菓子パンにかぶりついた。
家に男を呼び込む母親を恨んだことはない。俺を養うために必死に働いてくれているのに何の文句があるだろう。少しでも生活の足しになればとバイト代を渡しているが、その半分は俺へのお小遣いだと返してくる。
早く高校を卒業して働きたい。働いて母さんを少しでも楽にさせてやりたい。いま部屋にいる男が母さんを幸せにしてくれてもいい。
「西浦くん」
パンから顔をあげると、ラフな服装の小泉さんがいた。
「どうしたんだい、こんな場所で」
「小泉さんこそ」
「僕はそこの銭湯に行っていたんだ」
「ここの風呂、狭いですもんね」
小泉さんは上を見ると、「お母さんと喧嘩した?」と俺に優しい目を向けた。
「違いますよ。ちょっと…客が来てるから」
「そうか…」
と黙り込んでそれ以上深く追求してこなかった。大人だから事情を察したのかもしれない。
「じゃあ、お客さんが帰るまで僕の部屋で待つといいよ」
「えっ、いいですよ、そんな」
「ご飯は食べた? 何か作るよ」
言いながら俺の腕を取って立たせる。見た目の穏やかさと違って強引なところがある。
「いや、ほんとにいいですから」
「子供が遠慮なんてするんじゃない」
小泉さんに引っ張られながら階段をあがり、俺の家の前を通って小泉さんの部屋に辿り着いた。
「ほんとに俺、いいですから」
「とても美味しい惣菜屋さんを教えてもらったお礼だよ。君に教えてもらわなければ、きっとずっと知らないままだった」
「別に、そんな…」
たいしたことじゃないと言おうとしたが、声が出なかった。小泉さんが悪戯っぽく笑うので、そんな顔もできるんだと見とれていた。親子ほど年の離れた人を相手に、可愛い、なんて、思ってしまうなんて。
急に気恥ずかしくなって俺は俯いた。戸を開けた小泉さんが「どうぞ」と促す。俺は足を踏み入れた。
部屋の明かりをつけながら、小泉さんは鞄をおろすと腕まくりをして台所に立った。
細く、白い腕が、冷蔵庫から次々食材を取り出していく。
「何もない部屋だけど、適当にくつろいで」
野菜を洗いながら小泉さんが言った。
部屋は本当に何もなかった。あるのは折りたたみのテーブルと、奥の部屋にふとんが一組、衣装ケースが一個。
着の身着のまま家を追い出されたみたいだ。
「小泉さんって、ここに来る前は何してたんですか?」
つい好奇心に負けて聞いてみた。俺に背を向けたまま「主夫だよ」と小泉さんは言った。
「主夫って…じゃあ、奥さんが働いてたってことですか?」
「そんなところ」
「それで奥さんに追い出されたんですか?」
「僕の意思で家を出たんだ」
「どうして?」
トントンとリズムよく野菜を切っていた小泉さんの手が止まった。しまった、と気付いたがもう遅かった。
「他に、好きな人が出来たんだ」
「まさか、小泉さんが浮気したんですか?」
印象と真逆の可能性に思わず大きな声が出た。
小泉さんはまた野菜を切りながらこくりと頷いた。この小泉さんが浮気をするなんて。とてもそんな人には見えない。絶対、浮気されるタイプの人だ。
「意外です。小泉さんって人を裏切らない感じなのに」
「僕はそんなんじゃないよ」
いやに強い口調で否定され、俺もこれ以上は失礼になると思って口を閉ざした。
テレビもないので部屋は静かだった。小泉さんがフライパンで炒め物をする音だけが聞こえる。
手慣れているのは主夫だったからか。
いい匂いがしてきて腹が鳴った。聞かれてしまったのか、小泉さんは肩越しにこちらを見るとくすっと笑った。その仕草に心臓が鳴った。
小泉さんは皿に盛りつけると、それをテーブルに置いた。出来たてで、湯気のたつ、手作りの生姜炒め。それに見とれていると、白いご飯の盛られた茶碗と、お箸が並べられた。
「おいしいといいけど」
「う、うまいです」
ごくりと咽喉を鳴らしながら言うと、小泉さんは「まだ食べてないよ」と声を立てて笑った。俺はまた唾を飲み込んだ。腹が減っているはずなのに、急に胸がいっぱいになった。
頂きます、と手を合わせて生姜炒めを口にする。お世辞抜きでおいしい。
「うまい」
「よかった」
俺を見て嬉しそうに目を細める。また俺の胸が鳴った。なんだろう。この胸の高鳴りは。どうしてこんなに小泉さんの視線が恥ずかしいのだろう。顔が熱くなるのだろう。
「さすが、若いと代謝がいいね。汗をかいてる」
そう言って、小泉さんは人差し指で俺の前髪をすくった。ズキッと股間が痛む。茶碗を持ったまま、咄嗟に前かがみになった。
「すいません、お茶、もらえますか」
「あ、ごめん、気付かなくて」
小泉さんが離れて俺は静かに息を吐き出した。小泉さんに隠れながらズボンの上から勃起したものの位置をわからないようにずらした。
どうして急に勃起した。しかもはち切れそうなほど。授業中に不意に立ち上がることはあるけど、今のは小泉さんに原因があるようなタイミングだった。いや、完全に小泉さんが原因だった。
男相手に勃起するなんて、生まれて初めてで焦る。しかもかなり年上のおじさん相手に。
「どうぞ」
小泉さんがお茶を置いてくれた。確かにこの人はそのへんのおじさんと比べて清潔そうだし、見た目もいいけど…。
「西浦くん? どうかした?」
俺がじっと見つめているので、小泉さんが不思議そうに首を傾げた。
「小泉さん、離婚したんですよね」
「うん、まあね」
「浮気相手とは、どうしたんですか?」
「えっ…」
小泉さんの目が動揺して揺れた。
「ここに来てからずっと一人みたいですけど」
「もう、会わないって決めたから」
と伏せられた目はとても悲しそうだった。俺の胸の中はぐちゃぐちゃに乱れた。小泉さんにそんな顔をさせる浮気相手に、俺は激しく嫉妬していた。離婚までした二人に、いったい、何があったのだろう。
男だろうが、年上だろうが、そんなのもう関係なかった。胸の高鳴りも、頬の熱さも、勃起も嫉妬も、全部小泉さんから来てるんだ。
俺はこの人が好きなんだ。好きになってしまってるんだ。
「俺のこと、下の名前で呼んで下さいよ」
「え、急だね」
小泉さんに笑顔が戻る。
「元気って書いて、もときって言うんです」
俺にはその笑顔が一瞬固まったように見えた。
「どうかしましたか?」
「ううん。とてもいい名前だね。親御さんの願いが表れてるよ」
そう言う小泉さんの笑顔はどこかぎこちない気がする。
「もときくん」
と何かを確かめるように口の中で呟いている。
「元気くん、おかわりはどうかな?」
もとの笑顔に戻って小泉さんは右手を差し出した。
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バイトのない日は、少し時間を潰してから帰るようにしている。そうすれば、自分の母親が濃いメイクを施し、露出の多い服を着て女にかわる瞬間を見ずに済むからだ。
きつい香水の匂いが漂う部屋のテーブルには千円札が置いてある。今日の俺の晩飯代。
千円札をポケットにねじ込んでアパートを出る。バイト先がコンビニだから冷たいコンビニ弁当は食べ飽きている。商店街の裏道にある、小さなで惣菜屋で弁当を買った。
コンビニと違い、店の厨房で作ったものだから、手作りの味に飢えている俺にはご馳走だった。
まだ温かい弁当を持ってアパートへ戻ると、前方にスーツの後ろ姿が歩いていた。
今月頭、このボロアパートに引っ越してきた隣人だ。わざわざ引っ越しの挨拶にやってきた。母さんはもう仕事に出ていて俺が対応した。
高校生の俺にも丁寧で物腰の柔らかな人だった。優しそうな笑顔で「小泉です」と名乗ったその人の目は、なんだか寂しげだった。
年齢は四十前後くらいだろう。その年でこんなボロアパートに越してくるには、なにか理由があるのだろう。離婚して、敷金礼金ゼロ、保証人不要、家賃四万のアパートしか住めない俺たち母子みたいに。
「こんばんは」
声をかけると小泉さんは振り返った。俺を見て「お隣の」と笑みを浮かべる。
「西浦です。もう仕事終わったんですか? 早いですね」
「無職なんだ」
少し恥ずかしそうに小泉さんは笑った。リストラされて嫁に逃げられたくちかな。
「いま、仕事を探しているんだけど、この年だから難しくてね」
「早く見つかるといいですね」
「ありがとう。……いい匂いがするね」
「あっ、これですか」
惣菜屋の袋を小泉さんに見せた。プリントされている店の名前を見て小さく首を傾ける。
「どこの店? そこの商店街にはない店だね」
「商店街の裏にあるんですよ」
「そうなんだ。知らなかったな。場所を教えてもらってもいい? 今日は僕もそのお店のお弁当にしよう」
道順を詳しく教えてあげた。商店街の風景を思い出しながら俺の言葉の一つ一つに頷いて、場所の見当がつくと小泉さんは笑顔になった。
「ありがとう。着替えたらさっそく行ってみるよ」
部屋の前で俺たちは別れた。
玄関に立ったまま、俺は聞き耳を立てた。耳を澄ませば、隣から物音がかすかに聞こえてくる。しばらくすると戸の開閉の音がして、俺の部屋の前を通り過ぎる足音が続いた。小泉さんは本当に弁当を買いに行ったようだ。
※ ※ ※
コンビニでバイトを終え帰宅するとアパートの部屋に明かりがついていた。母さんがいる。きっと男を連れ込んでいる。母親の濡れ場なんかに遭遇したくないから、俺はアパートの階段に腰掛け、コンビニで買った菓子パンにかぶりついた。
家に男を呼び込む母親を恨んだことはない。俺を養うために必死に働いてくれているのに何の文句があるだろう。少しでも生活の足しになればとバイト代を渡しているが、その半分は俺へのお小遣いだと返してくる。
早く高校を卒業して働きたい。働いて母さんを少しでも楽にさせてやりたい。いま部屋にいる男が母さんを幸せにしてくれてもいい。
「西浦くん」
パンから顔をあげると、ラフな服装の小泉さんがいた。
「どうしたんだい、こんな場所で」
「小泉さんこそ」
「僕はそこの銭湯に行っていたんだ」
「ここの風呂、狭いですもんね」
小泉さんは上を見ると、「お母さんと喧嘩した?」と俺に優しい目を向けた。
「違いますよ。ちょっと…客が来てるから」
「そうか…」
と黙り込んでそれ以上深く追求してこなかった。大人だから事情を察したのかもしれない。
「じゃあ、お客さんが帰るまで僕の部屋で待つといいよ」
「えっ、いいですよ、そんな」
「ご飯は食べた? 何か作るよ」
言いながら俺の腕を取って立たせる。見た目の穏やかさと違って強引なところがある。
「いや、ほんとにいいですから」
「子供が遠慮なんてするんじゃない」
小泉さんに引っ張られながら階段をあがり、俺の家の前を通って小泉さんの部屋に辿り着いた。
「ほんとに俺、いいですから」
「とても美味しい惣菜屋さんを教えてもらったお礼だよ。君に教えてもらわなければ、きっとずっと知らないままだった」
「別に、そんな…」
たいしたことじゃないと言おうとしたが、声が出なかった。小泉さんが悪戯っぽく笑うので、そんな顔もできるんだと見とれていた。親子ほど年の離れた人を相手に、可愛い、なんて、思ってしまうなんて。
急に気恥ずかしくなって俺は俯いた。戸を開けた小泉さんが「どうぞ」と促す。俺は足を踏み入れた。
部屋の明かりをつけながら、小泉さんは鞄をおろすと腕まくりをして台所に立った。
細く、白い腕が、冷蔵庫から次々食材を取り出していく。
「何もない部屋だけど、適当にくつろいで」
野菜を洗いながら小泉さんが言った。
部屋は本当に何もなかった。あるのは折りたたみのテーブルと、奥の部屋にふとんが一組、衣装ケースが一個。
着の身着のまま家を追い出されたみたいだ。
「小泉さんって、ここに来る前は何してたんですか?」
つい好奇心に負けて聞いてみた。俺に背を向けたまま「主夫だよ」と小泉さんは言った。
「主夫って…じゃあ、奥さんが働いてたってことですか?」
「そんなところ」
「それで奥さんに追い出されたんですか?」
「僕の意思で家を出たんだ」
「どうして?」
トントンとリズムよく野菜を切っていた小泉さんの手が止まった。しまった、と気付いたがもう遅かった。
「他に、好きな人が出来たんだ」
「まさか、小泉さんが浮気したんですか?」
印象と真逆の可能性に思わず大きな声が出た。
小泉さんはまた野菜を切りながらこくりと頷いた。この小泉さんが浮気をするなんて。とてもそんな人には見えない。絶対、浮気されるタイプの人だ。
「意外です。小泉さんって人を裏切らない感じなのに」
「僕はそんなんじゃないよ」
いやに強い口調で否定され、俺もこれ以上は失礼になると思って口を閉ざした。
テレビもないので部屋は静かだった。小泉さんがフライパンで炒め物をする音だけが聞こえる。
手慣れているのは主夫だったからか。
いい匂いがしてきて腹が鳴った。聞かれてしまったのか、小泉さんは肩越しにこちらを見るとくすっと笑った。その仕草に心臓が鳴った。
小泉さんは皿に盛りつけると、それをテーブルに置いた。出来たてで、湯気のたつ、手作りの生姜炒め。それに見とれていると、白いご飯の盛られた茶碗と、お箸が並べられた。
「おいしいといいけど」
「う、うまいです」
ごくりと咽喉を鳴らしながら言うと、小泉さんは「まだ食べてないよ」と声を立てて笑った。俺はまた唾を飲み込んだ。腹が減っているはずなのに、急に胸がいっぱいになった。
頂きます、と手を合わせて生姜炒めを口にする。お世辞抜きでおいしい。
「うまい」
「よかった」
俺を見て嬉しそうに目を細める。また俺の胸が鳴った。なんだろう。この胸の高鳴りは。どうしてこんなに小泉さんの視線が恥ずかしいのだろう。顔が熱くなるのだろう。
「さすが、若いと代謝がいいね。汗をかいてる」
そう言って、小泉さんは人差し指で俺の前髪をすくった。ズキッと股間が痛む。茶碗を持ったまま、咄嗟に前かがみになった。
「すいません、お茶、もらえますか」
「あ、ごめん、気付かなくて」
小泉さんが離れて俺は静かに息を吐き出した。小泉さんに隠れながらズボンの上から勃起したものの位置をわからないようにずらした。
どうして急に勃起した。しかもはち切れそうなほど。授業中に不意に立ち上がることはあるけど、今のは小泉さんに原因があるようなタイミングだった。いや、完全に小泉さんが原因だった。
男相手に勃起するなんて、生まれて初めてで焦る。しかもかなり年上のおじさん相手に。
「どうぞ」
小泉さんがお茶を置いてくれた。確かにこの人はそのへんのおじさんと比べて清潔そうだし、見た目もいいけど…。
「西浦くん? どうかした?」
俺がじっと見つめているので、小泉さんが不思議そうに首を傾げた。
「小泉さん、離婚したんですよね」
「うん、まあね」
「浮気相手とは、どうしたんですか?」
「えっ…」
小泉さんの目が動揺して揺れた。
「ここに来てからずっと一人みたいですけど」
「もう、会わないって決めたから」
と伏せられた目はとても悲しそうだった。俺の胸の中はぐちゃぐちゃに乱れた。小泉さんにそんな顔をさせる浮気相手に、俺は激しく嫉妬していた。離婚までした二人に、いったい、何があったのだろう。
男だろうが、年上だろうが、そんなのもう関係なかった。胸の高鳴りも、頬の熱さも、勃起も嫉妬も、全部小泉さんから来てるんだ。
俺はこの人が好きなんだ。好きになってしまってるんだ。
「俺のこと、下の名前で呼んで下さいよ」
「え、急だね」
小泉さんに笑顔が戻る。
「元気って書いて、もときって言うんです」
俺にはその笑顔が一瞬固まったように見えた。
「どうかしましたか?」
「ううん。とてもいい名前だね。親御さんの願いが表れてるよ」
そう言う小泉さんの笑顔はどこかぎこちない気がする。
「もときくん」
と何かを確かめるように口の中で呟いている。
「元気くん、おかわりはどうかな?」
もとの笑顔に戻って小泉さんは右手を差し出した。
ご指摘の「手つき」どうなんでしょう。深く考えずにつかっていました。調べてもよくわからなかったので、わからない使い方はしないほうがいいと、言葉をかえておきました。ありがとうございます!
タギッっていただけで良かったです。
そういってくれる人がいると救われます!(私が)