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元上司(2/2)

2014.10.15.Wed.
<前話はこちら>

 言われるまま、桜庭さんを部屋の前まで連れて行った。カードキーで開錠し、中のベッドまで運ぶ。

「すまないな、小泉」
「いえ。今日は僕のためにありがとうございました」
「帰るのか?」
「もう、遅いですし」
「まだ八時にもなってないじゃないか」

 今ならまだ急いで帰れば基樹くんの帰宅時間に間に合う。夕飯は無理でも、帰りは出迎えてあげたい。

「小泉」

 ベッドの上で桜庭さんが手招きする。

「なんでしょう」

 近寄ると腰に両手が回された。ぐるりと引き寄せられ、僕がベッドの上に寝転がされていた。

「さ、桜庭さん?」
「ずっと好きだったんだ、小泉」
「えっ…」

 桜庭さんの顔がおりてきて、僕の口を塞いだ。ぴたりと唇同士がひっついている。突然のことで頭が真っ白になった。我に返って、桜庭さんを押し戻した。

「お前が結婚すると知って一度は諦めたんだ。離婚したと連絡をしてきたのはお前のほうだぞ。部屋にまでついてきたのもお前だ。責任取ってくれよ」
「ちょっ、さ、桜庭さん…!」

 再び顔が近づいてきた。顔を背けると首筋に唇が押し付けられた。熱い息を吹きかけられながら、ぬめる舌が舐めあげる。

「や、やめ……!」
「好きだ、小泉、俺のものになってくれ」

 股間を鷲掴まれて全身総毛だった。

「い、やっ…やめて、下さい…っ!」
「もう、我慢の限界なんだ」

 痩せたとは言え、桜庭さんの体は僕より大きく、力も強かった。押さえつけられた腕の下で必死にもがいて抵抗した。無言の桜庭さんにワイシャツを引きちぎられた。遠くではじけ飛んだボタンが落下した小さな音が聞こえた。

「すまん、小泉」

 そう言いながら桜庭さんは手を止めない。ベルトを外し、スラックスの中に手を入れて来る。

「あっ、そっ…、桜庭さん、お願いです、やめて下さい!」
「後生だ、一度でいいから」

 膝の裏に腕が通され、まとめて掬われた。そろった足の上に桜庭さんがのしかかって僕の動きを封じる。僕の体がベッドに深く沈む。飲めない酒を飲んだあと、頭も振って抵抗したため気持ちが悪くなって目が回りだした。

「お前だって仕事が欲しいんだろう?」

 下着をずらされた。

「やめて下さいっ、桜庭さん!」

 僕の声はほとんど悲鳴だった。

「仕事が欲しくないのか?」
「こんなことをしなくちゃいけないなら結構です」
「ずっと女に食わせてもらってきた男をどこの企業が雇うと思う? このチャンスを逃したらあとがないぞ。高校生と一緒にコンビニでバイトでもするか?」
「それで、構いません」
「意地をはるな、小泉。お前は昔からそうだ。いざとなると意固地になる頑固者だ」

 桜庭さんの指が、僕の後ろを探り当てた。軽く爪をひっかけながら中に入れて来る。

「い…いや…嫌だっ…やめて、抜いて下さいっ…桜庭さん、お願いですから…!」
「ここまできて、やめるわけないだろう」

 桜庭さんは指を深く埋めてきた。僕はこの感覚を知っている。この異物感を和らげる方法も知っている。でもそれは相手が基樹くんだから自然とできることだ。基樹くんだから僕の体も彼を求めて開かれるのだ。
 桜庭さんだと、ただ怖くて気持ち悪くて仕方がない。

「嫌です、桜庭さ、ん…っ、もう、やめて下さい…っ、仕事も結構ですから…っ。なかったことにして、忘れますから…!」
「忘れさせてたまるか」

 中でグリと指を回されて、ある場所が刺激された。僕の体が勝手に反応を見せる。

「んっ、きつくなったな。ここがいいのか?」

 桜庭さんは同じ場所をグリグリ押してきた。そこは基樹くんが意地悪をして僕を責めたてる場所だ。僕から理性を奪って淫らにさせ、最後は泣きながら基樹くんを求める場所。

「いっ、やぁっ…、やめて…あっ、やめて下さい、嫌だ…っ、やっ、桜庭さ…んっ!」
「おい、どうした? 急に声がかわったぞ」

 桜庭さんがにやついて言う。その間もずっと指を動かし続ける。桜庭さんに押さえつけられたまま、僕の体はビクビク震えた。

「も、う…そこは、やめて下さ、いっ! んっ、いや…あっ…いや、やめて…!」
「嫌だやめろと言うわりに、中は喜んでいるみたいだぞ、小泉。もしかしてお前、ここを使うのは初めてじゃないな?」
「はぁっ…ん…やめて…っ、もう動かさない、で…っ」

 急に呼吸が楽になった。桜庭さんが僕の上から退いて、足からズボンと下着を抜き取ると膝を左右に割った。

「あっ…!」

 慌てて前を隠したが、すぐ桜庭さんの強引な手によって晒された。そこを見た桜庭さんはごくりを咽喉を鳴らした。

「後ろだけで感じるとはずいぶん慣れてるじゃないか」
「ち、ちが…んっ」

 僕の足の間で体を倒して桜庭さんがキスをしてくる。不意をつかれて舌を入れられた。分厚い舌が口腔内を舐めまわす間、桜庭さんは僕の胸を撫でさすり、乳首を抓った。

「んんっ!」
「こっちもか」

 と舌なめずりすると、桜庭さんは胸に吸い付いた。強く吸われると細い針で刺されたように痛んだ。歯で挟まれて小刻みに噛まれると涙が滲んだ。

「い、や…あぁ…やめ…」
「もう観念しろ、小泉」

 指を抜くと桜庭さんは自分の前をくつろげて、中から取り出したものを僕の後ろへ宛がった。

「桜庭さん…っ! そ、それだけは、駄目です、いけません…!」
「誰に操を立ててそんなこと言っているんだ? 離婚理由はお前の浮気が原因か?」
「やめて…やめて下さい、桜庭さん…あ、あっ…あぁっ…!」

 熱い塊が僕の奥をこじ開けた。目尻から涙が零れ落ちる。

「あぁ…くそ…、他の誰かに先を越されちまうなんて…こんなことなら、もっと早くにお前を抱いておけば良かった」
「なんて…なんてことを…桜庭さん、あなたを軽蔑します…っ」
「なんとでも言ってくれ。だがその前に、自分の姿をよく見た方がいいんじゃないのか?」

 ペニスを掴まれた。僕はまだ勃起させていた。それをしごかれた。

「あっ、や…やめて、桜庭さんっ…、これ以上はもう…!」
「男同士だ、一回出さなきゃ収まらないこともわかってるだろう? お互いに」

 桜庭さんは腰を振った。中で桜庭さんのペニスが擦られる。基樹くんにしか許していない場所が、別の男によって犯されている。申し訳なくてまた涙が溢れてきた。

「泣くほど俺が嫌か」
「あっ、んっ…や…いや、です…っ!」
「本当に嫌なら立たせないと思うんだがな」
「いや…違うっ…言わな…でっ…んっ、あ、あぁっ」

 腰つきが激しくなった。卑猥な音を立てながら、桜庭さんが僕の奥に叩きこんでくる。
 基樹くんと出逢い、僕は別人に生まれ変わった。基樹くんに毎日のように求められた。それが嬉しくて年甲斐にもなく頑張った結果、僕の体まで変わってしまった。
 はしたない言い方をすれば、「仕込まれて」しまったのだ。体のあちこちで感じるように。

「はぁっ、あっ、あんっ…あぁっ…やめて…桜庭さ…あっ、いや、いやだぁ…ん!」
「体と心は別物みたいだな。肌が赤く染まって…すごく色っぽいぞ、小泉。俺のものになれ」
「やっ…いや、あっ、僕は…僕の体は…っ」
「お前の体は?」
「も、基樹くんの、もの、なんです…っ」
「もとき? それがお前の恋人か?」
「そ、う…んっ、はぁっ…はっ、あっ…僕が、好きなのは、基樹くん、だけ…!」
「だから俺のものにはならないって? 関係ないね」

 僕の腕をつかむと、桜庭さんは一層激しく腰を振った。

「ひっ、いっ…あっ、やめ、桜庭さんっ! やめて…っ、あっ、あぁんっ!」
「必ずお前を奪い取ってやる」
「だ、だめっ…あっ、あん! やっ…いやぁっ…基樹くん、、基樹くん…っ!」

 助けを呼ぶように基樹くんの名を口走りながら僕は果てた。

 ※ ※ ※

 部屋を出てすぐ携帯を見た。着信が一件。メールが一件届いていた。どちらも基樹くんからだった。

『いま仕事終わったとこ。悠さんはまだ会社の人と会ってるの?悠さんのご飯も何か買って帰ろうか?』

 メールを見ていたらまた涙が溢れてきた。僕は基樹くんを裏切った。基樹くん以外の男に体を許してしまった。それがたとえ合意でないものだったとしても、裏切った事実はかわらない。桜庭さんの言う通り、連絡を取ったのは僕からだし、ホテルの部屋までついて行ったのも僕だ。
 何より。
 無理矢理だったというのに、後ろを弄られ反応した自分の浅ましさが嫌だった。奥を突かれながら射精した自分に愕然となった。
 基樹くんと知り合う前までは男同士でなんて考えたこともなかったのに、これでは基樹くんでなくとも、誰でもいいということになってしまう。

 僕を思いやる文面を見ていたら、申し訳ないという気持ちで胸が痛くなった。
 こんな僕は基樹くんに相応しくない。
 基樹くんにはもっと若くてしっかりした子が相応しい。誰にでも体を開いてしまう僕のような汚れたおじさんじゃなく。

 そうだ。僕は基樹くんのそばにいてはいけないんだ。
 基樹くんはまだ若い。将来性のある若者だ。ご両親は早くの結婚を望んでいる。孫の顔を見たいのだろう。僕が相手ではそれは未来永劫叶わない。

 あぁ、僕はなんて愚かになってしまったんだろう。
 若い子に口説かれてすぐ本気になって。のぼせあがって彼の将来の邪魔をするなんて年長者のすることじゃない。
 今すぐ彼の前から消えなくては。

 財布を開いてカードを確認する。貯金は二百万ほどあったはずだ。これで部屋を借りて、早く仕事を見つけなければ。
 桜庭さんには頼れない。最後は殴って部屋を出てきたし、何よりもう顔も見たくない。
 全部、自分一人でなんとかしないといけない。

 基樹くんと別れて一人になる自分を想像すると泣きそうになった。基樹くんが別の誰かと一緒になるのを想像すると胸が張り裂けそうになった。
 それでも僕は行かなきゃいけない。

 メールを受信して携帯が鳴った。見ると基樹くんからで『家についた。悠さんはいまどこ?もう少しかかりそう?』という内容だった。マンションの部屋に基樹くんがいる。基樹くんが待っている。
 震える指で消去ボタンを押した。アドレスからも基樹くんの連絡先を消した。

 ホテルを出るとすっかり夜で辺りは真っ暗になっていた。僕は基樹くんの待つマンションとは反対方向へ歩き出した。


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コメント
嫁の部下の次は元上司に寝取られるのがAVの定石だろうということでこんな話になりました。
次は高校生と絡む予定です。
すみません…
立橋さんとの復縁を望みます・゚・(ノД`;)・゚・
こんな結末は悲しいです…!
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旦那さんΣ( ̄□ ̄;)

元上司に襲われるのはなんとなく予感してましたが…(-ロ-;)
どこ行くの~( ̄□ ̄;)!!

基樹くんも何してんのさぁ~(←ただの八つ当たり)

次は高校生(◎-◎;)
どうなるの~(_´Д`)ノ
お返事
mariyaさん
大丈夫です!
私もハピエンが好きなのでもうちょっと回り道してから元に戻すつもりです!

オテクさん
昼ドラっぽくしたら書くのが楽しくてついあんな終わり方というか続き方にさせてしまいました。
続きます!次の高校生編が終わってもまだ続きます。ノリノリです^^;

まほさん
恋人を裏切ってしまった罪の意識から逃避行というのが私のなかで昼ドラの定番でした。あとしばらく立橋の影は薄いです…

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